骰子の眼

cinema

高知県 高知市

2017-12-21 22:26


安藤桃子が高知にオープンしたミニシアター「ウイークエンドキネマM」に行って見た!

「東京ではできないことができるのが高知という場所」映画館をクリエイトする情熱明かす
安藤桃子が高知にオープンしたミニシアター「ウイークエンドキネマM」に行って見た!
「ウィークエンドキネマM」前に立つ安藤桃子さん

新たなカルチャー・スポットやショップを紹介する連載「行って見た!」、今回は、映画監督の安藤桃子さんが高知市内の空きビルにオープンする映画館「ウィークエンドキネマM」の様子を、アップリンクの配給サポート・ワークショップに参加する、高知出身の鎌倉知紗さんにレポートしてもらった。


「なにかアイデアはないか?」から「なんかやれや!」に

1950年代には32館もの映画館があった高知県高知市内。全国各地でシネコンが誕生していく大きな流れは高知市内中心部も例外ではなく、2006年までに東映、松竹、東宝系の3つの映画館が姿を消し、現在では、「あたご劇場」を残すのみとなった。そんな高知市内中心部に、高知に移住した映画監督、安藤桃子さんが”革命”を仕掛ける。今回はその革命の大きな第一歩である、2017年10月17日にオープンした「ウイークエンドキネマM」に赴き、映画館開業の経緯から今後の構想まで話を伺った。

高知市内中心部は、長いアーケードが特徴の帯屋町商店街をはじめ、いくつもの商店街で構成されている。安藤さんがオープンしたキネマMは、その商店街のうちのひとつである、おびさんロードという喫茶店や雑貨屋などが立ち並ぶ通り沿いに位置する。このおびさんロードは、かつて高知東映があった通りで、高知東映のビルはキネマMのはす向かいにいまだその姿を残している。地方の繁華街では、テナントのいなくなった商業ビルが空きビルとなり、借り手も買い手もつかないままポツンと残されている様子は珍しくない。安藤さんがキネマMを立ち上げるまでの当地も、そんな空きビルのひとつだった。

いわば街の顔である商店街沿いのビルがこのまま空きビルになっているのはもったいない、そんな思いから地元の大手企業である和建設の中澤社長から、安藤さんへ相談があった。「なにかアイデアはないか?」、それが次に話した時には「なんかやれや!」になっていたと安藤さんは笑って話す。そのひとこと、「なんかやれや!」からキネマMオープンまで、時間にしておよそ2か月。驚くようなスケジュールで物事が進んだ理由は、まずひとつは安藤さんが映画監督だからこそ実行できたということが挙げられる。「『映画館をつくる』というテーマで映画を撮ろうとしたら、インデペンデントの映画監督なら確実に2ヵ月で映画を撮れる。そう頭を切り替えた瞬間、準備2ヵ月でもいけるぞ!と思えた」と話すが、このようなプロジェクトの動かし方は映画監督である安藤さんならでは。「事業を興すのではなく、クリエイトする感覚」とも彼女は表現した。

高知の「やり切る」精神

さらに、無謀とも思えるこのタイムスケジュールを可能にしたもうひとつの要因が、高知という土地の独自性である。高知にいると、「やり切る」という言葉を日常的に耳にする。この言葉は、高知では「腹をくくって何かをやり遂げる、徹底的にやる」という意味で使われることが多い(もちろん、高知の人間は酒席も「やり切る」精神で臨むことが多い)。安藤さんの思いに賛同し、集まった「チームキネマM」のメンバーは全員高知で暮らしていることを条件に、それぞれに様々な仕事を持つ傍らこのプロジェクトに参加している。「マンパワーの持ち出し」という安藤さんの考えの元、コンセプトやデザイン、映写技術や広報まで様々な領域の強みを活かし、計画から実行まで高知県内で完結するスタッフィングで実現した。

地元色豊か、こだわりの館内施設

キネマMの外観は、元々のビルの形が特徴的であったため、残せるところはそのまま活かした。エントランス上部にあるオープンサインボードは、安藤さんいわく「遊ぶ場所」。上映されている映画のタイトルが掲げられていることもあれば、その週のテーマとなる言葉だけ、ということもあるらしい。筆者が訪れた際にはその週のテーマである「BODY&SOUL!」の文字が並んでいた。

