骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2014-12-09 16:00


まるで海ドラのように面白い?!映画『ゴーン・ガール』は劇場のサウンドシステムで体験する映画

D・フィンチャーが語る裏話、観客に「自分は真実を目撃していて、本当に見事な嘘をつかれた」と思わせたい
まるで海ドラのように面白い?!映画『ゴーン・ガール』は劇場のサウンドシステムで体験する映画
映画『ゴーン・ガール』より ©2014 Twentieth Century Fox

面白い。この映画は何というジャンルだろう、サスペンスでもないし、ミステリーでもないし、若干のネタバレを承知で言うならば、結婚に関するミステリー・サスペンス・ダーク・ブラック・ファンタジー・コメディというのが映画を観終わった時の感想だ。2時間29分のこの映画を観ている間、まだ終らないでいてほしい、この物語展開に浸っていたいという、海外テレビドラマをチェーン・ウオッチングしている感覚に襲われる。

倒錯した表現だが、まるで良質の海外テレビドラマを観ているような映画が本作『ゴーン・ガール』だ。

もちろん、昨今のテレビドラマはフィンチャーを始め映画監督が演出を手がけ、ハリウッド映画のスタッフが参加し、予算も映画以上のものも少なくない。ただ、それらテレビドラマとの接触時間がスクリーンで観る映画より多い人の場合は(自分の事だが)、先ほどの倒錯した海外テレビドラマのような映画という既視感を感じるのだった。

では、その海ドラと映画の違いは何なのか。『ゴーン・ガール』のように現実世界を、SFでもアクションでもなく等身大の世界を描いていくとき、俳優の演技とカメラマンが作る映像にはその差はない。

違いはサウンドトラックにある。本作の音楽は、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーとイギリス出身のミュージシャン、アッティカス・ロス。二人はフィンチャーの『ソーシャル・ネットワーク』『ドラゴン・タトゥーの女』でも音楽を担当。

家庭のテレビやPCでは彼らの音楽を再現出来ない。これは劇場のサウンドシステムで最大の効果が発揮されるように作られている。特にその重低音は本作の映像と同等以上にドラマの演出上重要な要素である。

ただし、これはフィンチャー演出のテレビドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』を映画館で観れば、そのサウンドトラックも実は映画と同等のものかもしれないのだが。

最後に、はじめに述べたように『ゴーン・ガール』は結婚に関するダークな含蓄を含んだ映画である。カップルでご覧になる場合はご注意を、と言っておこう。

(浅井隆)


不条理主義的ユーモアを加える

──特に苦労したシーンや思い入れのあるシーンについて教えて下さい。

思い入れのあるシーンというのはないな。この映画の最も大変だった部分は、演技がちょっとスレスレなところを表しているようにすることだった。このちょっと馬鹿げた状況にいる夫婦・ニックとエイミーが信じられるものになっていないといけなかった。それとまた、風刺の要素もあるし、その中に少し不条理主義的ユーモアもないといけない。つまり、そういった洗練された声の調子を見つけることだった。こういったことに人々が動揺しているのがリアルに感じられ、ジョークを狙いにいっている感じではなく、そこにトゲがあってダークなユーモアが感じられるようにセリフを伝えることだった。だからチャレンジは、そういったことを調節し、ちゃんとみんなが同じようなトーンに向かって進んで行くようすることだったね。

デヴィッド・フィンチャー監督とベン・アフレック photo:Dave Allocca/Starpix
デヴィッド・フィンチャー監督(左)とベン・アフレック(右) photo:Dave Allocca/Starpix

──これは、既婚者、未婚者、男性、女性で異なる捉え方をする作品だと思います。

面白いんだ。この映画をなにも知らない人たちに、フォックスのスタジオで見せたんだ。試写室に、男女平等になるように人を一杯に入れてね。そしたらニックを応援する人とエイミーを応援する人に分かれるんだ。

──でもこの2人の人間を描く上で、なにか参考にしたりした夫婦はいたのでしょうか?

そういうわけじゃないけど、多分、僕が知っている多くの夫婦が参考になっているね。彼らのちょっとした瞬間とか、ちょっとしたやりとりとかだね。その二人が家に夕食を食べに来た時、こんな感じだったとかね。

映画『ゴーン・ガール』より c2014 Twentieth Century Fox
映画『ゴーン・ガール』より ©2014 Twentieth Century Fox

──あなたは撮影中、テイク数が多いことで知られていますね。

今回、ちょっと時間がかかったのは、ミズーリ州のオザーク郡で撮影を始めた時、オザークのシークエンス全体をやっていた時、オザークでのエイミーがどんな感じになるかを見つけるのにちょっと時間がかかった。そこでは多くのテイクを重ねたよ。なぜなら撮影を始めて、最初の数日だったしね。だからそういったものだ。クールな女の子のスピーチの部分とかね。車のシーンの多くの部分、イリノイでのドライビングシーンとか、そういったことにかなり時間を費やした。そういったことを整理しながらやるのにね。でも、全体的にはそんなに大変ではなかった。とても簡単だったよ。

──多くのテイクを重ねるときは、いつもどういったことを探しているのですか?なにが足らないと感じているのですか?

