骰子の眼

cinema

2016-01-19 22:00


日本の未来を、アメリカによる“治安維持”という名の“対テロ戦争”から考える

映画『レストレポ前哨基地』DVD発売記念パネルディスカッション
日本の未来を、アメリカによる“治安維持”という名の“対テロ戦争”から考える
写真右から、ゲストの小林よしのり氏、加藤朗氏、佐野伸寿氏。写真左は司会を務めた『レストレポ前哨基地』の配給会社であるアップリンク代表の浅井隆氏。

全米公開時に、その圧倒的にリアルな描写で、アカデミー賞やサンダンス映画祭をはじめ25もの賞に選ばれた戦場ドキュメンタリーの傑作『レストレポ前哨基地』のDVDが、先月12月2日に発売された。本作は、地上で最も危険な戦線と呼ばれ、映画『ローン・サバイバー』の舞台にもなったアフガニスタン東部コレンガル渓谷へ、2007年に派兵された米軍小隊を1年間追った記録である。

その本邦初ソフト化を記念し、去る11月25日に渋谷ユーロライブにおいて、上映とパネルディスカッションが開催された。ゲストには、社会問題に斬り込み数々の論争を巻き起こしている漫画家の小林よしのり氏と、元防衛研究所所員で多くの紛争地に自ら赴いている「自衛隊を活かす会」呼びかけ人の加藤朗氏、映画監督でありながら現役自衛隊員としてイラク復興人道支援活動の経験がある佐野伸寿氏の3名が登場した。




“戦争”と“テロ”の違い


浅井隆(以下、浅井):はじめに、映画の感想をゲストの皆さんに伺いたいと思います。小林さんは今年(2015年)の7月に刊行された『卑怯者の島』(小学館)について、あるインタビューで「反戦でも好戦でもなく、イデオロギー色のない戦争のリアルを描きたかった」とおっしゃっていますが、『レストレポ前哨基地』の監督二人も、「この映画で伝えたかったのは、戦争の政治的な側面ではなく、兵士たちの体験であり、現実の戦場を再現するのが目的だった」と、まさに同様のことを述べています。小林さんは、戦争映画をすべて観るようにされているそうですが、この映画はいかがでしたか?

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小林よしのり(以下、小林):9.11の後にアメリカがアフガン・イラク戦争に突き進んで行った当時から、「民間人とタリバンを選別して掃討するのは無理ではないか」と思っていましたが、この映画でそれが実証されるシーンが出てきて興味深かったです。タリバンは村の中に入り込んでしまっているので、村人と見分けがつくわけがない。村民にしてみたらアメリカ軍は明確な異教徒なのだから、基本的に嫌いなんですよ。よくこんな所に平然と行って、「タリバンの掃討に協力してくれ」と言えるもんだなと思いました。

浅井:加藤さんは、1981年から15年間、防衛庁の防衛研究所で中東ゲリラの問題を研究され、その後、桜美林大学の国際学研究所に移ってからは、多くの紛争地域へ現地調査にも赴かれています。加藤さんからご覧になって、この映画はいかがでしたか。

加藤朗(以下、加藤):私はこの映画が撮影された同じ時期の2008年と2010年の計2回、アフガニスタンに行きました。2010年に行った際には、数百メートルほど離れた場所で自爆テロと銃撃戦を目の当たりにしました。ここでアメリカ軍がやっているコイン(COIN=Counterinsurgency対反乱)作戦は、ベトナム戦争のときからまったく進歩していません。村人を味方につけてゲリラ兵を排除するという戦い方ですが、ベトナムでも見事に失敗しました。

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アメリカには技術信仰があり、兵器や戦術でゲリラを殲滅できると考えています。ところがベトコンにしてもタリバンにしても、戦術ではアメリカに負けるが、戦略では勝つんです。この映画を観て、同じことを繰り返しているアメリカは、コレンガル渓谷から撤退せざるを得ないと思いました。ちなみに、アフガニスタンに手を突っ込んだ帝国は、必ず崩壊しています。最初は大英帝国、次がソ連ですが、アメリカも同じ道を辿ることになりかねないと私は予測しています。

