骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2018-02-15 09:40


“平坦な戦場”で戦う子どもたち『リバーズ・エッジ』岡崎京子の圧倒的作品が映画化

90年代の空気と現代の閉塞感を繋ぐため、原作にない登場人物へのインタビューを追加
“平坦な戦場”で戦う子どもたち『リバーズ・エッジ』岡崎京子の圧倒的作品が映画化
映画『リバーズ・エッジ』©2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

漫画家・岡崎京子による90年代を代表作を『GO』『ピンクとグレー』の行定勲監督が映画化した『リバーズ・エッジ』が2月16日(金)より公開。webDICEでは、行定監督のインタビューを掲載する。

映画や音楽など様々なポップ・カルチャーを引用し構築された岡崎作品のなかでも、とりわけその完成度で高い人気を誇る『リバーズ・エッジ』。これまでも若者の感情のゆらぎを映像に映してきた行定監督は、漫画のコマを意識したスタンダードサイズを採用、岡崎ワールドの台詞や画面構成を受け継ぐとともに、原作にはない登場人物へのインタビュー・シーンを加え、90年代の空気と現代に漂う閉塞感をつなごうと試みている。


「岡崎京子作品の場合、純文学を映画化するのに近い感覚があったんです。というのも『リバーズ・エッジ』は自分が生きていた90年代が舞台であり、これほど時代の空気を落とし込んだ、というより暴いた作品もないのではないかと思ったから」(行定勲監督)


純文学を映画化するのに近い感覚

──「漫画の原作を避けてきた」と公言していた理由と、今回監督を受けた理由について教えてください。

漫画家や原作にリスペクトがあるが故に、映画化をするという感覚が自分にはあまりないんです。原作モノに関して、僕的に解釈して手を入れることができる、いわば映画的に優位に立てるプロジェクトでないとやらなかった。それが映画化の意味だとも思いますし。ただ漫画となると、髪型をはじめビジュアルをすべて忠実に再現しちゃうなど、雰囲気や空気感など原作を目指してしまいがちで、僕はそれを受け入れ難かった。だけど、岡崎京子作品の場合、純文学を映画化するのに近い感覚があったんです。というのも『リバーズ・エッジ』は自分が生きていた90年代が舞台であり、これほど時代の空気を落とし込んだ、というより暴いた作品もないのではないかと思ったから。

行定監督
『リバーズ・エッジ』行定勲監督

──本作を映画で見せる上で念頭に置いていたことは?

登場人物のハルナや山田たちは、過ぎていった時代の子どもたち。“平坦な戦場”という何と戦っているかもわからない時間=青春の中にいる。原作が発売された直後、1995年にサリン事件が起こって世の中の価値観が大きく変わっていった。それから世界では日常的にテロが起こり、ついには凄惨な事件が報道されても驚かないぐらいになってしまった。『リバーズ・エッジ』はそのぎりぎりの岐路に立っていることを予見しているような物語なんです。

『リバーズ・エッジ』メイン
映画『リバーズ・エッジ』©2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

リバー(川)が歴史だとして、そのエッジ(淵)に立たされている感覚を感じながら、映画を作っていました。この物語は大きな時代の空気に飲み込まれていて、最後まで途上にいる。だから、誰もが自分に置き換えられるし、長い間いろいろな人に影響を与えている。いつの時代だってみんな“リバーズ・エッジ”に立っているんだと共感できるんです。

『リバーズ・エッジ』サブ4
映画『リバーズ・エッジ』©2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

キャラクターを演じる肉体から出る若者特有の感情や思考を捉える

──物語の間に差し込まれるハルナや山田へのインタビューは、原作にはないシーンです。

普通だったら映画化の際に何か仕掛けを作ろうって言いたくなるだろうけど、今作については圧倒的な原作の前に誰も何も言えなかった。最初に上がった脚本も原作に近い形にしていたんです。でも、物語の舞台となる90年代は僕の時代でもあるので空気感はわかっているけど、すでに過ぎ去った時代なので忘れてしまっています。2017年に映画を作るわけだから、この年に生きている登場人物と同じ世代のキャストに、キャラクターを通じて役をどう受け止めているかを聞きたいと思ったんです。キャラクターを演じる肉体から出る若者特有の感情や思考。僕はわかるという顔で映画を撮りたくなかった。それで個々のインタビュー・シーンが生まれました。

『リバーズ・エッジ』サブ2
映画『リバーズ・エッジ』©2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

──画角サイズをスタンダードにした狙いについては?

