骰子の眼

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東京都 新宿区

2017-09-17 00:20


“自国の闇”をもきちんと描くサーミ出身の初監督作は希望を与えてくれる

映画『サーミの血』公開初日イベント・レポート
“自国の闇”をもきちんと描くサーミ出身の初監督作は希望を与えてくれる
映画『サーミの血』 © 2016 NORDISK FILM PRODUCTION

北欧スウェーデンの美しい自然を舞台にサーミ人の少女の成長を描いたアマンダ・シェーネルの初監督作『サーミの血』が9月15日(土)より新宿武蔵野館、アップリンク渋谷ほかにて公開。映画の公開初日を記念し新宿武蔵野館にてトークイベントが開催され、スウェーデンや北欧文化について詳しい明治大学国際日本学部教授で一般社団法人スウェーデン社会研究所代表理事・所長の鈴木賢志さんと、北欧BOOK代表の森百合子さんが登壇した。

スウェーデンは社会的な問題もタブーとせず
提起しやすい環境がある(森さん)

本作は、北欧スウェーデンの美しい自然を舞台に描かれるサーミ人の少女が、家族、故郷を捨て自由を求めて奮闘する姿を描いた作品。最初に映画を観たときの感想を鈴木さんは「"スウェーデンというか、北欧の国全般としても言えることですが、“理想の国”というイメージで、この映画を観るとショックを受けると思います。だから、日本の方がこの映画を観るとまず葛藤がおきると思うんですよね。私自身もすごく葛藤がおき、とても複雑な気持ちになりました。ただ、こういう“自国の闇”をきちんと理解し、問題提起していくことが、スウェーデン映画らしいと思いました」​と述べると、森さんも「"本当にそうだと思います。スウェーデンというか、北欧のよさは、“自国の闇”を映像で伝えようとする動きが早いんですよね。それは社会的な問題もタブーとせず提起しやすい環境があるからだと思います」​と鈴木さんの解説に激しく同調した。

森さん、鈴木さん
映画『サーミの血』トークイベントより、鈴木賢志さん(右)森百合子さん(左)

映画で描かれている1930年代、スウェーデンの背景について鈴木さんは「"中立”という言葉から美化されがちですが、言い方を変えてしまえば半分ナチスと友達というような状況でした。同化政策の施行など当時のドイツへ憧れがあったのだと思います」​と解説。森さんは「今ではスウェーデンの住宅は憧れのインテリアとして語られますが、30年代頃までの住宅環境はひどかったといいます。今の『北欧ブーム』を指すような文化は1940年代からの改革の結果、生まれたもの」​と説明。

“自分の言葉が権力者に影響を与える”
ことが浸透している(鈴木さん)

スウェーデン教科書を翻訳したことがある鈴木さんは、教科書にSNSのことが書かれている事に触れ「日本だとSNSは情報収集のツールみたいな感じですが、スウェーデンの教科書には、発信するものと書かれていて、“自分の言葉が権力者に影響を与える”とはっきりと書いてあるんですよ。それがすごく浸透してきているので、“発信”することが上手になっています」とスウェーデンの発信力の高さを述べた。

映画『サーミの血』 © 2016 NORDISK FILM PRODUCTION
映画『サーミの血』 © 2016 NORDISK FILM PRODUCTION

年老いた主人公の女性エレ・マリャの髪型が、寄宿学校時代に習っていた先生の髪型に似せていると森さんは指摘。「出身地もその先生と同じ嘘をつき、つらい目にあいながらも、やっぱりスウェーデン人に憧れがあって、なりたい存在だったのかなと思います。そこがせつないところではあるんですけれど」と分析。また映画では描かれていなかったその後のシーンについて質問が出ると森さんは「エレ・マリャはとても身長が低いのに、息子さんは背が高かったので、かつて恋をしたニクラスのような男性と巡りあって結婚したんだと思いました。ちょっと能天気そうな息子さんがどこかニクラスと似ているし、孫はなんとなく妹のようであり、エレ・マリャはおそらく彼女が育ってきた家族と同様に、良い家庭を持てたんだろうと思いました。それはこの映画が描く悲しい歴史にエレ・マリャが呑み込まれることはなく、希望を与えてくれる」と解説した。




映画『サーミの血』
映画『サーミの血』 © 2016 NORDISK FILM PRODUCTION

映画『サーミの血』
新宿武蔵野館、アップリンク渋谷ほか全国順次公開中

1930年代、スウェーデン北部のラップランドで暮らす先住民族、サーミ人は差別的な扱いを受けていた。サーミ語を禁じられた寄宿学校に通う少女エレ・マリャは成績も良く進学を望んだが、教師は「あなたたちの脳は文明に適応できない」と告げる。そんなある日、エレはスウェーデン人のふりをして忍び込んだ夏祭りで都会的な少年ニクラスと出会い恋に落ちる。トナカイを飼いテントで暮らす生活から何とか抜け出したいと思っていたエレは、彼を頼って街に出た――。

監督・脚本:アマンダ・シェーネル
音楽:クリスチャン・エイドネス・アナスン
出演:レーネ=セシリア・スパルロク、ミーア=エリーカ・スパルロク、マイ=ドリス・リンピ、ユリウス・フレイシャンデル、オッレ・サッリ、ハンナ・アルストロム
後援:スウェーデン大使館、ノルウェー王国大使館
配給・宣伝:アップリンク
(2016年/スウェーデン、ノルウェー、デンマーク/108分/南サーミ語、スウェーデン語/原題:Sameblod/DCP/シネマスコ―プ)
© 2016 NORDISK FILM PRODUCTION

公式サイト

▼映画『サーミの血』予告編

キーワード:

サーミ / スウェーデン


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