骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2016-04-05 23:00


『さざなみ』ヘイ監督「ゲイの僕が“誰かと繋がりたい心”を理解する際の問題を描いた」

結婚45年の夫婦の危機をアカデミー賞ノミネートのシャーロット・ランプリングが演じる
『さざなみ』ヘイ監督「ゲイの僕が“誰かと繋がりたい心”を理解する際の問題を描いた」
映画『さざなみ』より、ケイト役のシャーロット・ランプリング(右)とジェフ役のトム・コートネイ(左) ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © Agatha A. Nitecka

45年間寄り添った熟年夫婦の関係を揺るがす6日間の出来事を描くドラマ『さざなみ』が4月9日(土)より公開。主演のシャーロット・ランプリングとトム・コートネイが2015年・第65回ベルリン国際映画祭の主演女優&主演男優賞(銀熊賞)を受賞したほか、シャーロット・ランプリングがアカデミー賞の主演女優賞にノミネートされた。今作について、アンドリュー・ヘイ監督のインタビューを掲載する。

結婚45周年の記念パーティを控える夫婦ジェフとケイトを主人公のもとに、山岳事故で行方不明となったかつての夫の恋人が氷の中で閉じ込められた状態で発見されたことを知らせる手紙が届く。その出来事をきっかけに、妻ケイトが嫉妬心と不信感を募らせていく過程を抑制されたタッチで描写している。長い年月が生んだ信頼関係をゆるがす夫婦間の溝、男女の結婚観そして恋愛観の違いを浮き彫りにしている。

ナチュラリズムに、ホラー的要素を足した

──この物語をどのように演出しようとしましたか。

ナチュラリズムを大事にしている。そこに少しホラー的な要素を足した。サスペンスを越えるような感覚をナチュラルに描きたかった。一歩離れてみないと分からないというのが人間の面白いところ。ケイトとジェフもそうやって人生を振り返ってみた時、ジェフは自分の伴侶はケイトしかいないと気付いて満足を得たが、ケイトはそうではなかった。感情の抑圧をしている二人。表面上はシンプルな、感情を抑え込みながら生きていることを表現するために、静かな雰囲気を心掛けた。それでカメラもあまり動かさずに撮影している。二人を同じフレームに入れて、感情の揺れやボディランゲージはきちんと見えるように考えた。

映画『さざなみ』アンドリュー・ヘイ監督
映画『さざなみ』アンドリュー・ヘイ監督

──撮影はどのように進めましたか?

撮影は順撮りだった。だからこそ、次のシーンでどういう気持ちでいるかをよりリアルに役者が感じながら演じることが出来たと思う。ラストシーンのランプリングが手を振りほどくシーンも、そういった積み重ねの結果生まれた。

こういう風にするという感情は予め決まっているが、それをどうやって表現するかは決めてなかった。ランプリングと話し合って、お互いの意見を出していった。8テイク撮って、最後のテイクのものを使っている。撮った瞬間、これだ!と思った。

映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © Agatha A. Nitecka
映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © Agatha A. Nitecka

ランプリングは強い女性が壊れていくという役どころに合っていた

──ロケ地について教えてください。

舞台となったノーフォークは、グレーな空、運河などがメランコリックな平らな風景が世界観に合っていると思った。撮影前に自分も住んでいた。

映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © 45 Years Films Ltd
映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © Agatha A. Nitecka

──夫婦を演じたランプリングとトム・コートネイについては?

とても立ち振る舞いが自然だった。作品への理解もきちんとしてくれた。彼らのようなベテランでも、新たな役を演じることは怖いと感じるということを知った。怖いというのは緊張をするという意味ではなくて、役をどのように自分で解釈をして演じてよいのかという思考のことだ。二人ともものすごく知識の豊富な人間なので、より一層深く考えていた。それをどうやってガイドしていくかが監督という仕事だった。ランプリングはとても強い人だけれど、同時に弱さも持っている。強い女性が壊れていくという主人公に合っていると思った。

脚本は、ケイトの視点を入れて、ケイトの気持ちになって書いた。元々ランプリングを想定して書いていたわけではないが、脚本を見せた時に出演を快諾してもらえて本当によかったと思う。ランプリングは私の中にあるケイトのイメージを完璧に、そして想像を越えるほどに演じきってくれた。

映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © Agatha A. Nitecka
映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © Agatha A. Nitecka

──今作で描かれる関係について、どのように感じますか?

