骰子の眼

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2014-06-02 22:45


「政治に失望している日本の皆さんにこの映画『GF*BF』からパワーを得てほしい」

ヤン・ヤーチェ監督が台湾の激動の30年を舞台に描く3人の男女の恋愛と自由の物語
「政治に失望している日本の皆さんにこの映画『GF*BF』からパワーを得てほしい」
映画『GF*BF』より © 2012 Atom Cinema Co.,Ltd., Ocean Deep Films, Central Motion Picture Corporation, Huayi Brothers International Media All Rights Reserved.

1985年から2012年までの激動の台湾を舞台に、勝ち気な美宝(メイバオ)と、実直な忠良(チョンリャン)、奔放な心仁(シンレン)という3人の男女の愛と友情を描く青春映画『GF*BF』が6月7日(土)より公開される。ヤン・ヤーチェ監督は、自ら脚本を手がけ、青春を過ごした80年代後半から90年代の経験を踏まえ、戒厳令下の学生運動や市民の生活などを丁寧に描写。台湾社会の時代背景を盛り込み、3人の約30年に渡る葛藤を描いた監督に聞いた。

生きる苦しみを演じきった役者たち

──最初に、主演3人の起用の理由を教えてください。

最初に決めたキャストは、美宝(メイバオ)役のグイ・ルンメイと忠良(チョンリャン)役のジョセフ・チャンの2人でした。私は2人を、彼らが17歳の頃から知っていて、一緒に仕事したこともあります。10年以上経験を積み、もうすぐ30代の演技に磨きがかかる時期です。ですが、この年頃の台湾の若い役者たちには、これといって代表作と呼べるものがありません。ようやく、彼らが輝きを放つ時が来たようです。

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映画『GF*BF』のヤン・ヤーチェ監督

若くて演技力のある2人を決めたあと、心仁(シンレン)役にリディアン・ヴォーンをキャスティングしました。3人目の配役を決めるのは非常に難しいことでした。なぜならば、一緒に並んでも引けを取らず、2人が放つ輝きに負けない俳優は、なかなかいないからです。数多くの役者にカメラテストをしましたが、納得できる人は見つかりませんでした。最終的にリディアン・ヴォーンに決めたのは、ハーフの顔立ち、演技スタイル、そして彼自身の気質が気に入ったからです。彼には無邪気なところがあり、その無邪気さがあれば臆することなく、相手がどんなに有名な役者であってもリラックスして演じられると思いました。こうした理由から、リディアン・ヴォーンを彼ら2人と組み合わせるのがベストだと判断したのです。

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映画『GF*BF』より、美宝(メイバオ)役のグイ・ルンメイ © 2012 Atom Cinema Co.,Ltd., Ocean Deep Films, Central Motion Picture Corporation, Huayi Brothers International Media All Rights Reserved.
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映画『GF*BF』より、忠良(チョンリャン)役のジョセフ・チャン © 2012 Atom Cinema Co.,Ltd., Ocean Deep Films, Central Motion Picture Corporation, Huayi Brothers International Media All Rights Reserved.
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映画『GF*BF』より、心仁(シンレン)役のリディアン・ヴォーン © 2012 Atom Cinema Co.,Ltd., Ocean Deep Films, Central Motion Picture Corporation, Huayi Brothers International Media All Rights Reserved.

──主演の3人との印象に残るエピソードがあれば教えてください。

今でも記憶に残っているのは、プリプロダクションで役者たちと話した時のことです。ジョセフ・チャンはそれまで何度か同性愛者の役を演じた経験があったため、今回も難なくこなせてしまうと思ったようで、自分としては王心仁、つまりリディアン・ヴォーンが演じる役をやりたいと言いました。でも、若い世代でジョセフ・チャンほど抑えた演技に長けた役者は見つかりません。そこで私は、どうすれば彼に陳忠良役を引き受けてもらえるかを考えました。

脚本を書き上げて友人に見せたところ、その友人は彼の知り合いの名を挙げて「どうして彼の生涯を描くことができたのか」と驚きました。私は知らない人だったのですが、その後、いろいろ話を聞いてみると、確かにジョセフ・チャンが演じる陳忠良は、まるでその人だったのです。人生そのものがよく似ていました。そこで、ジョセフ・チャンを連れてその人に会いに高雄まで行き、直接話を聞かせてもらいました。ジョセフ・チャンは当初、陳忠良役は楽に演じられると思っていたようですが、話を聞いてからは王心仁役をやりたいと二度と言わなくなりました。その人が陳忠良とほぼ同じ人生を生きていることを知り、「陳忠良をしっかりと演じよう。そうすることで話を聞かせてくれた人に恩返しができる」と思ったようです。ジョセフ・チャンはその人の人生に飛び込み、その人の生きる苦しみを演じきりました。これが台北電影奨で最優秀主演男優賞に選ばれた理由だと思います。

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映画『GF*BF』より © 2012 Atom Cinema Co.,Ltd., Ocean Deep Films, Central Motion Picture Corporation, Huayi Brothers International Media All Rights Reserved.

