骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2014-12-08 15:25


「まんがが描く『非』常識は生きていく上での本質」ひらのりょう×三浦直之対談

12/13より渋谷アップリンクで7日間連続の上映イベント「ひらのりょう まんがまつり」開催
「まんがが描く『非』常識は生きていく上での本質」ひらのりょう×三浦直之対談
渋谷アップリンクで「ひらのりょう まんがまつり」を開催するひらのりょう(左)、三浦直之(右)

アニメーション作家、ひらのりょうが12月13日(土)から19日(金)まで7日間連続の上映イベント「ひらのりょう まんがまつり」を渋谷アップリンクで開催する。

先日行われた新千歳空港国際アニメーション映画祭2014では国内グランプリを獲得、現在webマガジン「トーチ」で連載中の漫画『ファンタスティック・ワールド』では連載わずか4話目(もちろん!まだ単行本化されてません!)という異例の早さでメディア芸術祭マンガ部門審査員推薦作品となるなど、アニメーションだけでなく、漫画でも才能をいかんなく発揮しているひらの。

今回のイベントでは、しりあがり寿、長尾謙一郎、クリトリック・リスら多彩なゲストを迎え、ベスト盤的内容の上映と、紙芝居ライブなどのパフォーマンス・ライブによる2部構成で、彼のかわいさとグロテスクさを兼ね備えた世界観が表現される。

開催に先駆け、15日のゲストで、ひらの自身もファンだという劇団ロロ・主宰の三浦直之を迎え、同世代クリエイター2人の対談をお届けする。


母親にとっては全部が「まんが」

──イベントタイトルの「まんがまつり」。アニメーションではなく、「まんが」としたのには何か思い入れがあるんですか?

ひらのりょう(以下、ひらの):母がテレビのアニメも漫画本も全部に対して「まんが」って呼んでた記憶があって、母の使ってた「まんが」という言葉の曖昧さが僕の中に象徴的に残っていたんですよね。古くは、お笑いにも「漫画トリオ」(1960年代に人気を博した横山ノック・横山パンチ[上岡龍太郎]・横山フック[青芝フック]のトリオ漫才コンビ)がいたり、音楽も「コミックバンド」と呼ばれる人たちがいたり、「まんが」っていう言葉自体がジャンルレスで、幅広い意味合いの言葉に思えて、付けてみました。

──だから「漫画」ではなく「まんが」なんですね。

ひらの:「まんが」って常識を飛び越えた部分だと思うんです。「常識」というのが人間の理想の形だとして、でも生きていると理想通りにはなかなかならないじゃないですか。うまくいかないこともあるし、自分の行動が不条理な瞬間もすごくある。「非」常識っていうのは、そういう生きていく上での本質なのかなって思ったりするんですよね。僕の作品のテーマにも共通するところがあると思います。

──確かに、ひらのさんの世界観にもかなり常識を超えたファンタジックさを感じます。

ひらの:人間の行動が常識から外れちゃう瞬間って、すごく「まんが的」になると思うんです。人と出会って恋に落ちた瞬間、スパークしておかしな行動をするとかもそうだと思うし。そういう瞬間っていう意味も含め、「まんがまつり」はむき出しな場にできたらなと思っています。ゲストの方もむきだしの方たちをお呼びしておりますので。

ひらのりょう『ホリデイ』より
「ひらのりょう まんがまつり」上映作品『ホリデイ』

ひらの作品に感じるエロス

──ひらのさんは、7月に行われたロロの舞台公演『朝日を抱きしめてトゥナイト』にアニメーション作品を提供され、チラシビジュアルもひらのさんが担当されました。

ひらの:はい。ずっとファンで。2011年の『常夏』で初めて観て以来、ずっと通い続けていたので、オファーをいただいたときは本当に驚きました。

──三浦さんの作品には、共感する部分が多いそうですが。

ひらの:ロロの作品をずっと見てきて、三浦さんの作品にすごく影響を受けていると思うんですけど、肉体的な部分に関する考え方がすごく共感できるなぁと。

三浦直之(以下、三浦):それはどういう部分で?

