骰子の眼

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2014-07-11 16:23


ホドロフスキー監督人生を説く「意識を広げることで人生そのものが目的になる」

自らの家族をキャストに迎え家族の再生描く新作『リアリティのダンス』
ホドロフスキー監督人生を説く「意識を広げることで人生そのものが目的になる」
2014年4月22日、ヤクルトホールのプレミア上映会より、アレハンドロ・ホドロフスキー監督 写真:西岡浩記

2014年7月12日(土)より、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンクほか、全国順次公開されるアレハンドロ・ホドロフスキー監督の新作『リアリティのダンス』のプレミア上映イベントが4月22日、東京・新橋のヤクルトホールにて行われ、来日中だったホドロフスキー監督が登壇した。500席がソールドアウトとなった会場には、熱狂的なファンが訪れた。当日は『リアリティのダンス』製作についてのエピソードを語り、タロットカードの研究者としても知られるホドロフスキー監督が、巨大なタロットを抱えた22名の参加者による「人間タロットカード」を用い会場の観客からの悩み相談に答えた。

この日の「人間タロットカード」のレポートはこちらをご覧ください。

家族とどう家族と向きあえばいいかを
芸術として昇華した

──『リアリティのダンス』をはじめて日本の観客に観ていただいて、どのようなお気持ちですか。

さきほどステージ奥で皆さんの拍手を聞いてうれしくなりました。いつも私は映画をひとつの冒険として作っています。それは観客の感動を呼ぶためではなく、一人ひとりがそれぞれの方法で反応してもらえればいいと思って作ってきました。ですが、今日『リアリティのダンス』をとてもよろこんでくれたことは、まるで奇跡のようなことです。

──本作では家族の再生が描かれていました。そして演じられているのもご家族ですね。

私の息子たちが俳優として出ています。妻のパスカルも衣装を担当しました。そして私の父の役は、息子のブロンティスが演じました。私の息子が、私の父を演じるなんて不思議なことですね。そして行者の役を演じたのも、私の息子です。私の師として息子が出てきたわけです。髪の毛の長いアナキストを演じた末っ子のアダンは、この映画の音楽を担当しました。そして父親役の息子によって、アナキストの彼は死に追いやられます。つまり兄が弟を殺すということが行われているのです。

普通現実では、長女が次女を殺すとか、長男が次男を殺すということはほとんどありません。でも、心の中ではどうでしょう。心の中でそれが行われているのは、自分が兄弟に侵略されていると思っているからです。そして子供は皆、父親の師になりたいと思っています。父親の父親になってみたいと思わない息子もいないと思います。私はそれを、この映画の中で実現しました。ときどき私は、愛する息子に演出するときに、自分の父親を見ていたたまれなくなります。まるで父親を憎むように、息子を憎む気持ちになります。息子の中に父親を見たからです。

『リアリティのダンス』ブロンティス・ホドロフスキー
映画『リアリティのダンス』より

──映画をご覧になった皆さんの中にも、家族の関係で葛藤を抱えている方もいらっしゃると思います。私たちは、そんな家族とどう向き合えばいいのでしょう?

それに答えるには、分厚い本が必要です。わたしはサイコマジックという心理セラピーで家族を分析する『Metagenealogia』という本を書きました。それぞれの人は一人ひとり、少なくとも14人の家族と一緒です。まず私と父と母で3人、4人の祖父と祖母、そして8人の曾祖父と曾祖母。ですから、私はそこから数えて15番目ということになります。私の上には14人の家族がいるのです。その上、叔父や叔母がいます。私の兄弟姉妹、親戚、そして国の人間も、歴史上の人物もいます。ですからひとつの大きな軍隊の一員みたいなものです。

いま何が必要かというと、少なくとも自分の祖父母の代まで研究すること。でもそのためには系図の授業をしなくてはいけません。そして近親相姦やサディズム・マゾヒズム、ナルシストや、反社会的な生き方といった問題は、とても複雑ですぐに解決することはできません。ですから、どう家族と向きあえばいいか、その問題について私はこの『リアリティのダンス』で芸術として昇華させました。

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映画『リアリティのダンス』より

私のすべてを愛に打ち込むこと。
それには限界がありません

──監督は「4つの質問に答えられれば、その答えはあなたの存在の師となるでしょう」と言われました。その4つの質問とは、「あなたの人生のゴールはなにか?」「一般的な人生のゴールはなにか?」「あなたの人生のゴールと一般的な人生のゴールに違いはあるか?」「もし違いがあるなら、ゴールそのものを変えなさい」。監督にとっては、この質問の答えはなんでしょうか?

それもとても深い質問ですね。それに答えるには、哲学の授業をしなくてはなりません。『ホーリー・マウンテン』を撮った後、私はメキシコで数々の問題に直面しました。「殺す」と脅されたこともあります。私は映画の素材と共にアメリカに逃げました。人々は、そんなことが起こったのか、と驚き、当局も驚きました。

1973年に『ホーリー・マウンテン』をニューヨークで上映するとき、私はずっと苦悩の只中にいました。夜に汗をかいて一晩で7回も着替えをしたこともあります。ニューヨークで中国人の賢者といわれる方に会いに行きました。彼は美しい老人で、武術や詩や占いといった様々なことを知っていました。彼からタロットをタダで学ぶことができました。私は精神分析医ではないので、タロットではお金はとりません。

