骰子の眼

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東京都 渋谷区

2017-11-09 11:00


自分の全てをSNSで24時間公開したら!?ダーク&ユーモラスなサスペンス『ザ・サークル』

「テクノロジーと自分の人生の関わり、考えるきっかけに」監督が語る同時代性
自分の全てをSNSで24時間公開したら!?ダーク&ユーモラスなサスペンス『ザ・サークル』
映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

世界シェア・ナンバーワンのSNS企業“サークル”を舞台に、超小型カメラで自身の生活を24時間公開するサービスのモデルケースになった新人女性をめぐる出来事を描くサスペンス『ザ・サークル』が11月10日(金)より公開。webDICEでは、ジェームズ・ポンソルト監督のインタビューを掲載する。

今すでに起こっていることも取り入れ、1年後に起こりそうなことも描いている超近未来映画。シリコンバレーでアップル、グーグル、フェイスブックで働いている社員がこの映画を観たとしたら、現実はこんなもんじゃないよ、僕らはもっと先のことを開発中だと言うだろう。​
従って​未来を描くSFというよりも、​今の現実をちょっと別なアングルから描いた再現ドラマと言えるかもしれない。

ここは未来だなと思ったのは、映画の中でも実現していなかったが、アメリカ国民が“サークル”に加入が義務付けられ、選挙の投票も“サークル”で​​​行えるようになるというくだり。​​​​​​

この間、衆議院選挙が行われたが、投票率は52%、“サークル”があればみんなアップルウオッチのようなものを腕につけていて、投票しないと腕にビリビリと信号がきて投票を促す。投票率100%近くなり、真の民主主義が達成する!? 選挙において最大の層は投票をしない人なので、強制的にでも投票させたらどうなるのだろうか、社会実験として興味は持った。

ちなみに、主役のエマ・ワトソンの現在のツイッターのフォロワーは2,718万人!
彼女は、セクシャル・ハラスメント、フェミニズム、メキシコの地震被害の救済など社会的なことをツイートし続けている。
未来の“サークル”を待たなくても、現在の社会を変えることができる可能性を映画の外のエマ・ワトソンは持っているのではないだろうか。
企業にしろ政治にしろ彼らを利用しない手はない。未来を予測するなら政治とスター、日本で言えば政治と芸能界がより密接になるだろう。いや、芸能人が政治的発言を控える日本の現実は、すでに密接になっていることの証なのかもしれない。

(文/浅井隆)


主人公と自分があまりに似ていて、こわくなった

──本作は小説が原作ですが、映像化について原作者のデイヴ・エガーズに自ら連絡を取って映画化権を獲得したそうですね。そうさせたパッション、理由について教えてください。

僕が大学生のころ、デイヴ・エガーズは『驚くべき天才の胸もはりさけんばかりの奮闘記』でデビューした。デビュー作から大好きで、ほぼ全作読んでいる。映画化すれば、おもしろいものができると思うものが多くて、ずっと映画化することを考えてきた。『ザ・サークル』には、たちまち夢中になったよ。ぞっとした。主人公と自分があまりに似ていて、こわくなった。

映画『ザ・サークル』ジェームズ・ポンソルト監督 © YOSHIKO YODA
映画『ザ・サークル』ジェームズ・ポンソルト監督

小説を読み終えた後、小説のことをずっと考えてしまった。感情移入できたのは主人公のメイだったんだ。良い意味でも悪い意味でも、自分自身を投影することができた。理想主義的なところがあって、そして世界の中でポジティブな力になりたいと思っているけれど、同時に悩んでいるような、そして不安であるような、そういう部分を持っていて、多くの人とオンラインで沢山の人と自分の人生を分かち合いたいところがある。僕もそれはわかるところだったし、そことどう距離をとって良いかわからなかった。

物語はダークなユーモアがあり、それから悲しみもあると思った。ちょっと憑りつかれてしまったかのように、僕の子供たちやこの世界の未来に思いをはせていた。そしてデイヴに連絡をとったんだ。『ザ・サークル』が出た数カ月後だった。映画化したいって話したんだ。このプロジェクトはそこから始まった。

──映画化するにあたって気を付けたことはありますか?

