骰子の眼

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2017-05-19 15:10


永井豪インスパイア!イタリア発スーパーヒーロー映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』

監督が語る日本カルチャーからの影響、そして「自分の内面を変える」というメッセージ
永井豪インスパイア!イタリア発スーパーヒーロー映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.

70年代に海外でも人気を博した永井豪原作のアニメ「鋼鉄ジーグ」をモチーフにしたイタリア映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』が5月20日(土)より公開。webDICEでは、今作が長編デビューとなるガブリエーレ・マイネッティ監督のインタビューを掲載する。

舞台となるのはテロがはびこるローマ。チンピラのエンツォは警察から逃れる途中に偶然放射能を浴び、超人的なパワーを身につける。最初はATM荒らしなどにそのパワーを使っていたエンツォだが、日本のアニメ「鋼鉄ジーグ」の熱狂的ファンの妄想癖を持つ女アレッシアの面倒をみることになったことをきっかけに、次第に正義に目覚めていく。いわゆる「ダークヒーローもの」の定石をなぞりながらも、エンツォを追う悪役ジンガロが「グラムロックスターの成りそこない」であるというキャラクター設定や、マフィアをめぐる攻防を描く切れ味鋭いアクション演出など、ハリウッド大作や日本カルチャーをそのままなぞるのではない独特の「ひねり」が随所に感じられる作品だ。

漫然と死を待つだけだった主人公のエンツォは、実は自分の内面が変わることでこの状況は変えられるということに気付かされる。彼の内面的な変化・変身を表すには、自分自身がロボットの頭部に変身する「鋼鉄ジーグ」の司馬宙(シバヒロシ)という人物が必要だと思ったのです。(ガブリエーレ・マイネッティ監督)

コミュニケーションツールとしての映画

──スーパーヒーローというジャンル映画を長編デビュー作に選んだ理由は?

私は長い間、映画監督として長編デビューを果たしたい、その時には自分が本当に作りたい映画を撮ろう、という気持ちが強くありました。また、自分の作品を多くの人に観てもらい、観客が感動し、観た人たちの間で会話が生まれるような、いわばコミュニケーションツールとしての映画を撮りたいと考えていたのです。

映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ガブリエーレ・マイネッティ監督 ©Fabio Lovino
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ガブリエーレ・マイネッティ監督 ©Fabio Lovino

今のイタリア映画界の主流はおもに、イタリア式コメディか作家性が高いと言われている作品のどちらかが多くなっていると思います。それらは非常に内面的で個人的な物語を語り、且つドラマティックな展開で社会的な主題を扱うものが多いです。もちろん中にはとても素晴らしい作品もあるのですが、最終的にはみな同じような作品に映ってしまっているのも事実ではないでしょうか。このイタリア映画界の現状を目にしている私が「自分たちの物語/映画」を撮りたいと考えたことは自然なことであり、自分にとって必然的なことでもありました。

また脚本家のニコラ・ガリアノーネと映画の題材について話していたときに、アメリカをはじめとしたスーパーヒーロー映画が、ジャンルとしてイタリアでも大成功を収めていることに目が留まりました。異国のスーパーヒーローがこれほど受け入れられているのだから、イタリアオリジナルのスーパーヒーローだって受け入れられるはずだ、とその時に思ったのです。またイタリアのジャンル映画は死に絶えたと言われて久しかったからこそ、このヒーローものという“ジャンル”を自分たちの文化として昇華し、オリジナルの新たなヒーロー映画を作りたいと思い至ったのです。

映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.

ですが、このように考える一方で、映画における“ジャンル”とは、観客に自分たちが伝えたい物語をより良く伝えるための道具立ての一つであるとも考えています。ですので、本作がヒーロー映画というジャンルになったのも、あくまでも自分が伝えたいことを最善の形で表現できるベストな方法が、イタリア式のスーパーヒーロー映画だったからとも言えます。

主人公の内面的な変化・変身を表す

──数ある作品から「鋼鉄ジーグ」をモチーフにしたのは?

最初にプロットを書いていた時点では、同じ永井豪原作アニメ「グレンダイザー」をモチーフにしようとしていました。ただ映画のおおまかな主題を書きあげたときに、やはりこの物語の主人公の内面的な変化・変身を表すには「鋼鉄ジーグ」の主人公 司馬宙(シバヒロシ)という人物が必要だと思ったのです。

「鋼鉄ジーグ」がほかの作品と違う点は、主人公がロボットマシーンを操縦するのではなく、自分自身がロボットの頭部に変身するということです。そして、ヒロインの美和から与えられる腕や胴体などの他のパーツと合体することで、初めてロボットとして完全体になり敵と闘える、ということも大きな特徴でしょう。

映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.

本作の主人公であるエンツォはローマ郊外の荒廃したひどい地区で生まれ育ち、大事な人を皆失ってしまったことで、あとはただ漫然と死を待つだけだという心境にいます。彼はそれを自分の運命だと信じ込み、人生を劇的に変えるとしたら、犯罪者になって大金を掴むことくらいしか道がない、とまで考えてしまっている。しかしそんな時に超人パワーを身につけ、さらにアレッシアと出会い、「あなたはジーグになれる」「あなたこそヒーローになれる」と、繰り返ししつこいくらいに語りかけられます。

そのことでエンツォは、実は自分の内面が変わることでこの状況は変えられる、もしくは変化すら必要なく、自分が気づいていない自分自身を見いだすことで人生は変えられる、変わるのだということに気付かされるのです。

このように私はアニメの宙と美和の関係性と、本作のエンツォとアレッシアの関係性に類似している点が多くあると思って「鋼鉄ジーグ」をモチーフとしました。

映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.