列に並んで、彼はまず私の脈を取りました。なにがあるか、なにが問題なのか調べ、そして私の目を見ました。そのときに、こう聞かれたのです。「あなたの人生の目的はなんですか?」「いや、別に哲学を学びたいのではなくて、この恐怖を直してほしい」と私は答えました。そのときに「もし、あなたに人生の目的がないのであれば、私はあなたを癒すことはできない」と言われました。そのとき私は初めて「私の人生の目的はなんなのか」と考えたのです。この映画が成功することか、金持ちになることか、理想の愛を見つけることか。なにが一番基本なのかが、そのときの私には分かりませんでした。「すべて自分の思考の産物である」、という答えが見つかったときに、私の人生が変わったのです。「あなたの人生の目的はなんですか」と聞かれたとき、私は個人です。人生は私のものです。それが「私の人生」です。

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写真:西岡浩記

そうすると、人生とはなんなのか?「人生そのものの目的」と「私の人生の目的」は違います。「私の人生の目的」というとき、良くても悪くても人はエゴイストになります。例えば「私たちの人生の目的はなにか?」と問いかけるほうがいいのではないでしょうか。なぜなら私は、個人ではなく、集団なのですから。文化であり、歴史であり、家族であるからです。人類の目的とはなんだろう?それは、私の人生の目標と同じなのか?

ですから、「私自身の人生の目的」から「人類の人生の目的」を考えるときに、人は本当の幸福とは何かを考えるのです。なにを変えたいのか?自分の人生そのものを基本にしたいのか?それとも人類の人生の目的を大事にしたいのか?集団が人生なのか?ですから、私とあなた、そして集団的ということを考えている間は、まだ幸福との間に差があるのです。

私は死にます。ですが、それは別に残念なことではありません。私も皆さんと同じように死にたいとは思いません。でも、集団ということを考えたとき、人類は不死です。私には、大きな好奇心があります。でも、すべてを知ることはできません。すべてを認知することもできません。でも人類がいつか、私が知りたかったことを知るし、それをみんな知るようになるでしょう。これから先、何百万年も人類が続いていけば、いつかは解明さます。

ですから、私の目的はなんなのか? 楽しむことか?美味しいものを食べることか?性的に満足することか?それもそうですが、それだけでは十分ではありません。私のすべてを愛に打ち込むこと。それには限界がありません。私が生きている限りできます。それは、私と私の愛する人が次の世代に渡していけば不死になります。

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映画『リアリティのダンス』より

私の考えは正しいのか?いますべてが変化を遂げているときに、私の思考が正しいとどうして言えるのか?では、「私の目的とはなんなのか?」それは、私の意識を広げることです。「なぜ宇宙が膨張しているのか?」それは一つの意識を形成しているからです。「誰が宇宙の意識となるのか?」それは人類です。そこに向かって私たちは進んでいます。その精神に向かって行くことで物質まで精神にしてしまうのです。

そうなったとき、人生に目的はありますか?ありません。なぜかというと、人生そのものが目的だからです。不死になる必要はないのです。すべてを知る必要もないのです。なぜかというと、人類の意識の中にはそれらがすべてあるからです。ですから私たちはそれを伝える媒体として、その大きな意識へと向かっていくべきなのです。

それは一人ひとりのことを話しているわけではありません。私が話しているのは宇宙の話です。神経のニューロンの10とか20といったレベルの話ではありません。皆さんの中には、何千万、何億というニューロンがあります。そのニューロンを合わせたら無限大になります。星の数ほどある私たちの頭の中のニューロンがどんどん繋がって成長しているのです。

しかし、いまその成長を拒んでいるのが家族であり、文化であり、社会なのです。世界のシステムは、私たちが思い通りになることを望み、私たちが私たち自身になることを拒んでいます。しかし私は私自身、私は人類、私は惑星なのです。

私は愚かなせいでこの惑星を汚しているかもしれない。愚かなせいで戦争を起こしているかもしれない。そしてその惑星で自分自身を閉じこめているかもしれない。でも本当は、私には国籍はありません。年齢もありません。名前もありません。なにもありません。なにも私のものではありません。なにも私のものではない限り、それはすべて私のものなのです。なぜかというと、私はすべての人だからです。あなたはすべての人だからです。あなたはすべてで、全体なのです。そしてここに、皆さんが一緒に集まっているわけです。ここにすべてがあるのです。ここにないものは、どこにもありません。

後半に行われた「人間タロット」のレポートはこちらをご覧ください

(2014年4月22日、ヤクルトホールにて)



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映画『リアリティのダンス』より

『リアリティのダンス』
2014年7月12日(土)新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンク、キネカ大森ほか、全国順次公開

監督・脚本:アレハンドロ・ホドロフスキー
出演:ブロンティス・ホドロフスキー(『エル・トポ』)、パメラ・フローレス、クリストバル・ホドロフスキー、アダン・ホドロフスキー
音楽:アダン・ホドロフスキー
原作:アレハンドロ・ホドロフスキー『リアリティのダンス』(文遊社)
原題:La Danza de la Realidad(The Dance Of Reality)
(2013年/チリ・フランス/130分/スペイン語/カラー/1:1.85/DCP)
配給:アップリンク/パルコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/dance/





『ホドロフスキーのDUNE』
新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷アップリンク、キネカ大森ほかにて上映中、他全国順次公開

監督:フランク・パヴィッチ
出演:アレハンドロ・ホドロフスキー、ミシェル・セドゥー、H.R.ギーガー、クリス・フォス、ニコラス・ウィンディング・レフン
(2013年/アメリカ/90分/英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語/カラー/16:9/DCP)
配給:アップリンク/パルコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/dune/


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