骰子の眼

cinema

東京都 千代田区

2014-09-22 23:28


「誰の心にも刺さる記憶のカケラを放り込む」矢崎仁司監督が新作『太陽の坐る場所』を語る

辻村深月の人気小説を映画化、地元山梨で思春期の心の傷を鮮烈に描く
「誰の心にも刺さる記憶のカケラを放り込む」矢崎仁司監督が新作『太陽の坐る場所』を語る
映画『太陽の坐る場所』より ©2014「太陽の坐る場所」製作委員会

辻村深月の同名小説を『ストロベリーショートケイクス』『スイートリトルライズ』の矢崎仁司監督が映画化した『太陽の坐る場所』が9月27日(土)からの山梨での先行公開に続き、10月4日(土)より全国公開される。
常に今までの観客を裏切るような映画を作りたいという矢崎監督。今回は、過去と現在を時系列で描くのではなく交差させる編集で、映画を見ている観客に今を感じてほしいという意図があったという。
そして埼玉でも千葉でもなく、また金沢でも山形でもない、東京との距離感では遠くて近い山梨という土地の若者が抱くコンプレックスを描くために、同じく山梨出身の辻村深月の原作を選び、そして主題歌にも山梨出身のレミオロメンの藤巻亮太を起用し製作された。
高校の同窓会を舞台に、誰の記憶にもある教室での格差や嫉妬、妬みなどをリアルに描き、同じ名前を持つ二人のキョウに隠された秘密に迫るミステリーだ。
webDICEでは矢崎仁司監督が撮影の経緯などについて語ったインタビューを掲載する。

痛々しいほどの裸の心たちが日々を懸命に生きている

──原作のどんな部分に惹かれましたか?

辻村さんの小説は「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」、「ぼくのメジャースプーン」、「スロウハイツの神様」などなど愛読していました。人間の心の底を抉る辻村文学に、いつか挑みたいと思っていました。この『太陽の坐る場所』には、痛々しいほどの裸の心たちが、服を着て仮面を被り、日々を懸命に生きている。この小説の登場人物たちを、生身の人間の姿で映し撮りたいと強く思いました。思春期の心の傷の包帯を解き、自分でも忘れていた傷口を太陽に曝すことで自分の新しい一歩を踏み出していく映画にしたいと思いました。

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『太陽の坐る場所』の矢崎仁司監督

──長尺な原作を脚本にする際にどこにポイントを置いたのでしょうか?

30稿以上書き直した七か月の格闘の末、愛すべき登場人物たちを一人、また一人と削っていくなかで、辻村文学の深い海底の砂に埋もれた記憶に触れた気がしました。観る人の心の底に眠る宝箱の蓋を開けられたらいいなと思います。

──30稿以上書き直されたということですが、具体的に拘った点はありますか?

私は、いくつか原作を映画にしてきました。映画と文学は違いますが、常に心掛けていることは、原作者を、第一の観客にすることです。幸い今までの原作者の方々には、出来上がった映画を愛していただきました。もちろん、辻村さんにも、喜んでいただき嬉しかったです。

──原作の辻村さんとは脚本の段階からやりとりをされていたのでしょうか?読まれたときの辻村さんの反応はいかがでしたか?

やはり辻村さんは、活字に命を削られている方なので、ト書きや科白などに対する鋭い指摘には、驚かされました。反面、原作には無いシーンでも、映像表現に理解を示していただき、逆に独自のアイディアをくださったり、感謝しています。

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映画『太陽の坐る場所』より ©2014「太陽の坐る場所」製作委員会

──この原作を映像化するにあたり一番苦労されたシーン、拘ったシーンはどこでしょうか?

すべての登場人物が愛おしかったので、全員描きたかったです。映画の時間の中で、一人、また一人と登場人物を切っていかざるを得ないことが辛かったです。
小説は、高校生活と10年後の現在の話ですが、回想形式の映画にしたくないと拘りました。登場人物の回想ですと、彼、彼女たちのストーリーになってしまうので、観客に物語しか渡すことが出来ない。誰の心にも刺さる記憶のカケラを放り込むことで、あらゆる年齢層の観客一人一人の感情に触ることが出来ると思います。

──出演者についてお聞かせ下さい。また、高校時代を演じている若手俳優たちのキャステイング理由や、撮影現場での手応えはいかがでしたか?

私は、俳優さんたちとの出会いに恵まれているなと感じます。水川あさみさんも、木村文乃さんも、三浦貴大さんも、森カンナさんも、みんな素晴らしい俳優さんです。私は演出なんかしていません。今の彼、彼女たちの命を映し撮りたいと必死でした。高校時代のキャストについては、300人を超えるオーディションで選ばれた俳優たちですが、正直、出会ったと言いたいです。オーディション会場で順番待ちをしている彼、彼女たちを見て、「あ、響子ちゃんだ」とか「リンちゃんだ」とか、出会った感じです。みんな素直で勘がよく、素晴らしい俳優です。日本を代表する俳優さんたちの若い頃に出会ったみたいな感じ。もう直ぐにブレイクして、きっと私なんかと一緒に映画を作ってくれなくなっちゃうんだろうなって思います。

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映画『太陽の坐る場所』より ©2014「太陽の坐る場所」製作委員会

──「キョウコ」を演じるうえで、水川さん、木村さんの2人に監督から伝えたことは?

