骰子の眼

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2015-04-08 08:03


あの強烈なテンションの秘密!『Mommy/マミー』グザヴィエ・ドラン流演出法を明かす

カンヌ審査員特別賞受賞、1:1のアスペクト比で描くあるクレイジーな家族の肖像
あの強烈なテンションの秘密!『Mommy/マミー』グザヴィエ・ドラン流演出法を明かす
映画『Mommy/マミー』のグザヴィエ・ドラン監督(左)とアンヌ・ドルヴァル(右) Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

『わたしはロランス』『トム・アット・ザ・ファーム』のグザヴィエ・ドラン監督の新作『Mommy/マミー』が4月25日(土)より公開される。監督5作目となる今作は、気の強いシングルマザーのダイアンと、ADHD(多動性障害)のため矯正施設から退所したばかりの15歳の息子スティーヴ、そしてふたりの家の隣人で、心に傷を負いながらもふたりに親身に接するカイラが主人公。強烈なテンションでしゃべり続け、お互いを求め合いながらも傷つけあう母子の関係がカイラとの交流を経て変化していく様を、アンヌ・ドルヴァル、スザンヌ・クレマン、アントワン=オリヴィエ・ピロンというこれまでドラン作品に出演してきた俳優を迎え、1:1のアスペクト比の画面と、オアシスやラナ・デル・レイらの音楽を散りばめ描いている。

主演作『エレファント・ソング』が6月6日(土)からの公開を控えるなど、俳優としても活躍を続けるグザヴィエ・ドラン。今回は、第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門でジャン=リュック・ゴダール監督と共に審査員特別賞を受賞した『Mommy/マミー』について語ったインタビューを掲載する。

母親と息子、ふたりのティーンエイジャーの物語

──『Mommy/マミー』はとてもユニークな構成になっていますね。冒頭では、母親が息子を守るという展開なのですが、実際には息子が母親を守るという展開に変化します。その点は、ご自身なりの独自の表現手段ですか?

この物語は、大人と子供の話じゃなくて、実はふたりのティーンエイジャーのぶつかり合いの話なんじゃないかな?母親のダイアンは明らかに子育てには向いてない。見た目は立派な大人だけど、この母親は内面はまるでティーンエイジャーだろう?生活のために仕事はもっているけど、基本的に無責任だし、母親としての意義も見いだせてない、そして母親としてのスキルも道具も持ち合わせてないんだ。

映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
映画『Mommy/マミー』より、母ダイアン役のアンヌ・ドルヴァル Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

一方で息子のスティーヴは、母親を守るという理想を持っている。母親の面倒を見るのは自分だという自覚があるんだ。やり方はとても衝動的だし、いちいちぶつかるし、暴力的だけどね。一体だれが世帯主なのか?まるでわからない関係性だよね。ダイアンが母親として息子をケアするときもあるし、スティーヴが息子として母親をケアすることもあって、この親子はいつも対等な関係性なんだ。だから、隣に住むカイラはふたりのライバルになりうるんだよ。同時にふたりにとって救世主にもなっている。あの家庭の中では、カイラが唯一「まともな存在」なんだ。ルールを作らなければいけないのはカイラだけど、彼女自身は、この家族のクレイジーな状況に多少なりとも刺激を受けるんだ。自分がしっかりしないといけないと自覚する役割さ。

映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
映画『Mommy/マミー』より、スティーヴ役のアントワン=オリヴィエ・ピロン Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
映画『Mommy/マミー』より、ダイアンとスティーヴの家の隣人カイラ役のスザンヌ・クレマン Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

──あなたの映画は、いつもジャンルを超えた表現が多いように思います。例えばメロドラマ、コメディいろんな要素が入っていますね?ときにはソープオペラのような表現も取り入れています。脚本はどのようなプロセスで書くのですか?

最終的にスクリーンに表現したものは、すでに脚本に書かれていることが多い。ただ、最初のプランに固執することはせずに、撮影中とか、プロダクションが進んで行くにつれて、自分の身の回りをとりまく状況にフレキシブルに呼応していくのが僕のスタイルだ。もちろんほとんどは、あらかじめ脚本に書いてあることだよ。ただ撮影中は、セットを眺め、俳優たちと会話し、ロケーションを歩きながら、いろんなものを取り入れて行く姿勢はもっていたいね。オリジナルのアイデアを守ることも大事だけど、映画制作の過程でいちばん大事にしていることは、結果的に最後になにを取捨選択するか?という点につきる。

映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

ソープオペラのような表現?まぁ、ありがとうと言っておくよ(笑)、ジャンルを超えた表現をする理由は、そうだな、現代の映画を作る場合、誰かの人生を描くとき、その人たちの人生そのものは、いろんなジャンルから成っているんだよね。人生はメロドラマで出来てるし、人生はユーモアでできてるし、人生はコメディでできてるし、人生は皮肉でできてるんだ。それに人生には、とても安っぽい昼メロのような瞬間もある。それらすべてを、人間の目のプリズムを通してみつめれば、様々なジャンルが見えてくる。あくまでも僕の映画の見方だけどね。それに映画ってサプライズがすべてだろ?

