骰子の眼

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東京都 新宿区

2014-05-16 19:10


SNSの闇を描く映画『ディス/コネクト』監督が語るテクノロジーと孤独

「誰かと繋がれるけれど疎外感も生まれる」ジェイソン・ベイトマンら出演のサスペンスフルな群像劇
SNSの闇を描く映画『ディス/コネクト』監督が語るテクノロジーと孤独
映画『ディス/コネクト』より © DISCONNECT, LLC 2013

SNSでの嫌がらせが元で起きた事件をきっかけに、心の繋がりを見つめ直す人々を描く映画『ディス/コネクト』が5月24日(土)より公開される。ジェイソン・ベイトマン、アレキサンダー・スカルスガルド、そして今作が映画初出演となるファッションデザイナーのマーク・ジェイコブスらが出演。気持ちが通わない2組の親子の関係を軸に、並行する3つの物語を通して現代におけるコミュニケーションの在り方を捉えたサスペンスフルな群像劇だ。2006年の映画『マーダーボール』で注目を集めたヘンリー=アレックス・ルビン監督が、本作について語った。

娯楽性のあるスリラーにしつつ、
リアルな映画にすることを心がけた

──この物語は人と人とのふれあいやコミュニケーション、孤独、希望、癒しなど現代社会で起こっている問題について捉えています。脚本に対してどのように取り組もうとしましたか?

すべてをナチュラルでリアルにしたかったので、ネット上のいじめに遭った方や、逆にした方、ネット犯罪に遭った事のあるご家族や、そういった犯罪を捜査しているFBIの担当官などに実際会ってリサーチした。ネットの向こうにいる相手に怒りをぶつける時の気持ちであったり、警察に事件を申告した時にどんな手続きをするのかが知りたかった。この映画にはリサーチャーがたくさんいて、ニュージャージーやコネティカットであった事件をメインに取材をして、そのおかげで映画にドキュメンタリーのような感覚をもたらす事が出来たんだ。リサーチのおかげで僕は脚本をより深く理解することができた。想像だけでは得られないディティールをもたらしてくれた。俳優たちの多くも、彼らが演じることになる人々に会ったよ。

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映画『ディス/コネクト』のヘンリー=アレックス・ルビン監督

──監督ご自身は個人的にSNSを使っていますか?この映画に関わる前、SNSに対して肯定的、否定的、どちらでしたか?

ああ、使っているよ。毎日見るし、その事についてあまり問題を感じたことはないんだ。技術の進化を止められるわけじゃないから、テクノロジーに対してそういう問題を感じる必要があまりないと思うんだよね。

この映画は「全てはSNSのせいだ、という風に描いている」と誤解されてもいるんだけど、そういった想いは全然ないんだよ。今回映画の中で3つの物語が描かれているんだけれど、それぞれのキャラクターがとても人間的な選択をした結果、よりドラマティックな結末に向かうという構造になっていて、そこで「ネットのせいである」という事を僕は言っているわけじゃない。映画だからね。みんなレベルは違えど孤独を抱えていて、「誰かと繋がりたい」という感情を持っている、それはある意味人間としての弱さでもあると思うんだ。

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映画『ディス/コネクト』より © DISCONNECT, LLC 2013

──撮影に関してもドキュメンタリー的なタッチが随所に取り入れられています。

例えば、二人の人がテーブルで話していたとして、ドキュメンタリーでそれを撮影できるのは廊下か窓か誰かの肩越しだけだ。二人に意識せずに話をしてもらうには、彼らの空間から排除されなければならない。それと同じ手法を映画作りにも取り入れた。カメラを離れたところにおいてズームインするんだ。

──フィクションの中でリアリティを描く事について何を重視しましたか?また、ドキュメンタリーにはない難しさを感じた点はありますか?

