骰子の眼

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東京都 渋谷区

2015-05-01 19:44


「私たちはすでに遺伝子組み換え食品を大量に食べている」白井和宏さんが語る日本の現状

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』渋谷アップリンクほか公開中
「私たちはすでに遺伝子組み換え食品を大量に食べている」白井和宏さんが語る日本の現状
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

モンサント社などの企業が生産する遺伝子組み換え食品が、どれほど市民生活のなかに浸透しているのか?アメリカのジェレミー・セイファート監督が描いたドキュメンタリー映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』が公開中。4月26日、渋谷アップリンクでの上映にあたって、『遺伝子組み換え食品の真実』や『シティ・ファーマー』(白水社)を翻訳した白井和宏さん(市民セクター政策機構・専務理事)が登壇。今作で描かれるアメリカでの遺伝子組み換え食品を巡る状況と、日本における遺伝子組み換え食品の蔓延について語った。

日本における「遺伝子組み換え食品表示制度」の抜け穴

アメリカで遺伝子組み換え作物の栽培が始まったのが1996年ですが、それ以来、約20年近く、私はこの問題に関わってきました。アメリカにも何度も行きましたが、この映画の冒頭で登場する人々と同様に、私が会った人たちも遺伝子組み換え食品の問題にほとんど無関心なことに驚いたものでした。

しかし今回、この映画を観て改めて思ったのは、今では遺伝子組み換え食品について無関心なのは、むしろ日本人の方だという点です。後述しますが、例えば、現在、アメリカでは約29の州議会で、遺伝子組み換え食品の表示を義務化させようという法案が議論されています。

ところが日本にはそうした情報さえ伝わっていない。アメリカ人より日本人の方が遺伝子組み換えについて無関心だ、というのがこの映画を観た最大の感想です。

白井和宏さん
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』のトークイベントに登壇した白井和宏さん。

確かにこれまでアメリカでは、遺伝子組み換え食品の表示は義務化されていませんでした。最近ではウォルマートなど一部の大手スーパーマーケットでも、消費者の要望を受けて、自主的に表示をする店舗が増えてきていますが、法律上は表示の義務はありません。

それに比べれば日本は一応、表示が義務化されているので、日本の多くの人々は、食品の包材を見れば、遺伝子組み換え原料が含まれているかどうか分かると、信じ込んでいます。

しかしぜひ一度、自分自身で確認してみて下さい。例えば、お菓子の袋を見て下さい。裏面には原材料の一覧が表示されています。例えば、子どもたちが好きなビスケットやクッキーの原料として、植物油脂・砂糖・ブドウ糖果糖液糖・乳化剤等々が記載されています。これらは、アメリカから輸入したトウモロコシや大豆、砂糖大根を使用しているため、遺伝子組み換えの可能性がかなり高いのですが、「遺伝子組み換え原料が含まれています」とは、一言も書いてありません。

実は、遺伝子組み換えに関する日本の食品表示制度には大きな抜け穴があるのです。対象となるのは、納豆、豆腐、味噌など30種類の食品に原料に使用された場合に限られる上、重量の5パーセント以下であれば表示しなくてもよいのです。ですから、実際には様々な遺伝子組み換え原料が相当、含まれていても表示されません。それでもこれまでは日本の食品メーカーも消費者の反応を気にして、なるべく遺伝子組み換え原料を使用しないようにしようという傾向がありました。ところが、ここ数年間、急激に遺伝子組み換え原料の使用を増やしています。現在は、世界的に食料価格が高騰しています。そして、遺伝子組み換えでない原料は手に入りにくくなり、さらに高くなっています。まして消費者が、遺伝子組み換え問題に関心が薄いことから、ますます遺伝子組み換え原料の輸入量が増えているのです。

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

例えば年間約1,600万トンも輸入しているトウモロコシは、シロップ(ブドウ糖、異性化糖)や植物油脂など様々な加工食品の原料になります。日本で生産されるお米が約800万トンですから、その2倍の量のトウモロコシが輸入されているわけです。そのほとんどが遺伝子組み換えであり、7割が家畜の飼料、3割が加工食品など様々な原料になりますが、表示されないのが日本の制度なのです。

こうして日本の消費者のほとんどは、自分が毎日、遺伝子組み換え食品を食べていることに気づいていません。「TPPに参加したら遺伝子組み換え食品が大量に輸入される!」と思っている人もいますが、それはまったくの誤解です。すでに私たちは毎日、大量に食べているのに、その認識すらないというのが日本の現状です。

