骰子の眼

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2015-07-10 12:00


ネットのネタが映画化の発端に、セイウチ人間『Mr.タスク』監督インタビュー

『クラークス』『チェイシング・エイミー』ケヴィン・スミス監督新作
ネットのネタが映画化の発端に、セイウチ人間『Mr.タスク』監督インタビュー
映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.

『クラークス』(94)『チェイシング・エイミー』(97)などで90年代から熱狂的な支持を集めるケヴィン・スミス監督による、ある青年が狂気を秘めた老人にセイウチに変貌させられるという驚きの設定のホラー『Mr.タスク』が7月18日(土)より公開される。主人公の青年ウォレスに『ダイ・ハード4.0』のジャスティン・ロング、ウォレスの相棒のポッドキャストのキャスターに『シックス・センス』のハーレイ・ジョエル・オスメント、そして不気味な老人ハワード・ハウ役を『キル・ビル』のマイケル・パークスが演じている。また、ジョニー・デップの娘、リリー=ローズ・メロディ・デップがコンビニの店員役で出演しているほか、ジョニー・デップがクレジットこそないものの、事件を追う探偵・ギー・ラポワンテに扮していることも話題を呼んでいる。今回は、ケヴィン・スミス監督が製作の経緯を語ったインタビューを掲載する。

Twitterでみんな「撮れ!撮れ!」って感じだった

──今作製作のきっかけを教えてください。

2013年6月25日、僕が運営する週に1度のポッドキャスト番組「SModcast」の収録前、視聴者のひとりがイギリスのサイト「Gumtree.com」につながるリンクをツイートしてきたんだ。そのサイトは不要品の売買、求人や仲間の募集などの広告が掲載できるネット上のなんでも掲示板さ。その広告は典型的なものよりずっと感傷的なものだったんだ。掲出した男は「私は、グレゴリーというセイウチと一緒に海で漂流した体験をもち、長く気高い人生を歩んできた。これまでに時間をかけて本物に近いセイウチのスーツを作った。無料宿泊の代わりに、1日2時間セイウチのスーツを着てセイウチの声を出してほしい。私に餌をやらせてくれ」と訴えていた。「SModcast」を一緒に運営しているスコット・モシャーが到着した時に僕は言ったんだ、「今日は面白いネタがあるよ」って。でも、ポッドキャスト以外で使う予定はなかった。

映画『Mr.タスク』ケヴィン・スミス監督
映画『Mr.タスク』ケヴィン・スミス監督

その後、番組中に、この話には結末が必要だ!と思うきっかけがあって、これを映画として観たいと思った。この映画は誰も作らないだろうと悲しくなったんだけど、それから気付いたんだ。あ、僕は映画製作者じゃないか、って。もし観たいなら、僕がこの映画を作れば良いじゃないか、ってね。僕にとって、初監督作品を生み出した時にすごく似た感覚がした。ポッドキャスト中、全く同じ直感で、「自分が撮らなければ」って感じていたよ。

そこで、ポッドキャスト番組を聴いている人に向かって「もしこの映画を見たいならハッシュタグ“#Walrus Yes”とつけてツイートしてくれ」って言ったんだ。翌日Twitterで“#Walrus Yes”を検索したら、何千という“#Walrus Yes”があったのさ。みんな「撮れ!撮れ!撮れ!」って感じだったよ。僕が撮るべきだってみんなが言ってくれているのを知ることができたんだ。

僕は脚本を25ページ書いたあと、妻ジェニファーにその脚本を見せた。彼女には本質的にダメ出しをしてもらいたかった。彼女はアイデアを速攻でつぶす名人だからね。でも、代わりに彼女はそれを読んで言ったんだ、「とても奇妙な話しだわ。でも、このあと何が起こるのか知りたくてしょうがない」ってね。そして、書き終えた脚本を、Demarest FilmsのCEOサム・イングルバートに送ったところ制作が実現、資金調達を得て準備が整ったんだ。

テーマは「レザーフェイス・セイウチ」

──ジャスティン・ロングに主人公の自惚れ屋のポッドキャスター、ウォレス役を依頼したときの印象は?

コメディ俳優の彼は話を気に入ってくれたけど、一つ懸案事項があったんだ。そもそもウォレスのモデルになっているのは僕の友達であり、セックスツーリストのポッドキャスターだった。ジャスティンにしてみれば「観は僕がセイウチのスーツを着せられている姿を見るのは面白いだろうけどセクシャルな要素が僕にマッチするかわからないな」という感じだったろう。僕は彼がいい男を演じる必要はないと思ったけど、ポッドキャスターのあり方については、ウォレスにもっと合う設定があるかもしれないと思った。例えば、ネット上で人を馬鹿にするようなね。

映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.
映画『Mr.タスク』より、ジャスティン・ロング(右)、マイケル・パークス(左) ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.

