骰子の眼

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東京都 新宿区

2015-07-31 19:34


ベルセバ監督作でボーイ&ガールは音楽に出会う『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』

エミリー・ブラウニング主演、W・アンダーソン監督作を手掛ける敏腕Pインタビュー
ベルセバ監督作でボーイ&ガールは音楽に出会う『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より、左よりジェームズ役のオリー・アレクサンデル、イヴ役のエミリー・ブラウニング、キャシー役のハンナ・マリー © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012

スコットランドを代表するバンドで今年のFUJI ROCK FESTIVALにも出演したベル・アンド・セバスチャンのリーダー、ステュアート・マードックが脚本・監督を担当した映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』が8月1日(土)より公開される。

スコットランドのグラスゴーを舞台に、うつ病と拒食症で入院中だった少女イヴが病院を抜け出し向かったライヴハウスで少年ジェームズと少女キャシーと出会い、ともに音楽を作っていくことを決め、自らの思いを音楽に託していこうとする。そんな3人に起こるひと夏の出来事をミュージカル・タッチで描いていく物語だ。スチュアートが脚本段階からサウンドトラックを同時進行していたというだけあり、ベル・アンド・セバスチャンの楽曲を随所にちりばめ、バンドの世界観を見事に映像化している。『はなればなれに』『茂みの中の欲望』などの60年代の映画や80年代のネオ・アコースティックへのオマージュと、ポップでカラフルな映像とサウンドの意匠が目を引くが、青年期特有の鬱屈した感情を持つ少年少女が大人になる過程を描くドラマとしても秀逸だ。

主人公のイヴを『エンジェル・ウォーズ』のエミリー・ブラウニングが演じ、少年ジェームズを人気バンド、イヤーズ&イヤーズのヴォーカリストで俳優としても活動するオリー・アレクサンデル、そしてふたりとともにバンドを始める少女キャシーをハンナ・マリーと、これからの活躍が期待される若手俳優が出演している点にも注目してほしい。

プロデュースを担当したのは、ウェス・アンダーソン監督作『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ライフ・アクアティック』などを手がけるバリー・メンデル。今回は監督・脚本を担当したスチュアートと10年越しでこの企画を実現させたバリー・メンデルのインタビューを掲載する。

「君たちの音楽にハマったよ、頭から離れない」

──まず、監督のスチュアート・マードックとの出会いから教えてください。

2007年にスチュアートは彼の曲を歌ってくれる歌手を募集していた。公募だから一般人もデモテープを送れたよ。私はそのことを知って、彼は映画を作る気なのだと思った。スチュアートのバンドのファンでもある私は、「彼は本気だ」と胸が高鳴ったね。バンドのサイトを通じてファンレターを送ったよ。「君たちのファンなんだ。映画界の者だから、いつでも手を貸すよ」とね。

映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』スチュアート・マードック監督とプロデューサーのバリー・メンデル
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』スチュアート・マードック監督(右)とプロデューサーのバリー・メンデル(左)

スチュアートには内容の濃い手紙を書いた。彼らのファンになったのは2006年だ。ハリウッド・ボウルでのライブを友人と見に行った。ロサンゼルス・フィルハーモニック・オーケストラとの共演で、魅惑的な空気が漂っていてとても良かったよ。ただ、前半にスチュアートがやたら飛び跳ねる姿は、わざとらしく思えて好きになれなかった。でもショーを楽しみ、はしゃぎ続けるうちに、彼は自然体で舞台に臨んでると分かった。

その後は、それまでロクに聴かなかった彼らの曲を聴き直すようになり、ハマり始めた。私の場合は好きな曲に出会うと1~2ヵ月聴きまくる。その後熱が下がり、別のバンドに気が移るんだ。でも、彼らの曲は聴き続けていた。1年が経ってもよく聴き続けていたんだ。私にはとても珍しいことだよ。それで彼らを調べる気になった。彼への手紙にはそうした経緯を書いて私なりに敬意を払おうとした。「君たちの音楽にハマったよ、頭から離れない」ってね。

返事には「僕もあなたの映画を何度も見た」とあった。こうして互いに褒め合うやり取りが何度か続き、親交が深まっていった。

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より、イヴ役のエミリー・ブラウニング © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012

時にはスチュアートに怒鳴られたりもした

──スチュアート・マードックとの共同作業はどのように始まったのですか?

