骰子の眼

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東京都 千代田区

2018-08-03 14:00


おぞましく芸術的な双子とひとりの女『2重螺旋の恋人』オゾン新作は精神分析スリラー

「秘密は彼女の中に隠されており、私たちは彼女の探求に付き添って行く」監督語る
おぞましく芸術的な双子とひとりの女『2重螺旋の恋人』オゾン新作は精神分析スリラー
映画『2重螺旋の恋人』 ©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

フランソワ・オゾン監督がアメリカの女性作家ジョイス・キャロル・オーツの短編小説を原作に、暴力的な兄と優しい弟という正反対のキャラクターを持つ双子の精神分析医との愛にのめり込んでいく姿を描く『2重螺旋の恋人』が8月4日(土)より公開。webDICEではオゾン監督のインタビューを掲載する。

主人公のクロエは原因不明の腹痛に悩む25歳の女性。精神分析のカウンセリングを受けることで痛みから解放された彼女は、分析医のポールと惹かれ合い、同居を始める。クロエはふとしたことからポールの双子の兄で精神分析医のルイの存在を知る。なぜポールは兄であるルイのことを隠していたのか。恋人への疑惑の念にかられたクロエは、偽名を使いルイのクリニックに通い真相を突き止めようとする。クロエは、優しいポールとは反対に傲慢で挑発的なルイとの関係にのめり込んでいく……。

インタビューでもクローネンバーグ監督が双子の男と女の三角関係を描いたホラー『戦慄の絆』が言及されているように、オゾン監督はクローネンバーグ監督のタッチを思わせる粘着質な感覚や内蔵のイメージを随所に用い、不安定に揺れ動くクロエの脳内世界を映像化している。主人公クロエを演じているのは、オゾン監督の2013年の作品『17歳』で売春を続ける少女役を務めたマリーヌ・バクト。今回は、「私は人を愛せない」と悩むクロエが、空虚を埋めようとふたりにのめり込み、心を解き放っていく過程を演じている。


「抑制されたクラシックなスタイルの『婚約者の友人』のような作品の後、クロエの想像世界に浸り込み、形式的にも大胆にすることができました。『2重螺旋の恋人』は本質的には精神的な物語を語っており、建築的な構成の演出を作り上げ、シンメトリー、 反映、幾何学的なものを作用させました。脳が考えを作り上げるように、何かが作り上げられて行く印象を与えるという目的で全ての美術が考えられています」(フランソワ・オゾン監督)


観客がこの心理療法を追うようにしたかった

──主人公のクロエが診察を受ける分析医ルイとポールによる精神分析のシーンがとても特徴的です。どのような点に特にこだわったのでしょうか?

かなり以前から精神分析の治療の経験を映画にしたいと思っていました。精神分析の治療は場面が変わりばえしないものになりがちですが、この映画ではもっと動きを捉え、精神分析医が患者の話を聞くように観客がこの療法を追うようにしたいと思いました。これらの最初のシーンは、視覚効果と視点の交替が言葉に対峙するように演出しています。

映画『2重螺旋の恋人』フランソワ・オゾン監督 photo 岸本絢
映画『2重螺旋の恋人』フランソワ・オゾン監督 photo 岸本絢

──双子を重要なキーワードの一つとして選んだ理由を教えてください。

魅惑的だがおぞましく芸術的なものとして双子を描きたいと思いました。もちろんデヴィッド・クローネンバーグ監督の『戦慄の絆』のことは改めて考えました。彼の作品も非常に有機的で、婦人科学について多くを語っていますが、大きな違いは双子の視点から語られていることです。しかし、この作品の原作「Lives of the Twins」を書いたジョイス・キャロル・オーツは、二人の兄弟の間に板挟みになった女性の側から描いています。