──では、ハーレイ・ジョエル・オスメントをウォレスのポッドキャスト番組の相棒テディ役に起用した理由は?

ハーレイは幾層も深みがある演技ができるし、ポッドキャスト向けの素晴らしい声を持っていたのが決め手だった。彼はこの映画で唯一道徳的なキャラクターだね。

──ウォレスの恋人アリー役に、ウィル・フェレル主演のスペイン映画『俺たちサボテン・アミーゴ』に出演したキューバ=アメリカ人女優ジェネシス・ロドリゲスを選んだのは?

YouTubeで彼女の名前を検索し、『崖っぷちの男』のクリップ映像を見つけたんだ。その中で彼女はビキニ姿の大変魅力的な女性を演じていたけど、僕が気に留めたのは彼女の細かな表現力だった。それから彼女の他の作品をたくさん見たよ。その上で彼女を気に入ったんだ。

映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.
映画『Mr.タスク』より、ハーレイ・ジョエル・オスメント(左)、ジェネシス・ロドリゲス(右) ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.

──幼児虐待という体験を経て教養あるシリアル・キラーになった船乗りハワード・ハウ役のマイケル・パークスについては?

演技が別格だった。パークスは初め、車椅子に乗ったか弱い老人を演じているのに、ある起点を境に活発で邪悪な男に変わるんだ。僕が書いたセリフをまるで歌のように変幻自在に操る彼を見ながら、なかなか「カット!」って言えなかった。パークスが演じ続ける姿をもっと見たかったんだ。『フロム・ダスク・ティル・ドーン』に出ているパークスを見た後、カルト教団を描いた映画『レッド・ステイト』に出演してもらった。僕はマイケルが『レッド・ステイト』での演技のような強烈さを維持するのを想像していたんだけど、ただ人をセイウチに変えたい欲望をもつ森の奥に澄んだ狂気の老人という役柄を描くために、政治や宗教、そして性的な要素は取り除いたんだ。

映画『Mr.タスク』より c2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.
映画『Mr.タスク』より、マイケル・パークス ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.

──特殊効果のロバート・カーツマンは以前『ウォーキング・デッド』の特殊効果を手がけているKNB EFXグループの伝説的な存在、グレッグ・ニコテロと一緒に働いていた経歴を持つ人物ですね。

僕たちはCGに頼りたくなかったんだ。そしてロバートは素晴らしい職人だったよ。僕は『悪魔のいけにえ』を思い描いていた。僕のロバートへの提案は“レザーフェイス・セイウチ”だったんだ。そして彼は「そこにフランケンシュタインも追加だな」と続け、デザインを送ってきてくれた。そのデザインに、あとはヒゲを追加するだけだった。牙はウォレスの脛骨からできている。決定的な瞬間は、ロバートが頬髭を付け足した絵を持ってきたときで、僕は「おお、これは最高だ!まさにセイウチ人間だよ!!」って声をあげたよ。

映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.
映画『Mr.タスク』より、リリー=ローズ・メロディ・デップ(右) ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.

──姿を消したウォレスの居場所を探すテディとアリーに加わる、アル中のカナダ人探偵ギー・ラポワンテはミステリアスですね。

映画を見る人みんなが気になるんだ、「あの男は誰なんだ?」って。だから僕は言うんだ、「彼は誰もが注目する人物だ」とね。ノースカロライナでの15日間の撮影から戻って1週間後からロサンゼルスでラポワンテのシーンを撮影した。彼は見るにも聞くにも非常に面白い人物だ。ギー・ラポワンテが出ているシーンが入っていない『Mr.タスク』を家で見せたとき、後半があまりにもダークすぎる印象だった。見た人は「ああ、これは耐え難い」という感じだったのに、ギー・ラポワンテのシーンを入れたバージョンを見せると「これは可笑しい!」ってなったんだ。映画全体が狂気とユーモアの混ざった幻覚的な世界へと落ちていく。そして別のストーリーが後半のラポワンテの登場と共に始まるんだ。映画を抑制するには才能あるパフォーマーが必要だ。そして彼は映画を全く違う方向へと導いてくれる。ギー・ラポワンテという人物が功を奏したよ。

映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.
映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.

