骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-06-09 18:52


ヴィゴ・モーテンセン製作・主演・音楽、第2の故郷パタゴニアで荒野の幻想譚『約束の地』

カンヌ映画批評家連盟賞受賞、アルゼンチンの秘境で撮影を敢行したロードムービーを語る
ヴィゴ・モーテンセン製作・主演・音楽、第2の故郷パタゴニアで荒野の幻想譚『約束の地』
映画『約束の地』より

『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズからデヴィッド・クローネンバーグ監督の『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『イースタン・プロミス』『危険なメソッド』まで幅広い役をこなす演技派ヴィゴ・モーテンセン。彼がアルゼンチンのリサンドロ・アロンソ監督を迎え、自ら製作・主演そして音楽を担当した映画『約束の地』が6月13日(土)より公開される。今回は、2014年のカンヌ国際映画祭国際映画批評家連盟賞を受賞したこの映画の製作経緯についてヴィゴ・モーテンセンが語るインタビューを掲載する。

インタビューでも語られているように、ヴィゴ・モーテンセンはニューヨーク生まれながら、2歳の頃に農場を経営していた父親の仕事の関係でアルゼンチンに移住しており、アルゼンチンを「第2の故郷」と呼んでいる。彼が子ども時代に訪れていた、アルゼンチンとチリにまたがる大自然の残る地域・パタゴニアを舞台に、失踪した娘を探すために荒野をさまようアルゼンチン政府軍大尉が巡る運命を、四隅が丸いスクリーンサイズという独創的なスタイルで描いている。

「混じりけのない」美学を達成したい

──今作を撮ることになったきっかけを教えてください。

2011年、ブエノスアイレスのボエド地区出身の友人で、アルゼンチンの詩人でもあるファビアン・カサスが、リサンドロ・アロンソと映画で協力するつもりだと話してくれた。僕はその話に興味をそそられた。その数年前に、僕はリサンドロとトロントで少し話したことがあって、彼の作品も知っていたし、特に『死者たち/Los Muertos』(04)が好きだった。アナ・ピーターバーグ監督の『偽りの人生』(12)の撮影現場で彼と再び会った時に、リサンドロは「19世紀のアルゼンチンの辺境地帯を舞台にした物語を撮りたい」と言った。そして僕に、アルゼンチン政府軍による先住民の掃討作戦に参加するために15歳の娘と一緒にアルゼンチンにやってきたデンマーク人を演じてほしいと言われたんだ。

映画『約束の地』より
映画『約束の地』製作・主演・音楽を担当したヴィゴ・モーテンセン

この『約束の地』を完成させるには、かなり小規模な作品ではあるが、凄まじく誠実なスタッフによる多くの忍耐と努力が必要だった。そして、この協力関係に基づいた今回の映画製作は、僕がこれまでにかかわった映画の中でも最も満足のいく経験のひとつとなった。ファビアンと僕は、リサンドロのクリエイティブな衝動に敬服し、『約束の地』で自分たちの役割を果たすことで、物語を語る彼の熱い思いに応えようとした。リサンドロのスタイルは、穏やかに、だが、頑固に、ある瞬間に内在する本質的な真実にこだわり、それを蒸留する方法を模索する。

達成したいことは、そういう「混じりけのない」美学だ。そして、優雅に独創的にそれを伝えることだ。リサンドロのような監督は、繊細で信憑性のある語り口で我々を心から感動させることができる、めったに現れない逸材だ。僕は、この監督の創造性が一歩前に踏み出す重要な瞬間を目撃し、その製作チームの一員になれたことを誇りに思う。

映画『約束の地』より
映画『約束の地』より

編集プロセスで偶然決定した
「四隅が丸い」スクリーンサイズ

──パタゴニアでの壮大なロケーションが印象的でした。撮影日数はどのくらいでしたか?まるで秘境のような幻想的な世界が広がっていました。このような荒野での撮影で大変だったことは?

