骰子の眼

cinema

2016-02-16 23:20


Amazon12億円、Netflix6億円の買付が話題となった2016年サンダンス映画祭

X JAPANのドキュメンタリー、架空の作家J.T.リロイ騒動の映画化ほか8作品を現地レポート
Amazon12億円、Netflix6億円の買付が話題となった2016年サンダンス映画祭

「インディペンデント映画の祭典」サンダンス映画祭が米国ユタ州パークシティで1月21日(木)~31日(日)に開催。webDICEでは移動式の映画館プロジェクトmoonbow cinemaを主催する維倉みづきさんによるレポートを掲載する。映画祭史上最高額で配給権が取引されるなど、例年になくニュースの多い年だった今年のサンダンス映画祭のなりたちや、今年の受賞作、そしてサンダンス映画祭で維倉さんが実際に鑑賞した8作品(※)についてレポートしてもらった。

※鑑賞作品(アルファベット順):『Author: The JT LeRoy Story』『Belgica』『Equity』『Richard Linklater - Dream is Destiny』『Sing Street、『Suited』『The Free World』『We Are X』、以上8作品。

サンダンス映画祭について

■運営団体

サンダンス映画祭は俳優や監督として活躍するロバート・レッドフォードによって1981年に設立された非営利団体サンダンス・インスティテュートによって1985年から毎年1月に米国ユタ州パークシティで開催されています。サンダンス・インスティテュートはインディペンデント映画の製作環境の維持と人材育成を目的とし、現在では150人の職員がパークシティ、ニューヨーク、ロサンゼルスで年間350名を超えるアーティストを支援し合計250万ドル(約3億円)の補助金を提供しています。

■開催地

開催地であるパークシティはスキー場に囲まれた人口約8,000人の街で、創立者であるロバート・レッドフォードが風光明媚なこの地域を気に入ったことから、サンダンス・インスティテュートの活動拠点でありサンダンス映画祭の開催地となっています。2002年に冬季オリンピックが開催されたソルトレークシティから車で1時間ほどの距離にあり、映画祭期間中は雪に囲まれるため、参加者は防寒対策が欠かせません。

2-Shuttle

■映画祭会場

サンダンス映画祭期間中は、パークシティのパーク・アベニューという通りが映画祭の中心地となります。今年で10周年を迎えた、バーチャル・リアリティなど最新の技術を使った映像・アート作品を紹介する「New Frontier」会場や、日替わりで様々なゲストがパネルディスカッションを繰り広げる「Cinema Cafe」会場「Filmmaker Lodge」など、映画上映以外に一般公開されるイベントの会場が並びます。今年は現在最新作『Anomalisa』がアカデミー賞ノミネート中の脚本家・監督チャーリー・カウフマンなどが登場しました。また週末には「Art of Film Weekend」と題したイベントでクリストファー・ノーラン監督をはじめとする一流のゲストが熱いディスカッションを繰り広げました。

3-FilmmakerLodge

パーク・アベニューにはチケットセンターや記念グッズ販売場所、スポンサー企業のブースなどの映画祭を支える施設も集まっています。クラウドファンディング・プラットフォーム、キックスターターの施設では、ファンディングの相談窓口が設置されたようです。また、宿泊スペース貸借プラットーフォームのエアビーアンドビーのスペースでは、SMSで寄せられたメッセージがレシートに印刷されてつながって物語となってゆく『Local Murmur』などのアート作品が展示されました。

4-LocalMurmurs

作品の上映は、今年はパークシティに13カ所、ソルトレークシティ等の近隣の街に8カ所、合計21カ所に設けられた会場で行われました。パークシティの13会場は無料巡回バスで結ばれており、パーク・アベニューから近い会場は徒歩数分、遠い会場はバスで30分ほどかかります。収容人数も150人から1,300人まで大小様々です。各作品は会場を変えて期間中複数回上映され、上映会毎にチケットが一般発売されるため(当日券あり)、参加者は自分ならではの鑑賞スケジュールを組んで映画祭を楽しみます。殆どの上映回には監督が登場し、上映前には簡単なイントロダクションを、上映後には観客との質疑応答を行い、観客の作品への理解が深まる構成となっています。