シナリオの最終稿を知っているのは私だけ、
という演出方法

──3人への特別な演出方法はありましたか?

主演の3人は、それぞれ異なる演技の訓練を受けてきました。そのため演技スタイルが違います。もし彼らの好きなように演技させていたら、作品のなかで調和が取れなかったでしょう。リディアン・ヴォーンは他の2人と違い、イギリスで演技の勉強をしました。イギリスの演技訓練というのは非常に綿密なものです。グイ・ルンメイは内向的な性格ですが、演技は外向的だと言えます。ジョセフ・チャンも、もともと内向的ですが、演じてきた役柄によって更にその傾向が強まったようです。

最初に稽古をしたとき3人の違いを感じて、いいアイデアを思いつきました。初期に重要なシーンを撮る予定だったのですが、彼らには最終版の脚本を渡さなかったのです。役者たちから個別に意見を聞いて、それぞれの意見を他の役者には伝えずに、話し合った内容に基づいて脚本に手を加えました。でも、わざと最終版に反映させないで、撮影当日まで、そのシーンの最終稿を知っているのは1人だけということも度々ありました。そうすることで撮影がより楽しくなりましたし、役者たちは心を開いて相手の反応を理解しようとするため、表現にばかりにこだわって自分の役を解釈する、ということがなくなりました。すべての役者が相手の演技を目で見て感じ、正直でリアルな反応をするようになったのです。

多くのシーンをこのやり方で撮影しました。例えば、リディアン・ヴォーンが高校時代、グイ・ルンメイを見つめながらダンスするシーンがありますが、グイ・ルンメイは彼がダンスをするということを全く知りませんでした。また、大学時代、彼らは別れることになるのですが、グイ・ルンメイはジョセフ・チャンの手に彼女の役名を書き、更に陳忠良の名前を書きます。実は、ジョセフ・チャンは撮影前、グイ・ルンメイが自分の手に何を書くのか知りませんでした。撮影の段階になって、ようやく林美宝と陳忠良の名前だと分かります。これは、ジョセフ・チャンにとても大きな驚きと感動をもたらしました。この驚きと感動こそが、真実の描写につながりました。これが『GF*BF』を撮影する時に、私がよく用いた手法でした。

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映画『GF*BF』より © 2012 Atom Cinema Co.,Ltd., Ocean Deep Films, Central Motion Picture Corporation, Huayi Brothers International Media All Rights Reserved.

台湾におけるこの30年の変化は、
まさに私たちの感情表現の変化

──冒頭の女子高生の短パンを履きたいと抗議するエピソードや戒厳令下の生活、そして学生運動など、今作は、1985年から2012年までの台湾で実際に起きた出来事や事件を作品に取り入れています。その理由を教えてください。

私は常々、実際の文化や時空を背景とするストーリーでなければ、感情や力強さに欠けると思っています。だからこそ文化的背景をリアルに描くことが非常に重要です。私が意図したことは、台湾のこの30年の社会変化を背景に、人々の感情のストーリーを展開することでした。この映画の物語は約30年にわたります。30年間の感情の変化は、台湾の人たちの世界観や感情の表し方と密接な関係があります。保守的な時代から混沌とした90年代に入ると、感情についての捉え方に変化が生まれました。今、私たちは愛情、感情、友情に対して少しずつ寬容になり、理解を示すようになってきました。

そのような変化はこの映画にとって、非常に重要なファクターです。3人の間の感情の変化について言えば、無知で無分別な少年時代から、大学時代、青年時代にはやや激しい感情へと移り変わり、最後には皆が互いの感情に対して理解を示し寛容になっていきます。こうした流れは、とても重要だと思います。私はその流れを表現するために、実際に起こった歴史的事件を映画のなかで取り上げることにしたのです。実際、台湾におけるこの30年の変化は、まさに私たちの感情表現の変化だと言えます。

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映画『GF*BF』より © 2012 Atom Cinema Co.,Ltd., Ocean Deep Films, Central Motion Picture Corporation, Huayi Brothers International Media All Rights Reserved.

──では、影響を受けた映画監督は?

その時によって回答は違ってきます。今回、この質問を見た時に私が思い出したのは国際的な大監督ではなく、最初に一緒に仕事をしたイー・ツーイェン監督でした。彼はグイ・ルンメイのデビュー映画『藍色夏恋』の監督です。彼との付き合いは長くて、もう10年以上になります。彼が頭に浮かんだ理由は、グイ・ルンメイが話題に出ているからです。私はあまり専門的な訓練を受けたことがありません。映画の見方も他の監督とは違っていて、大抵ただ鑑賞しているような感じで、作品について深く分析することもありません。一緒に仕事をしたイー・ツーイェン監督からは、映画の撮影技術ばかりではなく、映画を制作する姿勢、仕事に対する姿勢、慎重で真摯な態度など、たくさんのことを教わりました。監督というのはとても大きな責任を負っている、ということも。

彼とよくお酒を飲みに出かけました。カラオケも好きで、特に『自在』という曲を好んで歌っていました。彼から受けた影響の中で特に大きなものと言えば、映画を撮る時は自在であれ、というアドバイスです。厳格さとの間でバランスが取れるように、と。映画の撮影や創作活動を行う時、自分が自在でリラックスしていれば、できあがった作品は形にしばられることなく、ロマンチックな雰囲気を醸すものとなります。それでこそ創作であり、本当の自在だというのです。仕事に対する姿勢という点で、イー・ツーイェン監督からは多くの影響を受けました。

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映画『GF*BF』より © 2012 Atom Cinema Co.,Ltd., Ocean Deep Films, Central Motion Picture Corporation, Huayi Brothers International Media All Rights Reserved.

