骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2016-03-18 21:00


映画『あまくない砂糖の話』―日本人も知らずに毎日スプーン20杯摂っている!

健康食品も実は砂糖だらけ!自ら実験台となった監督が警告
映画『あまくない砂糖の話』―日本人も知らずに毎日スプーン20杯摂っている!
映画『あまくない砂糖の話』より、スティーヴン・フライ © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

食品に含まれる砂糖の量にフォーカスしたオーストラリア発のドキュメンタリー『あまくない砂糖の話』が3月19日(土)より公開される。摂取カロリー量は変えずに、人が一日に平均して口にするティースプーン40杯分の砂糖を、低脂肪などヘルシーであることを掲げる食品から60日間摂り続け、身心の変化を収めたのは、デイモン・ガモー監督。自ら実験台になり、砂糖との付き合い方について分析している。webDICEではデイモン・ガモー監督のインタビューを掲載する。

昨年公開された『パパ、遺伝子組み換えってなぁに?』は、アメリカのジェレミー・セイファート監督が、子どもたちの食の安全を守るべく、遺伝子組み換えの真実を明らかにするために突撃取材を敢行するドキュメンタリーだったが、本作のガモー監督は、実験に協力する研究者をキャラクター化したり、同じオーストラリア出身の俳優ヒュー・ジャックマンが砂糖の歴史を解説するシーンで司会として登場させたりと、随所にユーモラスな演出を交えることで、身近な食の問題に斬りこんでいる。インタビューにもあるように、ガモー監督のエンターテイメント性に溢れた仕上がりとなっている。


健康食品だと謳われていても実際はそうではない

──今回、砂糖に関する映画を作った背景として、オーストラリアでは砂糖の過剰摂取が問題になっていたのでしょうか?

近年よく言われているのは、子供たちが糖尿病や肝臓病にかかっているということでオーストラリアでは非常に問題になっています。この現象は30年前までは無かったので、食べ物に何かしら関係があるのではないかと思っているときに、スーパーでトマトスープの缶詰のラベルをみるとティースプーン8杯分の砂糖が含まれているのを見つけました。これはコーラと同じ砂糖の量です。このように、我々は知らない間に砂糖を摂取してしまっているので、そういう意味で、間違った知識が世の中には出回っている、健康食品だと謳われているものであっても、実際はそうではないというのがわかってきたのです。

映画『あまくない砂糖の話』デイモン・ガモー監督
映画『あまくない砂糖の話』デイモン・ガモー監督

──今回の実験で一日に摂取したティースプーン40杯分の砂糖というのは、オーストラリアの人々が日常的に摂取している量なんですよね?

そうですね、オーストラリアの人々は1日にティースプーン40杯分の砂糖を摂取していると言われています。WHOの基準では、適量は一日にティースプーン6杯分となっているのですが、この日本でも平均1日ティースプーン20杯分と聞きましたので大幅に上回っていますよね。健康に対して問題になっているのは砂糖だけではないですが、砂糖はその問題を大きく担っていると思います。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

──この映画を作る際に影響を受けた、参考にした映画はありますか?あれば具体的に教えてください。

一つ挙げるならモーガン・スパーロック監督の『スーパーサイズ・ミー』です。マクドナルドを1日3食食べるという内容で、実験する前からある程度の結果はなんとなくわかっていたと思うのですが、本作では、いわゆる“ヘルシー”な食べ物と宣伝されている食品を60日間食べてどのような影響があるか、そして“ヘルシー食品”に含まれている砂糖は問題ではないのか?という実験を行いました。

カラフルな色使いで子どもたちへアプローチ

──今回の実験でどこが一番辛かったですか?また、実験後、体を元に戻す際に辛かったこともあれば教えてください。

実験中で一番辛かったのは、最後の2週間ですね。精神的にここまで左右されるとは思っていなかったし、そろそろ娘が産まれてもおかしくない時期だったので、太ったままアメリカにいて娘の出産に立ち会えないかもしれなかったのです。そういった理由もあって、最後の2週間はずっと家に帰りたいと思っていました。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