5-ShuttleStop

■上映作品

サンダンス映画祭での上映作品は、「ドラマティック(アメリカ/インターナショナル)」「ドキュメンタリー(アメリカ/インターナショナル)」「ショート」の各部門に一般から応募された作品の中から選ばれます。今年は約130本の長編映画に加え、短編映画やアート作品など合計約200本もの作品が上映されました。開催初日のプレス・カンファレンスでロバート・レッドフォードから今年のサンダンス映画祭を象徴するコメントがありましたので、要点を引用いたします。

「上映作品の中には他人を怒らせる内容もあると思うが、それで良い。上映作品に込められた声は、この世の中に実在する声である。サンダンス映画祭は、声を持った人が耳を傾けてもらう機会を提供する場として表現の自由を守り続けたい」

「diversity(多様性)はindependence(独立性)の上に成り立っている。独立しているからこそ、人とは違うやり方で物事を捉え表現する。その集合が多様性になる」

「サンダンス映画祭はメインストリームの対抗馬のごとく表現されることがあるが、何かに対立する気はまったくない。ただ別のカテゴリーを作っただけ」

■配給権獲得競争

上映作品の中には映画祭直前に完成し「プレミア」としてサンダンス映画祭で世界初上映される作品も多く、映画祭開催前~期間中には配給会社による権利獲得競争が繰り広げられます。今年はストリーミング配信業者のネットフリックスとアマゾンが劇場公開日とインターネット配信日を同日にすること等を条件に高額なオファーを出し、アマゾンがケイシー・アフレック主演『Manchester by the Sea』の劇場配給権とストリーミング配信権を1,000万ドル(約12億円)で、ネットフリックスが映画祭開催前にエレン・ペイジ主演『Tallulah』のストリーミング配信権を500万ドル(約6億円)で獲得するなど、高額の取引が展開されました。この2社によってサンダンス映画祭での配給権獲得競争が高額化したと言っても過言ではないでしょう。昨年のサンダンス映画祭でネットフリックスが1,200億ドル(約14億円)で配給権を取得しオンラインと劇場で同時リリースした『Beasts of No Nation』が今年の賞レースでどのような結果が残すのか、製作側は配給をどのような形で望むべきなのか、今一度考える必要がありそうです。

■2016年受賞作品

今年は合計23名の映像製作者、ジャーナリスト、歴史家、教育者、科学者など多彩な顔ぶれが審査員を務めました。初日のプレス・カンファレンスで明言された通り、事実を包み隠すことなく提示し、サンダンス映画祭という場と通じて観客に考えさせる作品が受賞したと言えるでしょう。決して「エンターテイメント」とは言えない内容の作品もありますが、今年1年間どのように映画市場に受け入れられ、そして来年の各種賞レースに取り上げられるのか、目が離せません。

最もインパクトのある賞として捉えられているアメリカ・ドラマティック部門審査員賞及び観客賞をダブル受賞したのが『The Birth of a Nation』です。アメリカ・ドラマティック部門は2014年以降3年連続で審査員大賞と観客賞を同一作品が受賞する結果となりました(2014年『セッション』、2015年『Me and Earl and the Dying Girl(日本未公開)』)。

『The Birth of a Nation』は1831年に起こった黒人奴隷による反乱を主導した、実在の黒人奴隷であり牧師であったナット・パーカーを描いた作品で、俳優であるネイト・パーカーが主演・監督・脚本を務めました。映画を鑑賞したミシェルさん(カリフォルニア州・会社員)によると、「奴隷による抵抗を描いた作品は、最後には希望が提示されるのだろうと期待して見るが、『The Birth of a Nation』はエンディングが近づくにしたがって寧ろ期待が踏み消されて行くように感じた。最後には『自分の望む未来を手に入れるためには戦うしかない』という強いメッセージは感じたけれども、決して答えが提示されるものではなかった。鑑賞後、感情・理性ともにゆさぶられ、多くの疑問が残った」とのこと。上映後の質疑応答にはネイト・パーカーが登場し、自身に娘がいることにもふれながら、「この作品の目的は次の世代に残す将来はどのようなものにしたら良いのか、それを実現するためにどんな行動をとったら良いのか、観客に強い問いかけを残したかった」との発言があったそうです。ネイト・パーカーの意図は確実に伝わっているようです。