2人の「キョウコ」は、今日であり、響きであり、鏡でもあるということだと思います。この鏡に自らを映すことで、登場人物たちは、各々の道を見つけて歩き出す。この映画も、観客ひとりひとりを映す鏡になり、映画館の暗闇から外に出た時、新しい何かを発見する予感の映画にしたいと伝えました。

──現代と過去のシーンを交錯させて描くことでどんな世界が見えてくると思いますか。

非常に個人的な記憶ほど、他人の心に触れると信じています。過去は回想ではなく、記憶のカケラだと思います。そしてそのカケラはガラスのように尖っていて、観る人の記憶に刺さると思っています。

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映画『太陽の坐る場所』より ©2014「太陽の坐る場所」製作委員会

──出身地である故郷の山梨での撮影はいかがでしょうか。

原作者の辻村さんも私も同じ山梨県人だから。2人とも原風景は山梨にあり、この物語の語り手たちの感情を肌で感じることができたと思います。この地で生まれ育ったこと。近くて遠い東京との距離感。優越感と劣等感。孤独と葛藤など。でも、これは山梨だけではなくて、大都市以外の地方都市に育った多くの日本人に共通した感覚でもあるのではないかと感じています。

──矢崎監督からのラブコールで藤巻亮太さんの主題歌書下ろしが決まったということですが、初めて曲を聴いた時はいかがでしたか?

シナリオを書いているとき、レミオロメンの「永遠と一瞬」をずっと聴いていました。だから藤巻さんにはお願いしたかった。山梨から東京に向かうバスの中で聴いていたのですが、流れる車窓の風景が涙で滲みました。「アメンボ」は、この曲がラストに流れて、はじめてこの『太陽の坐る場所』は完成したと、思います。

(プレスより引用)
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映画『太陽の坐る場所』より ©2014「太陽の坐る場所」製作委員会



【9月7日に開催された第10回やまなし映画祭でのトークより】

“辻村文学”と言っていただいたのは矢崎監督が初めてなんです。そんな風に真摯に向き合ってくれる方にこの作品を映像化していただけたことが何より良かったと思います。心が震える程嬉しかったんです。原作は二人の名前をキョウコという表記にしてミスリードを誘っているので、映像にするのはとても難しいと思っていました。でも、映画を観させていただいて、水川さんと木村さんが演じるキョウコの間に何があったのか、そこにとても引き込まれていて。私にとっては、大事に大事に育ててきた娘をお嫁に出すような感覚でもあったので、本当にいいお家に嫁がせてもらったなと実感します。

映画の冒頭、原作通りの映像からスタートします。私ここ書いた!!とも思ったし、自分の高校時代を観ているようでもありました。きっと、自分の人生の一場面が封じ込められている作品になっていると思います。(辻村深月)

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映画『太陽の坐る場所』より ©2014「太陽の坐る場所」製作委員会



矢崎仁司 プロフィール

山梨県出身。日本大学芸術学部映画学科に入学。在学中の1980年、『風たちの午後』で監督デビュー。1992年、『三月のライオン』でベルギー王室主催ルイス・ブニュエルの『黄金時代』賞を受けるなど、国際的に高い評価を得る。1995年、文化庁芸術家海外研修員として渡英し、ロンドンを舞台にした『花を摘む少女 虫を殺す少女』を監督。主な作品に、『ストロベリーショートケイクス』(2006年)『スイートリトルライズ』(2010年)『不倫純愛』(2011年)『1+1=1 1』(2012年)などがある。




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映画『太陽の坐る場所』より ©2014「太陽の坐る場所」製作委員会

映画『太陽の坐る場所』
10月4日(土)より、有楽町スバル座他ロードショー
9月27日(土)より、山梨にて先行ロードショー

学校中の人気を集め、クラスの女王として君臨していた響子。自分の立場も、好きな人も、友達すらも、欲しいものは何でも手に入ると信じていた完璧な高校時代。彼女の傍には、いつも、同じ名前を持つ同級生の今日子がいた。しかし、完璧だった高校生活も終わりが近づいてきたあの日、ある出来事をきっかけに光と影が逆転する。 そして高校卒業から10年。過去の輝きを失い、地元地方局のアナウンサーとして満たされない毎日を過ごす響子と、彼女とは対照的に、東京に出て誰もが憧れる人気女優として活躍する今日子。そんな2人の元にクラス会の知らせが届く。卒業以来、言葉を交わすことすらなかった2人がそこで再会を果たすとき……初めて語られる10年前の残酷な真実とは?

監督:矢崎仁司
出演:水川あさみ、木村文乃、三浦貴大、森カンナ、鶴見辰吾
原作:辻村深月(文春文庫刊)
脚本:朝西真砂
主題歌:「アメンボ」藤巻亮太
配給:ファントム・フィルム
2014年/日本/102分

公式サイト:http://taiyo-movie.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/koutei.kousyaku.movie2013
公式Twitter:https://twitter.com/taiyou_movie


▼映画『太陽の坐る場所』予告編

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