浅井:佐野さんはカザフスタンなどの中央アジアを舞台にした映画(『ラスト・ホリデイ』『アクスアット』『3人兄弟』『歌って』)のプロデューサーで、ご自身も監督をされていますが(『ウイグルから来た少年』『春、一番最初に降る雨』)、現役の陸上自衛官でもあり、2006年にイラクで人道復興支援活動にも参加されています。映画監督そして自衛官として、この映画はどのように感じましたか。

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佐野伸寿(以下、佐野):戦場をありのままに描いた、質の高いドキュメンタリーだと思いました。私の場合はどちらかというと、この映画の視点とは逆の、現地の人々に焦点を当てた映画を作ってきました。私が制作したほとんどの映画に、旧ソ連軍でアフガニスタンを経験した人が登場しますし、アフガンはソ連に色濃く影を落としました。ソ連は1979年にアフガニスタンに攻め込んでおよそ10年後に崩壊しましたが、9.11でアメリカが侵攻してから石油の価格が上がり、再び大国ロシアに戻っていった経緯があります。加藤先生のお話にもあったように、アフガンに介入する国は没落し、傍観者になると栄えるような面があるように思えます。

浅井:皆さんがおっしゃったとおり、この映画を観るとアメリカ軍が“テロとの戦い”に失敗していることがよくわかります。それでは次に、日本の安全保障についてご意見を聞いていきたいと思います。

先週(2015年11月14日)フランスで、イスラム国による同時多発攻撃が起きた後、このディスカッションのために、ツイッターでアンケートを取りました。僕とアップリンクのフォロワーなので、当然、偏りはありますが、このような結果になりました。

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「フランスのIS拠点への空爆に賛成か反対か」という問いに145票の回答があり、「話し合いができる相手ではないので空爆に賛成」が23%、「暴力の連鎖は良くないので空爆に反対」が77%でした。また、「もし日本がISに攻撃され多くの死傷者が出た場合どうすべきか」という問いに176票の回答があり、「話し合える相手ではないので攻撃すべき」が24%、「暴力の連鎖は良くないので攻撃すべきでない」が76%でした。この結果を、皆さんはどう思われますか?

加藤:私は自分が発言する範囲が、自分の正義だと考えています。つまり、攻撃をしないということは、自分が殺されても文句は言わない、それだけのことです。問われているのは、その覚悟が本当にあるのか、それが本当に実行できるかどうかです。自分が実行できると判断するならば、それは立派な正義だと思います。アンケートで空爆に反対した人たちに、その覚悟があるのかを訊いてみたいです。

小林:今、加藤さんが言われたのは、ガンジーの非暴力主義のことで、反撃はしないけれども非暴力で抵抗する。どんなにやられても、暴力や増悪に訴えないということです。でも、わしは自分の家族や友人たちが殺されたら、激昂すると思うんですよ。黙って粛々と受け入れることはできない。「復讐してやる」と思ってしまうでしょう。他国が攻撃されるのと、自国がされるのとでは、やはり違うんです。同胞のことなのでナショナリズムが沸き立つ。ただ、戦争と違ってテロだと、非常に難しいですよね。

浅井:そうですよね。テロ組織の場合、どこに報復すればいいのか。当然イスラム国は国連にも加盟していないし、ラッカといっても彼らの「自称」首都でしかないし。

小林:そう、テロはそもそも報復の方法論がない。もし、イスラム国が日本にテロを起こしたら、「報復しろ」と日本中が沸き立つでしょう。その時に、わしが「報復といったって、何ができるの?」なんて言ったら炎上ですよ。だから、日本でテロが起こった際に、言論人としてどう発言するかも非常に難しいです。

浅井:自衛隊は、ガンジー主義のように無防備で敵に向かっていく訓練は、当然していませんよね?(一同笑)佐野さんは、このアンケート結果をどう思われましたか?