映画『The Birth of a Nation』より
映画『The Birth of a Nation』より

尚、この作品はサンダンス映画史上最高の1,750万ドル(約21億円)でフォックス・サーチライトによる全世界配給が決定しています。最も高額なオファーはネットフリックスから出たようですが、ネイト・パーカーと条件が合わなかった様子。今年のアカデミー賞ノミネート結果で白人主義が議論となっている中、黒人奴隷による反乱のリーダーを描いた『The Birth of a Nation』がサンダンス映画祭で輝かしい結果を収めたことが今年の映画市場及び来年の賞レースにどう反映されてくるか、注目したい。

審査員賞と観客賞をダブル受賞したもう1つの作品が、アフガニスタン出身のラッパー・Sonitaを描いたインターナショナル・ドキュメンタリー部門『Sonita』です。アフガニスタンからイランへ難民としてわたり、兄の結婚費用を捻出するために結婚さえられそうになった少女Sonitaが、YouTubeにラップを載せたところ人気となり、ソルトレークシティの学校から留学生として招かれた経緯について表現されています。鑑賞したジェームズさん(テキサス州・学生)は、この作品が受賞したことを知ると、「この作品の上映会では4回もスタンディングオベーションが起こったんだよ!エンドクレジットが流れ始めたとき、質疑応答で監督が登場したとき、Sonita自身が登場したとき、質疑応答が終わったとき。それでも足りないくらいだった」とのこと。現在も児童結婚問題などの問題提起を精力的に行うSonita自身の今後にも注目です。

その他、アメリカ・ドキュメンタリー部門審査員賞はアンソニー・ウィーナーのニューヨーク市長選キャンペーンの内幕を包み隠さず見せることによって現在の政界事情を映し出した『Weiner』、観客賞は2014年8月にISISにより公開処刑されたアメリカ人ジャーナリスト、ジェームズ・フォーリーの足跡を幼なじみがたどる『Jim: The James Foley Story』が受賞しました。インターナショナル・ドラマティック部門審査員賞は生活を何とか変えようとするベドウィン族の女性2人を描いたイスラエル映画『Sand Storm』、観客賞は病気の進行で体を動かすことが出来ず目の前にある海を見ることができない少年を描いたコロンビア映画『Between sea and Land』が受賞しました。受賞作品の全リストは本文の最後をご参照ください。なお、2017年サンダンス映画祭への応募要項は5月第1週目に発表されるそうです。あなたも挑戦してみてはいかがでしょうか?

6-AudienceAwardBallot
観客賞投票用紙



■鑑賞作品

1/29(金)~31(日)にサンダンス映画祭会場で実際に鑑賞した8作品をアルファベット順にご紹介いたします。作品によっては製作の背景に関する情報が表記されていますが、鑑賞後に開催された質疑応答で得たものです。 鑑賞作品(アルファベット順): 『Author: The JT LeRoy Story』『Belgica』『Equity』『Richard Linklater - Dream is Destiny』『Sing Street』『Suited』『The Free World』『We Are X』以上8作品。


