骰子の眼

music

東京都 墨田区

2016-05-22 12:00


私たちはアレンの言葉のスピリチュアルな側面とそして深い愛とユーモアも同時に感じているのです

パティ・スミス×フィリップ・グラス ギンズバーグに捧ぐ来日公演
私たちはアレンの言葉のスピリチュアルな側面とそして深い愛とユーモアも同時に感じているのです
▲写真:ピアノ:フィリップ・グラス(左)、朗読:パティ・スミス(右)。中央の写真はアレン・ギンズバーグ

ミュージシャン/詩人のパティ・スミスと、現代音楽の巨匠フィリップ・グラスの共演によるイベント『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』の日本公演が2016年6月4日(土)、東京・すみだトリフォニーホールで行われる。

『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』は、アレン・ギンズバーグ生誕90周年を記念して行われるもので、ビート・ムーブメントの時代を生き、ビート文学を代表する詩人であり、50年代から70年代のニューヨーク、サンフランシスコのカウンター・カルチャーのアイコンとして知られるアレン・ギンズバーグと深い親交を持ったという共通項を持つふたりが出演。フィリップ・グラスの代表曲にのせて、ギンズバーグとパティ両氏の詩作品をパティ・スミスが朗読するというスタイルで行われる。

今回の公演にあたり、村上春樹と柴田元幸がギンズバーグの詩を完全新訳。両氏による詩の日本語訳は、ステージ上の大スクリーンにパティ・スミスとフィリップ・グラスが選んだ在りし日のギンズバーグの写真やイラストとともにプロジェクターで投射される。パティ・スミスはかねてから村上春樹を愛読していることで知られており、今回は翻訳というかたちでのコラボレーションとなる。

当日は約90分の公演のなかで、反戦、平和への願い、物質主義へのアンチテーゼなどを主題に、ギンズバーグを代表する反戦詩「WICHITA VORTEX SUTRA」、パティ・スミスの「PEOPLE HAVE THE POWER」の演奏のほか、フィリップ・グラスのピアノソロや、パティ・スミスのギター弾き語りも含まれるセットリストとなる。また、パティ・スミスの娘ジェシー・スミス&チベットの音楽家テンジン・チョーギャルが、オープニングアクトに出演決定。日本では初となるパティ・スミス親子共演が実現する。

さらに6月5日(日)には、フィリップ・グラスのピアノ・パフォーマンスの集大成として、宮﨑駿監督作品の映画音楽で知られる久石譲と、オーストリアを拠点に世界で活動するピアニスト・滑川真希出演による、グラスが発表したピアノ・エチュード全20曲を演奏するコンサート『THE COMPLETE ETUDES』も行われる。

webDICEでは開催にあたり、パティ・スミスとフィリップ・グラスのインタビュー、そして翻訳を担当する村上春樹と柴田元幸両氏よる寄稿文を掲載する。




パティ・スミス インタビュー
「アレンは詩や愛を残してくれただけでなく、
市民としての義務、声をあげるという行為を思い出させてくれる」

パティ・スミス
パティ・スミス

アレンは残された詩の中に今も生き続けています。彼の言葉は彼自身。その言葉は、アレンのエネルギーや哲学、性や童心、そして情熱が具現化したもの。フィリップ・グラスとともにアレンの詩を朗読し、それらの言葉を口にする時、カトリック的な側面すら感じることがあります。主を口に含んでしまうことは、神と結合するようなもの。つまりアレンの詩を口から取り込んで、またそれを言葉として外に放つことは、彼を近くに感じるための手段なのです。

朗読の機会に感謝しながら、同時にパフォーマンスをとても楽しんでもいます。なぜならアレンは本当に愉快な人だったし、フィリップ・グラスもそう。私たちは、アレンの言葉のスピリチュアルな側面と、そして深い愛とユーモアも同時に感じているのです。

私が素晴らしいと思うのは、アレンは詩や愛を残してくれただけでなく、我々の市民としての義務、声をあげるという行為を思い出させてくれること。難しい時代だけれど、個の力が団結すれば民衆となって、そのひとりひとりが問題を解決する想像力を持ち得るのです。経済やお金の問題はいつだってあるし、銀行も倒産すればなくなってしまう、でも私たちの想像力は決して途絶えたりしないでしょう?だから知恵を働かせ、想像力を持ち続けましょう!




