骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2016-11-25 22:30


本物のヒロイズムを観客と分かち合いたい―『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』監督語る

ジュリアン・ムーアとエレン・ペイジが同性パートナーへの権利求め闘う主人公を熱演
本物のヒロイズムを観客と分かち合いたい―『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』監督語る
映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.

ジュリアン・ムーアがエレン・ペイジを共演に迎え、パートナーに遺族年金を遺すため、肺がんに侵され余命わずかと診断されながらも法に立ち向かっていく姿を描く映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』が11月26日(土)より公開。webDICEではピーター・ソレット監督のインタビューを掲載する。

本作は2007年のアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞したシンシア・ウェイ監督の『フリーヘルド/Freeheld』を基にした物語。舞台となるニュージャージー州オーシャン郡で、異性結婚の夫婦に認められる権利をを同性カップルにも保証する「パートナー法」に基づく年金支給を、郡職員にも適用されるよう法の改正を訴える主人公の刑事ローレルをジュリアン・ムーアが演じ、ローレルのパートナー、ステイシーをエレン・ペイジが演じる。ゲイであることをカミングアウトしているペイジは、本作の製作も担当している。この物語はローレルとステイジーというパートナーだけでなく、マイケル・シャノンが扮するローレルの仕事上の「相棒」である刑事、デーンとのパートナーシップも描くことで、ローレルの刑事としての正義感の強さを浮き彫りにしている。そして口の悪い、でも思いやりのある「相棒」と何でも話し合える関係を築くことが、次第に懐疑的だった職場の刑事・警官たちの支持も得ていく過程を本作は捉えている。

主人公ローレルとステイシーの中に本物のヒロイズムを見た

──本作の基となった原作の短編ドキュメンタリー『フリーヘルド/Freeheld』を観た際の感想を教えてください。

ドキュメンタリーを見たときに私の心を打ったのは、主人公の二人、ニュージャージー州の警官ローラ・ヘスターと彼女のパートナーで自動車整備工のステイシー・アンドレの驚くほどの勇気です。彼女たちの話は知らなかったので、病と闘いながら、人生に降りかかった不当な出来事と対峙する彼女の気品と驚くほどの威厳に深い感動を覚えました。私にはヒーローという言葉は彼女が定義したものに思えました。

映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』ピーター・ソレット監督
映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』ピーター・ソレット監督

──本作のどのような点にひかれて、監督を引き受けましたか?

時の経過とともに、映画という文化は、私たち自身や私たちの文化の中にある現実逃避の方向にどんどん進んでいっているように思えます。私は本作で人類の普遍性と、非常に悲惨な状況にあっても素晴らしい存在になれるのだということを思い出させてもらいました。ローレルとステイシーの中に見た本物のヒロイズムに感銘を受けました。これを是非観客と分かち合いたいと思ったのです。

映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.
映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.

──脚本に対する要望などはありましたか?

はい。本作はステイシーの視点から見た、ローレルのパワフルなイメージで終わるべきだと感じていました。政治的なドラマであると同時に、本作は不朽のラブ・ストーリーでもあります。ですから今はこの二人の思い出の中にだけにしか存在していない、親密な瞬間で終わらせなければいけないと感じていたのです。

──映画化に際してステイシー・アンドレご本人とは、お話しされましたか?

本作の撮影中、ステイシーとはかなりの時間を一緒に過ごすことができました。最後の裁判のシーンにエキストラで出演もしているんですよ。本作で彼女の役を演じているエレン・ペイジの背後に座っているので、観てみてください。

ステイシーは私が今まで会ったなかでも特に暖かくて心の広い人間の一人です。彼女は驚くほどオープンで、私たちを彼女の人生に迎え入れてくれました。彼女がローレルとニュージャージーに建てた家でかなりの時間を一緒に過ごしました。彼女は仕事場である自動車修理工場に私を連れていってくれて、同僚たちを紹介してくれました。ローレルと初めてデートをした場所にも案内してくれたんですよ。

彼女と知り合えて光栄ですし、ローレルと彼女の遺産の描き方も含め、私やキャストを信頼してくれたことにとても感謝しています。

映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.
映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より、ローレル役のジュリアン・ムーア © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.

ジュリアンとペイジは今一緒に仕事ができる最高の女優

──ローレル役のジュリアン・ムーア、ステイシー役のエレン・ペイジと、役作りに関してお話された点や、実際演じられて、素晴らしいと感じられた点を教えてください。

ジュリアンとペイジは今一緒に仕事ができる最高の女優のうちの二人です。実際に二人が演じる姿は素晴らしいの一言に尽きますよ。それに二人がキャラクターを構築していく様にはワクワクしました。観客の皆さんもご存知の通り多才な二人は、このレベルまでという演技をしない。二人は非の打ちどころがないんです。

映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.
映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より、ステイシー役のエレン・ペイジ(左)、ローレル役のジュリアン・ムーア(右) © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.