『Author: The JT LeRoy Story』

映画『Author: The JT LeRoy Story』より
映画『Author: The JT LeRoy Story』より

1996年に突如文壇に現れ、約10年間にわたって一世を風靡し、その衝撃的な生い立ちが『サラ、いつわりの祈り』として映画化されカンヌ映画祭で上映された少年小説家JT LeRoyが、実は40代の女性ローラ・アルバートによって作り出された架空の人物(の一人)だったという事実を、クリエイティビティ豊かに様々な再現方法を織り交ぜて蘇らせた作品。2005年サンダンス映画祭で『悪魔とダニエル・ジョンストン』でアメリカ・ドキュメンタリー部門監督賞を受賞したジェフ・フォイヤージーグ監督作品。この事件に関する記事は数多くあれど、ローラ・アルバート本人のコメントが欠けていたため、監督は本作品を製作することにしたそう。

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『Author: The JT LeRoy Story』上映より、ジェフ・フォイヤージーグ監督

この作品は、経緯を語るローラ・アルバートの映像を軸に、無数の電話録音音源やアーカイブ映像で構成されている。ことの始まりは、自殺願望のあったローラ・アルバートが架空の少年の人格になりきって少年電話相談の医師に話していたところ、文章を書くよう勧められたことだった。「JT LeRoy」の名を編み出し、作品を出版社に送ったところ絶賛され、当時の恋人の妹にウィッグとサングラスをつけて「JT LeRoy」として登場させた。驚くべきは、ローラ・アルバートが複数の人格を作り出し、JT LeRoyは他人に演じさせながらも、自身でも人格を演じていたという事実。ガス・ヴァン・サントの『エレファント』製作に関わり、デビッド・リンチをはじめ多くのクリエイターがJT LeRoyに魅せられたことからも、彼女の創作力の高さがうかがえる。

自らが行ったことを語るローラ・アルバートの姿は、同情も親近感も覚えるものではない。最初は電話越しでさえ自分を出せなかった彼女の創作が世間に認められたことは喜ぶべき事実かもしれないが、自らの創作に自信を持ち、それがエゴとなり、2005年にニューヨークタイムスが彼女の創作の氷山の一角を暴いた影響を「出版業界は恥をかかされたと思ったのよ」と語る彼女の姿は喜劇の主人公に見える。エンディングに近づくにつれ、バンクシーによるドキュメンタリー『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』を連想した。ローラ・アルバートは現在、回顧録を執筆中とのこと。

なお、この作品の配給権はアマゾンが取得したと報道された。


『Belgica』

映画『Belgica』より
映画『Belgica』より

インターナショナル・ドラマティック部門監督賞受賞作品。ベルギー・フランス・オランダ合作。妻子持ちのやんちゃな兄と、物静かでしっかり者の弟がクラブの共同経営を始め、仲間を巻き込み人気の頂点に達するまでと、生活と人間関係が崩壊してゆきながらもクラブを維持してゆく様子を描いた作品。兄弟のクラブは決して大都会の洗練されたものではなく、老若男女誰でも受け入れ、朝になっても帰らず踊り続ける人々の姿が愛らしい。ストーリーが進むにつれ兄弟それぞれのキャラクターが際立ち、特に兄の破天荒なキャラクターが徐々に歯止めが効かなくなってゆく描写は容赦がない。

8-Belgica
映画『Belgica』のポスター

音楽はベルギーのバンドSoulwax(DJユニット・2ManyDJsのディワーラ兄弟が中心メンバー)が担当。DJセットに加えて、多種多様な楽器の生演奏やアーティストによるパフォーマンスから成るクラブでのライブシーンは独創性あふれるもので、ぜひ生で見てみたいと感じる素晴らしさ。

監督のフェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲンは、2012年に発表された音楽好きのカップルの物語『オーバー・ザ・ブルースカイ』で国際的な知名度を上げたベルギー人。同作品はベルリン映画祭で世界初公開されたのち、トライベッカ映画祭で主演女優および脚本賞を、そして2014年アカデミー賞にノミネートされた。まだ30代で『Belgica』は長編5本目の作品。


『Equity』

映画『Equity』より
映画『Equity』より

Facebook上場後のウォールストリートとシリコンバレーを舞台に、新進気鋭のセキュリティ・テクノロジー企業のIPOをめぐる情報戦を描いたエンターテインメント作品。「金(かね)が好き。『金儲け』は汚い意味だけじゃない」と言い切る、ウォールストリートの投資銀行で管理職として働き更に上を目指す女性が主人公。彼女の部下で昇進を強く望み、第一子を妊娠したばかりの女性と、彼女の旧友で女性と結婚し双子を持つ検事の女性が脇を固める。

