骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2019-02-05 21:00


北欧映画祭ノーザンライツ、注目は移民系スウェーデン人とグローバリズム描く『アマチュアズ』

劇場未公開映画を中心に北欧カルチャーをまとめて楽しむ祭典 2/9(土)より開催
北欧映画祭ノーザンライツ、注目は移民系スウェーデン人とグローバリズム描く『アマチュアズ』
『アマチュアズ』より

北欧の映画界から注目の映画作家と作品を紹介する『トーキョーノーザンライツフェスティバル2019』が2月9日(土)から2月15日(金)まで渋谷ユーロスペースほかにて開催される。日本ではスクリーンで観ることのできない旧作や劇場未公開作がラインナップ。カフェレストランとの連動企画や音楽イベント、写真展などもあり、北欧のカルチャーを様々なかたちで楽しむことのできるフェスティバルとなっている。開催にあたりwebDICEでは、映画祭のスタッフ雨宮真由美さん、細川典子さん、熊澤隆仁さん、青木希羅さんによるオススメの作品のレコメンド文を掲載する。


ガブリエラ・ピッシュレル監督特集 ジャパンプレミア

『アマチュアズ』

Amateurs

ボスニア人の母とオーストリア人の父を持ち、1980年にスウェーデンで生まれたガブリエラ・ピッシュレル。移民家系であるという彼女自身の側面が映画のテーマに強く反映されている、そういった作品が持ち味の監督です。
本作の面白さは、映画のテーマに対するアプローチにあります。過疎化してしまった田舎の町を舞台に、地元の高校に通うふたりの移民系スウェーデン人が町のPR動画をスマホを片手に撮り始めます。しかしそこに映し出されるのはのどかな田舎の風景ではなく、グローバリズムに飲み込まれそうになっている町の姿でした。ピッシュレルは映画内映画を作ることによって、スウェーデンの現代社会へと切り込みを入れ、普段は見えない幾重にも重なる問題を私たちに提示してきます。
また、彼女のデビュー作である『イート・スリープ・ダイ』も上映します!こちらも移民を主人公に据えており、その力強く生きる姿に引き込まれ、共振するでしょう。

2/9(土)11:00の回上映後に、本作を監督したガブリエラ・ピッシュレルさん、撮影監督であるヨハン・ルンドボルグさんのトークショーを行います。(青木希羅)

原題:Amatörer / Amateurs
監督:ガブリエラ・ピッシュレル Gabriela Pichler
2018年 / スウェーデン / スウェーデン語(Swedish )、英語(English)、アラビア語(Arabic)、タミル語(Tamil)、クルド語 (Kurdish )、ボスニア語(Bosnian)、ドイツ語(German) / 102分

◎上映スケジュール
2月9日(土)11:00、2月13日(水)14:00、2月15日(金)19:00
会場:ユーロスペース




PANORAMA ジャパンプレミア

『マイ・アーント・イン・サラエボ』

Min faster i Sarajevo

戦争難民としてスウェーデンで暮らす50代のズラタンは、故郷サラエボで叔母の面倒をみてくれている女性への送金を続けていた。ある日、自分のルーツを知りたがる娘のアンニャに説得され、20数年振りに帰郷するが……。
映し出されるサラエボの街は、再建が進み近代的なビルが立ち並ぶ一方で、一歩裏道に入り込めばまだまだ戦禍の傷跡が残っています。それはまるで過去を引きずったまま閉じ込めているズラタンを象徴しているかのようです。サラエボ出身のゴラン・カペタノビッチ監督が、自身の娘に伝えたい物語として制作。紛争の残酷さと共に、それを後世に伝える重要性が描かれていますが、シリアスなドラマながらもどこかしらユーモアもあり、その語り口には優しさがにじみ出ています。
カペタノビッチ監督は、長編デビュー作にして本作でスウェーデン・アカデミー(グルドバッゲ)賞で監督賞を受賞。今後の活躍にも要注目です。また、サラエボ難民の少年を描いた同監督の短編『レフュジー532』も同時上映します!