──「このドキュメンタリーを作る」「こんな実験をやる」と聞いた時のご家族の反応を教えてください。

正直、やる前ははっきりと結果がでるかわからず、映画として成り立つ結果が出るかどうかの方が周囲や家族にとっては不安要素でした。実験を行う中で、思っていた以上に危険なことがわかり、妊娠中の妻も心配していたのですが、結果としてこの映画を作れたことはすごく喜んでくれました。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

──ヒュー・ジャックマンが出演していますが、彼が出演した経緯を教えてください。また、彼は完成した作品を観たのですか?感想はいかがでしたか?

彼が出演してくれたことはラッキーでした。彼自身もともと健康に気を遣っていたので、話をもちかけるとすぐに賛同してくれました。若い世代に伝えたいという我々のメッセージにも共感し、参加してくれることになりました。彼自身も映画を観てすごく気に入ってくれて、周囲の友人に薦めたり、子供たちにも見せたと言ってくれました。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より、ヒュー・ジャックマン © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

──内容からするとシリアスなアプローチもあったと思うのですが、ダンスやアニメーションなどを用いて楽しいアプローチをした理由を教えてください。

製作中、事務所の壁に貼ってあるオスカー・ワイルドの「真実を聴衆に伝えるなら、笑わせないと殺されるぞ」という名言をずっと見ながら取り組んでいました。また、子どもや家族に見てほしいとう気持ちが第一にありましたので、子どもも飽きず、かつ大人にもきちんと伝わるように、アニメを取り入れたり、ミュージック・ビデオ風にしたり、エンターテイメントとしてどこまでコマーシャル性を広げられるかという部分に気を遣っていました。結果として、たくさんの人たちに見てもらうことができてよかったです。砂糖業界が販売促進のため、カラフルな色使いで消費者へアプローチする部分を逆手にとって、この映画でもカラフルな色使いをして子どもたちへアプローチしました。また、子どもたちの集中力も続くよう、1シーンを2分半以内に収めるようにしました。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より、ヒュー・ジャックマン © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

正しい情報を公の場に出せない現状

──オーストラリアでは最もヒットしたドキュメンタリー映画になり、オーストラリア・アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞も受賞しましたね。観客の反応はどうでしたか?

ここ30年ほど、低脂肪が健康的という感覚を強く持っている人がほとんどです。そして、脂肪に気をつけているにも関わらず病気がどんどん増えてきているという中で、低脂肪である分、糖質が高くなっている食品も多いということがわかり、観客はショックだったようです。ラベルを見て栄養素をきちんと確認するということを学べたというのが一番大きな反応だったと思います。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

──この映画がきっかけでオーストラリアの社会で変わったことはありましたか?砂糖の摂取量を減らそうという社会的、もしくは民間の試みがあれば具体的に教えて下さい。

ヒットして多くの方に観てもらえたので、消費者の意識が高くなり、消費者側から食品業界へラベル表示をより明確にという呼びかけがあるなど、様々なことが起きています。グラムではどうしてもわかりづらいので、ティースプーンの杯数で表示するなど、わかりやすいラベル表示にする運動です。健康的なイメージで売っていても、ラベルを見るとそうでない食品はたくさんあります。そういう意味でラベルの表示をもっとしっかりしようという方向性ではありますが、食品業界の問題もあるので現在は様々な討論が起きています。

業界でも低糖質のものがたくさん発売されているので、政府より先に、まず消費者から声を上げてもらえたことが良かったです。また、ニュージーランドでも議会できちんと取り上げてもらい、病院では糖質の高い飲料を禁止する条例もでき、非常にインパクトのある作品になったと思います。学校でも教材として使用され、子供たちに食文化を伝えるプログラムを取り入れられて良かったです。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