女性を主人公にした初のウォールストリートを舞台にした映画だそうだが、登場人物が女性だからと言って「プライベートも仕事も」なんて甘いものではなく、これまでのウォールストリート映画の登場人物たちがそうしてきたように、彼女たちは本気で金儲けと昇進を目指す。下克上も描かれる。怒鳴るシーンもある。「性別」は何の特別要素にならない。ウォールストリートで地位と報酬をほしがる女性に違和感を覚えるかどうか、見る側の度量が試される作品。

9-Equity
左からサラ・ミーガン・トーマス、アリシア・ライナーそしてミーラ・メノン監督

この作品は、検事を演じたアリシア・ライナーと主人公の部下を演じたサラ・ミーガン・トーマスの2人が「映画の演じる側と製作側、それぞれにより女性がより活躍する映画を」という趣旨で設立したBroad Street Picturesによって製作され、登場人物のみならず監督・脚本・プロデューサー(ライナーとトーマス)など、主要な役どころを全て女性が務めた作品。ソニー・ピクチャーズ・クラシックスが配給権を取得した。


『Richard Linklater - Dream is Destiny』

映画『Richard Linklater - Dream is Destiny』より
映画『Richard Linklater - Dream is Destiny』より

『6才のボクが、大人になるまで』や『ビフォア・サンライズ』3部作を始め数々の名作を作りだしてきたリチャード・リンクレイター監督のキャリアの軌跡をたどるドキュメンタリー。リンクレイター監督の映画、映画製作、そして長年の製作拠点であるテキサス州オースティンの人々への不変の愛情が静かに描かれ、この作品を見た見終わった後に映画を撮りたくなる内容となっている。

リンクレイター監督の出世作である1991年の『Slacker』(日本未公開)の1シーンで幕を開け、監督作品を時系列に沿って追ってゆく。リンクレイター監督の両親や姉が語る『6才のボクが、大人になるまで』を彷彿とさせる幼少期の様子や、野球選手として奨学金を得て大学に行くも持病が原因で引退、空いた時間で図書館にこもり、働いて貯めたお金でニューヨークに行きオフブロードウェイ等を見て帰るときには「映画を作る」と決めていたいきさつなど、映画を作らずにはいられないリンクレイター監督の姿が、その思いが終始一貫しているからこそ、静かなリズムで映し出されてゆく。これまで仕事を共にしたイーサン・ホーク、ジュリー・デルピー、ジャック・ブラック、マシュー・マコノヒーなどから、リンクレイター監督への尊敬と親しみあふれるコメントも届いている。

監督はルイ・ブラックとケイト・バーンスタインの2名。ルイ・ブラックはリンクレイター監督の不変の製作拠点であるテキサス州オースティンで1980年に新聞「オースティン・クロニクル」を立ち上げ、1987年には今や世界的イベントのSXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)の立ち上げに関わり、現在では同イベントのシニア・ディレクターを務めている。ブラック監督曰く、オースティンでは何かやりたいことがあると必ず役を担ってくれる人があらわれるので、いろいろなことが実現できるとのこと。リンクレイター監督とは35年前から旧知の仲で、リンクレイター監督の出世作『Slacker』にも出演した。ケイト・バーンスタインはエラ・フィッツジェラルドやルー・リードなど、数々のミュージシャンのドキュメンタリーを手掛けエミー賞やグラミー賞を受賞してきた人物。

LouisBlack
ルイ・ブラック監督

リンクレイター監督自身がこの作品を見た感想は、「Not embarrassing.」 (見ていて居心地悪くはなかった)とのこと。

尚、上映後には先にご紹介した『Author: The JT LeRoy Story』のジェフ監督が前作『悪魔とダニエル・ジョンストン』で取り上げたオースティンを中心に活動するミュージシャン、ダニエル・ジョンストンによるお手製テキサス形ショート・ブレッド(大人の手のひらサイズ)がルイ・ブラック監督によって配られた。

