骰子の眼

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東京都 渋谷区

2017-04-20 16:50


ヘイリー・スタインフェルドが“崖っぷちの女子高生”演じる『スウィート17モンスター』

監督が語る「古い自分を脱ぎ捨てて新しい自分になる、その普遍的な体験を映画にする」
ヘイリー・スタインフェルドが“崖っぷちの女子高生”演じる『スウィート17モンスター』
映画『スウィート17モンスター』 © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

シンガーとしても活躍する女優、ヘイリー・スタインフェルドが主演の青春映画『スウィート17モンスター』が4月22日(土)より公開。webDICEでは、脚本も担当し今作が監督デビューとなるケリー・フレモン・クレイグのインタビューを掲載する。

主人公は、自分に自信を持てずに妄想してばかりの17歳の高校生ネイディーン。学校の人気者である兄ダリアンと、彼女の唯一の親友クリスタがつきあうことになったことをきっかけに強烈な疎外感を感じることになるネイディーンのふてくされぶりがなんともリアルだ。学校で見かけた男子への思いを募らせつつも、亀裂が入ったクリスタとの友情を回復しようと悪戦苦闘するさまは、ティーンのみならず、うだつのあがらない青春時代をすごした大人も必ず共感することだろう。

ヘイリー・スタインフェルドは天才よ。圧倒される。ネイディーンは他の誰にもできない役だった。そこに彼女が現れて、頭からつま先まですべてが主人公ネイディーンそのものだった。生き生きしていて衝動に正直。彼女はこのキャラクターを隅々まで理解している。衝撃的で、監督する立場として彼女の演技を邪魔しちゃいけないって思ったわ。(ケリー・フレモン・クレイグ監督)

古い自分を脱ぎ捨てて新たな自分になる、
その普遍的な体験を映画する

──なぜこの物語を脚本に書こうと思ったのですか?

自分の立ち位置を変える必要に迫られ、自分自身が何者か、自分をどう思うかという定義を再考しなくてはならない環境の変化に迫られ、人間が急に感情が成長して自省する時期に興味があった。そういった成長を迫られる独特の年代を、彼女・彼たちが抱える複雑さや混乱状態に敬意を表紙ながら、深く正確に理解することから始めた。若者が大人へ成長を遂げる過程は、張り詰めていて畏れ多く、そして美しい。そしてどの年代にしろ、誰にとっても、古い自分を脱ぎ捨てて新たな自分になることをあらゆる形で体験している。その普遍的な体験を映画にしたかった。

映画『スウィート17モンスター』 c MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画『スウィート17モンスター』ケリー・フレモン・クレイグ監督(左) とプロデューサーのジェームズ・L・ブルックス(右) © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

脚本の延長でまさか監督までやるなんて思ってもいなかった。脚本執筆段階で、これ以上ないというほど自分の身を費やしていたから。でも映画作りは団体競技のようなもの。ヘアメイク、衣装、小道具、全ての人が映画の形を作り、赤ちゃんを産み出し、自分の足跡を残している。映画作りはそれほどエキサイティングであり、そして細かい部分がモノを言うデリケートなことだと思う。どうでも良いことなんて一つもないの。すべての細部がきちんとできている、それが私には重要なことだった。

──映画を観た人たちは、口々に、自分の姿を見るようだったと言って共感しています。これは想定通りでしょうか?多くの世代の共感を得るため、意図的に入れたセリフやシーンなどありますか?監督自身も、ネイディーンのような17歳だったのですか?

たくさんのティーンに話を聞いて、正しい年齢設定をちゃんと汲み取ることができているかを何度も確かめたわ。そして何よりもこの映画がたくさんの人に自分の高校時代を思い出して、共感してもらえることを望んでいたの。

──プロデューサーのジェームズ・L・ブルックスとの仕事はあなたにどんな影響を与えましたか?彼の多くのヒット作や経験に裏付けられた、本作に対する具体的なアドバイスをもらっていましたか?

この映画は彼の助言だらけよ。彼は世界一のメンターで、この時代に17歳でいるということは何か、というのをしっかりと捉えて、純粋でみんなに納得してもらえる映画を撮るように言われたの。彼はとてもいい舞台を映画のために作ってくれて、役者たちが最高の演技をできるようにとても良い環境を作ってくれたわ。

──周りの世界にうまく馴染めていないと感じている主人公の17歳、ネイディーンをヘイリー・スタインフェルドが演じています。

キャスティングは難航した。だって、“この人だ!”って思う人が欲しかったから。ヘイリーは天才よ。圧倒される。ネイディーンは他の誰にもできない役だった。キャスティングにすでに多くの時間を費やしていたの。そこに彼女が現れて、頭からつま先まですべてがネイディーンそのものだった。生き生きしていて衝動に正直。彼女はこのキャラクターを隅々まで理解している。衝撃的で、監督する立場として彼女の演技を邪魔しちゃいけないって思ったわ。

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映画『スウィート17モンスター』ヘイリー・スタインフェルド © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

──撮影現場でのヘイリーは素晴らしい演技を見せてくれたとのことですが、彼女の抜群の才能を垣間見た具体的なエピソードはありますか?