インターネットがなければ、この映画はできていなかった

──『Mr.タスク』に潜在するユーモアと残酷シーンの絶妙な組み合わせは、クエンティン・タランティーノの感性に通じるものがあります。冒頭、『キル・ビル』の刀さばきを真似た少年が誤って自らの足を切り落としてしまい、その少年をウォレスは取材しにいく決断をすという設定はまさにタランティーノへのトリビュートですね。

タランティーノがプロデュースしたロバート・ロドリゲス監督のヴァンパイア映画『フロム・ダスク・ティル・ドーン』でアクションするパークスを初めて見た。タランティーノ監督なしではマイケル・パークスの仕事を知ることがなかったから、「キル・ビル少年」を登場させて敬意を払ったのさ。

映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.
映画『Mr.タスク』より ©2014 Big Oosik, LLC, and SmodCo Inc. All Rights Resereved.

──製作のきっかけとなった視聴者からはその後、連絡はあったのですか?

『Mr.タスク』の製作決定の情報が流れた時、構想のきっかけになった“あの広告”を教えてくれた人物から連絡があった。それはイギリスのブライトン出身のクリス・パーキンソン。彼がいなければこの映画はなかったと言っても過言ではない。彼が僕をインターネットで見つけたんだ。そして僕に、あの広告が偽物だったと伝えた。だから僕はこう言ったよ、「君は僕の創作意欲を掻き立てたんだ。映画のプロデューサーになりにおいでよ」って。僕らは彼を現場に行かせて、テディとアリーがバーでウルヴァリンに似た人物と話しているシーンに出てもらったんだ。撮影現場にクリスがいることで、インターネットが奇妙で素晴らしい世界だってことを現場のスタッフは思ったはずだよ。なぜならインターネットがなければ、この映画はできていなかったんだからね。

(オフィシャル・インタビューより)



ケヴィン・スミス(Kevin Smith) プロフィール

熱烈な支持を集めるコミック作家でありながら、『クラークス』(94)で映画監督デビュー。『モール・ラッツ』(95/未)、『ドグマ』(99)などで早くからベン・アフレック、マット・デイモンを起用。ベン・アフレック主演のコミック作家の青春ラブストーリーを描いた『チェイシング・エイミー』(97)はインディペンデント・スピリット賞にて脚本賞と助演男優賞を受賞し、脚光を浴びる。その他の監督作品に『恋するポルノ・グラフィティ』(08/未)、『コップ・アウト〜刑事した奴ら〜』(10)、『レッド・ステイト』(11/未)がある。また役者としても自身の作品で無言を貫くサイレント・ボブとして出演し、その他にも『デアデビル』(03)、『スクリーム3』(00)、『ダイ・ハード4.0』(07)などにも出演している。今後の待機作はジョニー・デップ、ジャスティン・ロング、ハーレイ・ジョエル・オスメントらと再び集結した『Yoga Hosers』(15)がある。本作はヨガに通う2人の女の子が伝説的な探偵とともに現代に復活した悪と戦う、という物語。




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映画『Mr.タスク』
7月18日(土)より新宿シネマカリテ、渋谷シネクイント(レイト)ほかにて公開

映画『Mr.タスク』ポスター

ポッドキャストを運営するウォレス・ブライトン(ジャスティン・ロング)は視聴率を伸ばしたいがため、ネタになる人取材でカナダを訪れる。とあるバーに立ち寄ったとき、航海の話を聞いて欲しいという老人がいることを知り、彼の家を訪ねることに。老人はハワード・ハウと名乗り、そこで手厚いおもてなしを受けるウォレス。ハワードが体験した壮絶な航海の話を聞きながら紅茶に手を伸ばすが、それには睡眠薬が含まれており、たちまち気を失ってしまう。目が覚めると足の感覚がなく、パニックになるウォレス。そこでハワードは「これから君はセイウチになるんだ。“Mr.タスク(キバさん)”」と告げる。連絡が途絶えたウォレスを心配して友人のテディ(ハーレイ・ジョエル・オスメント)と恋人のアリー(ジェネシス・ロドリゲス)はとある人物の力を借りつつ、彼の追跡を始める―。

監督・脚本・編集:ケヴィン・スミス
出演:ジャスティン・ロング、マイケル・パークス、ハーレイ・ジョエル・オスメント、ジェネシス・ロドリゲス
製作:サム・イングルバート
撮影:ジェームズ・ラクストン
美術:ジョン・D・クレッチマー
衣装デザイン:マヤ・リーバーマン
特殊メイク:ロバート・カーツマン
音楽:クリストファー・ドレイク
2014年/アメリカ、カナダ/102分
字幕監修:高橋ヨシキ
原題:Tusk
提供:パルコ、ハピネット
配給:武蔵野エンタテインメント

公式サイト:http://kibasan.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/kibasan.jp
公式Twitter:https://twitter.com/kibasan_mov


▼映画『Mr.タスク』予告編

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