骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-05-01 22:31


日本にあるのは"放送禁止"ではなく"自主規制"バラカンさん放射能被曝描く映画上映で語る

『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』渋谷アップリンクにて公開中
日本にあるのは"放送禁止"ではなく"自主規制"バラカンさん放射能被曝描く映画上映で語る
映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』より “RADIUM CITY” DOCUMENTARY FEATURE FILM © 1986 BY CAROLE LANGER

1920年代アメリカ、時計の文字盤を作るラジウム・ダイヤル社の工場で被曝した少女たちを描いたドキュメンタリー映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』が現在、渋谷・アップリンクをはじめ各地で公開中。4月20日の小林エリカさん登壇に続き、4月28日にはブロードキャスターのピーター・バラカンさんが上映前のトークショーに出演。編集者・ライターの松村正人さんを聞き手に、今作のテーマである原子力の危険性に対する隠蔽から、現在の安倍政権の報道への介入、メディアの存在意義についてまで、自身の経験をふまえ語られた。

渋谷アップリンクではこの後、5月18日(月)は千原航さんと井出幸亮さん、5月19日(火)は阿部和重さん、5月26日(火)は篠崎誠さんとヴィヴィアン佐藤さん、そして5月27日(水)は大澤真幸さんによるトークショー付上映が行われる。

隠蔽は現在でも世界中で行われている

トークショーの冒頭、『ラジウム・シティ』について「淡々としているのに、観る内に段々と引き込まれて怖くなってくる映画」と語ったバラカンさんだが、制作年度が1986年と知って驚いたという。これほどまでに重大な出来事であれば、もっと大々的に報道され、世界中の人が知っていてもおかしくないはずなのに、イリノイ州オタワで起きていたこの出来事を、バラカンさんも知らなかった。

映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』トークイベントより、ピーター・バラカンさん
映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』トークイベントより、ピーター・バラカンさん

ラジウムの危険性や工員たちの放射能による健康被害をラジウム・ダイヤル社は間違いなく知っていたのに、それを隠すこと、それがまかり通ってしまうことが恐ろしい、とバラカンさんは続ける。「しかし、そのような隠蔽は現在でも世界のあっちこっちで行われているはずです。私たちの多くが連想するのは東京電力のことだと思いますが、福島で働いていた原発労働者は、放射能の危険性は知っていたとしても、どの程度危険なのかというのは知らない。会社の責任者やメディアが説明してくれないと、彼らはその危険性を判断できないまま働くことになるのです」

映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』 より “RADIUM CITY” DOCUMENTARY FEATURE FILM © 1986 BY CAROLE LANGER
映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』より “RADIUM CITY” DOCUMENTARY FEATURE FILM © 1986 BY CAROLE LANGER

子供たちに責任を転嫁する無責任さ

バラカンさんの原発や原子力に関する問題意識は、テレビのニュースや新聞、映画などのメディアを通じて芽生えた。「中学生になるかならないかという頃、60年代初頭にイギリスで頻繁に起きていたデモのニュースを見て、核兵器に関する認識はしていたように思う。でも本当に原子力発電についての問題意識を持ったのは、スリーマイル島原発事故が起きたときだった」。スリーマイル島の事故は1979年。1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故が起きたときは「本当にやばいと思った」。食料品に気をつけ始めたのもこの頃からだった。 放射性物質の半減期や廃棄物に意識が向いたのは、鎌仲ひとみ監督の映画『六ヶ所村ラプソディー』がきっかけだったそうだ。「この作品を見て、これは絶対にダメだと思った。あれだけ危険な廃棄物なのに、処理する方法がなく、この地震がしょっちゅう起きる日本で“ただ埋めるだけ”。子供達に責任を転嫁するなんて、どれだけ無責任なんだと思って」

映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』 より “RADIUM CITY” DOCUMENTARY FEATURE FILM c 1986 BY CAROLE LANGER
映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』より “RADIUM CITY” DOCUMENTARY FEATURE FILM © 1986 BY CAROLE LANGER

わたしにあるのはリスナーへの責任

こうした隠蔽は世界中で起きているが、民放のメディアにとりわけ大きな影響を及ぼすのがスポンサーの力だ。スポンサーの不利益になる発言はできず、電力会社は独占企業にもかかわらず、つまり宣伝告知の必要はないのに、多くのメディアに広告を出し続ける。2011年までテレビ局の一番のスポンサーは電力会社だった。

バラカンさんは「メディアはスポンサーを選ぶ必要がある」と強く主張する。実際に一度、電力会社の広告のナレーションの依頼があったが、断ったという。

また、東日本大震災のあとの2011年4月、バラカンさんがDJを担当するラジオ番組にRCサクセションの『ラヴ・ミー・テンダー』のリクエストが殺到したが、歌詞の「牛乳を飲みてぇ」の一行が放送局の自主規制に引っかかった。「『風評被害を広げかねない』と言われたけど、それは『かけるな』というのと同じことです」。結局、『ラヴ・ミー・テンダー』はオンエアしなかったが、番組では代わりに、上から言われた、その曲をかけられない理由を正直にリスナーに伝えた。「わたしのいちばんの責任は、放送局ではなくてリスナーに対する責任だと思っています。リスナーに対して正直に事情を伝えることは義務であるし、少なくともそうすべきだと思っています」

映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』 より “RADIUM CITY” DOCUMENTARY FEATURE FILM c 1986 BY CAROLE LANGER
映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』より “RADIUM CITY” DOCUMENTARY FEATURE FILM © 1986 BY CAROLE LANGER