クロエの想像世界に浸り込む

──元気を取り戻したクロエが監視員として働く美術館の展示品が、グロテスクに変化していく気がしました。

はい、これらの展示品は冒頭ではかなり美しく見えるのですが、映画が進むにつれて、クロエ自身の不安を投影し、有機的で恐ろしいものになっていきます。クロエは自分が監視している芸術作品に侵されているようなものです。

映画『2重螺旋の恋人』 ©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU 
映画『2重螺旋の恋人』 ©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

──主人公のクロエを演じたマリーヌ・ヴァクトの起用について教えてください。

この企画は4年前に遡りますが、当初、マリーヌのことは考えませんでした。彼女はこの役には若すぎたからです。しかし『婚約者の友人』の後で企画を考え直した時、マリーヌは成熟し、子供を授かり、大人の女性になっていました。それに私たちはまた一緒に仕事をしたいと強く思っていました。この作品ではマリーヌは完璧な女優として本物の創造的な演技をしています。秘密は彼女の中に隠されており、彼女はその鍵を探し、私たちは彼女の探求に付き添って行くのです。

映画『2重螺旋の恋人』 ©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU 
映画『2重螺旋の恋人』 ©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

──心理スリラーとしての演出をするにあたって、特に工夫した点はどこですか?

抑制されたクラシックなスタイルの『婚約者の友人』のような作品の後、クロエの想像世界に浸り込み、形式的にも大胆にすることができました。『2重螺旋の恋人』は本質的には精神的な物語を語っており、建築的な構成の演出を作り上げ、シンメトリー、 反映、幾何学的なものを作用させました。脳が考えを作り上げるように、何かが作り上げられて行く印象を与えるという目的で全ての美術が考えられています。 最近の作品は35mmで撮影しましたが、この作品ではスコープのデジタルに戻り、より現代的で明瞭で極めて美しくありながらも、幾つかの瞬間では外科的な映像を試したかったのです。

(オフィシャル・インタビューより)
映画『2重螺旋の恋人』 ©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU 
映画『2重螺旋の恋人』 ©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU



フランソワ・オゾン(Francois Ozon) プロフィール

1967年11月15日、フランスのパリ生まれ。1993年に国立の映画学校を卒業。短編『サマードレス』(96)や長編第一作『ホームドラマ』(98)が国際映画祭で評判を呼び、『焼け石に水』(00)でベルリン国際映画祭のテディ賞を受賞。以降、ベルリン、カンヌ、ヴェネチアの世界三大映画祭の常連となった。セザール賞の監督賞には『まぼろし』(01)を手始めに『8人の女たち』(02)、『危険なプロット』(12)、『婚約者の友人』(16)でノミネート。『しあわせの雨傘』(10)で同賞の脚色賞にノミネートされた。その他の監督作に、『クリミナル・ラヴァーズ』(99)、『スイミング・プール』(03)、『ふたりの5つの分かれ路』(04)、『ぼくを葬る』(05)、『エンジェル』(07)、『Ricky リッキー』(09)、『17歳』(13)、『彼は秘密の女ともだち』(14)などがある。




映画『2重螺旋の恋人』 ©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU 
映画『2重螺旋の恋人』 ©2017 - MANDARIN PRODUCTION - FOZ - MARS FILMS - PLAYTIME - FRANCE 2 CINÉMA - SCOPE PICTURES / JEAN-CLAUDE MOIREAU

映画『2重螺旋の恋人』
8月4日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー

監督・脚本:フランソワ・オゾン
原作:ジョイス・キャロル・オーツ「Lives of the Twins」
音楽:フィリップ・ロンビ
出演:マリーヌ・ヴァクト、ジェレミー・レニエ、ジャクリーン・ビセット、ミリアム・ボワイエ、ドミニク・レイモン
2017年/フランス/1時間47分/カラー/スコープ/5.1ch/R-18
原題:L’amant Double
日本語字幕:松浦美奈
配給:キノフィルムズ

公式サイト


▼映画『2重螺旋の恋人』予告編

キーワード:

フランソワ・オゾン


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