映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

キャラクターたちの内面にぐっと近寄りたい

──あなたの作品はどれも予想を超えてきますね。次のシーケンスで何が起こるか想像がつかないことが多々あります。例えば俳優を演出する際に、ドラン流のメソッドはあるのでしょうか?

スザンヌ・クレマンやアンヌ・ドルヴァルといったすばらしい役者たちは、とにかくクリエイティヴな人たちだから、くどくど説明しなくても、脚本のページに書いてあることを自分なりに咀嚼して、すぐにその雰囲気の中に入り込めるんだ。それこそが役者のもつ「勘」だよね。スザンヌとアンヌは、決して同じタイプの女優じゃないけど、ふたりがセットにいるだけで、その場がすばらしい緊張感に包まれるんだ。最高な役者だよ。僕が監督して演出するときは、撮影中にたくさん俳優たちとおしゃべりをする。話して、話して、話して、話して……(笑)、テイクの間にとにかくずっと喋ってる。たぶん、「あぁ、うっというしい。もういいから黙ってくれない?」って思われてるはずさ。でもそれは止められないんだ。

映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

たとえば撮影中になにかが目に飛び込んでくる。そうすると、ちょっと撮影を止めて、このシーンにマジックを入れようって思うんだ。どう編集するか?は僕がいちばんよく判ってやってる。撮影中にモニターを見てるでしょ?役者は演技の最中さ。で、僕がそのモニターの中に、なんでもいいけど、気になるものをみつけるとする。「ちょっとあの枝を触ってみて」とか、「ちょっと顎に手を当ててみて」とか、「窓ぎわに立ってみて」、「目をくるくるさせてみて」、「首を掻いてみて」、って、いろいろ要求が出てくるんだ。「こう言ってみて」、「ああ言ってみて」、あーだ、こーだといろいろね。だってセットでは、ぼくらはみんな一緒にダンスをして歌をうたっているようなものだろ?監督も含めて、セットではすべてのテイクでみんなが同時に演技しているんだよ。

──役者はみんな家族みたいなものですね?

ああ、もちろん。家族同然さ。(シスター・スレッジの「We Are Family」をおちゃらけて歌うドラン)

映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

──かつてスタンリー・キューブリックは、4:3こそが映画の理想的かつ完璧な画角だと言ってました。なぜ今回あなたは1:1を選んだのですか?

僕がイメージしているのは、ポートレイトの絵画なんだ。すばらしい肖像画って、だいたい人物が正方形に収まってるでしょ?今回僕は、「家族の肖像」を描きたかった。特に人間の不可欠な部分を強調したかったんだ。『Mommy/マミー』に出てくる登場人物たちに不可欠な要素をね。1:1の比率を使うことで、その画面に映ってる人物に強く焦点があたる。そうすると観客は画面の中の真ん中にある、登場人物の目をみるようになるんだよ。僕はその切り取り方がすごく気に入ってるんだ。特に『Mommy/マミー』では、キャラクターたちの内面にぐっと近寄りたい、そのためには、画面の真ん中にあるものに、焦点をあてるべき。そう思ってこの比率を好んで使ったのさ。自分の好奇心を満たすためにやったわけじゃない。

映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.>
映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

──最後に、あなたは日本では新時代の象徴として人気があります。日本のファンへなにかひとこと。

ほんとに?ぜんぜん信じられないな。驚きだね。これこそが映画の力だね。世界中を自分の映画が駆け巡るだなんて、そして日本のファンが僕の映画からなにかを受け取ってくれたり、称賛してくれたりするだなんて、まさに映画のマジックだ。家族や友達だけじゃなくて、もっと広く社会全体で共感してもらえたら嬉しいよ。