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

世界初、遺伝子組み換えイチゴによる
犬用の歯周病治療薬が販売

その上、今、日本では、新たな遺伝子組み換え商品が次々と販売され始めています。「日本ではまだ遺伝子組み換え作物は栽培されていない」、あるいは「試験栽培はされているけれど、遺伝子組み換えの商品化は始まっていない」と思われていますが、これも誤解なのです。日本でも、すでに遺伝子組み換え作物は栽培され、商品化されています。

そのひとつが、犬用の歯周病治療薬であり、その原料は、日本で栽培されている遺伝子組み換えイチゴです。遺伝子組み換えイチゴの中に、犬用の歯周病治療薬の成分が入っており、その原料を使った犬用の歯周病治療薬がすでに販売されているのです。栽培しているのは、札幌ドームの近くにあるビルの中です。閉鎖された施設の中で栽培するのだから、遺伝子組み換えイチゴが外界に放出されることはないという理屈になっています。

インターネットで調べていただければ分かりますが、現在のところまだ価格はすごく高いんですが、「世界初」となっている。しかし、なぜ世界初かというと、医薬品の原料として遺伝子組み換え作物を栽培することは大きなリスクがあるため、アメリカでさえ反対が根強いからです。


遺伝子組み換えイチゴを原料にする犬用歯肉炎軽減剤「インターベリーα」を発売するホクサン株式会社のホームページ
http://www.hokusan-kk.jp/info/

「インターベリーα」は小売価格10,000円~18,000円程度で販売されている。
http://sg.mimaki-family.com/products/27920/
http://www.jvets.co.jp/3-8.html


今後、様々な医薬品用の原料として遺伝子組み換え作物を栽培するようになり、もしもそれが外界に漏れ出て、一般の作物と交雑すれば、それと知らずに食べてしまうことで、医薬品の成分も一緒に摂取することになります。普通の果物や野菜を食べているつもりで、実は医薬品の成分を食べていたということが起こりかねないのです。当然、医薬品の作用あるいは副作用といった危険性があるため、消費者と生産者の強い反対があって、アメリカの学会でもまだ承認されていないんです。だからこそ日本の商品が「世界初」になったわけです。

ところが、去年、日本の農水省は「犬用」として遺伝子組み換え作物の生産と医薬品の販売を許可してしまいました。恐らく将来は、「人間用」としての医薬品用作物の開発を目ざしているはずです。

美容品にも遺伝子組み換え原料が

それからもう一つ驚くべき商品があります。「40代からの徹底ハリ肌、ハリ重視の美容コスメ」というコピーでネオシルク・ヒトコラーゲンというものが販売されています。このコラーゲンが、遺伝子組み換えカイコを使っているのです。

ぜひインターネットで調べてもらいたいんですが、ページの最後にある全成分という欄に「遺伝子組換カイコヒト遺伝子組換ポリペプチド-47」と記載されています。


「ネオシルク-ヒトコラーゲンI」配合化粧品「MC25シリーズ」を発売する株式会社エムコスメティックスの販売ページ
http://item.rakuten.co.jp/omegacosme/mc25-cream/


日本で今、こうしたある意味でニッチな領域で遺伝子組み換え商品の開発と販売が進んでいるのは何故でしょうか。実はもっとメジャーな作物、すなわち世界で大量に生産されている穀物を遺伝子組み換えによって開発するためには巨額の資金が必要であり、すでに大手の多国籍企業に特許が握られています。アメリカではトウモロコシ、大豆、ナタネ、甜菜(砂糖大根)の90パーセントが遺伝子組み換えになりましたし、遺伝子組み換え小麦とコメも、商品化が近いとみられています。こうした作物は、世界中の農産物市場が販売対象ですから、バイテク企業にすればまさに儲けの「種」です。日本にもこうした作物の開発に取り組んでいた企業はありましたが、2000年代半ばにほとんど撤退してしまいました。メジャーな作物については、モンサント社(アメリカ)、デュポン社(アメリカ)、シンジェンタ社(スイス)などの大手には、とてもじゃないが資金力・技術力で敵わない。そのため、多国籍企業が手を付けてない分野の商品の開発・販売に取り組み始めたのでしょう。

ところが日本のメディアは、もしも遺伝子組み換えイチゴやカイコが自然界に広まってしまったらどんな問題が起こるのかという視点を欠いたまま、「新商品のご紹介」といったレベルでしか報道しません。実は、日本国内にもバイオテクノロジー企業と研究機関、官僚組織とが結びついて、いわゆる「遺伝子組み換えムラ」と呼べるようなネットワークが存在します。さらにはTPP(環太平洋経済連携協定)への参加を積極的に推進してきた経団連の前会長は住友化学の会長でしたが、住友化学とモンサントは業務契約を結んで、大々的にアジアや南米で農薬を販売しています。