10-Shortbread

『Sing Street』

映画『Sing Street』より
映画『Sing Street』より

不況に見舞われる1986年のダブリンを舞台に、転校先で先生・同級生にいじめられながらも、一目惚れした女性にPV出演してもらうため急きょ同級生とバンドを結成し、のめり込んでゆく14歳の少年の物語。上映中、やるせない出来事も起こる中で終始チャーミングなバンドメンバー、彼らの家族、学校の先生のふるまいに、観客から愛情こもった笑いがあふれていた。監督は『ONCE ダブリンの街角で』や『はじまりのうた』など、ダブリンと音楽をテーマに良作が続くジョン・カーニー。

音楽やPV製作の指南役を担うのが、主人公の兄。デモテープやPVができると一番に見せる相手であり、けなしながらもアドバイスをし、その時に応じて「教科書」となるレコードを貸してくれる存在。大学を中退し、たばことレコードを愛し、ちょっと小太りな姿は、キャメロン・クロウ監督『あの頃ペニーレインと』でフィリップ・シーモア・ホフマンが演じたラジオDJの姿が思い出された。

登場人物の身なりやPVの衣装、バンドメンバーのお母さんたち、そして憧れの女の子など、ファッションがこの作品のチャーミングさに一役買っている。スタイリストは『ONCE ダブリンの街角で』の衣装も手掛けたティツィアーナ・コルヴィシエリが担当。バンド結成からみるみる変わってゆくメンバーの制服の着こなしは一見の価値あり。

そして音楽。バンドのオリジナルスコアはもちろんのこと、製作するPVや楽曲は80年代ならではのもの。エンドクレジットが流れ始めると、観客席から手拍子が起こった。主演のフェルディア・ワルシュ・ピーロー(15歳)の演奏姿はカリスマ性に溢れている。


『Suited』

映画『Suited』より
映画『Suited』より

LGBTQ、特に女性に生まれながら男性であることに気づいたトランスジェンダーの人々を多く顧客に持つ、ブルックリンで仕立屋を営むラエとダニエルのコンビと、その顧客に寄り添うドキュメンタリー。ラエ自身が女性から男性へ性転換しており、映画はその手術の証明書の朗読から始まる。

ラエとダニエルの仕立屋は、決してLGBTQの人々だけを顧客としているのではなく、一人一人に寄り添った結果、ラエのブログの効果もあってトランスジェンダーの人々が多く訪れるようになったとのこと。映画冒頭で映し出される「男性に交じっている時、『このスーツなら誰も私の体型を女性ではないかと疑わない』と自信を持てるスーツが欲しい」というリクエストが印象的。

採用面接用のスーツを仕立てに来たものの、完成前にトランスジェンダーであることを理由に不採用となり、仕上がったスーツを身に着けた自分の姿が自分のなりたいイメージを体現していて、何軒デパートをまわっても自分の体とイメージに合うスーツが見つからなかった過去を始め、いろいろな思いがあふれて涙した人。自分の結婚式に着るスーツを、義兄となる男性と一緒に仕立てにきた人など、彼らの家族を含め一着一着のスーツに込められた物語にスポットライトを当てた作品。


『The Free World』

映画『The Free World』より
映画『The Free World』より

出所したばかりで警察の監視に耐えながらドッグ・シェルターで働く男性。服役中にイスラム教徒となり、「モハメッド」と名を改め、毎日欠かさず祈りを捧げる。彼の前に、夫によるドメスティックバイオレンスに怯え、追われる女性が突然あらわれる。孤独で、自由とは無縁の二人が、お互いに救いを見出してゆく物語。