原作者デイヴと僕が脚本を開発しているとき、彼の本が出版されてから世界が少し変わったと思っていた。特にメイのキャラクターにそれを反映させようと思っていた。自分のボスである自分を利用した男たちを逆にはめることができ、小さな勝利を経験することができるけれど、彼らは強い存在で、そして簡単にメイの存在をほかの人と入れ替えることができる。だから、メイが何か全ての革新をもたらすようなことは出来ない。逆に彼女自身がこの自分の実験に自分から参加して、すべての人間に同じようなことを経験させる。自分たちが見たいと思っている、自分のことに興味を持っているすべての人に、自分の全てを、24時間すべての瞬間を明かす。自分自身が中心にとなってそういう動きを牽引していくんだ。

原作も同じようにダークな終わり方をする。個人的な友人や家族といった関係をメイは失ってしまい、でも、自分たちの力を使って彼女を利用するボスたちの下で仕事をしている。なので、彼女を利用するその二人の男に対するある種のリベンジを行う、というのは良いと思ったけど、彼女自身がまた、自分を見ているすべての人にカメラを身につけて自分たちの経験するすべてを記録することを奨励するんだ。その方が怖いし、ポジティブな形ではない意味でいろいろ考えさせる。そういう未来を示唆すると思った。そして、メイにとってある種とてもアメリカン・サクセス的な形で勝利した。多国籍企業のトップに立つ、あるいは顔になることができたけれど、彼女と個人的な関係を持ちたいと思う人はもう一人もいなくなってしまったわけだから、そういった意味では、負けてしまっているんだ。

エマ・ワトソンはテクノロジーの良いところと弊害の両方を知っている

──エマ・ワトソン、トム・ハンクスという世界的に有名なキャストと映画を作ってみていかがでしたか?

この映画は、好きな俳優と組むことで完成できた。トム・ハンクス、エマ・ワトソン、カレン・ギラン、ジョン・ボイエガ、ビル・パクストン、パットン・オズワルド、そしてグレン・へドリーのようなお馴染みの俳優たち。いちファンとして大好きな俳優に、原作を読んで自分で脚本を書いた映画に出演してもらえたんだからね。彼らとともに、原作に肉付けをし、キャラクターに変化を加えたり、深みを加えたりして展開させていった。なんて贅沢な経験だろう。ほんとに素晴らしい時間だった。彼らと仕事ができて、とても楽しかった。

映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.
映画『ザ・サークル』エマ・ワトソンとトム・ハンクス © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

みんなでキャストを考えていたとき、デイヴが「イーモン・ベイリーの役は、トムはどうだろう。トムならきっとこの役を気に入るはずだ」って言った。トム・ハンクスをどう思うかってきかれたら、誰だって正直になってしまうはずだ。僕は「ファンだ」って答えた。ほんとに子供のころから、ずっとファンだったんだ。僕はすっかり舞い上がってたよ。トムに脚本を送り、そのあとすぐ顔を合わせた。こうしてトムがプロジェクトに加わった。

トムは凄く信頼させてくれるオーラを持っている。だから、皆が自動的に感じてくれる信頼みたいなものを逆に利用して演じられるCEO役を楽しんでいた。

トムもエマも業界が長いので、プライバシーがないということがどういうことなのかよくわかっている。エマはすごく聡明で、自分の持っていることを表現できるし、SNSも使いこなすことができる。プライバシーがないことの辛さとか痛みみたいなものも同時によく知っているし表現できる。つまり、テクノロジーの良いところと、そして私たちの人生にいかに侵入してきてしまう弊害というのはあり得るものなのか、両方知っている。

映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.
映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

エマ・ワトソンは大好きな俳優のひとりだ。もちろん『ハリー・ポッター』シリーズは全部観ている。特に『ウォールフラワー』と『ブリングリング』の演技が気に入っている。エマは素晴らしい女優だ。彼女と同世代の若者には、特に特別な存在だろう。彼女は映画の中で成長し、若者たちも彼女の映画を観ながらともに成長する。いまなら大学卒業後の進路を選択し、社会に出ていく姿を描く時期だろう。進路の選択に必要な倫理やモラルを示す、素晴らしい案内役になる。

──創業者タイ・ラフィット役のジョン・ボイエガについては?