シャイな求愛行動だった。私が何気ない質問をして場を和ませると、スチュアートはスケッチ画を見せてくれた。粘り強く質問していくと、曲を見せてくれたりもしたよ。最終的には脚本まで読ませてくれるようになった。物語の3分の2ほどだったが、既に247ページほどあって驚かされたね。

共同執筆のおかげで、楽しみながら質を高められた。でも、スチュアートはつらそうだった。とにかく早く映画を撮りたがってね。私は脚本の第1稿が完成するまで4年はかかると彼に伝えたよ。わざと大げさに言ったんだ。

時には彼に怒鳴られたりもした。キレられたことも1度あったよ。僕が携わった作品の中には大作もあるから、彼は「僕は幸運だ」と思っていただろう。でも、いいシチューを作るためなら、私はいくらでも待てる。私のこの忍耐強さは、数々の映画制作を通して得られたものだと思う。経験のない料理人ほど調理を急ぎたがるものだしね。

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より、左よりキャシー役のハンナ・マリー、イヴ役のエミリー・ブラウニング、ジェームズ役のオリー・アレクサンデル © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012

──英国での映画制作について教えてください。

アメリカなら独立系の映画でも、資金集めは比較的容易だ。配給会社の手配もあるが、手間はそれほどかからない。しかし、英国での映画制作はその数倍も困難だ。資金源はテレビ局や配給会社をはじめ、海外や民間投資機関も含まれる。おまけに税金の払い戻し制度もあって、これがまたややこしい。早い段階で手に負えないと気づいた。

そこでプロデューサーのキャロル・シェリダンとロンドンの制作会社に協力を仰いだ。おかげで準備がはかどり、何とか映画制作にこぎつけられたんだ。

ジャケットで見た景色を映画に収めたいと思った

──2011年にはクラウドファンディング・サイト、キックスターターでの資金集めを行い、12万1,00ドル(約1,500万円)を集めましたね。

キックスターターでの資金集めは奥の手だった。英国映画協会やBBCを頼っても、企画が通らないと読んでたのさ。だから資金面で前向きになれる何かが必要だったんだ。

確かに税金の払い戻し制度も知っていたし、支援団体のアテもあったよ。でも、それ以上の資金が必要でね。

キックスターターでの資金集めは苦労したよ。資金を募っている間、何度も投資ペースが下がり、諦めようと思った。キックスターターは「全か無か」だ。目標額に届かなければ一銭ももらえない。こんなバカげた約束もしてた「10万ドルが集まったら、200万ドル相当のレベルの映画を必ず作ってみせます」とね。無茶だろ?12万ドルぽっちじゃ実現できない。まったく無責任な約束だった。こんな約束もした。「目標額に届いたら、絶対にこの映画を作ります」。でも、おかげで後に引けなくなり覚悟できた。

ファンからは惜しみない援助を受けた。スチュアートたちのおかげさ。ファンを大事にしている証拠だ。

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より、ジェームズ役のオリー・アレクサンデル(左)、イヴ役のエミリー・ブラウニング(右) © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012

──撮影クルーはどのようにまとめたのですか?

