骰子の眼

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東京都 新宿区

2017-01-27 16:50


豊崎由美さんが映画『ブラインド・マッサージ』を語る「全盲者の矜持 細やかに描く」

“視覚”を失った人たちを通し際立つ「恋するメカニズム」「心のメカニズム」の描写
豊崎由美さんが映画『ブラインド・マッサージ』を語る「全盲者の矜持 細やかに描く」
映画『ブラインド・マッサージ』のトークイベントより 飯塚容さん(左)、豊崎由美さん(右)

中国のロウ・イエ監督の最新作『ブラインド・マッサージ』が現在公開中。1月21日、新宿K'scinemaにて、本作の原作の日本語翻訳を手掛けた中央大学文学部教授の飯塚容さんと、ライター/書評家の豊崎由美さんによるトークイベントが行われた。この日は飯塚さんと豊崎さんそれぞれの視点から、小説と映画の関係について、そして盲人マッサージ院を舞台にした物語で描かれる登場人物の感情について語られた。

“視覚”という五感のうちの一つを失った人たちは、その部分を視覚ではなく他の感覚で補い、捉えようとする。だから余計にヴィヴィッドに「恋するメカニズム」といいますか、「心のメカニズム」の描写が際だってくる。(豊崎由美さん)


豊崎さん:翻訳文学って、その作品のことを一番深く理解しているのは翻訳家だと思うんですが、飯塚さんが映画を観て、まず思った事は何ですか?

飯塚さん:私は原作の翻訳者であると同時に、ロウ・イエ監督のファンでもあります。作品はもちろん全部観ていて、どれが一番好きかと聞かれるとこれまでは『ふたりの人魚』と答えていたのですが、『ブラインド・マッサージ』を観て、これは甲乙つけがたいと思いました。

これまでの彼の作品はバッドエンドで、辛い気持ちになることが多かった。『ブラインド・マッサージ』でも途中悲しいシーンがたくさんありますが、観終わった後、なんとなく清々しいものが感じられ、“あ、これはまいったなぁ、ロウ・イエ監督の作品も変わってきたのかなぁ”と思いましたね。

豊崎さん:私は、原作のファンで書評も書いているのですが、この作品、科学者が書いてるみたいな筆致じゃないですか。

飯塚さん:あるいは哲学者と言ってもいいかも知れないですね。小説には恋愛観や人生観を含めた作者の語りが入るわけです。映画にもナレーションがありますが、それはむしろ盲人に対する音声ガイダンスのような役割を果たしています。

豊崎さん:具体的な例を言うと、美人の新人マッサージ師・ドゥホンが、ある事件が起きてマッサージ院を去ってします。その理由や心理メカニズムを、原作の方では地の文でしっかりと描いています。映画にもそういった描写はありますし、それはどういうことかと言うと、盲人だからこそのプライドなんですよね。〈他人に借りを作りたくなかった。誰に対しても。親切な兄弟姉妹であっても。借りは返さなければならない〉(引用)。
そこが胸を打つんですよね。全盲者ならではの矜持。それが原作には細やかに書かれているんです。その意味で、とても緻密で精密で厳密な作品じゃないかと、わたしは読みました。

映画『ブラインド・マッサージ』より
映画『ブラインド・マッサージ』より

飯塚さん:映画は若手のマッサージ師シャオマーを中心に物語が作られていますが、原作の方は群像劇ですね。いろんな登場人物がいて、それぞれに等しく比重が置かれています。それぞれのエピソードがみんな面白くて、各登場人物の過去や背景が、原作小説を読むとよくわかる。

豊崎さん:障害がある人間としての悲しみや苦しみはもちろん、「どうして恋に落ちるのか」「性欲とどうやって付き合っていけばいいか」「どんなことで恋の高揚を覚えるのか」といった、目が見える人間も共有できる“普遍性”についても描かれた作品です。ただ、“視覚”という五感のうちの一つを失った人たちは、その部分を視覚ではなく他の感覚で補い、捉えようとする。だから余計にヴィヴィッドに「恋するメカニズム」といいますか、「心のメカニズム」の描写が際だってくる。そこが凄みだと思ってるんです。

『ブラインド・マッサージ』はロウ・イエ監督の映画と畢飛宇(ビー・フェイユイ)の小説、是非、双方を体験してほしいです。映画は映像にしかできないこと、小説は文章でないとできないことを達成していて、監督が原作のどこをふくらませ、どこを変え、どこを省略したか確かめる歓びはこの上もありません。




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映画『ブラインド・マッサージ』

映画『ブラインド・マッサージ』
アップリンク渋谷、新宿K's cinemaほか全国順次公開

南京のマッサージ院。ここでは多くの盲人が働いている。幼い頃に交通事故で視力を失い、「いつか回復する」と言われ続けた若手のシャオマー、結婚を夢見て見合いを繰り返す院長のシャー、客から「美人すぎる」と評判の新人ドゥ・ホン。ある日、マッサージ院にシャーを頼って同級生のワンが恋人のコンと駆け落ち同然で転がり込んできたことで、それまでの平穏な日常が一転、マッサージ院に緊張が走る――。

監督:ロウ・イエ
脚本:マー・インリー
撮影:ツォン・ジエン
原作:ビー・フェイユイ著『ブラインド・マッサージ』(飯塚容訳/白水社刊)
編集:コン・ジンレイ、ジュー・リン
出演:ホアン・シュエン、チン・ハオ、グオ・シャオトン、メイ・ティンほか
配給・宣伝:アップリンク
2014年/中国、フランス/115分/中国語/カラー/1:1.85/DCP
原題:推拿
日本語字幕:樋口裕子

公式サイト




▼映画『ブラインド・マッサージ』予告編

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