年齢を重ねながら発展していく、成熟するのも悪くないが、恋愛関係も一緒に成長することをジェフとケイトは出来ていない。愛への欲求、必要性はとても複雑で難しい。どういったものなのか誰も分かっていないけれど、「探し続ける」ことは、幸福も悲しみももたらしてくれる。みんなが必要としているものだ。

──あなたはゲイであることを公言しています。

ゲイであるので、ゲイという存在に興味を持っている。でも、それ以上に、自分たちのアイデンティティや人生がどうあるべきかを恋愛関係を通してだけではないが、描き、問いつづけていたい。誰かと繋がりたいという気持ち、相手を理解することで生じる問題などに興味があるんだ。

──映画監督に必要なものとは何でしょうか?

19~20歳ぐらいの時、ミニシアターで働いていた時に映画監督になりたいと思った。好きで見ていたのは、ナチュラルな作品。70年代のヨーロッパの作品とか。イングマール・ベルイマンは好き。クリエイティブな仕事には怖さを乗り越えるセンシティブさが大事だと思う。

映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © 45 Years Films Ltd
映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © 45 Years Films Ltd

──今作のラストシーンのあと、二人はどのように生きていくと思いますか?

二人はお互いを愛している、良い関係だったと思う。1週間で劇的に変わってしまったが、これからも何とか生きていくだろう。価値観が違うことを突きつけられた人がそれでも生きて行く様を描きたかった。我々人間にとってそれ以上に辛いことはないと思ったからだ。

──監督にとって愛とは?

ひとりではないという感覚。恋をしていると他のことが良くなる。誰かと人生を共有することが出来る。相手も自分もお互いを理解しているということを味わえる、素晴らしいものだ。

映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © 45 Years Films Ltd
映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © 45 Years Films Ltd

──今後の活動について教えてください。

この夏に、15歳の引きこもりの少年の成長過程を描いた物語をオークランドで撮る。ゲイの話ではない。脚本も担当する。

──ファッション・デザイナーのアレキサンダー・マックイーンの伝記映画の監督を務めることも報道されました。

アレキサンダー・マックイーンの映画は2017年の半ばに撮影予定だ。彼の人生、悲劇的な結末に興味がある。アーティストとしての彼の人生を描く予定。脚本は別の人が担当することになっている。

(オフィシャル・インタビューより)



アンドリュー・ヘイ(Andrew Haigh) プロフィール

1973年イギリス生まれ。ハリウッドに渡り、『グラディエーター』(00)や『ブラックホーク・ダウン』(01)の編集補佐を務める。2009年に初めて監督した長編映画『Greek Pete』はロンドン・レズビアン&ゲイ映画祭で初上映された。続く『ウィークエンド』(11)は英国インディペンデント映画賞、イブニング・スタンダード・シアター賞の最優秀脚本賞を含む多数の賞を受賞。日本の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でも上映された。現在、アメリカのHBOのテレビ番組「ルッキング」エグゼクティブ・プロデューサーを務め、そのシーズン2のうち複数話で脚本の執筆と監督を務めている。2016年、ファッション・デザイナーの故アレキサンダー・マックイーンの伝記映画の監督を務めることも発表されている。




映画『さざなみ』
4月9日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © Agatha A. Nitecka
映画『さざなみ』より ©The Bureau Film Company Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute 2014 © Agatha A. Nitecka

土曜日に結婚45周年の記念パーティを控えるジェフとケイト。しかし月曜日にある手紙が届いたことで、彼らの土曜日までの6日間は、45年の関係を大きく揺るがしていく。山岳事故で死んでしまったかつての夫の恋人のゆるぎない存在が、突如として夫婦の関係に入りこんできたとき、夫は過去の恋愛の記憶を日毎に蘇生させ、妻は存在しない女への嫉妬心を夜毎重ねていく。それはやがて夫へのぬぐいきれない不信感へと肥大していくのだった……。

監督:アンドリュー・ヘイ
原作:デイヴィッド・コンスタンティン
出演:シャーロット・ランプリング、トム・コートネイ
原題:45 YEARS
2015年/イギリス/英語/カラー/95分
配給:彩プロ
協力:朝日新聞社
宣伝:テレザとサニー有田・大竹、梶谷有里

公式サイト

▼映画『さざなみ』予告編

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