とにかくなるべくリアルな映画にするという点が、僕がフィクション映画を作る上での挑戦だった。音楽の使い方がうるさかったり、リアルさや信憑性をなくして映画との距離が出来てしまう事のないようにしたんだ。今回の作品はフィクションなんだけれども娯楽性のあるエモーショナルなスリラーにしつつ、なるべく作品自体から乖離しないように気を付けた所が一番苦労した点かな。

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映画『ディス/コネクト』より、アレキサンダー・スカルスガルド(左)、ポーラ・パットン(右) © DISCONNECT, LLC 2013

──俳優たちのアドリブも多用したそうですね。

台本の台詞に忠実に何テイクかやってみた後、俳優たちに心の中にあることを話してみるように言った。偶然出てきた台詞の方が、我々が思いつくどんなものよりも趣旨に合っていることがあったね。そして、時々起こるそうした瞬間が、我々が予想していたものよりも、はるかにリアルだった。

──リッチ・ボイド役のジェイソン・ベイトマン、デレック・ハル役のアレキサンダー・スカルスガルドについて、それぞれのキャラクターについてと彼らを起用した理由を教えてください。

リッチは別に面白い人物じゃないのに、会うと瞬時に彼のことが好きになる。それこそが、ジェイソンが役にもたらす贈り物のひとつだ。彼はジミー・スチュアートやトム・ハンクスみたいに瞬時に人の心を溶かすんだよ。そしてそれこそが、リッチ役に必要なことだった。

反対に、デレックは感情をほとんど表さない。口数も少なくて―目で語るんだよね。アレックスは目とボディランゲージであふれんばかりに表現する。動きは最小限なのにその表現の大きさときたら。あれは驚異的だ。

僕はただ、俳優たちができる限り居心地よく、自信を持てるようにしてあげて、演技をしている彼らをフィルムに収めるだけだ。トリュフォーの「私は俳優を演出するのではない、私は彼らを愛するのだ」という素晴らしい言葉があるけれど、僕も同感だ。

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映画『ディス/コネクト』より、ジェイソン・ベイトマン © DISCONNECT, LLC 2013
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映画『ディス/コネクト』より、アレキサンダー・スカルスガルド(左)、ポーラ・パットン(右) © DISCONNECT, LLC 2013

──映画に参加した俳優達は、完成した本編を観た後、どんな反応でしたか?

マーク・ジェイコブスは、自分があまりにコワモテになっていた事にすごく驚いていたよ。普段は愛らしくスイートで、声を荒げたりもしない穏やかなタイプだから。タトゥーはいっぱいあるんだけど、よく見るとそれがスポンジボブであったり、M&Mだったりで全然脅威を感じないんだ。そんな彼だからこそスクリーンで描かれていた姿が「すごい怖そうな奴に見えるね」って、友人達そして彼自身もとても驚いていたよ。

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映画『ディス/コネクト』より、マーク・ジェイコブス(右) © DISCONNECT, LLC 2013

あと一番感動したのはトロント映画祭の時だったかな。そこでジェイソン・ベイトマンが初めて映画を観たんだけど、涙を流して僕をぎゅっと抱きしめてくれたんだ。観客のみなさんはもちろんだけど、自分の作品に参加してくれた仲間が映画を観てそこまでの反応をしてくれるっていうのは映画作家としての夢だ。演技はもちろんだけど、それがジェイソンからもらった一番の贈り物だった。自分のやるべき事を果たせたのかな、と思えたんだ。

この映画を観た人の反応で一番多いのは、スリラーだと思っていたのにこんなに感動するなんて!という意見かな。

いちばん感情を理解できるのはネットでいじめられた少年

──映画に登場する女性シンディはチャットルームに参加したことをきっかけに個人情報を盗まれてしまいますが、彼女や他のキャラクターと同じ経験をした事はありますか?

経験はないんだけど、唯一感情的な面で理解できるなと思うのは、ネットでいじめられた少年、ベンだね。僕も子供の時にいじめに近い経験をしているし、それは映画を観ている多くの方が人生のどこかで経験した事のある感覚ときっと近いと思う。ベンというキャラクターが持つ、孤独、友達がいないという感覚はうまく描けたんじゃないかなと自負しているよ。

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映画『ディス/コネクト』より、ベン役のジョナ・ボボ © DISCONNECT, LLC 2013

──この映画から感じてほしい事、伝えたい事はなんでしょう?

