骰子の眼

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2015-05-25 16:25


役に恋し自ら出演を熱望したドランに『エレファント・ソング』監督が釘を刺す?!

ドランとグリーンウッドの濃厚な心理戦を描いたシャルル・ビナメ監督インタビュー
役に恋し自ら出演を熱望したドランに『エレファント・ソング』監督が釘を刺す?!
映画『エレファント・ソング』より、主演のグザヴィエ・ドラン(左)とブルース・グリーンウッド(右)

現在、監督作『Mommy/マミー』が公開中のグザヴィエ・ドランの主演作『エレファント・ソング』が6月6日(土)より公開される。失踪した精神科医の行方を探す院長とその謎を知る患者の青年をめぐる心理劇で、ドランは、ニコラス・ビヨンによる同名の戯曲を読み、映画化にあたり青年マイケルを演じることを熱望したという。ドランの相手を務めるのは、『スター・トレック』シリーズをはじめ数々の作品に出演する名優ブルース・グリーンウッド。同僚の失踪の理由を知っているとほのめかすマイケルに詰問するグリーン院長を演じている。今回は監督を務めるシャルル・ビナメのインタビュー記事を掲載する。

ドランに、現場に監督は私しか必要ないということを伝えた

──最初に、原作となるニコラス・ビヨンによる戯曲を読んだときの感想は?

リアルで秀逸な物語だと思った。ストーリーのフタを開けると、そこにまた別のストーリーが展開し、まるでロシアのマトリョーシカを思わせる入れ子構造になっている。それは、精神科病棟に押し込められて暮らす主人公の青年マイケルの心を映すメタファーなんだ。

映画『エレファント・ソング』シャルル・ビナメ監督
映画『エレファント・ソング』シャルル・ビナメ監督

──グザヴィエ・ドランから今作の主演を演じたい、と言われたときはどんな気持ちでしたか?

私は彼がこの物語の主人公、マイケル・アリーンといういたずら好きな精神障害の患者を演じたいと希望したとき、まず「現場に監督はひとりしか必要ないということを忘れないこと。そしてそれは私だ」と伝えた。でも、そんな心配は不要だった。ドランは作品や役柄を通して自分を表現する方法を模索する時、かなり先を読んで行動するタイプなんだ。どうすればあの役柄が活きてくるのか、アプローチの仕方について、私たちらはまったく同じ意見だったよ。

映画『エレファント・ソング』より
映画『エレファント・ソング』より、象に異様な執着をみせる青年マイケルを演じるグザヴィエ・ドラン

──どのように制作を進めていったのですか?

何人かのプロデューサーにこのプロジェクトを提案される数年前に、私は原作となる戯曲の舞台を観ていた。そこから私がこの戯曲を映画の脚本にするまでに、さらに時間が必要だった。原作者のニコラス・ビヨンと一緒にグリーン院長の役柄をさらに掘り下げたかったんだ。部屋にいたのが誰かは明白だった。そこで語られたすべてのことが、どれほど反響を呼び起こすかは、彼にかかっていたからね。僕らはグリーン院長に命を吹き込みたかったんだよ。

──戯曲から変更を加えた部分は?

グリーン院長の役柄に幅を持たせるために、新たな登場人物を追加した。グリーンの妻オリビア(キャリー=アン・モス)とローレンス医師(コルム・フィオール)だ。またキャサリン・キーナーが演じる看護師のスーザン・パターソンの役柄にも幅を持たせた。

映画『エレファント・ソング』より
映画『エレファント・ソング』より、グリーンの妻オリビアを演じるキャリー=アン・モス
映画『エレファント・ソング』より
映画『エレファント・ソング』より、ローレンス医師を演じるコルム・フィオール
Elephant Song/Melenny
映画『エレファント・ソング』より、看護師のスーザン・パターソンを演じるキャサリン・キーナー

セットもひとつのキャラクターなんだ

──映画化にあたりいちばん難しかったのはどの部分ですか?