佐野:イスラム国の場合は、原理主義ではなかったフセイン政権の残党が、戦闘知識もあったので力をつけたという背景があります。つまり、テロの連鎖はいつどこから起こるかわからない。今回のフランスのテロから学べる面もありますが、現在のフランス社会固有の問題に起因しているところが大きいので、日本が基本的に取るべき道は、テロを起こさせないことに力を注ぐことになりますね。入国を厳しくしたり、警察の人員を増やしたりといった部分です。

浅井:加藤先生にお訊ねします。オランド大統領は「フランスは戦争状態にある」と言っていますが、国家の戦争とテロ組織による攻撃とは、どこが違うのでしょうか。

加藤:テロは法律的に犯罪なのか戦争なのか、区分けが非常に難しい。犯罪とするならば国内法、戦争は国際法で裁かれますが、テロ組織は国際法の交戦団体に認定されていません。だからこそアメリカは、テロ被疑者を国内法の犯罪者とも国際法の捕虜とも扱わないで「敵性戦闘員」と定義して、キューバのグアンタナモ基地内に収容しています。彼らは法的な救済をまったく受けられません。

この件に関して、日本で一番大きな問題が、国際平和支援法で海外派遣される自衛隊員です。現在、自衛隊が南スーダンに行っていますが、彼らが万が一、誤射などして地元民を殺傷した場合に、いったいどこの法律で裁くか。交戦権を持っていない自衛隊は国際法で裁けませんし、自衛隊法にも刑法にも国外で犯した過失を裁く規定はない。そういう非常に法的に危ういところがあるので、私は安保法制の、特に国際平和支援法に反対しています。

テロの話に戻しますと、テロを防ぐためには、われわれがどれだけ自由を犠牲にできるかが問題になってきます。私は、かつて法務省の入国管理委員だった時、スマートパスポートの採用を提言していました。しかし日弁連(日本弁護士連合会)に「それは人権侵害だ」と反対されました。はたして、今でも彼らは反対するのでしょうか。つまり、「テロの犠牲になっても自由を失いたくない」という覚悟があるのか。その覚悟が無いのに、政府に「安全を守れ」と求めるのは間違っています。



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映画『レストレポ前哨基地』より ©GOLDCREST FILMS, OUTPOST FILMS.


日本が攻められたらどうするか?


浅井:日本が攻められたら、どうすればいいとお考えですか。

加藤:憲法9条で国家の自衛権を否定した段階で、日本は集団で戦うことを放棄したわけですから、憲法9条を守れというならば、自分の責任で自らを守るべきです。その守り方は、武装するか、非暴力か、自分の判断です。憲法が国家の自衛権を認めていないのだから、自衛隊は違憲です。しかしながら、自然権として私たちには個人の正当防衛権があります。したがって、私は個人に武装権を返すべきだと思っています。

浅井:個人が持つ武器で、どうやってミサイルと戦うんですか?

小林:たとえばスイスは国民皆兵ですから、一度は徴兵されて軍隊の知識を得てから、銃をもらって自分の家に置いているわけです。核シェルターも各戸にある。それなら、わしも嬉しいです。自分で守れるんだから。だって自衛隊も警察も突破されて自分の家に迫ってきたとしたら、武器が欲しいですよ。でも、国家というのは、暴力装置を権力に一手に奪われていますからね。国内に向かっては警察、国外に向かっては軍隊。これがあって本来の国家です。だから、軍隊がない今の日本は国家の体を成していないわけですよ。

加藤:さっき私が言った「個人が武装すべき」というのは理想・極論であって、現実的には自衛隊を専守防衛に活かすことだと思います。小林さんが今おっしゃったように、日本が国家かと言えば国家ではない。主権は国民に存しているので、本来ならば国家は共和制であるべき。でも、日本はカッコ付の立憲君主制です。個人が武装するのではなく、皆で守ろうというのであれば、つまり自衛隊を軍隊にするためには何が必要かというと、君主制をやめて共和制にすることです。日本は戦後、天皇制を維持する代わりに非武装を受け入れたんです。

