骰子の眼

cinema

東京都 豊島区

2014-11-29 23:10


11/29は"パレスチナ人民連帯国際デー"パレスチナ映画上映

『パラダイス・ナウ』のハニ・アブ・アサド監督『オマール、最後の選択』日本プレミア上映
11/29は"パレスチナ人民連帯国際デー"パレスチナ映画上映
「『パレスチナ人民連帯の国際年』記念シンポジウム」に登壇した国連広報局のマーヘル・ナセル氏(左)、立教大学教授の長有紀枝氏(右)

2015年に公開の映画『オマール、最後の選択』が、11月26日に東京都豊島区の立教大学池袋キャンパスで行われた「『パレスチナ人民連帯の国際年』記念シンポジウム」(主催:国連 広報センター等)にて先行上映された。

本日11月29日は「パレスチナ人民連帯国際デー」。1947年11月29日に国連総会が決議181により、イスラエルとパレスチナの二国間共存というビジョンを打ち出したことにちなみ、1977年に定められた。

また、2014年はパレスチナとイスラエルとの間の恒久的な和平に向けた話し合いに少しでもはずみをつけたいという願いから国連が定めた「パレスチナ人民連帯の国際年」。これを記念して開催された今回のシンポジウムでは、上映後、パレスチナ問題の第一線で活躍するパネリストによるディスカッションも開かれ、会場に集った約300人が熱心に耳を傾けた。

『オマール、最後の選択』は、『パラダイス・ナウ』で自爆攻撃を決意した若者たちを描き、世界的に高い評価を得たハニ・アブ・アサド監督の新作で、占領下のパレスチナに暮らす若者たちの一筋縄ではいかない友情や恋を切実に、サスペンスフルに描いた作品。ハニ・アブ・アサド監督は今作で製作、脚本、監督を務め、2013年のカンヌ国際映画祭・ある視点部門で審査員賞受賞を受賞、さらに2014年の米アカデミー賞外国語作品賞にパレスチナ代表としてノミネートされるなど、世界各国で高い評価を受けた。

これまでパレスチナでは、フランスなど外国との共同出資で映画製作をしてきたが、今作はパレスチナで初めての100%自国出資作品となっている。

webDICEでは今回のニュースに続き、シンポジウムの詳細なレポートを12月13日(土)に掲載予定。

「青春映画でありながら、
パレスチナの現状を鮮明に伝えている作品」
──NY国連本部・ナセル氏

シンポジウムの最初に、NYの国連本部から来日したマーヘル・ナセル氏(国連広報局長代行)は「この映画を観たのは今日で3回目ですが、毎回新しい発見があります。私自身もパレスチナ人で、まだ兄弟が現地に住んでいるので、故郷を思い出してしまいます。それくらいこの映画は現実を切り取っていて、青春映画であり恋愛ドラマでもありますが、パレスチナが抱えている安全保障問題、人権問題の現状を鮮明に伝えている作品だと思いました」と挨拶。

また日本国際ボランティアセンター(JVC)の現地職員としてガザで調査している金子由佳氏もこの日のために現地から駆けつけ、劇中の舞台である分離壁の特徴や問題点を写真を使って解説した。特に映画の中心舞台であり、イスラエルが国際法に違反してパレスチナを分断している8mを超える壁に関しては、「市民の日常生活の行き来を困難にするだけでなく、医療保険サービスが分断されてしまった問題があります。分離壁の検問所は542個も存在しており、2012年の時点で、壁を通過しようとした救急車591台のうちに通過できたのはたった41台だけ、検問所で死亡した人は135人にも上っています。中でも急患の妊婦は検問所で出産を余儀なくされ、その多くが死産となりました」と、現地の最新情報をレポートした。

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「『パレスチナ人民連帯の国際年』記念シンポジウム」より、国連広報センターの根本かおる氏(左)、アップリンク社長・浅井隆(中央)、JVCガザ現地職員の金子由佳氏(右)

旧ユーゴスラビアで難民の支援活動に携わった長有紀枝氏(立教大学教授)は、「映画の中でパレスチナ人の若者が緊張する場面で、あちこちでジョークを交わすシーンが印象的でした。正気でいるためには笑い飛ばさないといけない過酷な現状や、自分たちの精神だけは誰にも占領されないという強い意志が伝わって来た」と感想を述べた上で、「緒方貞子さんが国連高等弁務官事務所(UNHCR)の代表だったころ、“人道支援はただ人の命をつなぐだけで、根本的な解決にはつながらない”とおしゃっていました。政治問題を解決できるのは政治だけです」と話した。

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「『パレスチナ人民連帯の国際年』記念シンポジウム」より

本作を来年日本で配給するアップリンクの浅井隆は、「マドンナが、この作品を観た後ツイッターで“See, This brilliant film!(このすばらしい映画をぜひ観てほしい)”書いていましたが、この作品はドキュメンタリーでは表せない、人の感情のひだを描くことのできる劇映画です。パレスチナの複雑な現状を、事実や論理だけでなく感情を揺さぶることによって伝えている作品だと思います。今年7月のイスラエル軍によるパレスチナ・ガザ地区への集中空爆によって多くの市民が犠牲になったときに、国連人権理事会は、イスラエルの軍事作戦を非難する決議案を採択しましたが、日本は残念ながら棄権しています。現状を変えるには政治を変えること、その政治を変えるのは、選挙しかありません。来月の選挙に参加しましょう」と呼びかけた。

(文・鈴木沓子)



映画『オマール、最後の選択』
2015年公開

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監督・脚本・製作:ハニ・アブ・アサド
撮影:エハブ・アッサル
編集:マーティン・ブリンクラー、イヤス・サルマン
出演:アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ、サメール・ビシャラット、エヤド・ホーラーニ ほか
配給:アップリンク
2013年/パレスチナ/アラビア語・ヘブライ語/カラー/5.1chドルビーデジタル/シネマスコープ/DCP/99分

▼映画『オマール、最後の選択』海外版予告編

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ハニ・アブ・アサド


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