なにかリアルに感じられるものだね。すべての狙いがうまく抽出していて、そこにあるべきものがすべて入っているようにするんだ。そうすれば映画を見直したとき、「こういったヒントはそこにあった。私たちはそのことを教えてもらっていた。私たちは真実を目撃していて、本当に見事な嘘をつかれた」と感じるからね。

──撮影をする前に、そのシーンをどうやってやるか明確なアイディアをお持ちなのですか?

そこで観客に伝えるべき要素についてノートを作るんだ。そこからなにを得る必要があるかといったことについてのね。そして自分が必要なものをちゃんとカバーするために最初の部分の芝居を調整したり、こういったとこを見せるとか、この部分は見せないということを特別に指示したりする。だから流動的なものだ。常に決まったものというわけではないんだ。

映画『ゴーン・ガール』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『ゴーン・ガール』より ©2014 Twentieth Century Fox

──最近あなたが監督した作品はどれも成功していますが、どのように自分の監督作を選ぶのですか?

普通は、自分のところに送られてきたものを見て、「これは面白くなりそうだ」とか、「これはやりたくない。こういったものはすでにやった気がする」とか、「2年もオーストラリアに行きたくない」と言うんだ。時々、日常生活における満足度との釣り合いがそこに関わってくることもある。僕の娘が幼い時は、僕と妻は、作品を彼女に合わせて選んだりした。短い撮影スケジュールのものやロサンゼルスにいられるものをね。でも今は娘も大人になったらから、そういったことはあまりしなくなったけど。

ベン・アフレックはパーフェクトだった

──キャスティングについて教えてください。主演の二人だけでなく、とても素晴らしいキャストでした。

夫のニック・ダンを演じたベン・アフレックはパーフェクトだった。他にその役をやれる人はいるかい?妻のエイミーを演じたロザムンド・パイクの仕事は前から知っていて、とても気に入っていた。それで彼女に会ったら、もっと彼女が好きになったよ。

映画『ゴーン・ガール』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『ゴーン・ガール』より 夫のニック・ダンを演じたベン・アフレック ©2014 Twentieth Century Fox
映画『ゴーン・ガール』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『ゴーン・ガール』より エイミーを演じたロザムンド・パイク ©2014 Twentieth Century Fox

ニックが依頼する弁護士ターナー役のタイラー・ペリーは、前からずっと好きで、彼の持ち味が生かしきれていないと感じていた。それでターナーをトーク番組のホストみたいにするというアイディアをとても気に入ったんだ。

映画『ゴーン・ガール』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『ゴーン・ガール』より 弁護士ターナー役のタイラー・ペリー(左) ©2014 Twentieth Century Fox

エイミーの元同級生・デジー役のニール・パトリック・ハリスのことは、前からずっと素晴らしいと感じていた。でもデジーについては問題があった。僕は彼がどんな人か分からなかった。ああいった人、ああいったキャラクターに、僕は今までの人生で一度も会ったことがなかったから。でも、パトリックが司会をしているトニー賞を見ていて、「もしこの人がトニー賞を、僕に飽きさせずに見させることが出来るのなら、デジーを演じられるかもしれない」と思ったんだ。それで彼に電話して会うことにしたら、彼はものすごく楽しい人でね。

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映画『ゴーン・ガール』より デジー役のニール・パトリック・ハリス ©2014 Twentieth Century Fox

ニックの双子の妹役のキャリー・クーンは、映画に一度も出たことがなかったけど、オーディションに来た彼女が素晴らしかったんだ。エイミーの失踪事件を担当する刑事ボニーを演じたキム・ディケンズのことはいろんなところで見ていたけど、それが同じ人だとまったく分からなかった。それと、ギルピン刑事役のパトリック・フュジットのことは、キャメロン・クロウの『あの頃ペニー・レインと』や、いくつか彼がやった他の作品を見て知っていたけど、オーディションにやって来た彼は、実に見事でね。