小林:天皇制を残すか残さないかにかかわらず、アメリカは日本を非武装にしたと思います。要するに、日本が怖い存在だったんですよ。それと今現在、主権はどこにあるかといえば、国民でも政府でもなく、アメリカにあるんです。軍隊がないから、アメリカに主権が渡ってしまっている。アメリカに守ってもらわないとならないから。だからイラク戦争の反省なんかできないんです。だから軍隊を持って「自分で守る」と言えば主権が戻りますよ。

加藤:ただ、日本の自衛隊とアメリカ軍の関係は、切っても切れません。兵器体系が進歩する過程において、日米が一体化していかざるを得なくなっていますから、日本の自衛隊はアメリカの情報がないと身動きがとれなくなっています。なぜ今回の安保法制を作ったかという理由の一つも、米軍とともに戦う体制を整えるために新しいガイドラインが必要だったからです。

小林:でも、たとえば尖閣諸島で有事があった場合、米軍は直ちに出動はしてくれませんよ。まず米上院・下院で可決されるまでに、4時間以上かかりますから。そもそもアメリカは、尖閣の実効支配権が日本に今あるだけで、日本の領土とは認めてないですし。だから、自衛隊は単独で戦わなければいけないんです。

加藤:おそらく尖閣でアメリカは実働部隊は出しません。その代わり、情報を自衛隊に流して支援するでしょうが、それで自衛隊だけで防ぎきれるかについては、私は極めて懐疑的です。今、単独で戦える国はほとんどありません。

佐野:尖閣諸島の先には台湾もありますし、中国がどういう軍事的な作戦を取れるかという分析も必要です。



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映画『レストレポ前哨基地』より ©GOLDCREST FILMS, OUTPOST FILMS.


アメリカの戦争に加担する日本


浅井:つまり加藤さんは、日本の自衛隊は米軍から自立できない、とおっしゃっているのですか。

加藤:できません。アメリカの太平洋艦隊の一組織ですから、米軍だって自衛隊なしで世界展開をすることはできません。その意味ではアメリカも日本に従属しているわけです。日本の自衛隊も、極論すれば、共同交戦能力が高まるほど、アメリカ軍からの情報がないと、航空機を飛ばすことができませんし、イージス艦からミサイルも発射できません。

小林:要するに、自衛隊は米軍の情報に従って動くしかできないのだから、その現実を認めろと。わしが問題にしているのは、それを「仕方がない」と言ってしまう精神構造です。それだとアメリカが中東に突っ込んでいくと言い出したら、日本はついて行かざるを得なくなります。わしは中国や北朝鮮に関しては、簡単に戦争になるとは思っていないし大して心配していませんが、問題は中東です。日本がこういう宗教戦争の中に踏み込んだら大変なことになるから、あの地域は避けろと言っているんです。アメリカに従属していく限りは、いつかその日が来ますよ。

加藤:現実を踏まえた上で当面は国土防衛のためだけに自衛隊を活かし、将来的には憲法9条を実現化していく方向で、つまり軍隊をなくす方向で、国際社会を変えていくべきだというのが、私の主張です。

浅井:軍隊をなくして、どうやって国を守るんですか?

加藤:国家は守らない。一人一人が守るんです。

浅井:その覚悟は国民にあるんでしょうか。

加藤:もっと言うならば、私は無政府主義者です。世界が今のような主権国家体制になったのは、ほんのここ3~400年の話で、それまでは多様な国家体制がありました。実はその多様性に目を向けるべきなのです。第一次世界大戦のときに、欧米列強が中東に持ち込んだ主権国家体制を否定しているのが、イスラム国です。イスラムの政治共同体を作ろうという動きは、オスマン帝国が(1922年に)倒れて以後、カリフ制の再興を願うスンニ派原理主義者たちがずっと挑戦してきていて、今に始まったものではありません。

小林:アメリカも中国もロシアも「主権国家を失くそう」と言うなら、わしも賛成しますよ。

加藤:日本はこの70年間、一度も対外戦争をしていない、唯一の先進国です。これは私たちが誇っていいことです。ただし、その代償として、私たちは戦争とは何かについて思いを致すことができなくなったんです。ほとんどの先進国は、湾岸戦争もしくはアフガニスタン戦争、イラク戦を経験しています。それらの戦争は、太平洋戦争とまったく様相の違う戦争です。ところが日本人は、いまだに太平洋戦争をイメージしながら現代の戦争を語っています。

