骰子の眼

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東京都 渋谷区

2015-02-28 17:47


カラシニコフをギターに持ち替え自由のために闘うバンド、トゥーマストを知るための8曲

映画『トゥーマスト』公開記念、石田昌隆さんと松山晋也さんが語る「抵抗運動と音楽」
カラシニコフをギターに持ち替え自由のために闘うバンド、トゥーマストを知るための8曲
映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より

サハラ砂漠の遊牧民・トゥアレグ族のバンド「トゥーマスト」を描くドキュメンタリー映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』が2015年2月28日(土)から渋谷アップリンクにてロードショー。公開に先駆けて、写真家の石田昌隆さん、音楽評論家の松山晋也さんによる「抵抗運動と音楽」をテーマにしたトークイベントが行われた。

今作が制作された後も、2011年にリビアが崩壊し、アルカイダ系の武装勢力のマリ北部から中部へ進出、そしてフランスの軍事介入もあり、マリ北部で独立を求めるトゥアレグ族を巡る問題は続いている。

今回は、現在も自由のために音楽で闘うトゥーマストとトゥアレグ族をさらに知るための楽曲、そして、世界各地の抵抗運動にまつわる楽曲を、おふたりのコメントとともに紹介する。

石田昌隆さん(右)、松山晋也さん(左)
映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』先行上映イベントに登壇した石田昌隆さん(右)、松山晋也さん(左)



【1】ヴォイセズ・ユナイテッド・フォー・マリ
Voices United for Mali
「Mali-ko (Peace _ La Paix)」


■マリの黒人とトゥアレグ族の複雑な関係を象徴する楽曲


石田昌隆(以下、石田):2013年、アマドゥ・エ・マリアムやバセク・クヤーテなど、マリの錚々たるミュージシャンが「ウィ・アー・ザ・ワールド」的に集まり、マリの平和を願い発表した曲です。

歌詞の内容は「マリはひとつ」と愛国的ですが、一方で「マリは分割されない」と、アルカイダ系の武装勢力だけでなく、マリ北部で独立運動を続けているトゥアレグ族に対しても暗に反対している、残念な歌なんです。

マリの大多数を占める黒人の住民たちはフランスによる軍事介入を歓迎していましたが、トゥアレグ族の人たちは、フランスの軍事介入によって勢いづくマリ政府軍からさらなる弾圧を加えられるのではないかと危惧しました。しかし介入後、マリ北部を制圧していたイスラム武装勢力が敗走したので、トゥアレグも、どちらかといえばフランスの軍事介入を歓迎する立場になったのです。トゥアレグはベルベル系の遊牧民で、アラブとサブサハラの黒人に挟まれて両側から弾圧されています。




【2】ニザメッティン・アリチ
Nizamettin Aric
「Ay Dil」


■トゥアレグと同じ国を持たない民族クルドの抵抗運動


松山晋也(以下、松山):トゥアレグとクルドは国を持たない民族、という共通点があります。クルドは、トルコの東南部からシリア、イラク、イランにまたがっている民族で、特にトルコとの闘いは長く続いています。

私は1990年にトルコ東南部のクルド人が多く住んでいる地域を旅しましたが、それらの町で聴き親しまれている音楽の大半は、クルド音楽でした。

ニザメッティン・アリチはクルドの抵抗運動の象徴的なシンガー・ソングライターです。トルコは国策として、クルドの民族・文化を認めないという厳しい政策がありましたが、70年代末期に彼が初めてクルド語で歌ったんです。逮捕されて80年代前半にベルリンに政治亡命して、現在も活動しています。




【3】マリエム・ハッサン
Mariem Hassan
「Gdeim Izik」


■トゥーマストのルーツ・ポリサリオ戦線のアーティスト

石田:映画のなかでトゥーマストのムーサによる「私たちの音楽はポリサリオ戦線とアリ・ファルカ・トゥーレ、そしてトゥアレグの伝統音楽との中間だ」という言葉があります。ポリサリオ戦線というのはモロッコと対立する西サハラの解放組織で、マリエム・ハッサンは、このポリサリオ戦線の側で祖国独立のために音楽活動を続けている人。これは亡命先のスペインで演奏しているところです。

モロッコと西サハラはイスラエルとパレスチナの関係に似ていて、モロッコは西サハラを占領しています。国連は西サハラを国として認めていませんが、AU(アフリカ連合)は西サハラを国として認めています。モロッコはそれに抗議してAUを脱退しました。南スーダンが独立してから、国連に加盟しているアフリカの国も、AUに加盟しているアフリカの国も54ヵ国になりました。しかし、モロッコと西サハラはどちらもアフリカの国だとカウントすれば、アフリカは55ヵ国です