ひらの:自分の作品でも河童の腕が取れたり、『パラダイス』では熊の鼻がなかったり、身体の一部が欠けるということに対する何かがあって。フェティッシュなのか恐怖なのか、まだ分からないでいるんですけど。

ひらのりょう『パラダイス』より
「ひらのりょう まんがまつり」上映作品『パラダイス』

三浦:たしかにそういう描写は僕の作品でもよく登場していますね。僕もひらのさんにシンパシーを感じるなぁと思うのは、男対女とか、人間対人間以外のなにか、という二項対立をさらに少しずらしている所ですかね。ぼくも「ボーイ・ミーツ・ガール」イコール「男と女」の話にはしたくないんですよ。「単純な二項対立をどう変にしていけるか」でいろんなことを考えています。ベタな話が基本的にはすごく好きではあるんですけど(笑)。

ひらの:僕もベタな話好きです(笑)。最初に演劇を初めて見た時、アニメーションを作る上ですごく勉強になると思って、それから積極的に見るようになったんです。舞台って削られた世界ですよね。背景があるわけでもないし、物語の中の時間・時空も自由。アニメーションに似ている部分があるなぁと思います。でも僕は時間の使い方という意味では、演劇ほど自由にできていないなぁと思っているんですけど。

三浦:そうかなぁ。ひらのさんの作品て別々の世界がふとしたことで繋がるってことがありますよね。『パラダイス』でもそうですけど。演劇の舞台ってセリフで場面をいくらでも転換できるんですよね。「海」って言えば海になるし、「宇宙」って言えば宇宙になる。同じ空間の中でいくらでも変えていける。演劇って、そういう自由度みたいなものとは相性がいいと思いますね。

──お互いの作風については、どういった印象ですか?

三浦:「走る」という動きがすごく好きで、ひらのさんのアニメーションには走るエモーションをすごく感じます。あと、水とか土だったりの質感のフェティッシュさだったり、物語の世界とキャラクターのバランスとか、すごくエロいなと思うんですよね。

ひらの:あはは(笑)。

三浦:おそらく、ひらのくんとはフェティッシュを感じるものがすごく近いんだと思います。

ひらのりょう『河童の腕』より
「ひらのりょう まんがまつり」上映作品『河童の腕』

──ひらのさんは三浦さんの作風についていかがですか?

ひらの:まず、かわいい(笑)。ただ、第一印象では「かわいいな」って思うんですけど、それだけじゃないですよね。パワフルでポップなキャラクターがいっぱい出てきて、ファンタジックでキラキラした世界なのかと思っていると、ぜんぜんかわいさに留まっていかなくて、そういう瞬間が舞台に何度もあるんですよね。そこがすごく好きな所です。僕自身も作品の中で成功させたい部分でもあります。

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三浦直之が脚本・演出を手がけるロロ「朝日を抱きしめてトゥナイト」(2014年)より 撮影:三上ナツコ

──集団で作る演劇と一人で作るアニメーションの世界はそれでも異なる部分が多いように感じますが。

三浦:僕も脚本の段階では一人で作るんですが、全部自分で確定しないといけないっていうのは怖いことですよね。演劇ってどんなに決めて詰めていっても、その通りにはならないんですよ。その事に安心するんです。

ひらの:ああ、分かります。自分で完成させることの恐怖はすごくありますね。

三浦:延々と作っていけるわけだからね。

ひらの:そうなんですよね。だんだん作品と向き合えなくなりますよね。アニメーションって最初から最後まで一人で作っているので、見ていて「作ってる人」自体がどうしても見えてきてしまうと思うんです。

ひらのりょう『ギター』より
「ひらのりょう まんがまつり」上映作品『ギター』

──「まんがまつり」でより裸にされるであろう、ひらのさんはいまどんな心境ですか?

ひらの:そうですね(笑)。ガチでぶつかりあったらジャンルは関係ないと思うので、いろいろ勉強させてもらえたらと思います。ごちゃまぜで何が起こるか分からない7日間になると思うので、それを楽しんでもらえたら。そのことが、自分のアニメーションにも通じている部分だと思うので、作品も含め、ぶちまけた世界観を感じてほしいですね。

三浦:ひらのさんの作品は、音にすごく気を遣ってますよね。劇場の音響で楽しめるのはいいなぁと思います。

ひらの:アニメーションは半分音ですからね。へたしたら絵よりこだわっているので。

三浦:最終日の紙芝居も気になります。

ひらの:実は僕、人前で話すのが本当に苦手で、足も震えるし、辛い部分も多いのですが、むき出しになるためがんばります。

三浦:え、それはなんか修行でやるの(笑)?

