骰子の眼

cinema

2015-03-06 17:45


アカデミー受賞、カンバーバッチが暗号エニグマ解読に挑む『イミテーション・ゲーム』

実在の天才数学者アラン・チューリングの知られざる数奇な人生
アカデミー受賞、カンバーバッチが暗号エニグマ解読に挑む『イミテーション・ゲーム』
(C) 2014 BBP IMITATION, LLC

ゴールデングローブ賞脚本賞、英国アカデミー賞脚色賞ノミネート。アカデミー賞では脚色賞を受賞した映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』が2015年3月13日(金)公開する。

主演のベネディクト・カンバーバッチが演じるのは、実在の天才数学者アラン・チューリング。第二次世界大戦時に、解読不可能と絶望視されていたドイツ軍の暗号エニグマに挑んだ男である。戦争終結とコンピューター発明に貢献した人物でありながら、その生涯は重大機密として英国政府に隠され続けてきた。

1939年、英国がヒトラー率いるドイツに宣戦布告、第二次世界大戦が幕を開ける。ドイツ軍が世界に誇る暗号機エニグマのパターン数は10人の人間が、1日24時間働き続けても、全組合せを調べ終わるまでに2000万年かかるというものであった。27歳のチューリングは政府のエニグマ解読という機密作戦に参加。英国の頭脳をあつめたチームとチューリングはぶつかりながらも、この難攻不落の暗号を解読することに成功する。しかし、彼が心の奥深くに隠し続けた秘密と疑惑が幾重にも積み重なり、その人生は思わぬ方向へと突き進んでいく。

webDICEでは、モルテン・ティルドゥム監督のインタビューを掲載する。




モルテン・ティルドゥム監督インタビュー
「この映画は様々な要素を含んでいる。戦争の話であり、スパイスリラーであり、二つのラブストーリーと人権問題が入っている」

映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』
モルテン・ティルドゥム監督


──映画祭での「イミテーション・ゲーム」への反応は?

ずっと小さな泡の中にいたようなものだ。情熱のいるプロジェクトだったし、小さな作品だからね。自分たちの小さな世界で作っていた作品を、突然世界中に送り出すことになったんだ。テルライドは素晴らしかった。映画製作者として数々の映画祭に参加してきたけれど、こんなに観客と近くにいたのは初めてだ。小さな村に映画好きが集まっている。当初は3回上映だったのに、この作品をみんなが見たがって、結局6回上映された。私たちがレストランに入ると、お客さんが総立ちで拍手喝采してくれたこともあり、本当に素晴らしかったよ。マスコミや業界人だけじゃなくて、「映画人」に会ってきたんだ。

映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』


──初めてアラン・チューリングを知ったのはいつですか?

私は全く知らなかったと言ってもいい。アクションスリラーを1本撮った後、ハリウッドに来たんだ。アクションスリラーやスーパーヒーローものの脚本ばかり読んでいたところ、「この美しい小品を読むべきだ」と声がかかったんだ。脚本を読んで衝撃を受けたよ。チューリングのことは全く知らなかったのに、すっかり心を奪われてしまった。

──本当に実話かと考えたことは?

もちろんある。全てを知る必要があると考え、リサーチを始めたよ。この作品に巡り合えたのは、映画製作者としては夢のようなことだ。「これを作れないなら死んだ方がましだ」とね。この作品を作り、物語を伝えることは、出会った者の使命となる。脚本も素晴らしかった。私たちは座って2分ほど話しただけでうまくいくと確信したんだ。

映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』


──すぐ決めたんですか?

僕は伝記映画は好きじゃない。だから「伝記は作りたくないぞ」と言ったんだ。いくつもの面がある映画を作りたかった。この映画は様々な要素を含んでいる。戦争の話であり、スパイスリラーであり、二つのラブストーリーと人権問題が入っている。これらの要素をいかにして自然につなげていくか話し合いを重ねた。私にとって映画はミステリーであり、観客は謎を解きながら話を追っていく。チューリングはパズルに夢中だったので、映画自体をパズルのようにしたかったんだ。