2/9(土)16:00の回上映後に、共同脚本、プロデューサーのキーナ・オーランダーさんのトークショーを行います。(細川典子)

原題:Min faster i Sarajevo / My Aunt in Sarajevo
監督:ゴラン・カペタノビッチ Goran Kapetanović
2016年 / スウェーデン、ボスニア・ヘルツェゴビナ / スウェーデン語(Swedish)、ボスニア語(Bosnian) / 58分

◎上映スケジュール
2月9日(土)16:50、2月13日(水)21:20、2月14日(木)16:30
会場:ユーロスペース




PANORAMA ジャパンプレミア

『ウィンター・ブラザーズ』

WINTER_BORTHERS_2

1984年アイスランド生まれのフリーヌル・パルマソン監督は、現代美術作家として創作を始め、小作品を経て2017年に『ウィンター・ブラザーズ』で長編監督デビュー。ロカルノ国際映画祭他数々の映画祭で脚光を浴びました。監督自身が「lack of love story」(愛の欠如の物語)と呼ぶ本作は、冬の石灰工場で働く労働者の若者の魂の漂流を中心に展開されます。
エミールは唯一の肉親である兄ヨハンと共に現場から盗み出した化学薬品で蒸留酒を密造し同僚に売り捌く日々を送っていました。しかし、顧客の一人がその酒が原因で死亡したのを境に、今までも不安定ながら成り立っていた日常が崩れ去っていきます。主人公を徹底的に追い詰める工場長を演じるのはデンマークを代表する名優ラース・ミケルセンです。劇中は室内シーン以外は炭鉱の中の真っ暗闇か雪山の白銀世界の場面がほとんどで、そのコントラストが抽象画のごとく彼の孤独な心象風景を物語っているようにも見えます。コペンンハーゲン出身の奇妙な音楽家Toke Odinによるプロペラ音のような不穏な電子音楽とも重なって、パルマソン監督の孤高の美学が完成します。近年稀に見る天才の登場です。(熊澤隆仁)

原題:Vinterbrødre / Winter Brothers
監督:フリーヌル・パルマソン Hlynur Pálmason
2017年 / デンマーク、アイスランド / デンマーク語(Danish)、英語(English) / 93分

◎上映スケジュール
2月9日(土)21:10、2月13日(水)16:30、2月14日(木)19:00
会場:ユーロスペース




PANORAMA ジャパンプレミア

『サマー・チルドレン』

サマーチルドレン

両親の離婚により、母親が仕事を見つけるまでの間の一時預かりとして施設にやってきた幼い姉弟。施設の“長”的な人物ってどうしてこうも冷酷なのでしょうか?という典型的な厳しい寮長の元、母親の迎えを健気に待つふたりに、やがて勇気を試される瞬間が訪れます。陽の光をほとんど感じさせない、薄暗いスクリーンに広がるアイスランドの広大な自然は吸い込まれそうなほど幻想的で美しく、その分ふたりの抱える寂しさと不安が切なく際立たされます。そして、見上げるように低く構えられたカメラ・ポジションは、子供たちの心情をリアルに捉え、自然とふたりに寄り添っているような気分にさせられるのです。
作品選定に際し、監督の性別を気にしたことはないものの、今回上映の全14本(+同時上映の短編1本)のうち、半分の7本が女性監督作になりました。敢えて「女性監督」という必要のない時代に突入してきたように思います。そして、その内の1本がこの『サマー・チルドレン』。アイスランドのグズルン・ラグナルスドッティル監督の長編デビュー作です。(細川典子)

原題:Sumarbörn / Summer Children
監督:グズルン・ラグナルスドッティル Guðrún Ragnarsdóttir
2017年 / アイスランド、ノルウェー / アイスランド語(Icelandic),ドイツ語(German) / 84分