パタゴニアとラ・パンパ州のさまざまな場所で撮影したんだ。最初の数週間は大西洋岸近くで、次の1週間は、映画に登場する砂漠や岩盤地帯のために、ラ・パンパ州の辺ぴな西側地域で撮影した。そのあと、物語の最後に向かってどんどん寒くなっていく部分ではかなり南下して、数日間、洞窟のシークエンスを撮影した。

辛かったのは、都市部やホテルから離れたところにいて、インターネットやそのほかのコミュニケーションツールに一時期全く触れることができなかったことだ。でも、辺ぴな場所がこの物語には必要だったし、外界とコミュニケーションが取れないことで、我々俳優と技術スタッフの少人数チームは絆を深めることができた。個人的には、そういう荒野がとても好きだったよ。

映画『約束の地』より
映画『約束の地』より

──カウリスマキ作品を手掛ける、撮影監督ティモ・サルミネンの印象は?スタンダードサイズの画面に、奥行きを活かした構図が素晴らしかったです。ひたすら歩いていたので、撮り直しはできなかったのでは?

実際にフィルム撮影をしたし、ストックも多くなかった。だから、1ショットか2ショットという限られた撮影だったんだ。ティモは本物の芸術家だよ。彼の「寒々とした」ライティングとアルゼンチンの風景に対する北欧人的な見方は、この映画に審美的なアプローチをもたらしたばかりか、ある程度、僕が演じるデンマーク人の北ヨーロッパ的な視点も捉えている。それがこの映画に、ビジュアル的な不思議さを与えているんだ。

完成した映画は四隅が丸いスタンダードという、ユニークなスクリーンサイズですね。このスクリーンのフォルムに関しては、撮影の段階から決まっていたのですか?

それは幸運な偶然のひとつだった。リサンドロ・アロンソは編集を始めた時に、この四隅が丸いスタンダードサイズのフォーマットを気に入ったんだ。元々はもっと伝統的な、パノラマ形式のアプローチをするつもりだった。でも編集プロセスで未加工のトリミングされていない映像を見た時、彼はそれこそが自分の望むこの映画の表現方法だと思ったんだ。

映画『約束の地』より
映画『約束の地』より

──監督のリサンドロ・アロンソはアルゼンチン人で、『偽りの人生』のアナ・ピーターバーグもそうですが、アルゼンチンの若い才能といっしょに仕事をしたり、プロデュースを手掛けることは今後も積極的に続けていく予定ですか?

僕は、2歳から11歳までアルゼンチンに住んでいた。僕は自分がスクリーン上で観てみたい物語を探している。国籍も、予算も、誰が監督するかも考えていない。アナやリサンドロ、そして彼らのアルゼンチンのスタッフとの仕事を大いに楽しんだよ。だから、僕が幸運なら、別の素晴らしいアルゼンチン作品を見つけられるかもしれない。でも、それは誰にもわからないことだ。

エンディングの解釈は観客に決めてもらいたい

──この作品の結末は、解釈が観客に委ねられていると思います。監督とあなたは、結末に関して、ひとつの答えを持っているのでしょうか?

明らかに、このエンディングにはひとつ以上の解釈があり得る。この物語を回想とする見方も多い。これは夢なのか?そうだとしたら、誰が夢を見ているのか?この映画を観ている間、誰か、あるいは何かの夢に導かれているのか?あたかもホルヘ・ルイス・ボルヘスの小説の中にいるかのように。リサンドロは、脚本のファビアン・カサスや僕と同じく、遊び感覚で、いくつかの推論を立てた。基本的に僕たち3人は観客に任せて、エンディングがどういう意味なのか、それが自分にとって重要かどうかを観客に決めてもらうのが好きなんだ。

映画『約束の地』より
映画『約束の地』より

──音楽も担当されていますね。終盤の夜空の下で眠る場面とエンドロールの2回、流れる曲がミステリアスな音色で映画の世界観を表しています。あなた自身が作曲をし、ピアノも弾いているようですが、この音楽はどのようにして作られたのですか?この曲は映画のシーンからインスパイアされたのでしょうか?