この映画を観た事で自分の人生について考えたり、今よりも充実した幸せな人生を送るためのきっかけになったら嬉しい。どんなに成功していても、たくさんの友達や家族がいても、密かに孤独を感じている方が多いと思うんだ。それは人生を進めていく中で経験するものだと思うけど、映画の核はどこか感情や関係が欠けていて、人との繋がりを欲している全ての登場人物だ。僕にできるのは彼らに踏み込んでいく事、そして鮮明に描く事だった。

個人的な考えで言うと、誰かと繋がりたいと求める気持ちを、ネット上やSNSのコミュニケーションで「これがそうなんだ」と間違えてしまうのは孤独のせいなのかもしれないと思うし、自分と人との間に距離ができ、時には疎外感を生んでしまう。ネットで大切な人と出会う人達もいるから、テクノロジーってもろ刃の剣だよね。孤独というのも同じようにもろ刃であると思う。

でもこの映画で描かれている事は背景にすぎない。この映画で感じて欲しいのは、スリラーとして楽しんでもらいたいという事、そして何か感情を超えたエモーショナルな体験をしてもらう事。そういった感覚で楽しんでもらえたら嬉しいな。

(オフィシャル・インタビューより)



ヘンリー=アレックス・ルビン プロフィール

美術史家ジェームズ・H・ルビンを父に持つ。ドキュメンタリー映画作家として、『Who is Henry Jaglom?』(97・未)をジェレミー・ワークマンと監督し、『フリースタイル:アート・オブ・ライム』(05)を製作し、アカデミー賞にノミネートされた『マーダーボール』(06)をダナ・アダム・シャピーロと共同監督した。師匠ジェームズ・マンゴールドの作品数本でセカンドユニットの監督をつとめ、カンヌライオンズでは14個のライオンを獲得するなど、広告業界ではもっとも受賞歴のあるディレクターのひとり。




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映画『ディス/コネクト』より © DISCONNECT, LLC 2013

映画『ディス/コネクト』
5月24日(土)より 新宿バルト9他にて公開

SNSで起きた嫌がらせが原因で、自殺未遂を起こし意識不明の少年。その父親は仕事に忙しく、家族との会話もおろそかにしていたため、息子の自殺の原因が全くわからない。加害者の少年は、父子家庭の寂しさ、しつけに厳しい父親に愛情を感じることができず、鬱屈した思いを抱えていた。その父親は元刑事で、今はネット専門の探偵。父親の威厳を示すことで息子に気持ちを伝えているつもりだった。目の前にいたのに、お互いの本当の気持ちを知らなかった二組の親子。彼らを中心に、繋がりを求めインターネット上を彷徨う人々が、ある事件をきっかけに大切な人と、心と体をぶつけ合い絆を取り戻そうとする―。

監督:ヘンリー=アレックス・ルビン
出演:ジェイソン・ベイトマン、ホープ・デイヴィス、フランク・グリロ、ミカエル・ニクヴィスト、ポーラ・パットン、アンドレア・ライズブロー、アレキサンダー・スカルスガルド、マックス・シエリオット、コリン・フォード、ジョナ・ボボ、ヘイリー・ラム、マーク・ジェイコブス
製作:ミッキー・リデル、ジェニファー・モンロー、ウィリアム・ホーバーグ
脚本:アンドリュー・スターン
撮影:ケン・セング
編集:リー・パーシー、ケヴィン・テント
(c) DISCONNECT, LLC 2013
2013年/アメリカ/DCP5.1ch/ビスタ/115分/PG12
原題:Disconnect
提供:クロックワークス、ニューセレクト
配給:クロックワークス
c 2013 Gravier Productions, Inc.

公式サイト:http://dis-connect.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/disconnect.jp
公式Twitter:https://twitter.com/disconnect_jp

▼映画『ディス/コネクト』予告編

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