骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2016-11-21 16:45


美意識によって高められた映画『エヴォリューション』の魅力 ルシール・アザリロヴィック×長尾悠美(Sister)

「思春期に到達していない子供が抱えている不安を描きたかった」その創造の源泉
美意識によって高められた映画『エヴォリューション』の魅力 ルシール・アザリロヴィック×長尾悠美(Sister)
映画『エヴォリューション』のルシール・アザリロヴィック監督(左)、Sisterディレクター兼バイヤーの長尾悠美さん(右)

秘密の園の少女たちの世界を描いた『エコール』のルシール・アザリロヴィック監督の新作『エヴォリューション』が2016年11月26日(土)より渋谷アップリンク、新宿シネマカリテほかにてロードショー。

webDICEでは、6月の「フランス映画祭2016」開催の際に来日したルシール監督と、渋谷のセレクトショップSisterディレクター兼バイヤーである長尾悠美さんとの対談を掲載する。

『エヴォリューション』は、大人の女性と少年たちしかいない絶海の孤島を舞台にした、倫理や道徳を超えるダークファンタジー。今回の対談では、ストーリーについてはもちろん、映像の質感や衣装といったディティールについての解説を通してこの「美しき悪夢」と形容される作品の魅力が語られた。

なお、11月26日(土)より『エヴォリューション』とSisterのコラボレーションとしてTシャツ6種類とトートバッグが発売される。SisterオリジナルデザインのTシャツは、少年と女性しかいない島の印象的なシーンをサイドにあしらい、主人公ニコラのお絵かきの刺繍が施されている。商品の詳細はSister特設ページまで。

対比が徐々に混成していくような演出を

長尾悠美(以下、長尾):前作の監督作品『エコール』から今回の『エヴォリューション』の公開まで11年の歳月がありました。本作を監督するにあたって前作からの監督自身の心境の変化、映画を通して伝えたいところへの変化はありましたでしょうか?

ルシール・アザリロヴィック(以下、ルシール):実は『エヴォリューション』は『エコール』の前から構想があったんです。製作費を集めるところからとても大変で、完成までにとても時間がかかってしまった。これから映画が世界中で公開されて、どういう反応があるのか……心境の変化があるとしたら、これからかもしれませんね。また同じような苦労があるかもしれませんし。

長尾:前作の『エコール』同様に監督の作品は思春期を迎える少年少女たちの微妙な身体的/精神的な変化を繊細に描いています。大人へと変化していく上で誰しもが経験する形容しようのない大きな不安を常に描く理由はなんでしょうか?

ルシール:私自身、子供だった頃にいろいろな不安を抱えていたと思うんです。『MIMI』や『エコール』にも同じくらいの年齢の子供が出てくるんですが、この作品では『MIMI』でも『エコール』でも描ききれなかった「子供が抱えている不安」を描きたかったんです。その年頃の子供は、まだ思春期に到達していない歳だからこそ感受性がすごく豊かで、想像の世界を持っていて、初めて体験することが多いので、肉体的にも精神的にもとても興味深い年齢だと思います。

映画『エヴォリューション』より © LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015
映画『エヴォリューション』より © LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015

長尾:この作品には独特の質感がありました。それは病院という殺風景で殺伐とした世界と海中の神秘と潤いに満ちた世界。その対比がとても美しくとても印象に残っています。また病院の施術室のシーンではライトがヒトデ型に光ったり、ストーリー以外にも観客を引き込むための効果的な手法が使われていました。演出での取り組みは他にはどういったものがありましたか?

ルシール:ご指摘のとおり、「対比」は意識しました。ごつごつした黒い島の自然と村の白い壁の街並み、地平線が広がる情景と閉ざされた空間である病院など、特に映画の前半で対比を強調し、後半ではそれを混ぜていくようにしました。たとえば、無機質で乾いたような空間であった病院は、後半壁が徐々に緑色に変化して、壁から水がしたたり落ちてくる。はっきりとした対比が徐々に混成していくような演出をしました。

そういった質感もそうですけど、衣装とかも特に質感にこだわったので、そこを指摘していただいてうれしいです。

映画『エヴォリューション』より © LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015
映画『エヴォリューション』より © LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015
映画『エヴォリューション』より © LES FILMS DU WORSO・ NOODLES PRODUCTION・VOLCANO FILMS・EVO FILMS A.I.E. ・SCOPE PICTURES・LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015
映画『エヴォリューション』より © LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015