ジョンは魅力的な俳優だ。エネルギッシュで集中力があり、ものすごく器用なんだ。この役をよくわかっている。ジョンは役作りにおいて、脚本とは少し違った解釈をしたと思う。でも、それが功を奏している。プログラマーのイメージをぼやかしている。

映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.
映画『ザ・サークル』タイ・ラフィット役のジョン・ボイエガ(左) © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

──メイのボーイフレンド、マーサー役のエラー・コルトレーンはいかがでしたか?

エラー・コルトレーンも奇しくもエマと同様にカメラの前で成長した俳優だ。6歳のとき『6才のボクが、大人になるまで』に起用され、その後の12年間の成長がこの映画に記録されている。素顔のエラーは情緒豊かで、気持ちの優しい青年だ。マーサーと似たところがあると思う。マーサーはメイの幼なじみで、ふたりはともに成長する。マーサーは時代錯誤な考え方をする青年に育った。若いのに時代と逆行した生活を送っている。携帯電話を持たず、コンピューターにも夢中にならず、そういったものに束縛されたくない。手を使って仕事をするのが好きなんだ。そういうタイプの人間は鼻持ちならなくなるか、崇高な雰囲気を醸すようになるかのどちらかで、微妙なんだ。マーサーは心根のいい青年だと思う。

映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.
映画『ザ・サークル』マーサー役のエラー・コルトレーン(右) © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

テクノロジーが自分の人生とどんな関わり合いがあるのか、考えるきっかけに

──物語に登場する「3人の賢人」について教えてください。

「3人の賢人」はサークルの創業者のことだ。まずタイ・ラフィット。サークルの基本システムを思いついたプログラマーだ。彼は表舞台には出ず、注目を浴びるのを避けている。次にイーモン・ベイリー。社員にとって父親的存在で、会社の顔だ。ウィンドサーフィンを愛する北カリフォルニア人で、ヒッピー文化の影響を受けた教祖的存在。テクノロジーの力が社会を民主化すると信じる資本主義者だ。人の活動をすべて記録してシェアし、それらを集めて競技場のような場を作るべきだと考えている。考え自体はおもしろいけどね。そしてトム・ステントン。MBAを持ち、彼の頭脳のおかげで、組織がうまく機能している。利益や役員会を常に気にすべき立場にいる。この3人は互いに利害の一致と不一致を合わせ持っている。

──『ザ・サークル』の同時代性についてどのように感じますか?

原作で描かれたアイデアの多くは、すでに実際に起こっている。そしてこれから起こるものもあれば、ブラックジョークのようなものも、ぞっとするようなものもある。現実の世界とまさに重なるんだ。インターネット会社は、いまはやや低迷している。サークルはちょうど北カリフォルニアを拠点とする2、3の有力会社にあたる。だからいまがタイムリーだろう。

──とある調査によると、日本は世界の中で唯一フェイスブックよりツイッターの利用者が多い国です。そんな国でこの映画が公開されることに対してどう思いますか?

すごくワクワクしている。日本は技術的なトレンドを生む国だし、とくに若い人たちが、世界の一歩二歩、いつも1、2年先を行っている印象がある。だから、日本で起きていることはアメリカの若い人にとっては、未来を予見させてくれること。西と東ではまた技術をどういう風に受け止めるのか、テレビやメディアでどんな風にテクノロジーが表現されるのか、少し欧米と違ったものがあると思うから、日本の方がどう思うのかすごく楽しみだし、日本で公開されることにすごくワクワクしている。

映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.
映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

──ご自身もツイッターをやられていますが、この作品を撮ってSNSへの考えに変化はありましたか?

