骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2015-02-23 00:00


『アイアンマン』シリーズを降板しインディペンデントで完成させた監督が本当に撮りたかった映画『シェフ』

ジョン・ファヴロー監督が語る「『イージー・ライダー』のようなロード・ムービーを撮りたかった」
『アイアンマン』シリーズを降板しインディペンデントで完成させた監督が本当に撮りたかった映画『シェフ』
映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』より、ジョン・レグイザモ(左)、エムジェイ・アンソニー(中央)、ジョン・ファヴロー(右)

ジョン・ファヴロー監督の映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』が2月28日(土)より公開される。2008年に製作総指揮、監督、出演したマーベル作品『アイアンマン』で世界的大ヒットを記録した彼が、シリーズを降板し、再びインディペンデントの世界に戻り、仕事と家庭双方の岐路に立たされた敏腕シェフを自ら演じている。オーナーと対立し仕事を失った料理長カール・キャスパーが、息子との絆を取り戻すために古びたフードトラックを改装しアメリカ全土を巡り、とびきりのキューバ・サンドイッチで再び人気シェフの座を取り戻すまでのストーリーは、そのまま彼の映画作家としての挟持を表現していると言えるだろう。ダスティン・ホフマン、ロバート・ダウニーJr.、スカーレット・ヨハンソンといった錚々たる面々が脇役を演じていることも話題を呼んでいる今作について語った、ジョン・ファヴロー監督のインタビューを掲載する。

主人公の料理人キャスパーは僕自身だ

── 本作『シェフ』はどのような経緯で作られたのですか?

僕は仕事を始めた90年代、独立系の小作品を作っていた。その後、幸運にも大作でも成功を収めることができたけど、今度はもっと自分のパッションに沿ったストーリーを作りたいと思うようになったんだ。大作ではそんなパーソナルなものは作れるものではない。だからこの脚本を書きながら、自分の思い通りに作る自由を得るには、インディペンデント作品の規模でやらなきゃだめだと気づいたんだ。

映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』ジョン・ファヴロー監督
映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』ジョン・ファヴロー監督

── この脚本を書くインスピレーションはどこから得たのですか?

この主人公のシェフ、カール・キャスパーの感情を理解する観客に訴えたかったんだ。父親であるとはどういうことなのか、クリエイティブな仕事と現実的な諸問題とのバランスをどうとるべきなのか。アルバート・ブルックス(『タクシードライバー』『ドライヴ』)とランチをしたときに、こういうことをしようと思っていると話したら、彼が言ったんだ。「コメディを書けばいいじゃないか!」って。彼の口から出たことで、それがまるで予言のように思えた。彼は僕のヒーローだからね。それでその通りにしたんだ。

映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』より
映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』より、スカーレット・ヨハンソン(右)、ジョン・ファヴロー(左)

── インディーズの世界に戻って楽しかったですか?

楽しかったよ。自分の言いたいことが言えたからね。しばらく独立系の世界から遠ざかっていたので、まず予算をいくらにすればいいのかを調べることから始めた。脚本に口出しされたり、どこで撮影しろとか誰を使えとか言われたり、ファイナルカットを取り上げられたりしないですむ製作費はいくらなのか。そして、その範囲内で作れる脚本を書き、その脚本を見せた人たちが、気に入ってくれた。そういう形で始まったんだ。

── あなたが演じている主人公、料理人カール・キャスパーはどんな人物ですか?

僕が演じているキャラクターは、僕自身が仕事を始めた当時に、もし悪い選択をしていたら今頃なっていたであろう人間の一面を表している。彼は家族よりも仕事を優先し、口を閉じるべきときを知らず、感情に駆られて冷静さを失う。熱い心を持っていて、仕事に打ち込んでいるから魅力的な男でもある。でも映画の冒頭では彼を見ていると、これまでの人生で最善の選択をしてこなかった男なのかもしれないと思えるんだ。

── その後彼に何が起きるのでしょう?

キャスパーは仕事で充実感を得ることができなくなっていくんだ。さらにはソーシャル・メディア上で恥をかいたことから、仕事を失う羽目になる。そこでゼロから再出発しなければならなくなる。そしてそれまで彼が理解できなかった形で家族や仕事と関わっていくことについて、いろいろなことを学ぶ。そうすることできちんとやり直すチャンスを得るんだ。

映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』より
映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』より、エムジェイ・アンソニー(左)、ジョン・ファヴロー(右)

ソーシャル・メディアが夢を壊すこともあるし、
叶えることもある

── 素晴らしいキャストを揃えましたね。

製作費集めに力を貸してもらうために友人たちに出演依頼をする、というような心理的負担は負いたくなかった。だから資金が調達できた時点ではじめて彼らに話したんだ。「この作品が気に入って、楽しい時間を過ごしたいと思ったら参加してくれ」ってね。そうしたら、これ以上は望めないほど最高のキャストが揃った。ジョン・レグイザモ(『サマー・オブ・サム』『ムーラン・ルージュ』)とはずっと以前から一緒に仕事をしたいと思っていた。彼はアドリブがうまい素晴らしい役者だ。