最も難問だったのは、主にローレンス医師のオフィスで展開する物語を、いかにして、よりダイナミックなドラマに仕立て上げるかという点だった。それも台詞をほとんど変えないというトリックを使った。といのも最初からすでに彼の台詞は素晴らしいものだったからだ。その代わりに私は、パフォーマンスをリアルにすることに重点を置いた。

──撮影にあたっては、どのように準備を進めていきましたか?

撮影に入る前に、私はグリーンウッドからのたくさんの長文のメールに答えた。カナダ人俳優であるグリーンウッドとは別のプロジェクトで一緒に仕事をしたことがあったが、今回演じるグリーン院長の熱意などについて多くの質問を投げかけられた。キーナーとも、私のモントリオールのオフィスで3日間に渡り、台詞に込められた複雑な意味合いや行間について話し合った。

徹底した準備を撮影まで続けた。3週間の撮影の間、私は週末ごとに俳優たちを現場のセットに呼んで確認作業を行い、すべての質問に答えた。私たちは順調に作業を進めた。すべてをスムーズに、かつエネルギッシュにね。だから撮影の現場では、すべてが用意周到に準備されていることを再確認した。

舞台となるローレンス医師の部屋にある象徴的な象は、精神科医のオフィスにあっておかしくないもので、かつ100分の長尺の映画の小道具として見た目にも刺激的なものとは、どんなものかを考えて生まれたものだ。プロダクション・デザイナーのダニエル・ラブリーと観客の目を引きそうなものも、いくつか考えた。水槽、輝く白い窓、豪華なビロードの長椅子などだ。

映画『エレファント・ソング』より
映画『エレファント・ソング』より、ローレンス医師の部屋にある水槽

そして、物語の舞台を1960年代半ばにすることに決めた。戯曲では1980年代の設定であったが、監督は全体のアートディレクションや衣装のこと、また学会間の対立なども考えても、60年代の方が良かった。ロボトミー(前部前頭葉切截術)の時代だったんだ。監禁とかも平気で行われていた時代だからね。

──美術の面でこだわった点はどこでしょうか?

私とラブリーは、ある有名な映画のセットからヒントを得た。それは『英国王のスピーチ』に出てくる言語療法士のライオネル・ローグの治療室だった。その部屋は塗装の剥がれた壁紙、地下にありながら天窓があるという、妙な取り合わせだった。

うらぶれた感じでちょっとわざとらしい。でもそれが効いていて、まるで人間のように生き生きしていたのを覚えている。セットがひとつのキャラクターであり、人間のキャラクターたちがそれを中心に動いているのが面白いんだよ。

魅力的で視覚に訴える空間を作り出すことはとても重要なことだった。舞台では、心に訴えられたかどうかを確かめるために、ある程度までは冗長になっても仕方がない。でもこの映画はサスペンスであり、舞台がひとつの部屋だろうが、いくつもの場所だろうが関係ない。個性豊かな登場人物たちさえいれば、彼らが出会い、運命が交差して、何かが起こる。それが魅力なんだ。

グリーン院長とマイケルが交わす激しく、親密な会話から、観客は病院内で起きた過去の出来事を知り、またその過去の出来事が、何よりも現在に多大な影響を与え、さらには未来にも与えるであろうことを知る。マイケルの旅はまた、真実を明らかにする土台を作る。それと同時に、愛情を知らずに育った孤独な彼が、皮肉にも、愛を育む土台をも作ることになる。これこそが、この映画に秘められた美である、と私は思う。

(オフィシャル・インタビューより)



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シャルル・ビナメ(Charles Binamé) プロフィール