サインボード
「ウィークエンドキネマM」のサインボード。この週のテーマは「BODY&SOUL!」

エントランスは赤い壁が印象的で、今回のプロジェクトの火付け役である和建設の企業ロゴがまず目に飛び込んでくる。エントランスを抜けると右手に売店、左手に客席という造りだ。売店にも、高知ならではのグッズを発見。高知のソウルドリンクである「ごっくん馬路村」(ゆずドリンク)のキネマMオリジナルパッケージや、高知を代表する偉人・坂本竜馬のグッズが並ぶ。映画のパンフレット等と一緒に坂本竜馬のグッズが並んでいるのは、日本全国を探してもおそらくキネマMだけだろう。

02. 売店①
「ごっくん馬路村」限定パッケージ。
02. 売店②
「坂本龍馬Tシャツ」。
02. 売店③
オリジナルTシャツとDVD。

キネマMは飲食物の持ち込みが可能なので、館内の売店で買うもよし、近くの商店街で軽食や飲み物を買うもよいだろうそうして客席に入っていくとまず目に入るのが、安藤さんの手書きで壁一面に書かれた地元協力企業・団体の数々。高知を代表する企業も多く、いかに地元企業・団体からの期待と応援の思いが寄せられているのか、これを見れば一目瞭然だ。

03. 客席①
客席の壁。

また赤いビロードの客席は、以前安藤さんが高知市内の城西公園で仮説映画館をつくった際にも使用されたもので、高知東映で使用されていた客席を譲り受けた。

03. 客席②
高知東映から譲り受けた客席シート。席数は57席。

もちろん、機材にもこだわった。特に力を入れているのは音響だ。こちらも高知東映で使用されたいたALTEC A-7というスピーカーを譲り受け、知る人ぞ知る音響のプロフェッショナル、高知在住の谷岡さんが壊れてしまった部品は海外からデッドストックを取り寄せてひとつひとつ修理した。開館当初は谷岡さん監修のもと、ステレオやモノラルといった作品ごとの特徴に合わせたミキサーの調整を行い、チェックリストも独自に作成。客席の天井は音が反響しないためにわざと穴を開けている。

DSC06462
プロジェクター Barco DP2K-10S。
06.スピーカー
スピーカー ALTEC A-7。
04. 天井
客席の天井。音が反響しないためにわざと穴を開けている。

映画を中心に無限の広がりを

伝えきれない魅力とこだわりが盛りだくさんのキネマMだが、まだまだ、これが完成形でではないと安藤さんは話す。12月26日には同敷地内に「& Gallery」というギャラリーのオープンを予定している。また、周辺の店舗や地域の学生も巻き込んだおびさんロードでのイベント開催など、映画館を軸としながらも視野は広く、どうすれば映画館で映画を観ることへの間口を広げ、映画人口を増やせるかを実験していく。

「東京も面白いが、東京ではできないことができるのが高知という場所」という言葉が、安藤さんから何度か出た。高知に限らず、人と人の距離が近い地方だからこそできる、文化の根付いた街づくりを目論む。「キネマMをひとつのテストケースとして、他の地方でもできるように情報もできる限りオープンにしていきたい」と語った。

05. 安藤さん①
安藤桃子監督。アップリンク配給『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』が12月21日まで上映されていた。

「映画のラインナップも、劇場周辺のイベントやギャラリーも、ひとつの交響曲の中でお互いが作用し合い、映画が中心軸にあるからこそ無限の広がりが描けるんだと思う」と目を輝かせながら安藤さんは話す。キネマMは今のところ1年間という期限付きの営業だが、今後安藤さんの”革命”がどう広がっていくのか。これからも目が離せない。

(取材・文:鎌倉知紗)



ウィークエンドキネマM

高知市帯屋町1丁目13-8アルカビル1階
TEL : 088-824-8381

公式サイト:
http://http://www.kinemam.com/

公式Instagram:
https://www.instagram.com/kinemam/

公式Facebook:
https://www.facebook.com/kinemam/


& Gallery

12月26日に劇場と同じ敷地内にギャラリーがオープン!

公式サイト:
http://www.and-gallery.com

公式Instagram:
https://www.instagram.com/_andgallery/

公式Facebook:
https://www.facebook.com/Andgallery-332883917180756/

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