映画で使われた2曲は、僕がギタリスト、バケットヘッドと一緒に10年前にレコーディングした『Please Tomorrow』というアルバムから抜粋したものなんだ。リサンドロはこれらの曲を聴いて、今回の物語にぴったりだと思ったらしい。リサンドロは、監督5作目となるこの映画で初めて音楽を使ったが、撮影や編集プロセスの最後のほうで、イメージを形成するための最終決断をおこなった。これもまた、撮影が始まる前に慎重に計画を練っていたとしても、自分の映画に対して心を開き、創造性を進化させ続けるリサンドロの柔軟性を示す素晴らしい例えのひとつなんだ。

──今後、あなた自身が“監督”をする予定はありますか?

監督に挑戦するのは面白いだろうと思う。3本の脚本を書いたから、どれを製作できるか考えてみるつもりだよ。

(オフィシャル・インタビューより)



ヴィゴ・モーテンセン(Viggo Mortensen) プロフィール

1958年、ニューヨーク州マンハッタン生まれ。デンマーク人の父親とアメリカ人の母親のもとで育ち、南米アルゼンチンなど様々な国での生活を経験。映画デビュー作は『刑事ジョン・ブック 目撃者』(85)。ショーン・ペンの初監督作品『インディアン・ランナー』(91)でのベトナム帰りの青年役で一躍注目された。その後は幅広いジャンルの映画で重要な役柄をこなし、ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』3部作(01・02・03)のアラゴルン役で世界的にブレイク。また『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(05)に続くデヴィッド・クローネンバーグ監督との2度目のコンビ作『イースタン・プロミス』(07)では、アカデミー賞とゴールデン・グローブ賞(ドラマ部門)の主演男優賞にノミネートされた。詩人、写真家、画家、音楽家など多彩な方面で活動している。その他の主な出演作は『カリートの道』(93)『クリムゾン・タイド』(95)『デイライト』(96)『G.I.ジェーン』(97)『善き人』(08)『ザ・ロード』(09)『危険なメソッド』(11)『偽りの人生』(12)『オン・ザ・ロード』(12)など。2015年は『ギリシャに消えた嘘』(14)『涙するまで、生きる』(14)『約束の地』(14)と主演作が続々と日本公開される。




映画『約束の地』
6月13日(土)ユーロスペースほか全国順次公開

映画『約束の地』より
映画『約束の地』より

1882年のパタゴニアを訪れたひと組の父娘の物語。アルゼンチン政府軍による先住民の掃討作戦に参加しているデンマーク人エンジニア、ディネセン大尉のひとり娘インゲボルグが、海辺の野営地から忽然と姿を眩ました。娘を愛してやまないディネセンは必死の捜索を繰り広げるが、思わぬ障害や険しい地形に行く手を阻まれてしまう。やがて、乗っていた馬を失って広大な荒野で孤立したディネセンは、一匹の犬に導かれるようにして摩訶不思議な世界にさまよい込んでいくのだった……。

監督:リサンドロ・アロンソ
プロデューサー:リサンドロ・アロンソ、ヴィゴ・モーテンセン、イルゼ・ヒューアン、シルヴィー・ピアラ、ハイメ・ロマンディア、アンディ・クラインマン、ヘル・ウルスティーン、マイケル・ウェバー、エゼキエル・ボロヴィンスキー、リアンドロ・プグリエーセ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、ヴィールビョーク・マリン・アガー、ギタ・ナービュ
脚本:ファビアン・カサス&リサンドロ・アロンソ
撮影:ティモ・サルミネン
音響:カトリエル・ヴィルドソラ
美術:ミカエラ・バアイ
アートディレクター:セバスチャン・ロセス
衣装:ガブリエラ・アウロラ・フェルナンデス
編集:ナタリア・ロペス&ゴンザロ・デル・ヴァル
音楽:ヴィゴ・モーテンセン
原題:JAUJA
配給:ブロードメディア・スタジオ
2014年/アルゼンチン・デンマーク・フランス・メキシコ・アメリカ・ドイツ・ブラジル・オランダ合作/スペイン語・デンマーク語/110分/スタンダード・サイズ(四隅が丸い)/カラー

公式サイト:http://www.jauja-yakusokunochi.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/約束の地/826596314095251
公式Twitter:https://twitter.com/yakusokunochiJP


▼映画『約束の地』予告編

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