彼女の才能は無限大よ。彼女は愉快なキャラクターを演じ、次の瞬間あっという間に悲しい哀れなキャラクターを演じることもできるわ。彼女がいくらタフそうに演じていてもどこからか弱さがにじみ出ている。彼女の演技というのはいくつものレイヤーに分かれた人間味を感じさせてくれる。彼女は彼女の世代を代表する役者だわ。

──ヘイリーは歌手としても大活躍ですが、今回劇中でも歌を口ずさんだり、サントラでも歌手としての参加はありませんでしたが、それは意図的にやめたのでしょうか?

彼女の楽曲を作中に入れることによって、お客さんたちがヘイリーのキャラクター設定や話の流れから離れていっちゃうと思ったの。ネイディーンというキャラクターから離れて、歌手/役者であるヘイリーのほうに気が行っちゃうかなって。でも彼女はとても才能がある歌手よ。彼女の歌はいつも頭の中で流れているわ。

──それではネイディーンの親友、クリスタを演じたヘイリー・ルー・リチャードソンについては?

ヘイリー・スタインフェルドと向き合える女優を探すのは真剣な調査が必要だった。ヘイリー・スタインフェルドが最高級の女優だったから。一通りヘイリーはたくさんの女優と会ったけど、ヘイリー・ルーとは会った瞬間に素晴らしいケミストリーが生まれた。まるで長年の友人だったように。ヘイリー・ルーも完璧にリアルな様子だった。演じているような感じじゃまるでなかった。内面から湧き出て生き生きとしていた。それほど彼女はスマートな女優で、自分の才能に関しては自覚していた。自分がやらなきゃならないことをわかって、それをやれる人。現場に現れる時は最高の状態で現れ、100%リアルな演技を披露する。観客にとっても友達のように感じられ、複雑でありながら興味深いキャラクター。クリスタに本当の魂を吹き込んでくれたわ。

映画『スウィート17モンスター』 © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画『スウィート17モンスター』親友クリスタ役のヘイリー・ルー・リチャードソン © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

──典型的なジョックス(スポーツマンで人気者の男性)、兄のダリアンを演じたブレイク・ジェナーも素晴らしかったです。

ブレイクは最も責任感があり、事前調査も怠らない、熱心な役者の一人よ。非凡な才能に恵まれ、驚かされる。彼が来ると、泣けてくるほど。

彼は熱心にダリアンというキャラクターに特別な意味をもたせた。彼の背景にあるストーリーを理解しようとした。ダリアンは複雑なキャラクターで、彼は最初単純に見えるけど、そのうちに彼の背景には深くいろいろな感情が眠っていることに気づく。ブレイクは際立ってハンサムだけど、そういう人に限って深い背景が潜んでいることがある。ジェンナーはダリアンを演じるには最適な俳優だったわ。

映画『スウィート17モンスター』 © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画『スウィート17モンスター』兄のダリアンを演じたブレイク・ジェナー © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

──反抗的なネイディーンに理解を示そうとする⺟親モナに扮するのがキーラ・セジウィックです。

キーラはコメディ演技に長けていて、才能があると同時に、美しくドラマティックな女優よ。キーラは自由自在に演技を変える。キーラはモナが抱える脆弱性を見事に表現し、モナへの共感を沸かせることに成功している。たとえモナが良いコンディションじゃない瞬間でも、モナのキャラクターを感じ、モナの心を知ることができ、失敗しても常に一生懸命なのがわかる。

映画『スウィート17モンスター』 © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画『スウィート17モンスター』母親モナ役のキーラ・セジウィック © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

ウッディ・ハレルソンとヘイリー・スタインフェルドは互いを刺激し合っていた

──そして、孤独を感じるネイディーンに皮肉交じりのアドバイスをかける教師ブルーナーを演じたウッディ・ハレルソンも強烈な存在感を放っていました。

ウッディとヘイリーは互いを刺激し合っていたわ。予定調和じゃできないケミストリーが一緒の部屋に入った瞬間から起きたと思う。

お互い弾き合い、本能的に信じ、起きることに身を任せた。彼らは激しくて、テイクのたびに違っていて、自分たちを生きていた。彼らから目が離せないほど、活力に溢れていて。

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映画『スウィート17モンスター』教師ブルーナー役のウッディ・ハレルソン © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

──また、クラスメイトのアーウィン役、ヘイデン・ゼトーの軽妙さも見どころです。

ヘイデンは彼の即興能力でオーディションに体当たりした。ヘイデンは素晴らしく頭が切れる。とても面白くてスピーディなの。彼の行動に釘付けになり、次に彼が何をするのか早く見たくてしょうがなくなる。彼は愛嬌があって、とにかく彼を好きになるわ。特に高所恐怖症の彼を観覧車に乗せた後や、泳げないのにプールに放り込んだ後には。

ヘイデンは私たちが頼んだことは全部やってくれた。まるでからかいの対象みたいに。でも、彼が水に飛び込むもんだから、誰も彼が全く泳げないなんて思いもしなかった。もう一つの凍えそうな夜は観覧車のシーンの撮影だった。彼はナーバスな感じを脚本で描いていた以上の出来栄えで演じてくれたわ。

