骰子の眼

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東京都 渋谷区

2016-02-28 14:00


『キャロル』監督があのエンディングの撮影前に二人に語った"映画"とは?!

心が火照る愛の映画、トッド・ヘインズ監督インタビュー
『キャロル』監督があのエンディングの撮影前に二人に語った"映画"とは?!
第68回カンヌ国際映画祭にて、『キャロル』のトッド・ヘインズ監督(中央)、ルーニー・マーラ(左)、ケイト・ブランシェット(右) (カンヌ国際映画祭公式サイトより)

昨年のカンヌ国際映画祭のコンペティション受賞作が続々公開されています。パルムドールの『ディーパンの闘い』、グランプリという名ではあるが2位の『サウルの息子』、審査員特別賞の『ロブスター』、そしてルーニー・マーラが女優賞を獲った『キャロル』。『キャロル』は、アカデミー賞ではケイト・ブランシェットが女優賞でノミネートされています。カンヌ国際映画祭の審査委員長はコーエン兄弟、審査員にはギレル モ・デル・トロ、ソフィー・マルソーそしてグザヴィエ・ドランらが名を連ねていました。

映画祭当時、フランスのセラーで映画祭の事情通の一人は、『サウルの息子』は絶対何か賞を獲ると言っていました。ポーランド出身の監督のネメシュ・ラースローはパリに留学して映画を学び、長編デビュー作でいきなりコンペに出品と通常のカンヌでの出世コース、"ある視点"部門で上映、次にコンペという順を飛び超えてのエントリーでした。どの作品をコンペに選ぶかは映画祭ができることです。世界の映画祭はその権威と話題を競っているので、最近ベテラン監督が多くなり新鮮味に欠けるカンヌも新人でもいきなりコンペで賞が獲れることで世界にカンヌの名を知らしめたいのだといいます。審査の結果に口を挟むことはできないが、審査員を選ぶのは映画祭。そこで、ユダヤ人であるコーエン兄弟を審査員長にしたという話を聞き、なるほどそういうこともあるのかと思いました。そして結果はその人の予想通り『サウルの息子』はグランプリでした。

また別の映画祭ディレクターで映画祭の審査事情に詳しい人は、こうも言ってました。審査員は毎年変わるのである監督を定点観測をしているわけではないので同じ監督作でも前作の方が優れていることもあるが受賞は評価通りにはならない場合がある。それにアメリカの監督や俳優などはそれほど世界各国の映画に知見が広いわけでなく英語以外のヨーロッパやアジアの映画監督作品を映画祭の審査ということで初めて観るということも多い。そこでどういうことが起きるかというと、受賞作は審査員の見識を問われるので、ラブストーリーやエンターテインメント性の強いものより、社会的意義のある作品や表現として芸術性が高い作品が受賞しがちであるという話を聞き、なるほどそういうこともあるのかと思いました。結果はその人の予想通り、移民問題を扱った『ディーパンの闘い』がパルムドールでした。

さて『キャロル』ですが、アップリンクで94年に配給した『GO FISH』のクリスティン・ヴァションがプロデューサーのひとりとして名を連ねています。またデレク・ジャーマンの『カラヴァッジオ』『ラスト・オブ・イングランド』などの衣装を担当したサンディ・パウエルも作品に大きく貢献しています。彼女は『シンデレラ』『キャロル』でアカデミー賞の衣装デザイン賞にノミネートされています。1980年代後半デレク・ジャーマン作品などはクィアー・フィルムと言われていました。そしてゲイ映画の次にレズビアン映画が登場し、先駆けとなった『GO FISH』が公開されたのが94年。それから20年あまりが過ぎ映画やドラマ業界ではすっかりLGBは定着し、現在はTのトランスジェンダーをテーマにした作品が多く作られています。

というわけで、50年代のまだ同性愛差別が色濃くあったアメリカを舞台にした『キャロル』ですが、2015年の審査員にはテーマとしては新しく見えなかったのではないでしょうか。グザヴィエ・ドランは審査の席でどう主張したのか聞いてみたいところですが。クィアー・フィルム興隆の時代から比べると現在はアメリカの幾つもの州で同性婚も認められ始め、セクシャル・マイノリティに対する社会の認識は大きく変化してきています。そして、2001年の911以降、世界は大きく変わり、現在は、宗教、難民、移民が大きな問題となっています。そのことは、時代と向き合う映画の世界にも大きく影響を与えています。堂々たるラブストーリーである『キャロル』はそういう世界の状況の中では映画祭の賞レースで競うには作品が持つ芸術性の力の問題以前にテーマ的に不利だったかもしれません。ただ芸術性に優劣をつけるのはナンセンスと知りつつも賞の行方は気になるものです。アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされている『サウルの息子』は先の事情通の話から察するとアメリカのアカデミー会員が選出するということで受賞最有力候補ということでしょうか。