台詞は決して多くなく、印象的な光と音楽によって緊迫感と孤独感が見事に描写されている。いつの間にか見ている側の心に入り込んでくる不穏な予兆は、観客を一つにまとめる力がある。男性と女性が逃亡する場面は、あまりの緊張感に呼吸を忘れてしまうほど。その反面、男性が女性の希望となり、女性が男性を信じたときに二人が感じる温かさの描写が美しく、この作品をラブストーリーにしている。

11-JasonLew
ジェイソン・リュウ監督

監督と脚本を務めたのは、ガス・ヴァン・サント監督『永遠の僕たち』の脚本を手掛けたジェイソン・リュウ。俳優出身のジェイソン・リュウは、まず登場人物一人一人のキャラクターを深く掘り下げることからこの作品を作り始め、完成まで足かけ6年かかったそう。俳優・脚本家・監督と活躍の場を広げてきたジェイソン・リュウの次回作が楽しみだ。


『We Are X』

映画『We Are X』より
映画『We Are X』より
映画『We Are X』より
映画『We Are X』より

インターナショナル・ドキュメンタリー部門編集賞受賞作品。X Japanが2014年10月にニューヨークのマディソン・スクエアガーデンでライブを行うに至るまでの軌跡を、この作品のために収録されたYoshikiの英語インタビューを軸に辿る。YoshikiとX Japanが悲劇・挫折を乗り越えながら作り出してきた世界観と、それを支えるファンの姿を丁寧に描くことで、「悲劇を乗り越えながら前に進もうとする人に寄り添うバンド」としてX Japanを描き、バンドのことを知らない世界中の人に興味を抱かせる内容となっている。

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ステファン・キジャク監督

映画はYoshikiの死生観に関する語りから始まり、Yosihikiが幼少時に経験したお父様の自殺、米国進出の挫折、Taijiさんの解雇、Toshiさん脱退、解散、Hideさんの自殺、といった悲劇や、天皇陛下御即位10年奉曲の演奏シーンなど、重要な出来事を時系列順に辿ってゆく。監督が横浜在住のYoshikiのお母様を尋ね、提供して頂いたというYoshikiの幼少時の写真や、手書きの譜面ノートも映し出される。HideとTaijiの墓前でYoshikiが祈る映像もあり、これはYoshikiの意思で撮影されたそうだ。

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上映開始前のイントロダクションで、監督の「X Japanのことを知っている人は手を挙げて下さい!」という声に応えたのは満席の約150席の上映会場で数名だけ。しかし上映後の質疑応答では満身創痍で演奏するYoshikiの体調を心配する質問や、X Japanによるアメリカやイギリス音楽への影響を尋ねる質問が相次ぎ、質疑応答時間が過ぎた後も監督の前には人だかりができた。なお、「もっと他のアーティストとの交流が知りたかった」という意見に対して、監督は「製作を進めるにつれYoshikiとX Japan自身のストーリーに惹かれていき、外部からのコメントは最小限に留めることにした」とのことだった。

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監督を務めたのは自身も元ドラマーであり、これまで『ストーンズ・イン・エグザイル~「メイン・ストリートのならず者」の真実』を世に送り出したステファン・キジャク。実は監督もプロデューサーであるジョン・バトセック(『シュガーマン 奇跡に愛された男』)に声をかけられるまでX Japanのことは全く知らなかったそうだ。しかし打診を受けてからグーグルでX Japanのことを調べ、2日以内に監督することを決めたとのこと。Yoshikiとは1年間にわたって信頼関係を築きながらインタビューを収録し、映画が完成したのはサンダンス映画祭の数週間前。1月29日の時点では、X Japanのメンバーもまだこの作品を見ていないとのことだった。

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余談だが、上映会場には『The Free World』ジェイソン・リュウ監督の姿もあった。村上春樹の小説を愛読し、日本文化の死生観に興味があるリュウ監督にとっても興味深い作品だったようだ。この映画を通じX Japanの世界がどう広がってゆくのだろうか。


以上、2016年サンダンス映画祭についてお伝えいたしました。今年の上映作品が今後どのように公開されてゆくのか、来年はどんな作品が登場するのか、楽しみにしたい。

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2016年サンダンス映画祭 全受賞作品一覧(公式ウェブサイト掲載順)