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映画『ゴーン・ガール』より ニックの双子の妹役のキャリー・クーン ©2014 Twentieth Century Fox
映画『ゴーン・ガール』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『ゴーン・ガール』より 刑事ボニーを演じたキム・ディケンズ(右)とギルピン刑事役のパトリック・フュジット(左) ©2014 Twentieth Century Fox

ニックとエイミーの隣人、ノエル役のケイシー・ウィルソンもオーディションで選んだ。彼女のテレビでの仕事は知らなかったけど、彼女は本当に可笑しいんだ。

映画『ゴーン・ガール』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『ゴーン・ガール』より ニックとエイミーの隣人、ノエル役のケイシー・ウィルソン ©2014 Twentieth Century Fox via BUZZ FEED ENTERTAINMENT

ケーブル局の番組司会者・エレン・アボット役のミッシー・パイルもそうだ。もちろんミッシーのことは、『ギャラクシー・クエスト』から知っていた。「あれは誰?彼女は最高だ!」って感じでね。僕らはその役で信じられる人を探していたの。それは普通じゃないものだった。「ナンシー・グレース(有名なTVホスト)が必要だ」って言ったら、まったく違うレベルの問題だ。でもミッシーがオーディションにやって来て、ぶっ飛んだ。彼女はとても可笑しいんだけど、とても落ち着いているんだ。

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映画『ゴーン・ガール』より ケーブル局の番組司会者・エレン・アボット役のミッシー・パイル ©2014 Twentieth Century Fox via ENTERTAIN THIS

そして、ケーブル局の番組司会者シャロンを演じたセラ・ウォードもオーディションに来たけど、彼女が5分セリフを読んだら、僕は「素晴らしい!」って言った。彼女は「他になにか見たくありませんか?」って言ったけど、僕は「君は最高だ!一緒にやろう」って感じでね。

映画『ゴーン・ガール』より ©2014 Twentieth Century Fox
映画『ゴーン・ガール』より ケーブル局の番組司会者シャロン・シーバを演じたセラ・ウォード ©2014 Twentieth Century Fox via The Real Chrisparkle
(オフィシャル・インタビューより)



デヴィッド・フィンチャー プロフィール

1962年アメリカ・コロラド州生まれ。10代の頃から8mmビデオカメラを使い映画製作を始め、1980年に18歳でILMに入社。4年間の在籍中に『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』(83)、『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(84)などの製作に参加。1986年に製作会社「Propaganda Films」をマイケル・ ベイ監督らと協同設立し、数々のミュージック・ビデオやテレビCMを製作した。1992年、『エイリアン3』で映画監督デビュー、主な監督作に『セブン』(95)、『ファイト・クラブ』(99)、『パニック・ルーム』(01)、『ゾディアック』(07)、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)、『ソーシャル・ネットワーク』(10)、『ドラゴン・タトゥーの女』(11)などがある。2013年からはケヴィン・スペイシー 主演の政治ドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の製作総指揮と第1話、第2話の監督も務めている。




映画『ゴーン・ガール』
12月12日(金)全国ロードショー

映画『ゴーン・ガール』ポスター ©2014 Twentieth Century Fox

結婚5周年の記念日。誰もが羨むような幸せな結婚生活を送っていたニックとエイミーの夫婦の日常が破綻する。エイミーが突然姿を消したのだ。リビングには争った後があり、キッチンからは大量のエイミーの血痕が発見された。警察は他殺と失踪の両方の可能性を探るが、次第にアリバイが不自然な夫ニックへ疑いの目を向けていく。新妻失踪事件によってミズーリ州の田舎町に全米の注目が集まり、暴走するメディアによってカップルの隠された素性が暴かれ、やがて、事件は思いもよらない展開を見せていく。完璧な妻エイミーにいったい何が起きたのか……。

監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ベン・アフレック、ロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリス、タイラー・ペリー、キム・ディケンズ、パトリック・フュジット、キャリー・クーン、デヴィッド・クレノン
製作:アーノン・ミルチャン、ジョシュア・ドーネン、リース・ウィザースプーン、シーン・チャフィン
製作総指揮:レスリー・ディクソン、ブルーナ・パパンドレア
原作:ギリアン・フリン
撮影:ジェフ・クローネンウェス
美術:ドナルド・グレアム・バート
衣装:トリッシュ・サマービル
編集:カーク・バクスター
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
原題:Gone Girl
配給:20世紀フォックス映画
2014年/アメリカ/149分/R15+
©2014 Twentieth Century Fox

公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/gone-girl/
公式Facebook:https://www.facebook.com/GoneGirlJP
公式Twitter:https://twitter.com/GoneGirlJP


▼映画『ゴーン・ガール』予告編

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