骰子の眼

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東京都 渋谷区

2016-05-19 16:10


愛媛・松山のケンカ屋、柳楽優弥の眼に欲望と狂気が宿る『ディストラクション・ベイビーズ』

菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎ら出演、音楽は向井秀徳―真利子哲也監督語る
愛媛・松山のケンカ屋、柳楽優弥の眼に欲望と狂気が宿る『ディストラクション・ベイビーズ』
映画『ディストラクション・ベイビーズ』より、 ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎といった若手実力派俳優が集結し、愛媛県松山市を舞台に若者たちの欲望と狂気を描く映画『ディストラクション・ベイビーズ』が5月21日(土)より公開。監督を務めるのは『イエローキッド』『NINIFUNI』の真利子哲也監督。webDICEでは真利子監督のインタビューを掲載する。

主人公は松山市の小さな港町・三津浜に住むケンカばかりしている青年・泰良。街で出会った裕也と通行人に無差別に暴行を加え車を強奪、車に乗り合わせていた少女・那奈と松山市外へと向かう過程を、泰良を探す弟の将太からの視点とともに描いている。ZAZEN BOYSの向井秀徳が音楽を担当しているほか、『桐島、部活やめるってよ』の脚本家・喜安浩平が真利子監督とともに脚本を担当している。

松山という街に魅了された

──本作の着想はどこから生まれたのでしょうか?

2012年4月にミュージックビデオの依頼を受けて、愛媛県松山市にはじめて足を運びました。取材を終えて、同行していたプロデューサーと呑み歩いている時に、とあるバーのマスターをしていた男と話していてその生き様に感銘を受けちゃって。彼は同世代なんですが、十代から路上での喧嘩を生業のように生きてきて、はじめは冗談かと思いましたが、その話を裏付けるように拳が嘘をついていなかった。ミュージックビデオを撮り終えてから、すぐ松山に住み込んで喧嘩について聞き込みをはじめました。彼への取材と並行して脚本を書き進めながら、シネマルナティックという映画館に足繁く運ぶうちに知り合いも増えて、松山にどんどん魅了されていって。ある程度、焦点が絞れたところで東京に戻ると、劇場公開していた『桐島、部活やめるってよ』(12年/監督:吉田大八)で脚本の喜安浩平さんが松山出身だと知って、関係者を辿って声をかけました。

映画『ディストラクション・ベイビーズ』真利子哲也監督
映画『ディストラクション・ベイビーズ』真利子哲也監督

その後も断続的に松山に足を運んで、『あすなろ参上!』や『三津浜と七人の神々』といった松山を舞台にした映像作品を制作しながら、映画の手がかりを探しました。街中の路地や兄弟の住んでいる造船所など、こうした活動を通して知りました。取材をしながら想像を巡らせたストリートファイトや人間関係、同時に見ていた松山の穏やかな風景、血気盛んな祭りの喧騒など、様々な事柄を目の当たりにしながら他所者ゆえの自分が得た違和感を大事にして脚本を書きました。

柳楽優弥以外に喧嘩っ早い主人公・泰良は考えられなかった

──主人公・泰良のキャラクターについて教えてください。

繰り返し喧嘩するイメージがはじめからありました。きっかけは喧嘩の取材にありましたが、事実そのままを脚本として書くつもりはありませんでした。ただ主人公の泰良に台詞で何を言わせても、どうにも違和感が生まれる。はたして、この男は一体何なのかということで脚本と向き合っていたように思います。

脚本を書き始めた時から、柳楽優弥くんの名前をあげていました。彼の目に明らかに野心があって俳優としての威厳もあった。その頃はお会いしてなかったので、若さゆえの危うさもあるだろうということも含めて、柳楽優弥以外に考えられませんでした。限られた時間の中でお互い「泰良とは何か」と言葉を尽くしたものの、理解したからといって体現できるものではなく、演じる本人は相当なプレッシャーだったと思います。松山の路上ではじめの喧嘩を撮った時に、「こういうことだね」と通じ合えたことは大きかった。結局のところ、僕はこの映画を通して「泰良とは何か?」を探していたように思います。

映画『ディストラクション・ベイビーズ』より ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
映画『ディストラクション・ベイビーズ』より、裕也役の菅田将暉 ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

──他のキャラクター設定と配役については?