浅井:ただ、アメリカで帰還兵の自殺率が高いことも戦争の一面であるのと同様に、海外に派遣された自衛隊員のPTSDや自殺の問題は日本にもあるわけで、日本が第二次大戦以後、戦争を経験していないと言い切っていいのかどうか、僕は疑問に思います。イラクに派遣された佐野さんはどうお考えですか。

佐野:幸いなことに、現地の人たちと仲良くさせていただいて、サマワはお米が取れるので毎日おいしいご飯を食べて、私にとっては夢のような生活でした。日本のストレス社会で暮らす方が、よっぽどPTSDになりそうです。たとえば、西側諸国は冷戦を勝ち抜いた、という言い方をする人もいますが、わが国は戦争をせずに平和を維持することを選んできたわけですよね。

小林:わしはあえて大東亜戦争と言いますが、確かに日本は大東亜戦争後、戦争はやっていない。ただ、ベトナム戦争では、沖縄の兵站基地から米軍は飛び立って行ったわけですよ。枯葉剤を積んで。だからベトナム人は沖縄のことを「悪魔の島」と言っていたんです。直接、血を流していないから戦争をしていない気がするけれど、加担していたんですよ。

浅井:日本は戦後、戦争はしていないけど、戦争に“加担”してきたわけですね。

小林:イラク戦争の時だってそうです。米軍は沖縄から出撃していったんだから。なおかつ、イラク戦争のときに国連で日本の外交官は、「この戦争に賛成しろ」と他国を説得して回っていたんですから、アメリカが始めたあの戦争も、道義的な責任は日本にもあるわけです。



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映画『レストレポ前哨基地』より ©GOLDCREST FILMS, OUTPOST FILMS.



会場からの質問

アメリカ軍は治安維持活動と言っていますが、彼らがいない方が、アフガニスタンは平和ではないのかと思いました。いったい米軍は、誰にとってのどういう治安を守っているのでしょうか。


加藤:アフガニスタン戦争の後に、NATOを中心に各国が集まってアフガンの平和構築をやっていくことになり、日本もDDR(Disarmament, Demobilization, Reintegration/武装解除・動員解除・社会復帰)に協力しました。NATOが指揮するISAF(International Security Assistance Force=国際治安支援部隊)が、アフガニスタン国軍とアフガニスタン警察を支援する形で活動してきましたが、アフガン国軍や警察だけではタリバンに対抗できない。だからいつまで経ってもISAFが撤退できない。

佐野:多民族国家のアフガンを、タリバンは強硬な手段で支配していましたから、アフガン国民にとってタリバンが良い存在なのかは非常に疑問です。それと、アメリカ軍がいなければ平和になるかと言えば、そんなことはありません。アメリカの戦略としては、外国から入ってくる原理主義者たちが、アフガニスタンの状況を悪化させている一因なので、その流入を防ぐために通り道であるコレンガル渓谷に駐留していたわけです。

浅井:タリバンには一分の理もないのですか?

小林:以前、ペシャワール会の中村哲医師と話した時に、タリバンは普段、畑を耕して暮らしている普通の男たちで、いざとなると銃を持って戦い始めるのだと聞きました。だから、村人そのもので、テロリストと決めつけること自体がおかしいと。タリバン政権がビン・ラディンをかくまっていたのは、一度客人として招いたら絶対に守らなければならない部族の慣習なんだそうです。だから、タリバンを敵視して、掃討するのが治安維持だと考えること自体、アメリカの間違いなんです。じゃあ、タリバンに任せておいて良かったのか? タリバンは女性を抑圧したり、文化遺産を破壊したりしていますからね。非常に難しいですが、わしはその判断は、アフガン国民にゆだねるべきだったと思うんです。

佐野:タリバンだけだったら話は別ですが、外国から原理主義者がどんどん入ってきて、アフガンが過激派の温床になり世界の不安定要素になるのを避けるのが、国際社会が考えなければならない点だと思います。