さて、『キャロル』ですが、僕は、日本での公開後劇場で映画を観て、次のようにツイートしました。「『キャロル』を観た。堂々の一目惚れ純愛映画!獅子に睨まれた子羊、子羊に翻弄される獅子。これぞ正に恋愛。ポロロンというハーブの音で映画と観客のハートの同期が始まり、心拍数が上がっていく。『キャロル』のベッドシーンには『アデル、ブルーは熱い色』のようなあざとさはなく、ひたすら優しい。美しい。この映画を観て心拍数を上げるのが音楽だとすれば、微熱状態にさせるのはフィルム撮影による画面の粒状が常にジリジリする刺激のせいか。エンディングの瞬間、自分の中の乙女心が火照る」と。

現在『もしも建物が話せたら』というヴィム・ヴェンダース監督らの映画をアップリンクで上映しているのですが、「もしもわたしが審査員長だったら」ということで僭越ながら考えてみると、こんな世界だからこそ今の時代にてらいもなく堂々と愛の物語を描いた『キャロル』に個人的にはパルムドールをあげたかったと思います。

以下、トッド・ヘインズ監督のインタビューをお届けします。ロケーション、キャスティング、そしてあのエンディングについて語っています。ネタバレがありますのでまだご覧になっていない方は注意してください。

政治的、社会的偽善や抑圧にはずっと興味を持ってきたというヘインズ監督は、女性が主人公の今回の映画についてこう語っています。「女性は男性より社会的プレッシャーや限界に苦しんでいる。だから女性の話を語ることは、社会的要素について考えることになり、それが僕にとっては政治的で重大なことだ」と。

また、この映画のストーリーについては正に恋愛において"愛の虜"となる普遍的な法則を述べています。
「愛が誰の視点で語られるかと言えば、弱者の方だ。弱者は相手を見つめ、相手が自分をどう思っているか、解明しようとしている。相手がすべての力を持っている。核心となる問題は、相手が自分をどう思っているかということ。答えを間違えば破滅だし、答えが正しければ解放される。完全に身動きの取れない状態だ」。

そして主役のケイト・ブランシェットとルーニー・マーラの二人にエンディングを撮影するにあたってトッド・ヘインズ監督が語った映画とは、なるほどというあの映画でした。ロングインタビューをお楽しみください。

(文:浅井隆)


言葉は役にすら立たない

── この作品は、ケイト・ブランシェットが最初にキャスティングされて、最初は他の監督が撮る予定だったものの、あなたのところに話が来たと聞いています。どうしてそうなったのか、またこの作品がいつあなたのレーダーに入って来たのか教えてください。

衣装デザイナーのサンディ・パウエルとNYの映像美術館で『エデンより彼方に』のイベントをやってた時だった。僕らは50年代の映画からまた別の50年代の映画をやるという、とても小さな世界に住んでいるんだ。

映画『キャロル』トッド・ヘインズ監督 ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014  ALL RIGHTS RESERVED
映画『キャロル』トッド・ヘインズ監督

彼女が、女性が主役の映画をやるかもしれないという話をしていた。女性が主役の映画は圧倒的に少ない。「同性愛者の映画をやるかもしれない。ケイト・ブランシェットとプロデューサーのリズ(エリザベス)・カールセンと一緒に、パトリシア・ハイスミスの原作なの」と彼女が言って、僕は「それはすごいな。ぜひ一緒にやりたい」と言った。1年後、彼らが監督を探していた時にちょうど、僕が取りかかっていた映画が延期になって秋のスケジュールが空いて、リズに「どう?」って言われたんだ。

── 『ポイズン』のプロデュースを皮切りに、『ベルベット・ゴールドマイン』などを手がけたクリスティーン・バションはこの作品にもプロデューサーとして関わっていますね。

ああ、彼女とは家族のように、本物のつながりがある。

映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014  ALL RIGHTS RESERVED
映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

── 50年代を舞台にした作品は『エデンより彼方に』に続き2作目ですが、この時代に惹かれる理由は何ですか?