共犯者となる裕也は、寡黙な泰良に対し、饒舌な狂言回し。ひとりだと非力なのに、泰良という“虎の威”を借りることで調子に乗って暴力衝動をエスカレートさせていく。菅田将暉くんは『そこのみにて光輝く』(14年/監督:呉美保)でその実力に痺れていたので、彼の芝居の引き出しでもやったことがないことをやろうと企んで、実現してくれました。衣装合わせの時に時間をもらって、10代中頃で何を考えてたのかなど話しました。性格的に歪んでいる裕也を演じる手がかりを探していたのが印象に残ってます。

那奈はそんな裕也と対になる存在で、裕也が口達者なら那奈は視線が重要でした。事件に巻き込まれながらしたたかな面もあるが、基本的にはその時の気分に流されて生きているような、どこにでもいる女の子。小松菜奈さんは『渇き。』(14年/監督:中島哲也)で、熟練の俳優の中に放り込まれた彼女の違和感には魅力が溢れ出ていて、かけがえのないものだと思いました。那奈という役も脚本の想定を越えて、演じた彼女自身の持ち味が作り上げた部分も多いと思います。

映画『ディストラクション・ベイビーズ』より ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
映画『ディストラクション・ベイビーズ』より、那奈役の小松菜奈 ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

泰良の弟・将太は泰良を最も身近で見てきた存在であり、突然、姿を消した兄を探し求める。田舎の港町で何をどうするかもわかっていない思春期に、圧倒的な兄と対比となる存在です。ぼくはこの企画を2014年のカンヌ国際映画祭に紹介してきて、村上虹郎くんは『2つ目の窓』(14年/監督:河瀬直美)の主演としてカンヌに出品されていたので、現地のパーティの席で出会いました。まだ演じた姿が観客に見られる前だった彼に、思春期らしい危うさと同時に役者としての意思を感じて、柳楽優弥と村上虹郎が兄弟だったら最高だなって。

映画『ディストラクション・ベイビーズ』より ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
映画『ディストラクション・ベイビーズ』より、将太役の村上虹郎 ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

またその兄弟の親代わりともいえる造船所の親父・近藤役のでんでんさん。社会のグレイな部分を担う役柄ですが、こちらから多くを話さずとも理解してくれて、撮影時も実際に現地の方々と交流しながら、立ち振舞いなどを芝居に生かしてくれました。

とにかく端役に至るまで、語りだしたらキリがありません。この映画で自信をもって言えるのは役者がみんな素晴らしい。僕の希望していた理想のキャストが集まってくれました。

映画『ディストラクション・ベイビーズ』より ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
映画『ディストラクション・ベイビーズ』より、那奈が勤めるキャバクラの店長・三浦役の池松壮亮(右)、三浦の同僚・河野役の三浦誠己(左) ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

「楽しければええけん」という台詞の意味

──本作で描いた暴力について、監督としてはどんな思いがあったのでしょうか。

もしかしたらこの映画をみて、暴力を肯定していると勘違いされるかもしれません。泰良の台詞は最小限まで削ぎ落として、数少ない言葉の中で核になるのが「楽しければええけん」。この言葉に違和感を抱く人も多いかもしれませんが、僕も取材で耳にしたその言葉に違和感を覚えたからこそ映画を撮りました。たとえば暴力行為をみて、嫌悪感とともに高揚感を抱くのも事実で、この罪深い感触と向き合いたいと思いました。

今回、松山で喧嘩の取材と並行して感銘を受けていたのが、愛媛各地で取り行われる神輿をぶつけう秋祭りです。喧嘩神輿と呼ばれて各地でその考え方は異なりますが、三津でいえば、かつて農民と漁師の揉め事が絶えなかったので一年に一度だけ神輿をぶつけ合い豊穣を願う儀式だと聞きました。ぶつけ合う神輿の下で人々が怒鳴り合って押し合って、殴り合いも起きますが、そこは社会であって、規則にも暗黙の了解がある。近藤はまだ未熟な将太を“こちら側”に繋ぎ止めようとするんですね。“向こう側”に行ってしまった泰良に対して。

映画『ディストラクション・ベイビーズ』より ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
映画『ディストラクション・ベイビーズ』より ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

向井秀徳の音楽はもはや映画に合ってるとか飛び越えた存在

──音楽をZAZEN BOYSの向井秀徳を起用した理由は?