【4】インタイアデン・アグ・アブリル
Intiyaden ag Ablil
「"Iswegh" Attay」


■「砂漠のブルース」の原点となるミュージシャン

石田:ワールドミュージックとして売りだされていない素朴さがありますね。

松山:70年代末期ぐらいから、カダフィ政権がトゥアレグのさまよえる若者たちを軍事訓練のためにリビアに集めました。トゥーマストやティナリウェンのメンバーたちは、そのキャンプで情報交換していくなかで世界の音楽を音楽を知り、ギターも本格的に始めた。

このIntiyaden ag Ablil(インタイアデン・アグ・アブリル)は、マリのアリ・ファルカ・トゥーレと並んで、現在「砂漠のブルース」と呼ばれているティナリウェン、トゥーマストそしてボンビーノといったアーティスト音楽の大元になった人で、トゥアレグとして初めてエレキ・ギターで伝統音楽を弾いて有名になった人なんだそうです。

70年代から活動していて、大量にリリースしたカセットがトゥアレグの若者たちの間で流行り、トゥアレグのなかで彼の音楽を聴いていない人はひとりもいない、とボンビーノのメンバーは言っていました。ティナリウェンも2011年のアルバム『Tassili』でカバーしています。




【5】ヤスミン・ハムダン
Yasmine Hamdan
「Beirut」


■トゥーマストと同じく歴史に翻弄されたレバノンのシンガー

石田:ムーサが映画のなかで「カダフィの元で軍事訓練を受けていた当時、兵士としてレバノンへ派遣されることになり、それがいやで除隊を願い出た」と、イスラエルと闘う大義が見いだせなかったと語っていましたが、ヤスミン・ハムダンは、レバノンのベイルート出身で、僕がいまとても気に入っているアーティストです。歴史に翻弄されている人で、1982年のイスラエルによる空爆を体験し、逃れたクウェートでサダム・フセインによる侵攻に遭遇しています。昨年来日した際にインタビューしましたが、とても政治的な人でした。




【6】アマジーグ・カテブ
Amazigh Kateb
「Afriqua」


■ベルベル系、反グローバリズムを掲げ活動

松山:アマジーグ・カテブは、トゥアレグとは系統が異なりますが、北アフリカのベルベル系の人で、アルジェリア出身です。フランスのグルノーブルを拠点にマヌ・チャオやその父ラモン・チャオといった人たちと連携して活動していて、グナワ・ディフュージョンというバンドのリーダーでもあります。この曲は、モロッコの伝統音楽グナワで使うゲンブリという3弦の土俗的なベースを独奏しています。

彼は子どものときにアルジェリアからフランスに移りました。直接的にベルベル人として対アルジェリアや対フランスを歌うわけではなく、反グローバリズム、そしてアナルコ・コミュニズム(無政府共産主義)が信条であると、インタビューのときに語っていました。




【7】ビクトル・ハラ
Victor Jara
「Manifiesto」


【8】ジンタらムータ+リクルマイ
「不屈の民」


■チリで音楽を通し抵抗と革命を実践

松山:「抵抗と音楽」といえばビクトル・ハラとを思い浮かべる人は多いでしょう。フォルクローレ好き以外にも、80年代にロバート・ワイアットがカバーしロック・ファンにも知られるようになりました。「平和に生きる権利」その他、ハラのヒット曲は世界中でたくさんの音楽家たちにカバーされてきました。

また、彼が1970年前後に一緒に活動していたヌエバ・カンシォン系のフォーク・グループ、キラパジュンの「不屈の民」は、日本でもジンタらムータ+リクルマイのほか、A-MusikやSOUL FLOWER UNIONの中川敬などがカバーしています。

この「Manifiesto」は1973年の楽曲で、この曲を発表した1ヶ月後にチリの軍事政権に捕まって虐殺されてしまいます。

60年代から音楽活動を始め、常に貧しい人たちの立場に立った歌を歌い、演劇活動も行いました。世界で初めて、民主選挙による社会主義政権となったアジェンデ政権の樹立に彼も関わり、応援していました。その後、アメリカのCIAの謀略によるピノチェトの軍事クーデターによってアジェンデ政権は倒されてしまい、ハラを含め多くのチリ国民が虐殺されました。

70年代のヨーロッパにはチリ人の音楽家や演劇家が多いですが、それも、ピノチェトの軍事独裁政権を嫌って大量の国民が海外に逃げたためです。

石田:トゥアレグたちもマリ北部をアルカイダ系の武装勢力が制圧したときに、20万人規模の難民となったそうです。

(2015年2月25日、渋谷アップリンク・ファクトリーにて)



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映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』
2015年2月28日(土)より、渋谷アップリンクにて公開

映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』より

監督:ドミニク・マルゴー
出演:トゥーマスト
スイス/2010年/英語/カラー/88分
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト

▼映画『トゥーマスト ~ギターとカラシニコフの狭間で~』予告編

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