◎上映スケジュール
2月11日(月)13:10、2月12日(火)16:30、2月14日(木)21:10
会場:ユーロスペース




NORWAY SENSATION ジャパンプレミア

『ルールズ・フォー・エヴリシング』

The Rules for Everything03

本作の監督キム・ヨーソイは90年代末期より北欧エレクトロニカのシーンを牽引した音楽家の一人。2000年代からは徐々に活躍の舞台を映画界に移し、2012年に『アイ・ビロング』(本映画祭で上映!)の撮影監督として参加し、脚光を浴びました。そして、全ての活動の集大成がこの『ルールズ・フォー・エヴリシング』です。自らが手がけたサウンドトラック、画面の所々に挿入されるグラフィックなど実験精神溢れる本作は総合芸術としての映画の本質を追求する監督キム・ヨーソイとしての意気込みを感じさせます。本編では「この世に法則はあるのか」と哲学する10歳の少女ストーム、自己啓発ビデオのディレクターを務める母親アグネス、イングマール・ベルイマン監督の『第七の封印』を小学生にお薦めする教師など癖のある人物が度々登場し、彼らの人間関係が交錯していきます。物語はまるで一本の糸に操られているようですが、それを単純に運命とは呼ばせない作者独自の乾いた視点に大胆なユーモアを感じます。共感覚的な遊び心を持ちながらその作風に身を委ねてほしい一本です。(熊澤隆仁)

原題:The Rules for Everything / The Rules for Everything
監督:キム・ヨーソイ Kim Hiorthøy
2017年 / ノルウェー / 英語(English)、ノルウェー語(Norwegian) / 87分

◎上映スケジュール
2月10日(日)16:20、2月12日(火)19:00、2月14日(木)14:00
会場:ユーロスペース




FOCUS ON FINLAND

『かもめ食堂』

かもめ食堂

2006年に公開された『かもめ食堂』を観て北欧・フィンランドに魅了され憧れを膨らませ た女性がどれほどいたことだろう。
爽やかな青い空と港を飛び交うカモメたち。夏のヘルシンキのゆっくりと過ぎて行く時間 の中でサチエ、ミドリ、マサコ、の三人の日本人女性たちは出会う。
港のほど近くにあるサチエの経営する小さくて清潔な「かもめ食堂」。目的のない一人旅 でこの地にやって来たミドリとマサコは、かもめ食堂に迎え入れられたことから街や街の 人たちに少しずつ親しんでいくことになり……。
森でのキノコ狩り、朝の野菜市場、サチエの作る鮭のおにぎり、うららかな午後にとびき り丁寧に淹れたコーヒーと手作りのシナモンロールからは美味しそうな香りが立ち昇って くるよう。カウリスマキ監督作『過去のない男』のマルック・ぺルトラが唱えるコーヒー を美味しくする呪文とともに、登場人物たちの一人ひとりから滲み出るユーモアと切なさ が観る者の胸を締めつけてくる……。
北欧ブームの火付け役ともなった日本映画のとっておきの傑作をどうぞお見逃しなく!劇場では35㎜フィルムでの上映です。(雨宮真由美)

監督:荻上直子 Naoko Ogigami
2005年 / 日本 / 日本語(Japanese)、フィンランド語(Finnish) / 102min
提供:日活

◎上映スケジュール
2月10日(日)11:00
会場:ユーロスペース




カフェ/レストラン

Tabela(タベラ)
ノーザンライツフェスティバル スペシャルメニュー
提供時間:平日・16時~、土日祝・終日~

【スモークサーモンと冬野菜のマリネ ~自家製カンパーニュ付き~ 700円】

スモークサーモンと冬野菜のマリネ_01

カフェ/レストラン Tabela(タベラ)
平日:ランチ11:45~16:00 ティータイム16:00~18:00 ディナー18:00~23:00
土日祝:ランチ12:00~16:00 アフターランチ16:00~17:30 ディナー17:30~23:00
※ラストオーダー22:15
定休日なし・連日営業
東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F [地図を表示]
TEL 03-6825-5501
http://www.uplink.co.jp/tabela/




トーキョーノーザンライツフェスティバル2019

トーキョーノーザンライツフェスティバル2019
2019年2月9日(土)より2月15日(金)まで渋谷ユーロスペースほかにて開催

公式サイト

▼『トーキョーノーザンライツフェスティバル2019』予告編

▼『アマチュアズ』予告編

▼『マイ・アーント・イン・サラエボ』予告編

▼『ウィンター・ブラザーズ』予告編

▼『サマー・チルドレン』予告編

▼『ルールズ・フォー・エヴリシング』予告編

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