フィリップ・グラス インタビュー
「パティはいつも、まるで自分の詩を読むかの如く、アレンの作品を読んでいました」

フィリップ・グラス Photo by Fernando Aceves
フィリップ・グラス Photo by Fernando Aceves

パティも私も、アレン・ギンズバーグとは長年の友人関係にありました。パティと初めて出会ったのは1979年。それ以来、ずっと彼女のことは良く知っています。でも実際には、パティと私を深く結びつけたのは、アレンだったんです。

アレンが生前まだ元気だった頃、「WICHITA VORTEX SUTRA」(ギンズバーグを代表する反戦詩、本公演でも演奏予定)のポエトリー・リーディングを数えきれないぐらい一緒にやりました。アレンと一緒にアルバム『ハイドロジェン・ジュークボックス』をレコーディングした時、彼の朗読を吹き込んだカセットテープを作ったんです。リーディングのパフォーマンスにアレンが来られない時は、その朗読テープを流して、自分はそれにあわせてピアノを弾いていたんです。そしてアレンが亡くなってから5〜6年は、彼と演奏した曲を弾くことをすっかり止めてしまいました。自分の人生から「詩人」の存在が消えてしまったのです……。

ある時、どこかの国をツアーしていて、久しぶりにそのテープを耳にする機会があり、ふと思ったんです。アレンが生きていた時もテープに合わせて弾いていたんだから、また同じことをしたって構わない。理由は違っても、彼がステージに不在であることには変わりないんじゃないかー。

そうして2005年頃からまたアレンの声にあわせて弾くようになって、ある日パティ・スミスに「君はアレンの詩を代わりに読めるかい?」って聞いてみたんです。初めて聞いたパティの朗読は、アレンのそれとは違っていました。パティ独自のリーディングでした。もし彼女がアレンに似せて読んだとしたら、僕はきっと気に入らなかったと思います。それはアレンを亡くしてしまった僕の悲しみをさらに増幅させてしまっただろうから。パティはいつも、まるで自分の詩を読むかの如く、アレンの作品を読んでいました。だからこそ、彼女のリーディングはとても力強く感じられたのです。

「最初に浮かんだ思考が最良だ」とアレンはよく口にしていました。彼はそのことを固く信じていた人だったし、行動がそれを体現していたんです。例えばここに証拠があって、ある詩はこんな風に結ばれている。「(書いた日時は)1987年5月28日 午前2時30分から3時15分」ってね(笑)。

全てのアーティストが、亡くなってもなお語り継がれるわけではありません。そんな風に恵まれているのは、例えばシェイクスピアとか、大昔から知られている人くらいです。今現在に生きる自分の頭では、自分が後世に知られているかなんて、分かる術がない。どのアーティストが10年、20年、50年、100年、200年、300年の時を経ても、皆の記憶に残っているかは、誰にも分かりません。

でも僕はアレン・ギンズバーグは、皆に語り継がれる、いわば不死身の詩人になると思い始めています。どんな時代の、どんな人に向けても作品を残した詩人としてです。未来に向けて、ということだけじゃない、過去の人たちに向けてもです。過去存在した人たちもまだ時間の中に存在し続ける、ということを忘れてはいけません。

アレンの反戦詩は、ベトナム戦争ではなく、今日起こっている戦争の為に書かれたと言うことだってできます。イラクの戦争の為に書かれたのと同じことなんです。そういう風に、どんな人にも作品を残していく人が真の不死身の存在だと思います。アレンはきっと、芸術家の最高神として人々の中に生き続けると思います。




「パティ・スミスさんのこと」

 僕が数年前にベルリンで何かの賞を受けたとき、授賞式にパティ・スミスさんがわざわざ飛行機に乗って来てくれて、お祝いのギター弾き語りをしてくれた。主宰したドイツの新聞社の人に「またどうして?」ときいたら、「声をかけてみたら喜んできてくれた。自分のマイレージで切符を買うから交通費はいらない。そのかわりブレヒトがベルリンで定宿にしていたホテルの部屋をとってくれ。それが彼女の出した唯一の条件だった」ということだった。

 式のあとで二人でご飯を食べながらいろんな話をした。ずいぶん不思議な人だった。まるで地上から数センチだけ浮かんで生きているような人だ。今回、来日する彼女のために、彼女とアレン・ギンズバーグの詩の翻訳ができることを、僕としてはとても嬉しく思う。彼女の鋭くタフなヴォイスに負けないような翻訳ができるといいのだけれど。

