骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2018-11-30 18:00


蘇るアストル・ピアソラ!膨大なアーカイヴ映像で描くタンゴ革命児のドキュメンタリー

ピアソラの息子ダニエルが直接ローゼンフェルド監督に制作をオファー
蘇るアストル・ピアソラ!膨大なアーカイヴ映像で描くタンゴ革命児のドキュメンタリー
映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』 ©Daniel Rosenfeld PHOTO:© Juan Pupeto Mastropasqua

ウォン・カーウァイ監督の『ブエノスアイレス』で印象的に楽曲が使用されたことでも知られる、タンゴ界に革命をもたらしたミュージシャン、アストル・ピアソラの障害を描くドキュメンタリー映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』が12月1日(土)より公開。webDICEでは監督を務めたダニエル・ローゼンフェルドのインタビューを掲載する。

今回のインタビューで語られているように、ローゼンフェルド監督はアストル・ピアソラの息子ダニエルから直々に父のドキュメンタリー制作を提案されたという。映画は2017年に開催された母国アルゼンチンでのアストル・ピアソラの回顧展から始まる。父とともに電子八重奏団を結成したこともあるダニエルの回想、父の自伝を発表した娘のディアナが遺した父へのインタビュー・テープ、そしてダイナミックなライブを収めたアーカイブ映像を組み合わせ、ローゼンフェルド監督は、それまでのタンゴの価値観を壊して、新しいタンゴを作り出したことを自負するアストルの人生を辿っていく。「自分の過去に興味はない」と前日に書いた楽譜を燃やしたり、家族との時間を顧みず音楽に没頭するアーティストとしてのアストルだけでなく、私生活では「殴られる前に殴れ」という親の教えに従い喧嘩っ早かったという破天荒な父親像が、息子ダニエルの視点から描かれる。アストルの情熱的なパフォーマンスと、父親から芸術家としてのスピリットを受け継いだダニエルの眼差しとが交差するこの映画が完成することで、ダニエルの心のなかでは、崩壊してしまった家族の再生が行われたのではなだろうか。


「ピアソラは“音楽的いろは”の創造者であり、彼がこんなにも有名になった所以であり、この独自性が、本作で伝えなければならないことなのです。しかしながら、この音楽はどこから来たのか?と聞かれると、ピアソラの強さや、音楽的な哀愁の、秘密の源が何なのかはわかりません。ですが、彼の逸話のすべてに出てくる、見えない糸があるのです。つまり、ピアソラがいつも“運命”と言っていた、これらの小さくも意義深い偶然があるのです」(ダニエル・ローゼンフェルド監督)


ピアソラのバンドネオンには哀愁を感じる

── この作品はどのような経緯で制作がスタートしたのですか?

ベルリン国際映画祭で、アルゼンチンのバンドネオン奏者ディノ・サルーシのドキュメンタリー映画『Saluzzi』を上映した後、予想もしなかった招待状が届きました。それは、アストルの息子であるダニエル・ピアソラからでした。「誰も私の父について、クオリティの高いドキュメンタリーを作っていないなんて……。彼の人生は、映画を作るのに完璧だった。3ヵ月間サメ釣りに行き、4ヵ月間作曲をし、その後はツアーに出てたんだよ」。

映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』ダニエル・ローゼンフェルド監督
映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』ダニエル・ローゼンフェルド監督

── ピアソラの音楽には、監督ご自身どんな思い出がありますか?

脚本を執筆中、ピアソラがサメと闘っているのを想像しながら、私が初めて出会った心に染みる名曲「タンゲディア」も思い浮かべました。幼い頃ピアノを習っていて、「天使の死」か「アディオス・ノニーノ」を弾くことが楽しみでした。“哀愁”ということにはおそらく、子供時代に戻る秘密があり、ある瞬間、別の哀愁を思い出させるんです。それが私の場合は、ピアソラのバンドネオンなんです。

映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』 ©Daniel Rosenfeld  PHOTO:© Juan Pupeto Mastropasqua
映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』 ©Daniel Rosenfeld PHOTO:© Juan Pupeto Mastropasqua

── ピアソラの音楽の源泉はどこにあると感じますか?

ピアソラは“音楽的いろは”の創造者であり、彼がこんなにも有名になった所以であり、この独自性が、本作で伝えなければならないことなのです。しかしながら、この音楽はどこから来たのか?と聞かれると、ピアソラの強さや、音楽的な哀愁の、秘密の源が何なのかはわかりません。ですが、彼の逸話のすべてに出てくる、見えない糸があるのです。つまり、ピアソラがいつも“運命”と言っていた、これらの小さくも意義深い偶然があるのです。

映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』 ©Daniel Rosenfeld  PHOTO:© Juan Pupeto Mastropasqua
映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』 ©Daniel Rosenfeld PHOTO:© Juan Pupeto Mastropasqua

私は座してチャンスを待たない

── どんなプロセスを経て制作を進めていったのでしょう?