映画は言葉ではない

長尾:映画の中でお母さんが身に着けていた衣装とか、島や海のトーンととてもマッチしていて、とても美しかったです。衣装が濡れてもまた違った良さがあって、ヌードではなくお洋服で少しカバーするような感じもすごく素敵でした。衣装について、こだわりがあれば教えてください。

ルシール:女性たちの衣装についてはかなりこだわりました。彼女たちの設定上、島に所属しているという感じを出したかったんです。決しておしゃれで着せているわけではないのですが、全裸というわけにはいかないし、少年たちもいるので彼女たちの秘密が見えないような形の衣装ということもポイントですね。石の色や土の色を取り入れた有機的な色、素材で、あくまで身体の線を強調したかったので、もうひとつの肌というような、薄さにもこだわりました。

逆に病院で看護師さんたちが着ている衣装は、軍隊的なものをイメージしています。女性的なラインではあるんだけど、画一的で少し厳格、といった雰囲気の衣装です。

映画『エヴォリューション』より © LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015
映画『エヴォリューション』より © LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015

長尾:監督の作品は全体的に輪郭がぼやけているような、全貌を明かさないような神秘と謎に包まれているように思います。監督の意図と観客の興味が交わっている曖昧な領域が、この作品の予測できない魅力を作り上げていると思います。監督の描ききらない、ある意味観客にゆだねる作品作りは、意表をついたミステリーだと思いました。この中でも観客に感じ取って欲しいメッセージというものはありますか?

ルシール:私は、映画は言葉ではないと思っています。言葉ではないからメッセージも要らない。あくまでも感覚、そして感情的に何か伝わってくれればいいと思っていますし、これはすごく内的な世界のお話であって、男の子が感じている不安や期待感といった彼の内面の世界が画面を通して伝わればそれでよいと思っています。

長尾:日本の古い文学に、谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」という本があります。この本では、東洋人は陰翳を認めて暗闇に美を見出すが、西洋人は光に美を見出すと谷崎は書いています。その美意識は日本のわびさびの精神から来ていると思いますが、あなたの作品はどこか東洋的な物暗い美しさを感じます。それは明らかに美しいというのではなく、なんとなくぼんやりと美しい、というような日本人的な美意識であって、とても共感しました。監督自身が東洋の魅力を感じることはありますか?

© LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015
映画『エヴォリューション』より © LES FILMS DU WORSO • NOODLES PRODUCTION • VOLCANO FILMS • EVO FILMS A.I.E. • SCOPE PICTURES • LEFT FIELD VENTURES / DEPOT LEGAL 2015

ルシール:ちょうどきのう谷崎潤一郎の生誕地の前を通りかかったんですよ (笑)。 光と影のコントラストについての指摘は、すごくありがたいです。この映画では光と影をとても意識しています。ジョルジョ・デ・キリコの絵のような――たとえば街があって、そこに太陽の光がバッと当たって、そしてその建物の影が濃く長く伸びている。影の濃さと太陽の光の強さの対照が心の不安を掻き立てるという、そういう効果をこの映画にも求めたんです。

長尾:来日は10年ぶりと伺いましたが、前回の来日も含めて日本で尋ねたところでお気に入りの場所はありますか?

ルシール:前回も今回も佃大橋に行きました。佃煮屋さんとかちょっとした神社のある昔の下町っぽい所をお散歩してビルが立ち並ぶ合間に急に小さな神社があったりして、スピリチュアルなものと物質的なものが混ざっているところも好きです。それから水上バスに乗ったんですが――やっぱり水のあるところが好きなのね(笑)。




映画『エヴォリューション』のルシール・アザリロヴィック監督(左)、Sisterディレクター兼バイヤーの長尾悠美さん(右)

ルシール・アザリロヴィック(写真左)

フランスの映画監督・脚本家。 「赤ずきんちゃん」をモチーフに少女のおびえを描いた『MIMI』(1996年)はカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で上映され、数々の賞を受賞。秘密の園の少女たちを描いた『エコール』(2004年)はサン・セバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞のほか、多くの映画祭で賞を受賞している。2015年、本作『エヴォリューション』を監督。サン・セバスチャン国際映画祭をはじめ、数々の映画祭で上映、反響を呼んでいる。パートナーであるギャスパー・ノエとのコンビネーションでも知られる。

長尾悠美(写真右)

渋谷のセレクトショップSisterディレクター兼バイヤー。 国内外40以上のエッジーなデザイナーズブランドや厳選されたビンテージアイテムなどに加え、オリジナルアイテムも取り揃えた店内は「意志を持ったスタイルを“ファッション”という形で表現する」というコンセプトのとおり、ファッションを楽しむだけでなく、自身のスタイルをも見直すことのできる特別な空間となっている。