僕の作品の特徴は、ほとんどすべて設定が過去になっていることだ。『SAFE』ですら撮影時より4年前が舞台になっている。同じ50年代でも、1952年から1953年は『エデンより彼方に』の1957年と全く違う。

それ以上に、あの時代のメロドラマ、ダグラス・サーク監督のメロドラマに強い興味を持った。現実の50年代には興味がなかった。興味があったのは映画の中の50年代だ。『エデンより彼方に』の舞台となった当時のコネティカット州ハートフォードの人たちが実際にどんなだったかはどうでもよかった。登場人物に、LAのバックロット(撮影用の野外セット)から出て来たように見えてほしかった。

これは大きな違いだった。僕は当時の研究やフォトジャーナリズム、アート写真に大いに注目した。ニューヨークで撮影されたドキュメンタリー・ドラマはとても参考になったよ。当時のニューヨークは40年代後半から脱け出したばかりで、寂れてすすけた汚い町だった。ダグラス・サーク監督のホームドラマにある、キラキラした、エナメルを塗ったようなコネティカット郊外とは全く違う。だからこの二つは僕の中では別物だ。

── でも携帯電話から離れられたのはよかったでしょう?それにテレビ番組や24時間営業の店とかも。

ああ、少なくとも、物事の意味を理解できるようになるために、少し距離を置きたいと思うね。

映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014  ALL RIGHTS RESERVED
映画『キャロル』より、ルーニー・マーラ ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

── なぜニューヨークをシンシナティで撮ったのですか?

今のニューヨークが1950年代のニューヨークにはまったく見えないのがひとつ、それから予算オーバーで撮れなかった。考えたよ、「どこに行けばいい?どうする?」ってね。『ミルドレッド・ピアース 幸せの代償』では1930年代のLAをニューヨークで撮った。税制上の優遇措置のお蔭でずいぶん助かったよ。だが今回はそれも難しそうだったし、予算も少なかった。オハイオ州がちょうど優遇措置を増やしたところだった。リズの夫のスティーヴン・ウーリー(映画プロデューサー)は10年以上前に時代物の『レイジ・イン・ハーレム』(1991)をシンシナティで撮っていた。クリーブランドも候補だったが、シンシナティの方が楽しそうな予感があった。シンシナティの通りにはそのまま1952年のニューヨークに使える本物の信号機があって、それも撮影した。街が気に入った。役者たちも気に入ってた。宿泊していたホテルもどこもよかった。個性的で小さくて温かくて。地元で見つけたちょっとした役の役者やエキストラも素晴らしかった。満足のいくロケだった。本当によかったよ。

── 50年代に撮られたように撮ることが監督にとっては重要だったということですか?

私が観ていた映画は恋愛ものが多かった。映画の素晴らしいラブストーリーの中で、視点や主観性がどんな位置づけをされているか。基本的に小説ではどんなふうにデパートのアルバイトの女性・テレーズの視点に根差しているかを追っていた。テレーズの視点がとても好きだった。とても強いと思った。この企画を始めて脚本の手直しをする時は、ある意味、そこに戻っていた。

『逢びき』(1954年のイギリス映画)もとても興味深かった。重要なのは視点、主演のセリア・ジョンソンの視点だ。映画の冒頭で彼女の視点にどう出会うかだ。最初、駅のカフェでセリア・ジョンソンもトレバー・ハワードもエキストラのように背景にいる。その後、観客は、これはあの女性の物語だなと気づき、実際、彼女の物語になる。そして、映画の終盤でストーリーが一巡して最初の場面に戻り、同じ場面が再現された時に、そこに至るまでのすべてを経験した観客は、これが彼らの別れであり、重要な場面なのだと理解する。

私の作品でも場面の再現があるが、最初はマクガフィン(物語の構成上、登場人物への動機付けや話を進めるために用いられる、仕掛けのひとつ)である男性の登場人物からテレーズへ視点が切り替わり、さらに映画の終盤では視点がテレーズからキャロルに移る。キャロルは、より傷つきやすく、より艶めかしく、より決然として、観客の視点を一心に集めるテレーズを追うんだ。

映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014  ALL RIGHTS RESERVED
映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

──この視点の変化によって本当に表現したかったのは何でしょう?愛する人と別れることをいとわない人間が最も力があるというような単純なことですか?

