骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2015-06-12 16:00


教え子に女をとられた盗撮教師の転落談、冨永昌敬オリジナル脚本の監督作『ローリング』

三浦貴大×柳英里紗×川瀬陽太の三角関係、全編水戸ロケを敢行
教え子に女をとられた盗撮教師の転落談、冨永昌敬オリジナル脚本の監督作『ローリング』
映画『ローリング』より、貫一役の三浦貴大(左)とみはり役の柳英里紗(右) ©2015「ローリング」製作委員会

『パビリオン山椒魚』『乱暴と待機』の冨永昌敬監督の新作『ローリング』が6月13日(土)より公開される。茨城県水戸を舞台に、おしぼり業者で働く青年・貫一が、かつて盗撮騒動で職を追われた高校時代の担任教師・権藤と再会し、彼の連れていたキャバクラに勤める女・みはりと恋仲になるも、かつての盗撮動画がきっかけで、ヤクザまがいの芸能事務所を巻き込んだ騒動となっていくというエロティック・コメディ。水戸市で全編ロケが敢行され、落ちぶれた中年の元教師・権藤を瀬々敬久監督作品や『サウダーヂ』『蜃気楼の舟』などで異彩を放つ川瀬陽太が演じ、権藤に翻弄されながらも恋に落ちる貫一とみはり役を、進境著しい三浦貴大と柳英里紗が務めている。

今回は水戸という街からインスピレーションを受けオリジナル脚本を書き上げ、今作を完成させた冨永昌敬監督のインタビューを掲載する。

水戸で拾ったアイディアに先生問題を上乗せ

──まず、本作が水戸で撮影されることになった経緯を教えてください。

本作のお話を最初にいただいたのは2012年の秋か年末ぐらいになります。水戸と言えば、以前から毎年のように水戸短編映像祭にはいろいろなかたちで参加させてもらっていました。その経緯で水戸短編映像祭ディレクターの平島悠三くんから「水戸で短編映画を作りましょう」というお誘いをいただきました。それに対してこちらのほうから長編映画にしましょうと、僕としてはチャレンジする気持ちで逆提案させていただいたところ、それをご理解頂いて、時間はかかりましたがこうして完成させることができました。

映画『ローリング』冨永昌敬監督
映画『ローリング』冨永昌敬監督

──どんな風に物語を組み立てていったのでしょうか?

この映画を作るにあたって、この街でいろいろな人にお話を聞いたり街を歩いてみたりしたんです。そのなかで、水戸の歓楽街の大工町に初めて行った日に、なんとおしぼりを配達する青年を見たんですね。しかも車を降りてすぐに。そのときこの男が主人公だと思いました。それから街の不良に取材して、いまどういう仕事がアツいですか?と訊いたら「ソーラーパネルっす」って返ってきた。コレだ、と思いました。“おしぼりとソーラーパネルが水戸で暗躍している”。こういった仮説を立てました。入り口はココだと。それに加えて、ここ数年のあいだに先生の不祥事があまりにも多いのを、ニュースなどで見てすごく気になっていました。この後この先生はどうなっていくんだろうかと、その先の人生を勝手に想像したりしていた。それをずっと映画にしようかどうしようかと思っていたところにこの映画の機会を頂いたので、水戸市は教育に力を入れているので難しいかなと思いつつも、ブチ込んでみようかなと思いまして(笑)、おしぼり、ソーラーパネル、大工町、こういった水戸で拾ったアイディアに先生問題を上乗せしたときに「あ、これで映画が撮れるな」と一気に台本が書き上がりました。

映画『ローリング』より c2015「ローリング」製作委員会
映画『ローリング』より、元教師・権藤役の川瀬陽太 ©2015「ローリング」製作委員会

「ローリング」する登場人物たち

──盗撮事件をおこした元教師・権藤というキャラクターはどのように出来上がったのでしょうか?

今回は権藤というキャラクターを作るうえで、彼の教え子でおしぼり業者で働く貫一になったつもりでいろいろ考えました。自分の小学校、中学校、高校のときにお世話になった先生たちがもし映画の中みたいな転落人生になった場合、次にもし自分が会ったとしたらどうするかと、そんな余計な妄想をしてしまったんですね。その結果、僕の先生たちは妄想のなかですでに3人ぐらい死んでいます(笑)。そんな風に考えながら権藤というキャラクターを作っていきました。で、そういう先生たちのなかに1人ぐらいはダメすぎて、逆に可愛い彼女がいたりするんじゃないか、と思ったんですよ。その可愛い彼女がみはりという女の子なんです。

映画『ローリング』より c2015「ローリング」製作委員会
映画『ローリング』より ©2015「ローリング」製作委員会

──『ローリング』というタイトルはどういった由来でつけられたのでしょうか?