Sister×映画『エヴォリューション』
11月26日(土)12:00販売スタート

<Tシャツ>

Nicholas's Drawing a dead boy刺繍Tシャツ

Nicholas's Drawing a dead boy刺繍Tシャツ
サイズ:S
価格:4,800円(税抜)
ボディ:ホワイト/ブラック

"to Sister Lucile Ha"ルシール監督サイン刺繍Tシャツ

"to Sister Lucile Ha"ルシール監督サイン刺繍Tシャツ
サイズ:S
価格:4,800円(税抜)
ボディ:ホワイト/ブラック/ベージュ ※アップリンクではホワイトのみ販売

<トートバッグ>

EVOLUTIONトートバッグ

EVOLUTIONトートバッグ
価格:4,000円(税抜)

Sister×映画『エヴォリューション』特設ページ

◇店頭販売はこちら
◆Sister
東京都渋谷区宇田川町18-4 FAKE 2F
03-5456-9892
http://sister-tokyo.com/
◆アップリンク・マーケット
※11/26より販売(11/17~25まで改装のため休業)




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映画『エヴォリューション』
2016年11月26日(土)、渋谷アップリンク、新宿シネマカリテ(モーニング&レイト)ほか全国順次公開

少年と女性しかいない、人里離れた島に母親と暮らす10歳のニコラ。その島ではすべての少年が奇妙な医療行為の対象となっている。「なにかがおかしい」と異変に気付き始めたニコラは、夜半に出かける母親の後をつける。そこで母親がほかの女性たちと海辺でする「ある行為」を目撃し、秘密を探ろうとしたのが悪夢の始まりだった。秘密の園の少女たちの世界を描いた『エコール』から10年。原始的な感情を呼び覚ます圧倒的な映像美でルシール・アザリロヴィック監督が描く、倫理や道徳を超えた81分間の美しい“悪夢”。エヴォリューション(進化)とは何なのか…?

監督:ルシール・アザリロヴィック
プロデューサー:シルヴィー・ピアラ、ブノア・カノン、ジェローム・ヴィダル
共同プロデューサー:セバスチャン・アルバレス、ジュヌヴィエーヴ・ルマル、ジョン・エンゲル
脚本:ルシール・アザリロヴィック、アランテ・カヴァイテ
脚本協力:ジェフ・コックス
撮影監督:マニュエル・ダコッセ
美術監督:ライア・コレット
衣装デザイン:ジャッキー・フォコニエ
特殊メイク効果:ジャン=クリストフ・スパダッチーニ
編集:ナッシム・ゴーディジ・テハラニ
音声:ファビオラ・オルドヨ
音楽:ザカリアス・M・デ・ラ・リバ、ヘスス・ディアス
製作:レ・フィルムズ・デュ・ヴォルソ、ヌードルズ・プロダクション、ヴォルケーノ・フィルムズ、エヴォ・フィルムズ A.I.E、スコープ・ピクチャーズ、レフトフィールド・ヴェンチャーズ
出演:マックス・ブラバン、ロクサーヌ・デュラン、ジュリー=マリー・パルマンティエほか
配給・宣伝:アップリンク
2015年/フランス、スペイン、ベルギー/81分/フランス語/カラー/スコープサイズ/DCP/原題:EVOLUTION

映画公式サイト




【新宿シネマカリテ】公開記念トークイベント

2016年11月26日(土)レイトショー 上映終了後
ゲスト:木下理樹(ART-SCHOOL)、ケンゴマツモト(THE NOVEMBERS)

2016年12月9日(金)レイトショー 上映終了後
ゲスト:多屋澄礼(音楽ライター/翻訳家)、[聞き手]小柳帝(ライター/編集者/翻訳者)

会場:新宿シネマカリテ(新宿区新宿3丁目37-12新宿NOWAビルB1F)
購入方法:鑑賞日の2日前より新宿シネマカリテのオンライン、劇場窓口にて販売

※上映時間の詳細は、近日劇場公式サイトにて発表
http://qualite.musashino-k.jp




【アップリンク渋谷】公開記念トークイベント

2016年12月3日(土)15時の回予定 上映終了後
ゲスト:二階健(映画監督)、ヴィヴィアン佐藤(非建築家/美術家)

会場:アップリンク渋谷(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1階)
購入方法:毎週水曜日の朝10:00より、土曜日から金曜日の1週間分のオンライン券を発売

※上映時間は変更の場合あり、詳細は近日劇場公式サイトにて発表
http://www.uplink.co.jp


▼映画『エヴォリューション』予告編ロング・バージョン

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