これは先日思ったことだが、通常、この手の古典的なハリウッドの脚本では、男性の視点で女性が語られる。だが男性の視点は力と動きのある立場で、その対象は動かない立場だ。ストーリーは主役の行動を通して進み、主役がそのエンジンを持っている。しかし愛が誰の視点で語られるかと言えば、弱者の方だ。弱者は相手を見つめ、相手が自分をどう思っているか、解明しようとしている。相手がすべての力を持っている。核心となる問題は、相手が自分をどう思っているかということ。答えを間違えば破滅だし、答えが正しければ解放される。完全に身動きの取れない状態だ。これがとても気に入った。

小説ではテレーズはこの状態で、それに加え、彼女は自分たちの愛がどんなものかを言葉で表すこともできない。一つの文で言うことすらできない。実際、小説の中にこんな一節がある。「私はこれを愛と呼ぶだろう、キャロルが女性だという点を除けば」。まるでこの愛には構文がないようだ。彼女は言う。「ショートカットで男物のスーツを着た女性たちを見たことはあるが、それは私らしくないし、キャロルらしくもない。だから、あれが私たちの真の姿であるはずがない」。世界には彼女の気持ちや望みを表す手本がなく、想像することすらできないのだ。恋愛でそんな状態になったら、50年代のレズビアンでなくても、言葉が見つからず、何とか言葉をでっちあげるが、言葉は役にすら立たないと思う。

そこが素晴らしい。女性じゃなくても、女性同士の恋愛じゃなくても、万国共通でそういう立場に陥ることはあるからだ。だが映画が終わる頃には、この立場は変化している。テレーズは失恋と痛手を乗り越えるために強くならなければならなかった。そして彼女は変わる。彼女はもう映画の冒頭の彼女ではない。そして心を開放することがどれだけ大切なことか気づいているのがキャロルなんだ。

映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014  ALL RIGHTS RESERVED
映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

女性の話を語ることは、僕にとっては政治的なことだ

── 最近のヒットした同性愛がテーマの映画はすべて設定が過去ですが、アメリカ全州で同性婚法案が可決されたりといった社会の変化によって、このテーマはすたれていくと思いますか?

今は同性愛者が当然の権利を勝ち取るようになって、彼らの自由な生活環境が認められる流れになっているが、その過程で失うものもある。“ストーンウォールの反乱”前の同性愛者の世界では、彼らは狡猾な集団であり、本当の自分を隠しながら世の中を渡らなければならなかった。彼らは主流派の社会を批判し、間接的に攻撃し、反転させたが、結局は主流派の社会を助けた。今は主流派社会の一部になっている。

[*ストーンウォールの反乱は、1969年6月28日、ニューヨークのゲイバー「ストーンウォール・イン (Stonewall Inn)」が警察による踏み込み捜査を受けた際、居合わせた「同性愛者らが初めて警官に真っ向から立ち向かって暴動となった事件」と、これに端を発する一連の「権力による同性愛者らの迫害に立ち向かう抵抗運動」を指す。この運動は、後に同性愛者らの権利獲得運動の転換点となった]

映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014  ALL RIGHTS RESERVED
映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

── これもアメリカの歴史の別の一面を描いた作品ですが、この作品には政治機能、政治的意図があると思いますか?あなたはアメリカ人の監督ですが、この作品で少数派の人々の声を語る必要性を感じたのでしょうか?

政治的、社会的偽善や抑圧はずっと興味を持ってきたことだ。たぶんもっと広い意味でも、自然で一貫した変わらないアイデンティティに対する抑圧も。だから女性がテーマの映画に興味があるんだと思う。女性は男性より社会的プレッシャーや限界に苦しんでいる。だから女性の話を語ることは、社会的要素について考えることになり、それが僕にとっては政治的で重大なことだ。

エンディングの理由

── 恋愛ものでは役者同士の相性がとても重要ですが、テレーズ役はルーニー・マーラを起用しようとずっと思っていたんですか?ケイトの相手役として彼女をオーディションしたんでしょうか?