前作『NINIFUNI』を公開中に縁あって向井秀徳さんと対談をして酒を交わしました。その時点ですでに愛媛の取材をしていたので「もし映画として動き出したら音楽をお願いさせてください」と酔いに任せて口にしたところ「“ギュイーン”とした音で良ければいいよ」とお返事いただきました(笑)。

その後、松山の撮影直前でしたが向井さんに音楽をお願いしたところ、細かいことまで話さずとも快くお返事をいただきました。その場ですぐに脚本を送って、松山での撮影を終えてから東京に戻ると、向井さんが脚本を読んだ印象で音楽が送られてきました。結果的にこの時いただいた楽曲はこの映画を象徴している音楽として冒頭部分で使うことになりました。その後、本編が出来上がる前に2人のジャズ・ミュージシャンと向井さんがコラボレーションした楽曲もいただき、エンディング曲の「約束」は映画の編集を終えた時に作ってくれました。ぼくがナンバーガールをはじめ、現在までの向井さんの音楽の世界観に影響を受けているのは間違いないので、もはや映画に合ってるとか間違ってるとか飛び越えた、これ以上ないものになっていると思ってます。

映画『ディストラクション・ベイビーズ』より ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会
映画『ディストラクション・ベイビーズ』より、泰良役の柳楽優弥 ©2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

──観たあと、様々な感情が昂ぶる余韻を持つ作品になっていると思います。

縁も所縁もなかった松山で、沢山の人達と出会って脚本を書いて、これまで見てきたものとか感じたことを詰め込みました。集まったキャストやスタッフと一緒にすべてをぶつけた映画です。どこかの劇場で観た人たちが「やべえな、これ」と騒ついて、『ディストラクション・ベイビーズ』の話で盛り上がってくれたら、それほど嬉しいことはないなあと。

(オフィシャル・インタビューより)



映画『ディストラクション・ベイビーズ』

映画『ディストラクション・ベイビーズ』
5月21日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

愛媛県松山市西部の小さな港町・三津浜。海沿いの造船所のプレハブ小屋に、ふたりきりで暮らす芦原泰良と弟の将太。日々、喧嘩に明け暮れていた泰良は、ある日を境に三津浜から姿を消す――。それからしばらく経ち、松山の中心街。強そうな相手を見つけては喧嘩を仕掛け、逆に打ちのめされても食い下がる泰良の姿があった。街の中で野獣のように生きる泰良に興味を持った高校生・北原裕也。彼は「あんた、すげえな!オレとおもしろいことしようや」と泰良に声をかける。こうしてふたりの危険な遊びが始まった。やがて車を強奪したふたりは、そこに乗りあわせていたキャバクラで働く少女・那奈をむりやり後部座席に押し込み、松山市外へ向かう。その頃、将太は、自分をおいて消えた兄を捜すため、松山市内へとやってきていた。泰良と裕也が起こした事件はインターネットで瞬く間に拡散し、警察も動き出している。果たして兄弟は再会できるのか、そして車を走らせた若者たちの凶行のゆくえは――。

出演:柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮、北村匠海、岩瀬 亮、キャンディ・ワン、テイ龍進、岡山天音、吉村界人、三浦誠己、でんでん
監督・脚本:真利子哲也
脚本:喜安浩平
音楽:向井秀徳
製作:椎木隆太 森口和則 太田和宏 大和田廣樹 王毓雅 阿南雅浩
企画プロデュース:朱 永菁 プロデューサー:西ヶ谷寿一 西宮由貴 小田切乾 石塚慶生
ラインプロデューサー:金森 保
撮影:佐々木靖之
録音:髙田伸也
美術:岩本浩典
衣裳:小里幸子
ヘアメイク:宮本真奈美
特殊メイク:JIRO
アクションコーディネイター:園村健介
VFX:オダイッセイ
編集:李 英美
助監督:茂木克仁
制作担当:柴野 淳
製作:「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会(DLE、松竹メディア事業部、東京テアトル、ドリームキッド、大唐国際娯楽、エイベックス・ミュージック・パブリッシング)
製作幹事:DLE
制作・配給・宣伝:東京テアトル
制作協力:キリシマ1945
2016年/日本/108分/5.1ch/ビスタ/カラー/デジタル
(C)2016「ディストラクション・ベイビーズ」製作委員会

公式サイト:http://distraction-babies.com/


▼映画『ディストラクション・ベイビーズ』予告編

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