──村上春樹


 詩とは、ことばの「意味」としての側面だけでなく、「音」としての側面も目いっぱい活用する営みです。いわば、アタマのみならずカラダにもつながることば。
 アレン・ギンズバーグは、だれにもまして、ことばとカラダのつながりを、まさに身をもって演じてみせた詩人でした。
 そういう、音やカラダと密接した詩を訳すのは、原理的に困難です。何しろ、訳したら、音はガラッと変わってしまうのですから。
 でも、強い詩には、そういう困難を超えて伝わるものがあります。ギンズバーグの詩にも、パティ・スミスさんの詩にも、それがあります。ましてや、フィリップ・グラスさんの音楽という、もうひとつの強い音、強いカラダがそこに加わるのですから、大丈夫です。
 けれどそのためには、翻訳者がちゃんと仕事をしないといけません。現代文化を世界的に代表する御三人の中に一介の翻訳家がまぎれ込むのはどう考えても場違いなのですが、まさに「末席を汚(けが)す」ことにならぬようがんばります。

──柴田元幸




『THE POET SPEAKS/THE COMPLETE ETUDES』
フィリップ・グラス & パティ・スミス来日公演
2016年6月4日(土)~6月5日(日)
会場:すみだトリフォニ-ホール(大ホール)

パティ・スミス フィリップ・グラス

『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』

6月4日(土)14:00開演/19:00開演[2回公演]
出演:フィリップ・グラス(Piano)、パティ・スミス(Vocal & Guitar)
翻訳: 村上春樹、柴田元幸(完全新訳)
オープニングアクト:ジェシー・スミス、テンジン・チョーギャル

ジェシー・スミス
『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』オープニング・アクトとして出演するジェシー・スミス
テンジン・チョーギャル
『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』オープニング・アクトとして出演するテンジン・チョーギャル



フィリップ・グラス

『THE COMPLETE ETUDES』

6月5日(日)15:00開演
出演:フィリップ・グラス(Piano)、久石譲(Piano)、滑川真希(Piano)

久石譲
『THE COMPLETE ETUDES』に出演する久石譲
滑川真希 Photo by Andreas H. Bitesnich
『THE COMPLETE ETUDES』に出演する滑川真希 Photo by Andreas H. Bitesnich

料金:
SS席14,000円(SS席はソールドアウト)/S席13,000円 (全席指定・税込)
U-25チケット=6,000円(観劇時25歳以下対象・当日指定席券引換・要身分証明書)
※U-25チケットはチケットぴあにて前売り販売のみの取扱い
上演時間:
「THE POET SPEAKSギンズバーグへのオマージュ」約1時間半(休憩なし)予定
「THE COMPLETE ETUDES」約2時間(休憩あり)予定

主催:株式会社パルコ
共催:すみだトリフォニーホール
後援:J-WAVE
企画制作:株式会社パルコ / POMEGRANATE ARTS / PONDEROSA MUSIC & ART
制作協力:株式会社エフ・スクエア
特別協力:新潮社
協力:ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
助成:アメリカ合衆国大使館
問い合わせ先:パルコ劇場 03-3477-5858

公演公式サイト:
http://www.parco-play.com/web/program/poetspeaks/


▼2013年に行われた『THE POET SPEAKS』の記録映像

▼滑川真希によるフィリップ・グラスのピアノ・エチュードNo 9 & No 20




関連イベント

『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』日本公演記念 柴田元幸×松浦弥太郎トークイベント

「パティ・スミス、フィリップ・グラス、そして”うたう”ビート詩人ギンズバーグへ」

『THE POET SPEAKS ギンズバーグへのオマージュ』日本公演に先駆けて、ギンズバーグの詩の新訳を手がけた柴田元幸さんと、ビートジェネレーションに造詣の深い松浦弥太郎さんのトークイベント。ギンズバーグの詩の新訳を切り口に、ビート文学について、ギンズバーグについて、そしてこの公演の魅力について語る。

開催日:2016年5月25日(水)19:00~20:30
登壇者:柴田元幸、松浦弥太郎
参加費:500円(自由席)
開催場所:la kagu(ラカグ)2F レクチャースペースsoko

【参加お申込み】
当イベントへの参加には、事前のお申し込みが必要です(参加費:500円)。こちらからお申込みください。




『ジャスト・キッズ』
著:パティ スミス

発売中
翻訳:にむらじゅんこ、小林 薫
ISBN:978-4309909707
価格:2,570円
版型:192×136ミリ
ページ:472ページ
発行:アップリンク
発売:河出書房新社


『無垢の予兆』
パティ・スミス詩集

発売中
翻訳:東 玲子
ISBN:978-4309909714
価格:2,057円
版型:218×138ミリ
ページ:160ページ
発行:アップリンク
発売:河出書房新社


★購入はジャケット写真をクリックしてください。Amazonにリンクされています。

レビュー(0)


コメント(0)