映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films
シンガポールの映像作家、ジェイムス・ロンとリン・リーが、映画大国・北朝鮮のピョンヤン演劇映画大学に通う学生たちや映画監督らを捉えたドキュメンタリー『シネマパラダイス★ピョンヤン』が3月8日(土)より公開される。金正日将軍の指導のもとで“国家事業”となっている映画制作の現場を舞台に、モブシーンの撮影風景から学生の家族の食卓まで、ニュースではなかなかうかがい知ることのできない北朝鮮のいまを生きる人々の生活をカメラに収めたジェイムス・ロン監督に聞いた。
案内人が随行、撮影した映像はすべて検閲
──本作を撮ろうと思ったきっかけを教えてください。
2008年に、カンボジアで地雷を撤去する活動を行うアキ・ラーと地雷の犠牲になった少年を追った『アキ・ラーの少年たち』という僕たちのドキュメンタリーを持ってピョンヤン国際映画祭に参加した際に、パーティで一緒に座った人たちが、映画労働者と呼ばれる映画業界の人たちでした。その中に非常に著名な女優で、北朝鮮で著名な映画『花を売る乙女』に主演をしたホン・ヨンフィさんがいまして、彼女に「何か北朝鮮で撮りなさいよ」と言われて、「いいですね、ぜひ映画業界のこと撮りたいですよね」なんて冗談で返したんです。その後、これは良い企画かもしれないな、と思って「映画業界のドキュメンタリーをぜひ撮りたい」と映画祭主催者に申し出ました。そこから取材交渉のメールのやりとりが始まりました。
映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』のジェイムス・ロン監督
──ピョンヤン国際映画祭の雰囲気、また出会った映画人の印象はいかがでしたか?
まず北朝鮮の人たちは映画がとても好きなんですね。僕が行った年は、中国の目線から見た朝鮮戦争を描いたフォン・シャオガン監督の『戦場のレクイエム』が上映されていました。その前の年には『ベッカムに恋して』が上映されていたようです。
また映画労働者の皆さんは情熱がありますし、ある意味映画人としてのクレイジーさもあるのかとも思います。そして、彼らは自分たちを映画労働者と呼び、その任務は将軍様(金正日)に喜んでいただくため、共産主義、社会主義のユートピアに人民を導くということ。そのことを非常にはっきりと言っていました。
映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films
──今回、常に案内人が随行し、撮影した映像をすべて検閲に出す、という厳しい条件下での撮影だったと聞いていますが、そういう状況下での撮影はどうでしたか?
実際、北朝鮮は、案内人なしで好きに撮影するということが不可能なところですよね。ですからその現実は受け止めるしかないし、今回の撮影で僕たちを招聘してガイドや通訳として動いて下さった方と、映像の検閲を行う検閲局や秘密警察とは全く別ですよね。ですから、今回、同行者に監視されているというよりは、僕たちの撮影がうまくいくように、誠意を尽くし便宜を図ってくれているという認識でした。つまり、監視やコントロールをされている、というよりも、許可を取ってくれた彼らなくしては撮れなかったわけですし、彼らもまた、許可があれば好きに撮ってください、という関係でした。
学生たちの自然な姿をありのまま撮影
──北朝鮮での撮影期間は、どれくらいだったのですか?
撮影のための最初の訪朝は2009年秋、撮影は2日間だけでした。作品の冒頭にでてきますが、川辺で行われたピョンヤン演劇映画大学の野外授業のシーンです。撮影していて、少し人工的な感じがしましたね。「学校は改修中だから撮れません」と言われたのですが、思うに僕たちがどこの馬の骨ともわからないから、様子を見て信頼に足りうる人たちかテストされてたのでは、と思いますね。2度目の訪朝は、2010年夏で7日間撮影しました。2010年冬の訪朝が最後で、10日間にわたって撮影ができました。
映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films
──北朝鮮滞在時、一日の取材の動きは、実際どんな感じだったのですか?また、本作では、メインの登場人物が3人出てきますが(映画演劇大学で学ぶ男女学生とベテラン映画監督)、どういう経緯で選ばれたのですか?