映画『スウィート17モンスター』 © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画『スウィート17モンスター』アーウィン役、ヘイデン・ゼトー © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

青いスキージャケットの意味

──ネイディーンが通う高校や、彼らが暮らす住宅街など、プロダクションへのこだわりを教えてください。

ロケーション、セット、照明などプロダクション関連のものは全てリアルで役者の演技を引き立てるものである必要があった。監督として、俳優たちの直感と本能を大切にしたかった。場面の振り付けをするとき、役者に体がどう動きたがっているか確認するの。彼らの身体的動きが演出を導くように。当初ジムが私に言った素晴らしいことに、“ベストなケースシナリオは撮影現場に現れた人みんながそのシーンについて違うアイデアを抱いていることだ”って。そして“ベストな日は誰もが想像しなかったときにやってくる”と。みんなが一体となって起こす魔法のような結果は、想像できる以上の効果を発揮する、と。その言葉が私にやる気と勇気を沸かせたわ。

映画『スウィート17モンスター』 c MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画『スウィート17モンスター』 © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

──ヘイリーにあの特徴的な青いスキージャケットを着せたのは、何か意図がありましたか?

いい質問ね。私はネイディーンが手放すことができず、トレードマークになるように青いジャケットを着せたの。このジャケットは色がうるさくて、ユニークで最新のトレンドとはかけ離れているの。でも社会からはこういう風に彼女は見られていたいの。それと、青い上着は古くて、全然彼女に似合っていなくて、ちょっと不恰好。これは彼女の心境を表しているのよ。

映画『スウィート17モンスター』 © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画『スウィート17モンスター』 © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

──撮影現場はどのような雰囲気でしたか?

この映画にとって笑いは重要な要素。みんなが完璧にジム(プロデューサーのジェームズ・L・ブルックス)のようだったわ。撮影中ジムは大笑いするの。最初重要なシーンを撮っている時は心配になったわ。でもみんなが心配しなくて大丈夫だ、って。これまでも彼がやってきた全ての映画から彼の笑い声は消される処理をしてきたんですって。それで私たちもいつでも笑える自由を手に入れた。秀逸なのは、少し暗い問題や感傷的なことに触れる場合でも、笑いを通して安心感も与えられたこと。人生って大変で辛辣で、でもそればかりじゃないでしょう。良いこともあればそうでないこともあり、すべてがユーモアで一息つけるの。

映画『スウィート17モンスター』 c MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画『スウィート17モンスター』 © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

──この映画はティーンのみならず、コンプレックスを抱え青春時代を過ごした全ての大人にも観てほしいですね。

この映画を多くの人が見て“こういう人、いる”とか“私はこの子だわ”とか“僕もそう感じていた”と、共感してほしい。観客に登場人物へ感情移入をしてほしい。私の経験に基づく物語だから。キャラクターを自分に投影して少しでも孤独を解消してほしいな。人生は時には厳しいけど、みんな一緒にいるの。

(オフィシャル・インタビューより)



ケリー・フレモン・クレイグ(Kelly Fremon Craig) プロフィール

1981年、アメリカ・カリフォルニア州ウィッテアで生まれ、カリフォルニア大学アーバイン校でスケッチ・コメディ(短編)や詩を学ぶ。製作会社Immortal Entertainmentの映画部門でインターンをした際に初めて映画の脚本を読み、執筆を始めた。『恋する履歴書』(未/09)で脚本家デビュー。本作『スウィート17モンスター』で監督デビューとなる。




映画『スウィート17モンスター』 c MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.
映画『スウィート17モンスター』 © MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

映画『スウィート17モンスター』
4月22日(土)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、
新宿シネマカリテほか公開

主⼈公のネイディーンは17歳。キスもまだ経験なしの、イケてない毎⽇。恋に恋する妄想だけがいつも空まわりして、教師のブルーナーや、⺟親を困らせてばかり。たったひとりの親友クリスタだけが、⾃分のすべてだと思っていたのに、何をしてもかなわないとコンプレックスを抱いていた天敵の兄ダリアンと親友クリスタが恋に落ちてしまう。この衝撃的事件により、ネイディーンは、⽗が他界して以来ずっと取り乱しがちな⺟や、何故かシンパシーを感じる変わり者の教師ブルーナー、⾃分とは正反対のイケメンで誰からも愛される兄ダリアンなど、⾃分を取り巻く⼈々へ新たな視点と気持ちを向けざるをえなくなる。⼈⽣は、彼⼥が思う以上に複雑で、誰もが何かをこじらせながら⼤⼈になっているのだ……。

主演:ヘイリー・スタインフェルド、ウディ・ハレルソン、キーラ・セジウィック、ブレイク・ジェナー 他
監督・脚本:ケリー・フレモン・クレイグ
製作:ジェームズ・L・ブルックス、リチャード・サカイ、ジュリー・アンセル
2016年/アメリカ/カラー/104分/PG12
配給・宣伝:カルチャヴィル × GEM Partners
© MMXVI STX Productions, LLC. All Rights Reserved.

公式サイト


▼映画『スウィート17モンスター』予告編

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