──今回公開となる日本については、どのような印象を持っていますか?

仕事が緻密だということですね。映画祭のイベントによく参加しますが、日本のタイムスケジュールはとてもきっちりしていて、会場到着や取材時間などが非常に正確です。京都でバスに乗った時はびっくりしました。時刻表に書かれているとおりの時間に到着するからです。台湾と違って、とても時間に正確で、日本人が仕事面で感じるプレッシャーはさぞかし大きいことだろうと思いました。
それから、日本の友人は自分が約束したことや知り合った人に対して、何かしてあげたいと思ったら必ずやってくれます。『Orzボーイズ!』を制作した時に知り合ったNHKの日本人の友人に、大阪の映画祭で会いました。とてもよい人で、以前撮ってくれた資料写真をすべてディスクに焼いて、わざわざ大阪まで持って来てくれたのです。何年も前のことなのに覚えていてくれて驚きました。日本人はとても信頼できる民族だと思います。

──最後に、あらためて今作のテーマと、取り上げている社会運動についてお願いします。

この映画のとても重要なテーマは、すべての人が自由を求めること、自分の感情と心を自由にすることです。私は台湾の学生運動の歴史についての書籍以外に、日本の安保闘争時代の小説を何冊も読みました。村上春樹や村上龍など、多くの日本の作家が学生運動の様子を描いています。闘争のテーマは台湾とは違いますが、日本の小説で描かれた学生運動と青春群像は、随分前の時代のことではありますが、私に大きな啓発を与えてくれました。

『GF*BF』が描くのは単なるひとつの事件ではありません。私は、青春の解釈という点で、日本の小説に大きく影響されました。この映画をご覧になった皆さんには、日本の小説が私に与えた影響を感じていただけるのではないでしょうか。日本では長い間、大きな運動が起きていません。その理由として、社会に対して冷ややかになり政治に失望しているため、社会問題に無関心になったからだと言われています。観客の皆さんには、この映画からパワーを得て、自分の心や人生が本当に自由なのかを見つめ直してほしいと思います。そして、皆さんの心や愛が自由なものになるよう願っています。

(オフィシャル・インタビュー)



ヤン・ヤーチェ プロフィール

1971年7月17日、台湾出身。淡江大学マスコミュニケーション学科卒業後、広告会社の企画やアニメーションのシナリオなどを手がけ、舞台やTVドラマ、ドキュメンタリー、映画など様々な分野で監督、脚本家として活動している。02年にドラマ「違章天堂」が金像奨最優秀監督、脚本賞など各賞を受賞。その後も多くのドラマの監督・脚本家として評価された。映画監督としては08年の『Orzボーイズ!』がヒットし注目された。2作目の長編作品である本作では金馬奨をはじめ多数受賞し高い評価を受けた。また、『藍色夏恋』(02)では助監督を務め、イー・ツーイェン(易智言)監督とともにノベライズを手がけている。




映画『GF*BF』
6月7日(土)よりシネマート六本木、シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー

1985年、戒厳令下にある台湾。南部の街・高雄で窮屈な高校生活を送る美宝(メイバオ)、忠良(チョンリャン)、心仁(シンレン)。彼らは、夜店で発禁本を売り、生徒を監視する教官にささやかな抵抗をする一方で、バイクを走らせたり渓谷で戯れたりと、厳しい校則や思想統制に縛られる日々の中でも青春を謳歌していた。男勝りな美宝と彼女を優しく見守る忠良は公認のカップルだったが、ある日、忠良から「ただの友だち」と聞かされた心仁は、隠していた自分の気持ちを美宝に告白。いつまでたっても忠良に恋人として扱われず本心を知りたいと思っていた美宝は、伝え聞いた決定的な言葉に失望して、心仁の想いを受け入れることになる。

監督・脚本:ヤン・ヤーチェ
出演:グイ・ルンメイ、ジョセフ・チャン、リディアン・ヴォーン、チャン・シューハオ、レナ・ファン、ティン・ニン
製作:イェ・ルーフェン
プロデューサー:リウ・ウェイラン
撮影:ジェイク・ポロック
美術:リー・トゥンカン
音楽:ジョン・シンミン
音響:ドゥー・ドゥージー
編集:リャオ・チンソン、チャン・チャーホイ
提供:ポリゴンマジック
配給:太秦
原題:女朋友。男朋友(GF*BF)
2012年/台湾/中国語・台湾語/105分

公式サイト:http://www.pm-movie.com/gfbf
公式Facebook:https://www.facebook.com/gf.memory.ukishiro

▼映画『GF*BF』予告編

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