語り手ありきのドキュメンタリーではありません。冒頭から美的な表現集を作るために、私は次の手段を使いました。

まず、アーカイブ素材です。ほとんどが、フランスの制作会社イデアーレ・オーディエンスによって行われた、4年に渡るリサーチの成果で、スーパー8で撮影された未公開映像や、組写真のモンタージュ、様々な国で行われたインタビュー、時代背景を作るためのアーカイブ映像、そしてもちろん、ピアソラ家のアーカイブも使用しました。

それから、ピアソラの物語をダイナミック、且つ劇的に表現するため、撮影された一連のシーンです。映画的で雰囲気のある言語を作り出すため、観客の好奇心を引き出し、ナレーションと対照的なものを示す力強い映像を意識しました。アストルの息子ダニエルという、広大な海でのナビゲーションのような人物のシーンが、他の物語の導入を可能にします。

そして、様々な国のアーカイブから、ピアソラが自分の曲を演奏するコンサート映像や、他の有名なミュージシャンたちが彼の曲を演奏している映像も盛り込んでいます。

最後に、自分の経歴についてのインタビューにおける、ピアソラ本人の音声です。

映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』 ©Daniel Rosenfeld  PHOTO:© Juan Pupeto Mastropasqua
映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』 ©Daniel Rosenfeld PHOTO:© Juan Pupeto Mastropasqua

── 今作でピアソラの人生を描くなかで、彼の性格をどのように分析しますか?

伝統を壊し、新しく未知の方向へと向かうすべての素晴らしいアーティストたちがそうであるように、ピアソラのアートの土台は、シンプルではありませんでした。同じことが彼の性格にも言えます。政治への多岐にわたる見解を説明するため、「音楽のことだけを考える」と発言しました。彼は、フィデル・カストロ(キューバの政治家・革命家・軍人・弁護士)のために演奏し、サルバドール・アジェンデ(チリの第29代大統領/1970~1973年)と親しい関係を結んでいました。その後、アウグスト・ピノチェト(チリの第30代大統領/1974~1990年)のために演奏し、「ガルデルの亡命」を作曲、そして、アルゼンチンの独裁者であるホルヘ・ラファエル・ビデラ(第43代大統領/1976~1981年)に会いました。そのことがきっかけで、フリオ・コルタサル(アルゼンチンの作家・小説家)の反感を買い、更に娘ディアナを怒らせ、彼女は最終的にメキシコに亡命してしまいました。

ピアソラの音楽とは、もし幼少期、1927年のニューヨークで、ボクサーのジェイク・ラモッタの集団で闘っていなかったら、もしくは作曲家として、1942年にタンゴ純粋主義者たちに攻撃されていなかったら、そして、彼の教師であるナディア・ブーランジェが新しいタンゴへと彼を導いていなければ、現在のようなものにはならなかったでしょう。回顧録で彼は、これらの物語のひとつひとつが運命だったと語っています。それはまるで、彼の音楽の始まりは、誘惑(セイレーン)を呼ぶ歌であり、「私は座してチャンスを待たない」という言葉で、それを完璧に言い表しています。

(オフィシャル・インタビューより)



ダニエル・ローゼンフェルド(Daniel Rosenfeld) プロフィール

1973年、アルゼンチン、ブエノスアイレス生まれ。ヴィオレッタ・ガイザからピアノと作曲、ミゲル・ペレスから映像編集、アウグスト・フェルナンデスから演出、フリオ・チャベスから演技、リタ・スタンティクから映画製作を学んだ。クシシュトフ・キェシオフスキ監督、スティーブン・フリアーズ監督、劇作家のアレッサンドロ・バリッコ、脚本家のアンソニー・ミンゲラ、美術監督のケン・アダム、そしてアッバス・キアロスタミ監督といった名立たるメンバーのワークショップに参加した後、オランダのBirgen Film Instituteで映像制作の勉強修了とほぼ同じタイミングでアレハンドロ・アグレスティ監督作品の助監督として加わる。これまでに『SALUZZI - composition for bandoneon and three brothers』『The Chimera of Heroes』『Cornelia at her mirror』『To the center of the earth』『Piazzolla, the years of the Shark』といった長編作品を手掛ける




映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』 ©Daniel Rosenfeld  PHOTO:© Juan Pupeto Mastropasqua
映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』 ©Daniel Rosenfeld PHOTO:© Juan Pupeto Mastropasqua

映画『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』 12月1日(土)Bunkamura ル・シネマ他全国順次ロードショーー

監督:ダニエル・ローゼンフェルド
出演:アストル・ピアソラほか
2017/フランス・アルゼンチン
英語・フランス語・スペイン語/カラー(一部モノクロ)/94分
配給:東北新社 クラシカ・ジャパン
国際共同製作:クラシカ・ジャパン
後援:アルゼンチン共和国大使館

公式サイト


▼映画く『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』予告編

キーワード:

ピアソラ / ドキュメンタリー


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