したがって、遺伝子組み換えをめぐる問題点を指摘すると、すぐにモンサント社などのバイオテクノロジー業界から、「その根拠を示せ」とか「名誉棄損で訴える」といった抗議が来るようになっている。こうして、マスコミは自粛して事の本質を伝えず、市民が知らぬうちに、遺伝子組み換え作物や商品が広がるという事態が起きています。

遺伝子組み換え作物は破たんしている

最後に、少し明るい話をしましょう。最も重要な点は、「遺伝子組み換え作物は破たんしている」ことが明確になってきたことです。アメリカでは長年、モンサント社の除草剤「ラウンドアップレディ(成分グリホサート)を遺伝子組み換え作物に散布し続けたために、雑草が耐性をもち、枯れなくなってきている。同様に、害虫も、害虫抵抗性作物を食べても死ななくなってきているという現象が起きています。そこでモンサント社は、さらに強力な除草剤をまいても枯れることなく、害虫に対してより毒性を増やした遺伝子組み換え作物を開発しました。当初から予想された通りの悪循環にはまっているのであり、遺伝子組み換え作物とはまさに「毒物依存性作物」だと呼べるでしょう。時間とともに、もっと強力な毒物に依存しないと、雑草を枯らしたり、害虫を殺したりできなくなるわけですから。「環境に優しい」とアピールしてきた遺伝子組み換え作物は、すでに論理的にも現実にも破たんしているのであり、今後、ますます反対運動が強まるでしょう。

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

ですから、アメリカの29州で遺伝子組み換え食品の表示の義務化を求める運動が広がっているのは決して偶然ではないのです。この運動は2011年に、カリフォルニア州から始まりました。市民が署名を集めて住民投票が実現したのです。ところが表示に反対するバイオテクノロジー企業や大手の食品企業が40数億円も投じて反対キャンペーンを実施した結果、カリフォルニア州では不成立に終わりました。しかしその後も運動は全米に広がり、2014年にはバーモント州議会で食品表示の義務化が可決されました。執行は2016年からの予定です。州の法律ですから州限定ではありますが、食品は全国的に流通していますから、もしもバーモント州で表示が始まれば、その他の州にも広まる可能性があります。そうなれば、今は関心の薄い日本でも、表示制度の強化や、遺伝子組み換え食品に反対する運動が始まるだろうと思います。

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より
映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

この5月6日からはドイツのベルリンで遺伝子組み換え作物に反対する集会が開催されます。私や日本の市民も参加しますし、バーモント州や世界各国から多くの人々が集まります。また今年の11月末には、アメリカで食品表示運動を展開している「食品安全センター」事務局長のアンドリュー・キンブレル氏を日本にお招きします。ヨーロッパ、アメリカ、日本、そして世界の市民が連携して、モンサント社と遺伝子組み換えに対する包囲網ができつつある。これが最大の明るい情報です。

でも結局、肝心なことは、日本の消費者と生産者がこれからどのような生き方をするか次第です。「表示が曖昧な日本で、どうやったら遺伝子組み換え食品を避けたらいいのでしょうか」とよく聞かれます。その答えとして、最終的に結局は、自分たちで安全な食べ物を作るしかないのです。消費者が「食品とはスーパーで買うものだ」と思い続けている限り、世界中の食料を支配することで儲けを独占しようとしているバイオテクノロジー企業の手中から逃れることはできません。だからこそ、今、食料を自分たちで生産しようという運動が世界中に広まっています。

そうした運動を紹介した一冊が、今回、私が翻訳した『シティ・ファーマー:世界の都市で始まる食料自給革命』です。辻信一さんからは、「食料システムという“タイタニック号"から脱出した人々の大群が、大きな希望と勇気を与えてくれる」という推薦の言葉を頂きました。今回、この映画を観た皆さんのこれからの活動こそが大きな希望です。一緒にがんばりましょう。

(構成:駒井憲嗣)



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『シティ・ファーマー:
世界の都市で始まる食料自給革命』
著:ジェニファー・コックラル=キング
翻訳:白井和宏
発売中

2,592円(税込)
320ページ
白水社

購入は書影をクリックしてください。amazonにリンクされています。




映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』
渋谷アップリンク、名古屋名演小劇場、横浜シネマ・ジャック&ベティにて公開中、
他全国順次公開

映画『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』より

監督:ジェレミー・セイファート
出演:セイファート監督のファミリー、ジル=エリック・セラリー二、ヴァンダナ・シヴァ
協力:大地を守る会、生活クラブ生協、パルシステム生活協同組合連合
字幕:藤本エリ
字幕協力:国際有機農業映画祭
配給:アップリンク
2013年/英語、スペイン語、ノルウェー語、フランス語/85分/カラー/アメリカ、ハイチ、ノルウェー

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/gmo/
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