日本アニメは40代イタリア人の原体験

──なぜイタリアでは日本アニメが人気なんでしょうか?

私の少年期にイタリアの地上波テレビで、平日毎日2~3時間にわたって日本アニメを放映する番組が10年ほど続いていました。それを見て育った世代がいることが大きな理由でしょう。私が変わっているということではなく、日本アニメは私(マイネッティ監督は現在41歳)と同性代のイタリア人みなが共通してもっている原体験なのです。

──特に永井豪作品が支持を集めているのには理由があると思いますか?

イタリアのポップカルチャーの根本的な部分に、永井豪の影響が非常に大きいことが事実としてあると思います。初めて永井豪作品が放映された時は、イタリア中がこんなアニメは見たことないと言って驚きました。エンターテインメントと暴力性と、なにより人物造形の複雑さが相まって、イタリア人の中で忘れられない作品となっていると考えます。

映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.

──主人公エンツォを演じたクラウディオ・サンタマリアには、どんな演出をしましたか?

エンツォ役のクラウディオ・サンタマリアとは、演劇学校時代の古い友人です。彼自身も、エンツォがもつ弱さや繊細さと似たものを秘めていました。なので逆にその繊細さを隠してほしくて、まずは20キロ太ってもらいました。クランクインの時には100キロ近くまでなっていたかな。

映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.
映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』エンツォ役のクラウディオ・サンタマリア ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.

また実際にトル・ベッラ・モナカ(劣悪な住環境とされるローマ郊外の街)の空気感も知ってほしかったので一緒に行って、そこで暮らしている人々を観察しました。彼らがどんな調子で話すのか、どんな歩き方をするのか、精神的にも身体的にもエンツォになりきってほしかったのです。彼はもともと軽快な性格で、考えていることがすぐわかるような透明感のある人物だけれども、体重を増やしたこともあって足取りも重くなり軽快さはなくなりました。更に重量感を存分にだしてほしかったので、動物園にクマを見に行ってくれとも言いましたね。最終的には声すらも低くしてくれ、最後の戦いのシーンはまるで闘牛のように演じてくれました。

──「鋼鉄ジーグ」のほかに、好きな日本のマンガや映画があれば教えてください。

好きな日本のマンガはたくさんあるけど、なかでも山本英夫の「殺し屋1」は大好きです。あと浦沢直樹の作品を語り出すととまらなくなりますね(笑)。

日本映画でも大好きな作品がいっぱいあるから本当に悩ましいけど、北野武作品が大好きで、その中でも『HANA-BI』が素晴らしいです。彼の映画作りには共鳴することが多いです。

(オフィシャル・インタビューより)



ガブリエーレ・マイネッティ(Gabriele Mainetti) プロフィール

1976年11月7日、ローマ生まれ。20歳の時シナリオライティングに興味を抱き、監督志望でレオナルド・ベンヴェヌーチ主催のワークショップに参加する。ニューヨークのティッシュ・スクール・オブ・アートで、演出、脚本、撮影も学ぶ。演技のキャリアは舞台から始まり、映画やTVで重要な役どころを演じるようになる。2011年、製作会社Goon Filmsを設立。2012年の『Tiger Boy』が、Goon Filmsが最初に製作した短編映画である。2013年11月、映画芸術科学アカデミーが第86回アカデミー賞短編実写映画賞のノミネート候補作品に選出される。また、2013年フリッカーフェスト国際映画祭(オーストラリア)においてルノー賞最優秀国際短編賞(アカデミー賞認可)を、第27回ブレスト・ヨーロピアン短編映画祭(北フランス、ブルターニュ)でブレスト短編映画グランプリを受賞。本国イタリアでも、2013年シルバー・リボン賞最優秀短編賞、2012年イタリア・ゴールデングローブ賞およびダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞において最優秀短編映画賞ノミネートなどの栄誉を受ける。2015年、長編デビュー作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』が第10回ローマ映画祭で上映され、オリジナリティあふれるエンターテインメントと喝采を浴びる。 この映画で、2016年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で最多7部門受賞、イタリア・ゴールデングローブ賞で作品賞を受賞、さらにチャック・ドーロ賞で4部門、そしてシルバー・リボン賞で2部門を受賞した。




映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』 ©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.

映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』
5月20日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

監督・音楽・製作:ガブリエーレ・マイネッティ
出演:クラウディオ・サンタマリア、ルカ・マリネッリ、イレニア・パストレッリ、ステファノ・アンブロジ
原題:Lo chiamavano Jeeg Robot /2015/イタリア/カラー/119分/
日本語字幕:岡本太郎
提供:ザジフィルムズ/朝日新聞社
配給:ザジフィルムズ
特別協力:イタリア文化会館
PG-12
©2015 GOON FILMS S.R.L. Licensed by RAI Com S.p.A. – Rome, Italy. All rights Reserved.

公式サイト


▼映画『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』予告編

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