映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』


──この物語に光があたるまで、なぜこんなに時間がかかったのでしょう。

機密情報の歴史の中でも最高の秘密だからだ。何十年にもわたってこれだけ多くの人々に知らされていないのは希有だ。特に現在ではどんな秘密も数分と隠せないからね。裁判にかけられた時でさえ、アラン・チューリングは一言も話さなかった。彼は尊厳を保ち、黙ってそこに立っていた。アランは恐れていなかった。彼は言い訳をすることもなく立ち向かい、「自分は無罪だ」と言い続けた。「知らないのか、私は戦時の英雄だ」などとは言わなかった。エニグマを解読したことは何十年間も機密事項だった。彼らは連合国にエニグマを渡し、「これは解読不能な暗号機だ」と言ったんだ。実際は解読していて、通信を傍受していた。秘密にしておくことが非常に重要だったんだ。

映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』


──ブレッチリーで撮影することはどれぐらい重要だったのですか?

シャーボーンでの撮影も含めて、とても重要だった。チャペルに向かって歩くと、クリストファー・モルコムの記念碑があり、実際にあった話なのだという思いをみんなが抱いた。実際に足を運び、チューリングにとって大切な場所だった廊下などに立ってみると特別な気持ちになったよ。チューリングは生涯、クリストファーの母親に手紙を書き続けていたんだ。

映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』


──早い段階からベネディクト・カンバーバッチの起用を考えていた?

打診したのは彼が最初で最後だった。キーラと座ってコーヒーを飲みながら、「彼以外に考えられない」と考えていた。マシュー・グードにはベネディクトから依頼してもらったが、彼についてもそう考えていた。全員が賛成してくれ、イギリスのトップレベルの役者がそろったんだ。イギリスの役者は極めてプロフェッショナルだし、威厳もある。小さな役であっても真面目に取り組んでくれる。マーク・ストロングも、大きな出番はないもののしっかりと演じてくれた。予算が少なかったので、ギャラも多くは払えなかったけど、みんなが参加することを望んでくれた。製作者冥利に尽きるね。完成までずっとそんな調子だった。

編集の段階で音楽がなかったので、作曲家を探すことになった。アレクサンドル・デスプラの音楽は素晴らしいが、スケジュールが過密だった。でも彼は「この作品のために曲を作りたい」と言ってくれたんだ。他の仕事を休んで作曲してくれた。みんなが参加してくれた。いつも一緒に仕事をしている製作会社同様、気に入った俳優を選んだ。低予算だったけど、誰もが「ベストを尽くす」と言ってくれた。ちょっと表現は甘ったるいけれど、まるで家族のようになった。ヘトヘトになりながら、撮影は8週間で終えた。睡眠不足で誰もがおかしくなりそうだったけど、アラン・チューリングのためにみんながベストを尽くしてくれたおかげで、またとない経験ができた。

映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』



モルテン・ティルドゥム Morten Tyldum

1967年生まれ。ノルウェイ出身。 03年、アマンダ賞作品賞をはじめ、ノルウェー国際映画祭、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭、ワルシャワ国際映画祭で観客賞に輝いたコメディ映画『Buddy』(03)で監督としてのキャリアをスタート。08年には、TV映画『私立探偵ヴァルグ2 第2話「堕天使」』でアマンダ賞監督賞にノミネートされ、11年の『ヘッドハンター』ではノルウェー映画史上最大のヒットを記録、12年には英国で公開された外国語映画の最高収益を叩き出した。また同作は興行的大ヒットに加えて、BAFTA外国語映画賞にノミネートされ、エンパイア賞スリラー賞とスチュアート賞ベスト・インターナショナル・フィルムに輝いた。今後の待機作としては、ワーナー・ブラザーズ製作の『Ghostman』、ユニバーサル製作の『The Disciple Program』などが進展中。




映画『イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密』
2015年3月13日(金)公開

出演:ベネディクト・カンバーバッチ、キーラ・ナイトレイ、マシュー・グード、マーク・ストロング
監督:モルテン・ティルドゥム
脚本:グラハム・ムーア
サウンドトラック:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
配給:ギャガ
(C) 2014 BBP IMITATION, LLC
The Imitation Game/2014年/米英合作/115分/シネスコ/5.1chデジタル/カラー
公式サイト


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