まず一日の動きに関しては、だいたい毎朝朝食を食べ終わった頃にピックアップの車が来てくれて、2時間くらい撮って、また昼食を食べて、その後また2、3時間撮るという流れでしょうか。一日最高で3ロケーション移動して撮影しましたね。また大学の構内で撮ったときは、そこで丸一日過ごしました。取材対象者については、今回映画がテーマでしたから、大学の演劇科の人、そして映画監督で仕事現場の様子を、というリクエストを出したところ、ピョンヤン演劇映画大学で学ぶユンミさん、ウンボムさん、そしてピョ監督を紹介されました。
映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films
──映画監督と大女優を両親に持つウンボムさんは、優等生というか、カメラ前で模範的な受け答えをする一方、ユンミさんの日常生活、例えばお化粧をしたり、朝ごはんを食べているところは、よく撮影できたなぁと、非常に印象に残りました。
そうですね、北朝鮮の人の家を訪問できると言うのはそうそうあることではないので、ましてや朝と夜と2回訪問し、撮影することができたのは幸運でした。また撮影後半、例えばアイススケートのシーンなどはそうだと思うのですが、撮影を続けてきて、かなり二人ともオープンになって緊張しないで自然でいてくれたと思います。どうしてもインタビューとなるとやはりちょっと意識するのですが、二人で放っておくとかなり自然な雰囲気で、それをありのまま撮影できました。
映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films
──この作品でどういうことを送り手としては伝えたいと思いますか?
実は、北朝鮮での取材を終えたあと、編集にはかなり時間がかかったんです。というのも、こういった制約下で撮った映像ではあるけれど、信憑性を持たせるにはどうしたらいいかというところに悩みました。最終的には「外出する際は、必ず案内員が同行する」「撮影したものは、その日毎に検閲に出す」という制約と条件下で撮ったということを先に観客に伝えた上で映像を見せる構成にしました。
そうした構成にすることで、あの政治状況下で暮らす人たちには自由がない、洗脳され、管理下で暮らしているという先入観にとらわれない作品にしたかった。私たちに近い存在として感じられるような姿を撮ることで、北朝鮮のようなシステムの中でも、独立した個人の考えを持って生活している人がいるんだ、ということを見せたかったのです。
(オフィシャル・インタビューより)
ジェイムス・ロン プロフィール
香港生まれ。イギリスで教育を受ける。日本のプロダクションでプロモーション・ビデオのプロデューサーになるも、2001年からはインディペンデントで監督、撮影、編集を行っている。『シネマパラダイス★ピョンヤン』では、プロデューサーも兼任するリン・リーとともに共同監督を務めた。
映画『シネマパラダイス★ピョンヤン』より ©Lianain Films
『シネマパラダイス★ピョンヤン』
2014年3月8日(土)シアター・イメージフォーラムにてロードショー
他、全国順次公開
2009年、シンガポールのドキュメンタリー映像作家であるジェイムス・ロンとリン・リーは「外出する際は、必ず案内員が同行する」「撮影したものは、その日毎に検閲に出す」という条件を苦渋の思いで受け入れ、北朝鮮映画業界のドキュメンタリーのための撮影を開始した。カメラは、ピョンヤン演劇映画大学に通う二人の学生と、映画制作という“国家事業”にエキストラとして動員された朝鮮人民軍の若者を熱く演出する映画監督の姿を記録する。科学者である父親の反対を押し切り女優への道を進むユンミや、国民的映画人を両親に持つウンボム。将軍様に愛されたピョ監督。彼らは平凡な人民と言うより、むしろ特権階級の人々だろう。しかし、これまでニュースなどの報道で目にしてきた姿とは、また違う一面に観客は新鮮さを覚えるに違いない。それぞれが様々な個性と夢を持ち、北朝鮮のいまを生きる人々。その素顔から見えてくるものとは?
監督:ジェイムス・ロン、リン・リー
撮影・編集:ジェイムス・ロン
編集:ジュヌヴィエヴ・タン
プロデューサー:リン・リー、シャロン・ルーボル
原題:The Great North Korean Picture Show
配給・宣伝:33 BLOCKS
2012年/シンガポール/朝鮮語・日英字幕/93分
©Lianain Films
公式サイト:http://cinepara-pyongyang.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/cinepara.pyongyang