狙いは2つあります。ひとつは、物語に漂う閉塞感のある映像がほしかったから。もうひとつは、登場人物一人一人を撮るときに、話し相手が映り込まずワンショットで画面の真ん中に大きく強く映したかったから。つまりは、漫画のコマにしたかったんです。漫画では人と人の関係性を描くときも相手の肩越しに顔があるのではなくて、その人のみを描きますから。

『リバーズ・エッジ』サブ6
映画『リバーズ・エッジ』©2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

実は、今の上映方法でいうとスタンダードは非常識なサイズ。クランクイン直前に「スタンダードはどう?」と提案したら、みんな「え……?」となっていました。若い世代の人が見たことがないスタンダードをどう反応するのかというのも気になりますね。

『リバーズ・エッジ』サブ5
映画『リバーズ・エッジ』©2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

──小沢健二さんが主題歌を担当しています。

映画の終わり方として、何かひとつの時代性の総括がほしいと思っていました。「あの時代はなんだったのか」ということを語るのに、岡崎京子を一番理解している人間はメロウじゃなくて感傷的じゃなくて、ものすごく爽やかなんだと。だからこんなにも力強いんだって。僕たちの予想を軽々と裏切ってくる楽曲をすごくすばらしく思いました。

『リバーズ・エッジ』サブ3
映画『リバーズ・エッジ』©2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

──観た方、観る方にメッセージはありますか。

ここで描かれる若者のように、自分がどこに立たされているかわからないという感覚はどの時代にもあります。原作が発表された94年という時代から流れている川の淵でもがいている登場人物の姿を観て、今とさほど変わらないと思うのか、もっと諦めの境地へと変わったのか、特に若い人たちが今の時代に共感したり、何かを考えたりするきっかけになったらいいと思っています。

『リバーズ・エッジ』サブ7
映画『リバーズ・エッジ』©2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社
(オフィシャル・インタビューより)



行定 勲 プロフィール

1968年生まれ、熊本県出身。
2000年長編第一作『ひまわり』(00) が第5回釜山国際映画祭の国際批評家連盟賞を受賞し、演出力 のある新鋭として期待を集める。『GO』(01)では、日本アカデミー賞 最優秀監督賞をはじめ国内外の50の賞に輝き、『世界の中心で、愛をさけぶ』(04)が観客動員620万人、興行収入85億円、同年実 写映画1位の大ヒットを記録。10年には『パレード』が第60回ベルリン 国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞、国内外から支持を得る 監督のひとりである。 他代表作には、『北の零年』(05)、『春の雪』(05)、『遠くの空に消えた』(07)、『クローズド・ノート』(07)、『今度 は愛妻家』(10)、『つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語』(13)、『円卓 こっこ、ひと夏のイマジン』(14)、『真夜中の五分前』(14)『ピンクとグレー』(16)、また熊本を舞台にした『うつくしいひと』(16)や『うつくしいひと サバ?』(17)、『ナラタージュ』(17)など監督 作多数。また、映画だけにとどまらず「趣味の部屋」(14,15)、「ブエノスアイレス午前零時」、「タンゴ・冬の終わりに」(15)等の舞台演出も手掛け高い評価を得ている。




映画『リバーズ・エッジ』
2018年2月16日(金)より
TOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー

『リバーズ・エッジ』チラシ
映画『リバーズ・エッジ』©2018「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

出 演:二階堂ふみ 吉沢亮 上杉柊平 SUMIRE 土居志央梨 森川葵
監督:行定勲『GO』『パレード』『ナラタージュ』
脚本:瀬戸山美咲
原作:岡崎京子(「リバーズ・エッジ」宝島社)
配給:キノフィルムズ
映倫区分:R15+

公式サイト http://movie-riversedge.jp/


▼映画『リバーズ・エッジ』予告編

レビュー(0)


コメント(0)