さっきお話ししたおしぼりを配達する青年を目撃した日のことなんですが、その日にスタッフとおしぼりを英語では何というのか、という話になったんですね。正解は分からないのですが、そのときは最初にウェットタオルじゃないか、となりました。でもそれだといわゆる四つ折りの布巾もウェットタオルになってしまうので違うんじゃないかと。おしぼりは巻かれてないといけない。巻かれているからこそこの国を代表する衛生文化なわけですから。だから"ロール"されてなければいけない。それで僕が「ロールド・ウェットタオル」だとではないかと言い出したんです。本当の呼び名はまだわかりませんけども、つまりは“ロール”している状態だと。それを運んだり、動かしはじめると「ローリング」になる。ふざけつつ、かつ真剣にそういうことを考えながらもう一方で、この映画にはおそらく“馬鹿”なひとがたくさん出てくることになると思っていて―この場合の“馬鹿”というのはもちろん僕のなかで愛のこもった尊敬語ですが―そういう人たちがすごく騒いで大活躍する映画になると考えていたんです。そこで例えば「狂騒の20年代」のことを「ローリング・トゥエンティーズ(Roaring Twenties)」とかって言うじゃないですか。ロールド・ウェットタオルの場合の“Rolling”とは綴りは違うんですけど、“騒がしい”というほうの“Roaring”もカタカナで書いてしまえば「ローリング」になる。だからカタカナで表記しているときは両方の意味がこめられるなと思ったのもあります。

映画『ローリング』より c2015「ローリング」製作委員会
映画『ローリング』より ©2015「ローリング」製作委員会

──大工町という歓楽街に届けられて使われたおしぼりたちが、回収されて洗濯されて、また出荷されていくわけですね。

僕のなかの妄想なので大げさに言いますけども、おしぼりというものは、もしかしたら前の晩に男が女の涙を拭ってあげたり、女が喧嘩した男の血を拭ってやったりしているかもしれなくて、そうやって染み付いた汚れの分だけ物語があって、それが次の日には洗濯機でキレイに洗われ、またその次の日にはまったく関係のない場所に配られていく。そこでまた別の物語が染み付くわけですが、おしぼり屋さんはそれを非情かつ冷酷に真っさらに洗ってしまうんです。でもだからこそですが、おしぼり業者さんはそうした小さな物語をたくさん知っているんじゃないかなと思ったんですね。

『ローリング』は僕自身の“先生”たちへの万感の思いを込めた映画になりました。誰だって先生と過ごした思い出はあると思います。いい思い出に限らなくても。なので、見てくれたあなたが久しぶりに先生に年賀状を書きたくなるような映画になるといいなと、かなり本気で思ってます。

(オフィシャル・インタビューより)
映画『ローリング』より c2015「ローリング」製作委員会
映画『ローリング』より ©2015「ローリング」製作委員会



冨永昌敬(とみなが・まさのり) プロフィール

1975年、愛媛県生まれ。1999年、日本大学藝術学部映画学科卒業。卒業制作『ドルメン』が2000年のオーバーハウゼン国際短編映画祭にて審査員奨励賞を受賞。 続く『ビクーニャ』が02年の水戸短編映像祭グランプリを獲得。以後、実験的ホームメイド映画『亀虫』(03)、宮沢章夫総監督『be found dead』の一編「オリエンテ・リング」(04)、実験的リバーシブル映画『シャーリー・テンプル・ジャポン part2』(05)などがシネマ・ロサで相次いで劇場公開され、短編映画作家としての地歩を固める。2006年には、主演にオダギリジョーと香椎由宇を、音楽に菊地成孔を迎えた『パビリオン山椒魚』にて劇場用長編映画に進出。以後のおもな監督作品は『コンナオトナノオンナノコ』(07)、『シャーリーの好色人生と転落人生』(08)、『パンドラの匣』(09)、『乱暴と待機』『庭にお願い』(10)、『アトムの足音が聞こえる』『目を閉じてギラギラ』(11)など。2015年待望のオリジナル脚本作品『ローリング』が公開。




映画『ローリング』
6月13日(土)より新宿K's cinemaほか全国順次公開

映画『ローリング』より c2015「ローリング」製作委員会
映画『ローリング』より ©2015「ローリング」製作委員会

水戸のおしぼり業者で働く貫一は、10年前学校内で盗撮事件を起こし行方をくらましていた元高校教師の権藤と再会する。権藤はかつての教え子たちにつかまり糾弾され面目を失い、さらに東京から連れて来ていたキャバクラ嬢みはりに貫一が一目惚れし権藤から奪ってしまう。一方かつて権藤の盗撮した動画に録画されたある人物に目を付けた貫一の悪友たちによって、芸能事務所を巻き込んだ思わぬ騒動へと発展していく……。

監督・脚本・プロデューサー:冨永昌敬
出演:三浦貴大、柳英里紗、川瀬陽太、松浦祐也、礒部泰宏、橋野純平、森レイ子、井端珠里、杉山ひこひこ、西桐玉樹、深谷由梨香、星野かよ、高川裕也
エグゼクティブプロデューサー:小曽根太、甲斐真樹、宮前泰、池内洋一郎
企画:宮﨑雅彦
プロデューサー:木滝和幸
アソシエイトプロデューサー:磯﨑寛也、宇野航
撮影:三村和弘
照明:中村晋平
美術:仲前智治
録音:高田伸也
整音効果:山本タカアキ
編集・仕上担当:田巻源太
音楽:渡邊琢磨
衣装:加藤將
ヘアメイク:小濵福介
製作:ぽてんひっと スタイルジャム カラーバード マグネタイズ
製作プロダクション:ぽてんひっと
制作協力:シネマパンチ
配給:マグネタイズ
配給協力:プロダクション花城
宣伝:カプリコンフィルム
2015年/DCP/93分/カラー

公式サイト:http://rolling-movie.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/pages/ローリング/402985439874774
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▼映画『ローリング』予告編

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