1949年、カナダ、ケベック州出身。ジニー賞で最優秀監督賞を受賞した『ロケット』(2005年)、ケベック州で空前の大ヒットを記録した『Seraphin, Heart of Stone』(2002年)を含む、計8本の長編作品を撮っている。『Eldorado』(1995年)を含む3部作は、カンヌ国際映画祭監督週間の特別賞を受賞したほか、監督及びキャストが数々の国際映画賞を受賞している。それ以前にロンドンを拠点としていた頃は、ヨーロッパ向けのCM監督として3年間、キャリアを積み、テレビシリーズの『Blanche』(1993年)と『Marguerite Volant』(1996年)で、国際テレビ映像フェスティバルの金賞と銀賞を受賞した。そのほかの監督作にテレビ映画『Cyberbully』(2011年)、ミニ・シリーズの『H2O』(2004年)、『合衆国崩壊の日』(2008年)、『Flashpoint』(2008年~2011年)の数エピソード、『Being Human』(2011年~2012年)、『Durham County』(2011年)があり、これらはすべて、DGC(Directors Guild of Canada)賞、Gemini賞、Canadian Silver Screenでノミネートされており、また、国際司法裁判所で首席検事を務めたルイーズ・アーバーについての『Hunt For Justice』(2004年)はGemini賞でBest TV Filmを受賞している。




映画『エレファント・ソング』
2015年6月6日(土)より、新宿武蔵野館、渋谷アップリンク他、全国順次公開

マイケルは美しい青年だった。14歳のときオペラ歌手である母が目の前で自殺し、その後、現在に至るまで精神病院に入院している。彼は病院で一番の問題児とされており、ゾウにまつわるあらゆることに異常なまでの執着を示していた。ある日、彼の担当医であるローレンスが失踪した。手がかりを知るのはマイケルだけ。マイケルのことをよく知る看護師長のピーターソンは「マイケルは茶化すだけで真実を話さない」と助言するが、院長のグリーンは彼に事情を聞くことを試みる。すると、話をする代わりに、と彼は3つの条件を提示した。グリーンは条件を飲むが、マイケルはゾウやオペラについての無駄話で、話をそらすばかり。「母を殺した」「ローレンス医師から性的虐待を受けていた」など、嘘か本当かわからないようなことをほのめかす。いつしかグリーンはマイケルの巧妙な罠に取り込まれていった……。

監督:シャルル・ビナメ
脚本:ニコラス・ビヨン
撮影:ピエール・ギル
編集:ドミニク・フォルタン
出演:グザヴィエ・ドラン、ブルース・グリーンウッド、キャサリン・キーナー、キャリー=アン・モス、ガイ・ネイドン、コルム・フィオールドン、ほか
配給:アップリンク
2014年/カナダ/100分/シネマ・スコープ/DCP

公式サイト:http://www.uplink.co.jp/elephantsong/
公式Facebook:https://www.facebook.com/elephantsong.jp
公式Twitter:https://twitter.com/elephantsong_JP


▼映画『エレファント・ソング』予告編




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価格:10,800円(税込)
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販売元:TCエンタテインメント

★映像特典★
●『ドラン先生の公開授業』
パリの映画館forum des imagesが開催した、グザヴィエ・ドランのマスタークラス(公開授業)を約2時間収録
●『トム・アット・ザ・ファーム』監督インタビュー(10分)、日本版予告編、本国版予告編
●『わたしはロランス』グザヴィエ・ドラン監督の解説付き未公開シーン(53分)、日本版予告編、本国版予告編

★封入特典★
●『わたしはロランス』ビジュアルブックレット
●グザヴィエ・ドランのポートレートカード4枚セット
●『トム・アット・ザ・ファーム』オリジナルステッカー

【仕様】
3枚組(Blu-ray:2枚+DVD:1枚)

©Xavier Dolan, Clara Palardy/©2012 Production Laurence INC / MK2 SA / ARTE France CINEMA

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映画『Mommy/マミー』
新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、109シネマズ二子玉川、センチュリーシネマ、シネ・リーブル梅田、シネマート心斎橋、京都シネマ、シネツイン にて上映中、ほか全国順次公開

監督:グザヴィエ・ドラン
出演:アンヌ・ドルヴァル、スザンヌ・クレマン、アントワン=オリヴィエ・ピロン
配給:ピクチャーズデプト
提供:鈍牛倶楽部、巖本金属
2014年/カナダ/フランス語/日本語字幕/138分/DCP/カラー/ドルビーデジタル/1:1
© 2014 une filiale de Metafilms inc.

公式サイト:http://mommy-xdolan.jp/

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