(2014年度カンヌ国際映画祭にて オフィシャル・インタビューより)
▼映画『Mommy/マミー』予告編




グザヴィエ・ドラン(Xavier Dolan) プロフィール

1989年、カナダのケベック州モントリオール出身。4歳で俳優としてキャリアをスタートさせ、以降数多くのテレビドラマや映画に出演し、また声優として吹き替えの仕事も行った。2009年、自らが脚本・監督・主演を務めた長編デビュー作『マイ・マザー』を製作。カンヌ国際映画祭監督週間の上映作品に選ばれたほか、世界各地の国際映画祭で名誉ある賞を多数受賞している。『マイ・マザー』はまた、第82回アカデミー賞外国語映画賞のカナダ代表に選出された。監督第2作目の『胸騒ぎの恋人』は、2010年の第63回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門でプレミア上映され、シドニー映画祭の公式コンペティション部門で大賞を受賞した。第3作目の『わたしはロランス』は2012年の第65回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に選ばれ、スザンヌ・クレマンが優秀女優賞を受賞。続く第4作目となる『トム・アット・ザ・ファーム』で、2013年の第70回ベネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。第5作目となる『Mommy/マミー』は、第67回カンヌ国際映画祭コンペティション部門において、ジャン=リュック・ゴダール監督『さらば、愛の言葉よ』と共に審査員特別賞を受賞した。ドランは俳優として本作以外にもパスカル・ロジェ監督の『マーターズ』(07)、ジェイコブ・ティアニー監督の『Good Neighbours』(10)、ダニエル・グルー監督(別名:Podz)の『Miraculum』(13)などに出演している。現在は、長編第6作目となる『The Death and Life of John F. Donovan』の脚本を書き終え製作準備中。




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映画『Mommy/マミー』
4月25日(土)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、109シネマズ二子玉川、センチュリーシネマ、シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、京都シネマ、シネツイン ほかにて全国順次公開

映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.
映画『Mommy/マミー』より Photo credit : Shayne Laverdière / © 2014 une filiale de Metafilms inc.

2015年、架空のカナダで起こった、現実──。とある世界のカナダでは、2015年の連邦選挙で新政権が成立。2ヶ月後、内閣はS18法案を可決する。公共医療政策の改正が目的である。中でも特に議論を呼んだのは、S-14法案だった。発達障がい児の親が、経済的困窮や、身体的、精神的な危機に陥った場合は、法的手続きを経ずに養育を放棄し、施設に入院させる権利を保障したスキャンダラスな法律である。ADHD(多動性障害)の息子・スティーヴを持つダイアン・デュプレの運命は、この法律により、大きく左右されることになる。

監督:グザヴィエ・ドラン
出演:アンヌ・ドルヴァル、スザンヌ・クレマン、アントワン=オリヴィエ・ピロン
プロデュース:ナンシー・グラン、グザヴィエ・ドラン
撮影:アンドレ・ターピン
脚本:グザヴィエ・ドラン
編集:グザヴィエ・ドラン
美術:コロンブ・ラビ
衣装:グザヴィエ・ドラン
配給:ピクチャーズデプト
提供:鈍牛倶楽部、巖本金属
後援:カナダ大使館
特別協力:ケベック州政府在日事務所
2014年/カナダ/フランス語/日本語字幕/138分/DCP/カラー/ドルビーデジタル/1:1
© 2014 une filiale de Metafilms inc.

公式サイト:http://mommy-xdolan.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/XDolan5th
公式Twitter:https://twitter.com/XDolanJP





映画『エレファント・ソング』
6月6日(土)より、新宿武蔵野館、渋谷アップリンクほかにて全国順次公開

映画『エレファント・ソング』より ©Sebastien Raymond
映画『エレファント・ソング』より ©Sebastien Raymond

マイケルは美しい青年だった。14歳のときオペラ歌手である母が目の前で自殺し、その後、現在に至るまで精神病院に入院している。彼は病院で一番の問題児とされており、ゾウにまつわるあらゆることに異常なまでの執着を示していた。ある日、彼の担当医であるローレンスが失踪した。手がかりを知るのはマイケルだけ。マイケルのことをよく知る看護師長のピーターソンは「マイケルは茶化すだけで真実を話さない」と助言するが、院長のグリーンは彼に事情を聞くことを試みる。すると、話をする代わりに、と彼は3つの条件を提示した。

監督:シャルル・ビナメ
出演:グザヴィエ・ドラン、ブルース・グリーンウッド、キャサリン・キーナー、キャリー=アン・モス、ガイ・ネイドン、コルム・フィオールドン、ほか
脚本:ニコラス・ビヨン
撮影:ピエール・ギル
編集:ドミニク・フォルタン
配給:アップリンク
2014年/カナダ/100分/シネマ・スコープ/DCP

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/elephantsong/
公式Facebook:https://www.facebook.com/elephantsong.jp
公式Twitter:https://twitter.com/elephantsong_JP


▼映画『エレファント・ソング』予告編

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