ツイッターとインスタグラムのアカウントは持っているけど、個人的な情報はツイッターでは流さない。2年前にツイッターを使って、ランダムなフィクション的なことをつぶやくようになった。自分自身の生活を明かすようなものでは一切なくて、むしろツイッターの文化のようなもの、あるいは実態や本質みたいなものを掘り下げされるような投稿をしている。あまり個人的なことは、ほかにもっとそれに向いているプラットフォームがあるように思うから。それから、以前はもう少しツイッターを利用していたけれど、疲れてしまう。やっぱりリプライを受けると、それに対して答えなきゃいけないっていう気持ちになってしまい、永遠に続くピンポンみたいだ。正直、ほかのユーザーとやりとりをするよりも自分の家族と時間を過ごしたいと思ったんだ。

映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.
映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

──今後はどういった作品に取り組んでいきたいですか?

今いくつかあたためている。ディズニーとオリジナルな作品を一つ考えている。移民とか難民がテーマで、主人公がドナバンという名の家族を亡くしたマウンテン・ライオンで、彼の周りにいる人たちも移民や難民で、いかにアメリカという国がそういう人で構成されているのかを描く作品だ。

それから、監督する予定の『I Want My MTV』。MTVがアメリカで1980年代の初期にどんな風に立ち上がって、そのポップカルチャーを永遠に変えてしまった。どういう風に変えていったのかという作品だ。

映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.
映画『ザ・サークル』 © 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

──日本の観客にどのように観てもらいたいですか?

この物語の主人公メイの行動はとても複雑で、いわゆるヒーロータイプの主人公でもないし、少しダークで笑えるところもある。何よりも楽しんでほしいし、考えさせせられる作品であれば嬉しいし、複雑な思いになってくれても嬉しい。色んな会話で構成されているので、テクノロジーをどんな風に利用しているのか、自分の人生とどんな関わり合いがあるのかということを考えるきっかけになればと思う。

(オフィシャル・インタビューより)



ジェームズ・ポンソルト(James Ponsoldt) プロフィール

1978年、アメリカ、ジョージア州生まれ。イェール大学で学士号、コロンビア大学でフィルム・プログラムのMFA(美術学修士号)を取得する。ニック・ノルティを主演に迎えた、長編映画監督デビュー作『Off the Black』(06)が、サンダンス映画祭でプレミア上映される。続く『スマッシュド ~ケイトのアルコールライフ~』(12・未)と『スペクタキュラー・ナウ』(13・未)で、2年連続で同映画祭の審査員特別賞に輝き、豊かな才能を認められる。次の『人生はローリングストーン』(15・未)では、インディペンデント・スピリット賞の2部門にノミネートされる。その他の監督作は、TVシリーズ「シェイムレス 俺たちに恥はない」(14)、「マスター・オブ・ゼロ」(15)など。




映画『ザ・サークル』
11月10日(金)TOHOシネマズ 六本木ヒルズ 他全国ロードショー

世界No.1のシェアを誇る超巨大SNS企業<サークル>。憧れの企業に採用された新人のメイは、ある事件をきっかけに、カリスマ経営者のベイリーの目に留まり、<サークル>の開発した超小型カメラによる新サービス<シーチェンジ>のモデルケースに大抜擢される。自らの24時間をカメラの前に公開したメイは、瞬く間に1000万人超のフォロワーを得てアイドル的な存在になるのだが―。

監督&脚本:ジェームズ・ポンソルト
出演:エマ・ワトソン、トム・ハンクス、ジョン・ボイエガ、カレン・ギラン、エラー・コルトレーン、ビル・パクストン
原作:デイヴ・エガーズ著「ザ・サークル」(早川書房)
音楽:ダニー・エルフマン
編集:リサ・ラセック
撮影:マシュー・リバティーク
美術:ジェラルド・サリバン
原題:The Circle
配給:ギャガ
2017年/アメリカ/シネスコ/5.1chデジタル/110分

公式サイト


▼映画『ザ・サークル』予告編

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