映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』より
映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』、左よりエムジェイ・アンソニー、ジョン・レグイザモ、ジョン・ファヴロー、ソフィア・ベルガラ

── また本作はロードムービー的な構成を持っていますね。

最初は全編をロサンゼルスで撮影しようと考えていたんだが、他のロケ地にも行くことになった。この仕事を始めて間もない頃に、現地で撮影するに限るということを学んだんだ。真実味が大幅に増すからね。この作品に出て来るのは本物の人々や場所だから、見ていると実際に食べ物を味わったような気分になる。なぜなら食べ物というのは非常に体験的なものだし、周りの環境が大きく関係するものだからだ。

観客にもあの車に乗って旅している気分になってほしいと思ったんだ。バイクとカメラだけ用意して南部を走って撮影した『イージー・ライダー』のような映画を作ってみたい、と昔から思っていたんだ。あの映画は何年たっても色あせない。見ていると彼らと一緒にアメリカを横断しているような気になる。そういうものを作りたかったんだ。

映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』より
映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』より、エムジェイ・アンソニー(右)、ジョン・ファヴロー(左)

── シェフやレストランの世界では料理評論家は大きな役割を担っていることが、この映画でも描かれています。

評論家の言葉がもたらす影響の大きさという点では、料理評論家の方が映画評論家よりも重要な立場にある。彼らはインスピレーションに富んだ優れた仕事を称賛すると同時に偽善を暴く。情熱を抱いたシェフと、悪意をもった料理評論家、そして高圧的なオーナーというのが料理を扱った映画の典型的構造だが、僕はその構造をいじくりまわして、評論家がシェフの成長を促す最大の要因になるようにしたんだ。

── 『シェフ』では、ソーシャル・メディアも大きく関わってきます。

ソーシャル・メディアは大きな力を持っているし、この先ずっと存在し続けるものだ。この映画では、ソーシャル・メディアが夢を壊すこともあるし、夢を叶えることもあることを見せている。デジタル時代に生まれた世代である主人公キャスパーの息子パーシーは、父親よりもソーシャル・メディアのことをよくわかっている。シェフのように、自分が有名になるとは思いもしないで職に就き、またソーシャル・メディアが何たるかを理解もしていない人たちがいる。だからキャスパーのように、ツイッター上で思っていることをそのまま吐露してしまうと、キャリアを失うことにもなり得る。

一方で、フードトラックのように、もっと小規模でお客さんと直接つながるような商売では、同じようにツイッターを利用することで、以前には不可能だったような方法で顧客層を生み出すことができる。というわけで、ソーシャル・メディアは、従来のシェフとしてのキャスパーのキャリアを打ち砕くと同時に、新しい扉を開いてもくれるんだ。

(オフィシャル・インタビューより)



ジョン・ファヴロー(Jon Favreau) プロフィール

1966年、アメリカニューヨーク生まれ。ニューヨーク市立大学で学んだ後、スタンダップコメディアンを目指しシカゴへ移る。1993年『ルディ/涙のウイニング・ラン』で映画俳優デビュー。ダグ・リーマン監督の独立系コメディ作品『スウィンガーズ』(1996)で脚本に挑戦、出演もした。『ベリー・バッド・ウェディング』(1998)『ディープ・インパクト』(1998)『リプレイスメント』(2000)などに俳優として出演した後、主演・脚本・製作を兼務した『Made』(2001)で監督としてもデビュー。『エルフ~サンタの国からやってきた』(2003)『ザスーラ』(2005)の監督を経て、2008年、製作総指揮、監督、出演したロバート・ダウニーJr、グイネス・パルトロウ主演のマーベル作品『アイアンマン』を大ヒットさせた。2013年の『アイアンマン3』では製作と出演に留まり、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』で『Made』以来の監督・製作・脚本・出演を独立系作品で果した。




映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』
2月28日(土)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

ロサンゼルスにある一流レストランの<総料理長>カール・キャスパーは、メニューにあれこれと口出しするオーナーと対立し、突然店を辞めてしまう。次の仕事を探さなければならない時にマイアミに行った彼は、絶品のキューバサンドイッチと出逢う。その美味しさで人々に喜んでもらう為に、移動販売を始めることに。譲り受けたボロボロのフードトラックを改装し、マイアミ~ニュー・オリンズ~オースティン~ロサンゼルスまで究極のキューバサンドイッチを作り、売る旅がスタートした―。

製作・監督・脚本・主演:ジョン・ファヴロー
出演:ダスティン・ホフマン、ロバート・ダウニーJr.、スカーレット・ヨハンソン、ソフィア・ベルガラ、ジョン・レグイザモ、エムジェイ・アンソニー
撮影:クレイマー・モーゲンソー
編集:ロバート・レイトン
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテイメント
2014年/アメリカ/Open Road Films/115分

公式サイト:http://chef-movie.jp/
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▼映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』予告編

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