浅井:加藤さんは、この映画に出てくる村人もタリバンの可能性があると思いますか。

加藤:アフガニスタンには、非常に保守的なイスラム教徒がたくさん暮らしています。その人たちにとってみれば、外国の文物が入るのは、ものすごく抵抗があるわけです。アフガニスタンはイスラム世界の中で、トルコやイランと同じくらい早く、1920年代に西洋化を始めて、最初に失敗しました。この時に反対にまわったのが、今だったら間違いなくタリバンと呼ばれるようなイスラム保守層です。1978年に共産主義政権になったときもイスラム保守層が反政府運動をやって倒しました。今もその流れがずっと続いているだけです。

もう一つ言うと、英領インドとアフガニスタンを分けるために、かつてイギリスが引いた線がパキスタンとの国境になっていますが、そのせいでパシュトゥーン族が二分割されてしまった。だから国境線など関係なくパキスタン側のパシュトゥーン族がコレンガル渓谷のあたりから入ってくるのです。そして、北西辺境州というパキスタン政府の権力が及ばない地域なので、外国からたくさんのアルカイーダのような過激派が集まってきて、アフガニスタンに入ってくる。それを阻止しようというのがアメリカの基本戦術でしたが、止められるわけがない。地元民はお互いに地縁・血縁でつながっていますから、村人が昼間はアメリカに従属し、夜はタリバンに寝返るのは当然のことです。そんなところに若い兵士を送り込んで殺戮させること自体が、どう考えてもおかしい。

浅井:日本政府も、アメリカに従属するふりを見せて陰では寝返るくらい、小賢しく出来ないものでしょうか。(一同笑)

加藤:私もそれを願っています(笑)。



『レストレポ前哨基地 PART.1』
『レストレポ前哨基地 PART.2』
名古屋シネマスコーレにて、1月16日(土)~1月22日(金)、1週間限定公開中

『レストレポ前哨基地』PART.1&2ポスター_s

『レストレポ前哨基地 PART.1』

監督:ティム・ヘザリントン、セバスチャン・ユンガー
原題:RESTREPO : one platoon, one valley, one year
(2010年/アメリカ/93分)
© GOLDCREST FILMS, OUTPOST FILMS.

『レストレポ前哨基地 PART.2』

監督:セバスチャン・ユンガー
原題:KORENGAL : this is what war feels like
(2014年/アメリカ/84分)
© GOLDCREST FILMS, OUTPOST FILMS.

2007年5月〜2008年8月、アメリカ陸軍第173空挺旅団戦闘団が、アフガニスタン東部に分散配置された。その最激戦地コレンガル渓谷で任務に就く小隊に約1年間、従軍して撮影されたのが本作である。監督は、英国人戦場カメラマンのティム・ヘザリントンと、米国人戦場記者のセバスチャン・ユンガー。
当初、渓谷中腹の基地に駐留していた兵士たちは、1日数十回にものぼるタリバン側からの銃撃を避けるため、敵が攻撃拠点にしていた尾根に、新たな「レストレポ前哨基地」を完成させる。「レストレポ」は、配置早々に犠牲になった20歳の兵士の名前だ。
兵士たちと行動を共にするカメラは、銃撃戦や現地の人々との交流、仲間との日常を克明に映し出し、観客はアフガン最前線に放り込まれたような錯覚に陥る。
パート1が2010年に全米公開されて間もなく、ティム・ヘザリントンがリビア内戦を取材中に被弾し落命した。その3年後の2014年、セバスチャン・ユンガーはパート1の未使用シーンからパート2を一人で完成させた。
パート1は、観客に戦争を体感させるべく戦闘シーンに比重が置かれていたが、パート2は兵士たちの内面により深く迫った構成で、戦争とはいかに機能し、そこで戦う若者たちに何をもたらすのかを問いかける。

◆映画公式サイト www.uplink.co.jp/restrepo
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▼映画『レストレポ前哨基地(PART.1&PART.2)』予告編

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