映画館だけでなく、オーストラリアの学校に導入され食育プログラムを作ることが出来たり、作中にも出てくるアポリジニの先住民に食育のワークショップが組まれたり、また、食の正しい情報を配信するアプリの製作が行われるなど、文化的に様々な情報を伝える手段になりました。オーストラリアだけでなく、イギリスやニュージーランドでも行政の間で上映され、新たに条例を作る事例もありました。

また、アメリカでも様々な反響があり、私自身もパブリシティのツアーを周ったのですが、NBCをはじめABCなどの番組に出演しました。その際には、毎回必ず米国砂糖連盟から弁護士がやってきて、糖尿病や肝臓病という言葉の使用を一切禁止してきました。実際問題、食品会社とテレビ業界というのは密接に繋がっているので、正しい情報を公の場に出せないという現状があります。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

遺伝子組み換え食品は危険

──作品中にも、トウモロコシを原料に異性化糖などが作られていることが大きな問題として描かれています。そこに必ず関与してくる遺伝子組み換えについてどう思いますか?また、遺伝子組み換えについてアプローチしていく予定はありますか?

異性化糖というのは日本で開発されたと伺いました。果糖よりもさらに甘いということで、砂糖の40パーセントの甘さの蜂蜜を超えて、異性化糖は砂糖の50パーセントくらいの甘さです。こういったものが開発されるのは遺伝子組み換えも含め、非常に危険だと思います。アメリカでは遺伝子組み換え表示が厳守ではないところもありますので、私はすごく反対です。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

──今も砂糖の少ない生活をしているのですか?

砂糖を一切摂らないということではないですね。ときどきチョコレートなどの砂糖が含まれているものも食べますが、極力は野菜やフルーツ、魚など自然の食べ物を摂るようにしています。現代では、そのバランスが逆になっていると思うので、それが問題だと思います。

──なぜオーストラリアの人はそんなに砂糖を取るのでしょうか?

オーストラリアの人々は、どこに砂糖が含まれているのかを知らないのだと思います。チョコレートなどのお菓子類なら知っているかもしれないが、そうではないシリアルや低脂肪ヨーグルト、トマトスープなどにも非常にたくさんの砂糖が含まれていることを知らないのです。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

──この映画はオーストラリアの小中学校で教材として取り入れられているそうですね。子供たちはどのように受け止めているのでしょうか?

子供たちの反応をみることが、本作で一番やりがいを感じる瞬間です。製作の際も、子どもたちに向けての表現は特に意識した部分でした。子供たちの感想としては、食についてもっと学びたいという意欲のある質問が多かったので、若い世代がより健康に生活できるチャンスをつくることができたと思っています。

映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED
映画『あまくない砂糖の話』より © 2014 Madman Production Company Pty Ltd, Old Mates Productions Pty Ltd, Screen Australia ALL RIGHTS RESERVED

──最後に、日本の観客にメッセージをお願いします。

食に関しては、伝統的な食文化が根付いており、アメリカやオーストラリアと比べて健康的な食生活を送れていると思いますが、日本に来るたび、自動販売機で砂糖の多い飲料が増えていると感じますし、これから加工食品もより増えていくと思うので、そこには非常に気をつけてほしいです。

子供たち、今後の未来の世代に対して強く伝えたいのですが、身体的なことだけではなく精神的な意味でもどれだけ食文化が大切かということを知ってほしいです。食というのは、いわば車のガソリンと一緒で、違うガソリンを違う車に入れても走らない。そういう意味で、正しいものをきちんと選択してほしいと思います。

(オフィシャル・インタビューより)



『あまくない砂糖の話』チラシ

映画『あまくない砂糖の話』
2016年3月19日(土)より、シアター・イメージフォーラム他全国順次公開

監督・脚本:デイモン・ガモー
製作:ニック・バジアス
出演:デイモン・ガモー、スティーヴン・フライ、イザベル・ルーカス
原題:That Sugar Film
配給:アンプラグド
2015年/オーストラリア/102分/5.1ch/16:9シネマスコープ

公式サイト

▼映画『あまくない砂糖の話』予告編

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