骰子の眼

stage

静岡県 静岡市

2015-05-16 23:00


「ホドロフスキーの表現は常に開かれている」人形芝居『聖★腹話術学園』演出家語る

ベルギーのポワン・ゼロによる形而上的コメディ「ふじのくに⇄せかい演劇祭2015」で日本初演
「ホドロフスキーの表現は常に開かれている」人形芝居『聖★腹話術学園』演出家語る
撮影:猪熊康夫

アレハンドロ・ホドロフスキー作・ベルギーの劇団「ポワン・ゼロ」による人形芝居『聖★腹話術学園』(英題:The Ventriloquists' School)が、SPAC-静岡県舞台芸術センター主催により静岡市内で開催されていた「ふじのくに⇄せかい演劇祭2015」で5月5日と6日、上演された。日本初演となったこの公演、今回は「ポワン・ゼロ」演出家のジャン=ミシェル・ドープの言葉を、webDICE編集部との一問一答とともに紹介する。

ホドロフスキーの表現は、言葉で説明できない
なにか大きなものと出会うための招待状のようなもの

現在、2016年公開予定の新作『エンドレス・ポエトリー』制作準備中のアレハンドロ・ホドロフスキー監督。彼が「ポワン・ゼロ」のために書き下ろし、2008年に初演が行われた今作は、24時間生徒を監視する奇妙な「腹話術学園」に迷い込んだ主人公セレストを巡る物語だ。

「『聖★腹話術学園』はまさに私たちの社会のメタファーである。個人をローラーにかけて画一化し、模範的市民を作ろうとするような社会。そこで作られているのは、おとなしくて従順な、(人形のように?)操作しやすい、採算が合う経済主体、つまり自分自身の言葉を失った人間なのかもしれない」(演劇祭公式パンフレットより)

ジャン=ミシェル・ドープ
『聖★腹話術学園』5月5日公演のアフタートークより、「ポワン・ゼロ」のジャン=ミシェル・ドープ

ジャン=ミシェル・ドープは、5日の公演後にはSPAC芸術総監督の宮城聰とアフタートークも行った。アフタートークでは、ホドロフスキーとのコラボレーションのきっかけについて、次のように語った。

「ポワン・ゼロは1993年に設立しましたが、劇団としてのアイデンティティを見つけ出す作業をしたかった。そのなかでホドロフスキーと出会いました。彼が私たちの舞台作品を観て感激し、書き下ろしをしてくれることをすぐに了解してくれたことは驚きでした。了解をいただいたのが8年から10年前で、劇団として、初めて人形を使った舞台でしたので、ホドロフスキーから脚本をもらってから2年人形芝居の勉強し、2008年に初演を行いました。ホドロフスキーの作品の魅力は、必ずしも言葉を介さずに感じることのできる、とても身体的で、視覚的な点です。この作品も、とても力強く、ダイナミックな動作が多いことが印象深かったです」

『聖★腹話術学園』より 撮影:猪熊康夫
『聖★腹話術学園』より 撮影:猪熊康夫
『聖★腹話術学園』より 撮影:猪熊康夫
『聖★腹話術学園』より 撮影:猪熊康夫

人形とそれを操る人間との関係が反転していく、という形而上的ストーリーを、ひとりの俳優が「人形」役と「それを操る人間」役を演じ分けることでコミカルに表現。そして音楽についても、舞台上で演者がライブでギターやドラムを演奏した音を使用したり、壁に投影される謎めいた腹話術学園の校長の姿は、管理社会を描くジョージ・オーウェルのSF『1984年』のビッグ・ブラザー(支配者)を想起させたり、とホドロフスキーの世界を舞台化するための趣向が随所に施されている。ジャン=ミシェル・ドープは、ホドロフスキーの戯曲から、どのように舞台作品として作り上げていったのだろうか。

「この戯曲をわたしたちの劇団に提供する際、ホドロフスキーは『いまあなたがしたいことを、感じたことを表現することが大切だ。演出家としてあなたは自由でなくてはならない。私は私の仕事を終えた。次はあなたの番だ』と言いました。脚本には何の指示もありませんでした」

「音楽についてですが、わたしたちはいつもミュージシャンを多く起用します。リハーサルも彼らが実際に音を鳴らすのです。『ポワン・ゼロ』にとって人形と音楽はとても重要で、私はこのふたつには深い関係があると思っています」

『聖★腹話術学園』より 撮影:猪熊康夫
『聖★腹話術学園』より 撮影:猪熊康夫

そして、セレストと校長の対立を経て、冒頭のセレストが学校に落ちてくるシーンに繋がるラストについて、これはホドロフスキーの戯曲に最初からあった設定だったのか、またこのエンディングの解釈についても聞いた。

「この結末については、ホドロフスキーは特別なことは書いていませんでした。わたしたちはこのエンディングを『すべてのことは繰り返す』ことを表現していると考えました。重要なのは、人生、そして行動することです。ホドロフスキーの表現は、ひとつの解釈を観客に与えるものではなく、常に開かれていると思っています。それは、すべての人への精神と想像力を広げるための、そして言葉で説明できないなにか大きなものと出会うための、招待状のようなものです」

「『ポワン・ゼロ』は観客に回答を与えるのではなく、疑問を与える劇団でありたいと思っています。あなたが劇場を出て、作品を観る前よりも疑問が多くなっていたら成功なのです。観客に、まるで授業をするように特定の方法を提示することで理解してもらいたいとは思っていません。わたしたちの仕事は、あなたがた観客ひとりひとり、そしてすべての人類とわたしたちの特別な会合をオーガナイズすることだと考えています。そして、それはいつも楽しめるものではなくてはならないのです」

(取材・文:駒井憲嗣)
▼映画『聖★腹話術学園』舞台




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http://www.webdice.jp/dice/detail/4660/




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