いや、オーディションはしていない。これまでに観た作品で彼女を高く評価していたし、彼女と仕事をした同業の友人たちから恐ろしく才能のある役者だと聞いて、この役をオファーした。うまく行くと分かっていたよ。

── あなたは昨年オスカーを獲得したジュリアン・ムーアとケイト・ブランシェット両方と仕事をしています。彼女たちはどんな風に違いますか?

二人ともすごい女性だ。ジュリアンはリハーサルが好きじゃない、セットで話し過ぎるのも分析しすぎるのも好きじゃない。ケイトがそれを好きだというわけじゃないが、リハーサルの過程は間違いなく掘り下げるね。『アイム・ノット・ゼア』の時と違って、この作品には少しそういうやり方が必要だった。どちらも驚くほど頭の回転が速く、非常に聡明だ。映像のこと、そして自分たちもその一部である、2次元の視覚的な物語の要素についてもよく理解している。

映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014  ALL RIGHTS RESERVED
映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

── キャスティングについてもう少し聞かせてください。恋愛ものでは役者同士の自然な相性や火花に頼る方ですか、それとも確実にうまく演じると分かっている才能豊かな役者を二人キャスティングしますか?

その答えは分からないな。ただ直感に頼ると思う。今の時代、有名な役者の相手役に、無名か、その人より知られていない役者をキャスティングしない限り、オーディションをするチャンスはあまりない。『アイム・ノット・ゼア』でヒース・レジャーとシャルロット・ゲンズブールをキャスティングした時も、この二人は相性がいいだろうと漠然と気づいていた。難しいことだが、直感を働かせるんだ。あとは制約の範囲内で仕事をするだけさ。

映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014  ALL RIGHTS RESERVED
映画『キャロル』より ©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED

── 最後に、原作がなく内容を自由に変えられたら、このラブストーリーを悲劇的な結末にしたと思いますか?

いや、そうは思わない。『キャロル』のエンディングで気に入ってるのは自殺したり療養所送りになったりしないことだ。だが何の保証もない。これは始まりのようなもの、終わりは始まりなんだ。このシーンを撮っていた時、ケイトとルーニーに『卒業』のエンディングの話をした。あの大胆な花嫁奪還のシーンだ。ベンジャミンは教会に乗り込み、家族の制止を振り切り、ドアに十字架をかけてエレインをさらい、二人でバスに乗り込む。その後は「さてどうしよう」だ。これから待っているのは現実。映画はここでおしまいだが。僕はこの作品でも同じように感じたんだ。テレーズがキャロルの所へと歩き出す前に、彼女にこの瞬間を与えたかった。

(オフィシャル・インタビューより)



トッド・ヘインズ(Todd Hanes)

1961年ロサンジェルス生まれ。88年にはバービー人形を使ってカレン・カーペンターの最後の日々を描いた中編『Superstar: The Karen Carpenter Story』で注目される。長編デビュー作『ポイズン』を91年に発表以来、ヴィレッジ・ヴォイス誌が90年代最高の映画に選んだ『SAFE』(95)、70年代グラムロックのスーパースターとなった青年を描いた『ベルベット・ゴールドマイン』(98)、ダグラス・サーク監督の『天はすべて許し給う』にオマージュを捧げた『エデンより彼方に』(02)、6人の俳優にボブ・ディランを演じさせてディランの半生を描いた『アイム・ノット・ゼア』(07)と、アカデミー賞はじめ国際的に高く評価される作品を次々に生み出している。




映画『キャロル』チラシ

映画『キャロル』
全国ロードショー公開中

監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、カイル・チャンドラー、ジョン・マガロ
脚本:フィリス・ナジー
原作:パトリシア・ハイスミス
製作総指揮:ドロシー・バーウィン、ケイト・ブランシェット、ダニー・パーキンス、ボブ・ワインスタイン
製作:エリザベス・カールセン、クリスティン・ヴァション、スティーヴン・ウーリー、テッサ・ロス
撮影:エドワード・ラックマン
プロダクション・デザイン:ジュディ・ベッカー
音楽:カーター・バーウェル
編集:アルフォンソ・ゴンサルヴェス
衣裳デザイン:サンディ・パウエル
キャスティング:ローラ・ローゼンサール
原題:CAROL
2015年/イギリス、アメリカ/118分
配給:ファントム・フィルム

公式サイト

▼映画『キャロル』予告編

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