(取材・文:ヤマザキムツミ/石井雅之)



ひらのりょう プロフィール

1988年埼玉県春日部市生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。産み出す作品はポップでディープでビザール。文化人類学やフォークロアからサブカルチャーまで、自らの貪欲な触覚の導くままにモチーフを定め作品化を続ける。その発表形態もアニメーション、イラスト、マンガ、紙芝居、VJ、音楽、と多岐に渡り周囲を混乱させるが、その視点は常に身近な生活に根ざしており、ロマンスや人外の者が好物。
http://ryohirano.com/


三浦直之 プロフィール

1987年10月29日生まれ。宮城県出身。2009年、日本大学藝術学部演劇学科劇作コース在学中に『家族のこと、その他たくさんのこと』で王子小劇場「筆に覚えあり戯曲募集」に史上初入選。 同年、主宰としてロロを立ち上げ、以降全作品の脚本・演出を担当。 自身の摂取してきた様々なカルチャーへの純粋な思いを、情報過多なストーリーでさらに猥雑でハイスピードな演出で物語る。 俳優に役を貼り付け、キャラとメタとベタを混在させた登場人物が成立させる独特な世界観が特徴。2013年、初監督・脚本映画『ダンスナンバー 時をかける少女』がMOOSIC LAB 2013 準グランプリほか3冠を達成したほか、ドラマ脚本提供、MV監督、ワークショップ講師なド幅広く活動している。
http://lolowebsite.sub.jp/




【関連記事】

歴史をふまえてアイデンティティと向き合っていくこと ひらのりょうが新作『パラダイス』で見つめる景色(2014-01-08)

http://www.webdice.jp/dice/detail/4073/




ひらのりょう まんがまつり
2014年12月13日(土)~12月19日(金)
渋谷アップリンク

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第一夜 オープニングトーク「はじまりのごあいさつ」
ゲスト:飛永翼(ラバーガール)

2014年12月13日(土)19:50開場 20:00上映 終映後トークショー
http://www.uplink.co.jp/event/2014/33713

第二夜 「かっこいい人!!まつり」
ゲスト:井上涼、クリトリック・リス

2014年12月14日(日)19:15開場 19:30上映 終映後パフォーマンスLIVE
http://www.uplink.co.jp/event/2014/33717

第三夜 「ミュージックビデオの日」
ゲスト:三浦直之
★三浦さんがトークゲストで登壇するこの日は、
三浦直之監督作品・東京カランコロンMV「恋のマシンガン」の上映も決定!

2014年12月15日(月)19:50開場 20:00上映 終映後トークショー
http://www.uplink.co.jp/event/2014/33720

第四夜 「どうそうかい!」
ゲスト:谷口菜津子、沼田友

2014年12月16日(火)19:50開場 20:00上映 終映後トークショー
http://www.uplink.co.jp/event/2014/33722

第五夜「漫画の日」
ゲスト:関谷武裕、長尾謙一郎、しりあがり寿

2014年12月17日(水)19:50開場 20:00上映 終映後トークショー
http://www.uplink.co.jp/event/2014/33724

第六夜「ぼくたちの好きな あのうごき」
ゲスト:ぬQ

2014年12月18日(木)19:50開場 20:00上映 終映後トークショー
http://www.uplink.co.jp/event/2014/33726

最終夜「おんがくとかみしばい」
ゲスト:ゴンドウトモヒコ、今泉仁誠(Imaizumi Jinsei)[ギター]

2014年12月19日(金)19:15開場 19:30上映 終映後パフォーマンスLIVE
http://www.uplink.co.jp/event/2014/33728


「ひらのりょう まんがまつり」関連展示
2014年12月3日(水)~12月19日(金)渋谷アップリンク・ギャラリー

「ひらのりょう まんがまつり」に先駆け、作品関連オブジェ、ぬいぐるみ等を展示
10:00~22:00
入場無料
http://www.uplink.co.jp/gallery/2014/33730




初日に10名様をご招待!

「ひらのりょう まんがまつり」2014年12月13日(土)の第一夜 オープニングトーク「はじまりのごあいさつ」に10名様をご招待いたします。

【応募方法】

メールにてご応募ください。

■送付先

webDICE編集部
info@webdice.jp

■件名を「12/13 ひらのりょう」としてください

■本文に下記の項目を明記してください

(1)お名前(フリガナ必須) (2)電話番号 (3)メールアドレス (4)ご職業 (5)性別 (6)応募の理由

■応募締切:2014年12月10日(水)午前10:00

※当選者の方には、2014年12月10日(水)中にメールにてご連絡差し上げます。

▼ひらのりょう『パラダイス』予告編

▼ロロvol.10『朝日を抱きしめてトゥナイト』予告

▼東京カランコロン「恋のマシンガン」ミュージック・ビデオ

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