蔓延する言葉狩りと事なかれ主義

トークイベントの当日、米・ニューヨークタイムズ紙に「安倍政権のメディアへの介入が成功している」(「Effort by Japan to Stifle News Media Is Working」)という皮肉な記事が掲載された。日本のメディアで現在起きていることを客観的に書いたその記事は、テレビ朝日の番組「報道ステーション」への政府の介入にも触れ、そこにはテレビ朝日関係者の証言も掲載されている。「ちゃんと記者が取材をすれば話してくれるのに、日本のメディアはどこも聞かない。聞いたとしても、載せない。それだけ今の政権が怖いのかと思うと恐ろしくなってくる」

そのように、政府によるメディアへの介入がいとも簡単に成功してしまう背景には「日本人が他人と違うことをするのが美徳とされない風潮の中で育つことが関係しているのではないか」とバラカンさんは分析する。「日本には“放送禁止”というものはなく、代わりに作用しているのは“自主規制”。それがメディア全体で共有されている」

「アメリカはチャレンジ精神の国で、とりあえずやっちゃって何か問題が起きたら対処すればいいという考え方をする。日本はその逆で、そもそも問題を起こさないよう、少しでも問題になりそうなことはやらない傾向がある」と事なかれ主義に走りやすい日本の特徴を挙げ、結果として自主規制による言葉狩りが蔓延していることを指摘した。

映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』 より “RADIUM CITY” DOCUMENTARY FEATURE FILM © 1986 BY CAROLE LANGER
映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』より “RADIUM CITY” DOCUMENTARY FEATURE FILM © 1986 BY CAROLE LANGER

メディアの役割

また、靖国参拝の報道について「本当に個人で行くならメディアに知らせずに勝手に行けばいい。そしてメディアも取り上げなければいい。いちいちメディアが報道するから当然中国や韓国は怒る」とし、視聴率至上主義で同じ話題ばかりを横並びで取り上げるメディアの風潮に警鐘を鳴らす。

「メディアも視聴率を取りたいから話題になることを取り上げる。でもどんなメディアでも価値判断があると思うし、同じ話題を毎回毎回選ぶのは能がない」というバラカンさん。最後に、自身のラジオ番組について「僕の番組では、常に他には影響されずに自分の考えを貫いていきたいと思っています。自分が本当に面白いと思っているものだけを紹介したい。あとはリスナーが僕の感覚に共鳴するかしないか。ラジオを聴くかどうかは、送り手に信頼を置いているかどうか。声はその人が持っているものがストレートに伝わるメディアだから、リスナーと信頼関係を築いていきたい」と語り、決意を示した。

(取材・文:則定彩香、写真:宮田克比古)



【関連記事】

1601年後もガイガーカウンターは鳴り続ける―小林エリカさんが語る映画『ラジウム・シティ』(2015-04-22)
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サハラ砂漠のトゥアレグ族のウラン被曝は日本の原発再稼働と無関係ではない
バラカン氏×デコート豊崎氏による映画『トゥーマスト ギターとカラシニコフの狭間で』トークレポート
(2014-12-24)
http://www.webdice.jp/dice/detail/4518/




映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』
渋谷アップリンクにて上映中、他全国順次公開

映画『ラジウム・シティ~文字盤と放射線・知らされなかった少女たち~』 より “RADIUM CITY” DOCUMENTARY FEATURE FILM © 1986 BY CAROLE LANGER

ラジウム・ガールズ──1920年代アメリカ、ラジウム・ダイヤル社の工場で時計の文字盤に夜光塗料を塗るペインターとして働き被爆した若い女性たち。筆先をなめて尖らせるよう指導された彼女たちは、その後、腫瘍や骨障害で苦しみ、多くが亡くなっていった。のちに5人が雇用主を提訴、長い裁判を経て勝訴したが、ほどなく全員が亡くなる。内部被曝の存在が広く知られるきっかけとなったラジウム・ガールズたちと、その後の街に生きる人々を描いたドキュメンタリー。

監督・プロデューサー:キャロル・ランガー
出演:マリー・ロシター、エディス・ルーニー、ジェーン・ルーニー、ジーン・ルーニー、ケン・リッキ、シャーロット・ネビンス、マーサ・ハーツホーン、キャロル・トーマス、ジェームス・トーマス、ウェイン・ウィスブロック、ドン・ホール、ロッキー・レイクス、ボブ・レイクス、メアリー・オズランジ、スティーブン・オズランジ、ジャニス・キーシッグ、ジョアン・キーシッグ、環境汚染と闘う市民の会
音楽:ティミー・カペロ
撮影:ルーク・サッシャー
編集:ブライアン・コトナー、キャロル・ランガー
録音:ジョン・マーフィー
配給:boid
字幕:映画美学校映像翻訳講座
1987年/アメリカ/105分/白黒・カラー/モノラル

公式サイト:http://www.radiumcity2015.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/radiumcity2015
公式Twitter:https://twitter.com/boid_bakuon

渋谷アップリンク上映情報
http://www.uplink.co.jp/movie/2015/36128

【渋谷アップリンクでの限定上映期間中トーク・イベント開催】

5月18日(月)19:30の回 千原航さん、井出幸亮さんトーク+上映
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/event/2015/36383

5月19日(火)19:00の回 阿部和重さんトーク+上映
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/event/2015/36621

5月26日(火)19:00の回 篠崎誠さん、ヴィヴィアン佐藤さんトーク+上映
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/event/2015/36824

5月27日(水)19:00の回 大澤真幸さんトーク+上映
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/event/2015/36364

▼映画『ラジウム・シティ 文字盤と放射線・知らされなかった少女たち』予告編

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