──ローレルの同僚の刑事デーン・ウェルズを演じたマイケル・シャノンや、スティーヴ・カレルの演技もとても心に残りました。彼らのキャスティングや、印象に残っているエピソードなどあれば教えてください。

スティーブと彼が本作で演じた活動家のスティーブン・ゴールドスタインと過ごした時間は素晴らしく愉快なものでした。彼らは撮影中も、私たちが描こうとしていた実際の状況について撮影現場で話し合っていることが多かったですね。実際も鋭い政治工作員であり活動家であるゴールドスタインは、政治劇と喜劇的な挑発というテクニックを取り入れました。カレルはコミックの天才で、ドラマを演じる天賦の才にも恵まれている。二人とも役柄にぴったりでしたよ。

映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.
映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より、ローレルの同僚である刑事デーンを演じたマイケル・シャノン(右)、ローレル役のジュリアン・ムーア(左) © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.
映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.<
映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より、スティーブ・カレル © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.

──LGBTのテーマを扱った作品を撮ることへの難しさはありましたか?制作面で留意した点などあれば教えてください。

本作の撮影中、勇気を出さなければならない側面が数多くありました。撮影をしていたいくつかのコミュニティでは本作の題材に反対だったようです。ローレルが住んでいたそのコミュニティの地元政府は今でもこの問題で対立していますし、彼女に平等の権利を認めることを拒絶した政治家は未だに実権を握っていたりします。実在のデーン・ウェルズは、逮捕を恐れて入室を禁止されていたオフィスに案内してくれました。そういうわけで私たちは細心の注意を払って撮影をしたのです。

(オフィシャル・インタビューより)
映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.
映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』より © 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.



ピーター・ソレット(Peter Sollett) プロフィール

1976年、アメリカ・ニューヨーク生まれ。ニューヨーク大学のティッシュ・スクール・オブ・ジ・アーツ出身で、在学中にニューヨークのローワー・イーストサイドで育った少年をめぐる短編『FIVE FEET HIGH AND RISING』(00)を監督。脚本、撮影、共同編集も務めた。この短編が広く賞賛され、サンダンス映画祭で最優秀短編賞を受賞、カンヌ国際映画祭においても、優れた学生監督作品に贈られるシネフォンダシオン部門で最優秀短編賞を受賞した。初の長編映画『ヴィクター・ヴァルガス』(02 未/テレビ放映題)は、2002年のカンヌ国際映画祭でプレミア上映。高い評価を受け、アメリカではサミュエル・ゴールドウィン・フィルムズにより翌年公開され、インディペンデント・スピリット賞で作品賞を始め、4部門に5ノミネートを受けた。続く長編映画第2作は『キミに逢えたら!』(08 未)。音楽好きな若い男女の恋を描いた青春コメディで、トロント国際映画祭でプレミア上映され評判となった。近年はサンダンス・ディレクターズ・ラボでクリエイティブ・アドバイザーを、また南カリフォルニア大学映画芸術学部で映画学教授を務めている。生まれも育ちもニューヨークだが、現在はロサンゼルスに居を構えている。




映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』
11月26日(土)より、新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町他全国順次ロードショー

20年以上刑事として働いているローレル(ジュリアン・ムーア)。ある日、ステイシー(エレン・ペイジ)という若い女性と出会い、恋に落ちる。年齢も、取り巻く環境も異なる二人だったが、徐々に関係を築いていき、郊外に中古の一軒家を買って一緒に暮らし始めることに。しかし、ローレルが病に冒されていることが発覚し、余命半年という宣告を受けてしまう。自分がいなくなった後も、ステイシーが、二人の大切な家で暮らしていけるよう、遺族年金を遺そうとするローレル。だがそれは、同性のパートナー同士では法的に認められなかった。病と闘いながら、権利を求め、制度の改正を求め闘う決心をしたローレルの訴えは、やがて社会的なムーブメントへと拡大していき―。

監督:ピーター・ソレット
脚本:ロン・ナイスワイナー
出演:ジュリアン・ムーア、エレン・ペイジ、マイケル・シャノン、スティーヴ・カレル
主題歌:マイリー・サイラス『ハンズ・オブ・ラヴ』(ソニー・ミュージック)
原題:Freeheld
2015年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/103分
日本語字幕翻訳:牧野琴子
配給:松竹
c 2015 Freeheld Movie, LLC. All Rights Reserved.

公式サイト:http://handsoflove.jp/


▼映画『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』予告編

▼『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』の基となった短編ドキュメンタリー『フリーヘルド/Freeheld』予告編

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