アメリカ・ドラマティック部門
-審査員賞:The Birth of a Nation
-監督賞:Swiss Army Man
-脚本賞:Morris from America
-審査員特別賞:Miles Joris-Peyrafitte, As You Are
-新人俳優賞:ジョー・セオ(Spa Night)
-俳優賞:メラニー・リンスキー (The Intervention)及びクレイグ・ロビンソン(Morris from America)

アメリカ・ドキュメンタリー部門
-審査員賞:Weiner
-監督賞:Life, Animated
-編集賞:NUTS!
-社会に影響を与えた特別賞:Trapped
-脚本賞:Kate Plays Christine
-真実を伝えた特別賞:The Bad Kids

アルフレッド・P. スローン特別賞:Embrace of the Serpent

インターナショナル・ドラマティック部門
-審査員賞:Sand Storm
-監督賞:Belgica
-俳優賞:ヴィッキー・ヘルナンデス及びマノロ・クルス (Between Sea and Land)
-脚本賞:Mi Amiga del Parque
-ビジョン/デザイン賞:The Lure

インターナショナル・ドキュメンタリー部門
-審査員賞:Sonita
-監督賞:All These Sleepless Nights
-新人監督賞:When Two Worlds Collide
-撮影賞:The Land of the Enlightened
-編集賞:We Are X

観客賞
-アメリカ・ドラマティック部門:The Birth of a Nation
-アメリカ・ドキュメンタリー部門:Jim: The James Foley Story
-インターナショナル・ドラマティック部門:Between Sea and Land
-インターナショナル・ドキュメンタリー部門:Sonita
-NEXT部門:First Girl I Loved

ショート部門
-審査員大賞:Thunder Road
-アメリカ・フィクション審査員賞:The Procedure
-インターナショナル・フィクション審査員賞:Maman(s)
-ノンフィクション審査員賞:Bacon & God's Wrath
-アニメーション審査員賞:Edmond
-俳優賞:グレース・グロウィキ(Her Friend Adam)
-監督賞:オンドレ・フドチェク(Peacock)




【参考URL】

http://www.sundance.org/blogs/news/we-believe-in-diversity--robert-redford-talks-change--independence-at-day-one-press-conference

▼Sundance Film Festival 2016: Day One Press Conference

https://en.wikipedia.org/wiki/Park_City,_Utah

http://www.sundance.org/blogs/news/SFF16-conversations-with-special-guests

http://www.indiewire.com/article/exclusive-kickstarter-announces-sundance-film-festival-panels-events-and-special-office-hours-20160114

http://www.sundance.org/pdf/submissions/2016_Submissions_FAQ_v1446142280.pdf

https://www.sundance.org/festivals/sundance-film-festival/program

http://www.businessinsider.com/netflix-and-amazon-sundance-deals-2016-1

http://www.sundance.org/festivals/sundance-film-festival/program/AWS-guide

http://variety.com/2016/film/festivals/jt-leroy-sundance-1201686959/

http://www.sundance.org/festivals/sundance-film-festival/about

https://www.sundance.org/blogs/news/jury-members-announced-for-2016-sundance-film-festival

http://www.imdb.com/name/nm0886976/

文:維倉みづき(moonbow cinema)



moonbow cinema

moonbow cinemaについて

moonbow cinemaは、映画のストーリーにあわせて上映空間をかえてゆく、移動式の映画館。日本未公開映画のご紹介も行っています。映画好きのみなさんに「映画を見に行く」機会と「映画に出会う」機会をご提供し、多くの会話が生まれ続くことを目指しています。サンダンス映画祭は、毎年ユニークなラインナップを求めて世界中から映画好きが集まるお手本であり、上映作品の殆どが世界初公開であることから、最良の情報源でもあります。サンダンス映画祭に観客として参加するのは2016年で3年連続3回目となりました。

http://moonbowcinema.com/

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