撮影クルーが集結する頃、実は私はグラスゴーにはいなかったんだ。もちろん、人選時には履歴書や作品の山に目を通したよ。ただ、プロダクション・デザイナーのように顔なじみも結構いてね。旧知の者が多かったんだ。だから、安心して任せられた。彼らに断られなくて幸運だったよ。

──ジャイルズ・ナットジェンズによる16ミリでの撮影が素晴らしかったです。

撮影監督の人選には苦労した。新たな撮影監督を試すことにしたからだ。結果的には幸運と決断力が私たちに味方してくれた。ジャイルズ・ナットジェンズを見つけたんだ。粘り強い撮影監督だよ。撮影期間が限られていたので、ノウハウを熟知してる彼には助けられた。この映画制作では間違いなくMVPだよ。綿密な物語を、短時間で巧みにフィルムに収めていた。

本作を見た映画制作者なら、きっと誰もが「あの予算でどう撮った?」と聞くだろう。私の答えは一言だけ「ジャイルズ」だよ。

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012

──グラスゴーでの撮影はいかがでしたか?

グラスゴーは美しい町で、楽しく撮影できた。スチュアートと一緒によく散歩したものさ。公園も並木道も川辺もきれいでね。建造物や大通り路地や店も素晴らしかった。映画のロケ地としても、グラスゴーの風景は他と比べて群を抜いてると思ったね。労働者の抑圧感が感じ取れる町なんだ。

一方、グラスゴーの西端は何と言うか……自由人の多いエリアだ。町の隠れた一面見たようで楽しかったよ。

ベルセバや他のバンドの音楽を頼りにグラスゴーを思い浮かべてた。数々のバンドのジャケットで見た景色だ。それに近い風景を映画に収めたいと思っていたし。実際に撮れたと思うよ。

(オフィシャル・インタビューより)
『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012



バリー・メンデル(Barry Mendel) プロフィール

1963年生まれ。M・ナイト・シャマラン監督の『シックス・センス』(1999年)『アンブレイカブル』(2000年) 『ハプニング』(2008年)、ウェス・アンダーソン監督の『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)『ライフ・アクアティック』(2005年)、ドリュー・バリモア監督の『ローラーガールズ・ダイアリー』(2009年)と数々の天才監督を見出し、大ヒットに導いた名プロデューサー。『シックス・センス』(1999年)と『ミュンヘン』(2005年)で、2度アカデミー賞にノミネートされた。




映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』
2015年8月1日より、新宿シネマカリテ ほか全国順次ロードショー

スコットランドのグラスゴーのとある街。うつ病と拒食症のため実家から離れた病院に入院中の少女イヴ(エミリー・ブラウニング)は、一人ピアノに向かい曲を書いていた。次第に、音楽は彼女に生きる目的を与え、目の前に続く道となっていく。ジェームズ(オリー・アレクサンデル)とキャシー(ハンナ・マリー)もまたそれぞれ、自らの岐路でさまよっていた。ジェームズは自分の理想とする音楽を一緒に追求する仲間に出会うことができず、キャシーは漠然と書いたり、演じたり、歌ったりしたいと思いながら、何から始めれば良いのか分からなかった。ある日、イヴは、病院を抜け出し向かったライブハウスで、アコースティック・ギターを抱えたジェームズに出会い、さらに友人のキャシーを紹介された。ジェームズの案内で街をめぐりながら、イヴが作る音楽を聴いているうちに、3人は音楽を一緒に作り始めること。その夏、3人の友情と恋が、音楽にのって始まった-。

『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』より © FINDLAY PRODUCTIONS LIMITED 2012

監督・脚本:スチュアート・マードック
製作:バリー・メンデル
共同製作:キャロル・シェリダン
出演:エミリー・ブラウニング、オリー・アレクサンデル、ハンナ・マリー
撮影:ジャイルズ・ナットジェンズ
編集:デヴィッド・アーサー
イギリス/2014年/英語/カラー/111分/DCP/PG-12
原題:God Help The Girl
配給:アット エンタテインメント
配給協力:武蔵野エンタテインメント

公式サイト:http://godhelpthegirl.club/
公式Facebook:https://www.facebook.com/godhelpthegirljp
公式Twitter:https://twitter.com/godhelpthegirlj


▼映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』予告編

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