骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2019-02-21 22:30


手がかりは音声と想像力のみ!新感覚サスペンス『THE GUILTY/ギルティ』

緊急通報応答センターが舞台の北欧発ワンシチュエーション映画
手がかりは音声と想像力のみ!新感覚サスペンス『THE GUILTY/ギルティ』
映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

第34回サンダンス映画祭で観客賞を受賞するなど話題を集めたデンマーク映画『THE GUILTY/ギルティ』が2月22日(金)より公開。webDICEでは監督を務めたスウェーデン出身のヤコブ・セーダーグレンのインタビューを掲載する。

ある事件をきっかけに警察官として一線を退き緊急通報指令室のオペレーターを務める主人公のアスガー。あるとき、「私は誘拐されている」というい女性からの通報を受け、彼は電話口のかすかの音だけを頼りに、この事件を解決しようと試みる。自らの正義感を発揮するものの、あまりにも少ない手がかりにいらいらしながら、事件解決への道を切り開こうと腐心する。ミステリーものの定番である「信頼できない語り手」の手法を巧みに用いた設定や、この事件の解決自体が過去の自らの失敗にトラウマを持つアスガーの心を開くきっかけとなるという展開も鮮やかで、限定されたシチュエーションで観客をアスガーとともに事件解決を体験させる演出の巧みさに酔いしれてほしい。


「主人公のアスガーと同じ経験をしてきた警官にもインタビューを行ったよ。トラウマになりそうなほど暴力的な現場と、音だけを通して繋がっている彼らの仕事に惹かれていったんだ。誰かと電話をしている時、特にヘッドセットをつけていると、相手と親密になれる。でも同時に相手が経験している危険な状況からは遠く離れている。彼らは遠くにいながら、プロらしく対応するというのが任務の一つだ。親密だけど暴力的、遠いけどプロらしくという対照的な点が面白いと思った。」(ヤコブ・セーダーグレン監督)


音と想像力だけで、デンマーク各地に行った気分になれるような作品

──インスピレーションはどこから得たのですか?

作品のプロットはリサーチをしていて思いついたんだ。最初のアイデアはとてもシンプルなものだった。ワンシチュエーションだけど、音と想像力だけで、デンマーク各地に行った気分になれるような作品。そこから始まり、色々と調べていったんだ。緊急通報応答センターに行き、主人公と同じような経験してきた警官にインタビューさせてもらった。

僕たちが観たいと思う映画を目指した。観終ったあとに、偏見や共感や道徳観について話したくなるような作品だ。ユーチューブで偶然、911にかかってきた電話の音声を見つけ、その面白さに虜になったんだ。同じ音声を聞いているのに、聞く人によって思い浮かべるものが異なるという点に惹かれた。

映画『THE GUILTY/ギルティ』 ヤコブ・セーダーグレン監督 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
映画『THE GUILTY/ギルティ』 ヤコブ・セーダーグレン監督 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

──脚本および撮影の段階で、緊急通報応答センターについて、どのようなリサーチを行ったのですか?

いくつかの緊急通報応答センターを訪れた。特に夜間にだ。そこで働く警官と話をして、入ってくる電話の内容も聞かせてもらった。警官の何名かが、自らの意思とは反してそこで働いていることを知った。通常の任務から外され、そこに配置されたんだ。そういう状況の中にいると、脚本家として様々なアイデアが浮かんでくる。“なぜこんなことをしているのか?なぜそんな状況に陥るのか?”と。そうして作品の主人公が次第と形成されていった。

アスガーと同じ経験をしてきた警官にもインタビューを行ったよ。トラウマになりそうなほど暴力的な現場と、音だけを通して繋がっている彼らの仕事に惹かれていったんだ。誰かと電話をしている時、特にヘッドセットをつけていると、相手と親密になれる。でも同時に相手が経験している危険な状況からは遠く離れている。彼らは遠くにいながら、プロらしく対応するというのが任務の一つだ。親密だけど暴力的、遠いけどプロらしくという対照的な点が面白いと思った。“このプロ意識を一瞬でも忘れさせるためにはどうすればいいのか?それはどのような人物なのか?”そこを考えてみた。

映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

『狼たちの午後』のようなリアルタイムの演技を引き出す

──演出する際に影響を受けた作品はありますか?

最も影響を受けた2作品は『タクシードライバー』と『狼たちの午後』だ。「狼たちの午後』は様々な意味でワンシチュエーション映画と言える。『タクシードライバー』については、ものすごく話し合った。主人公の目を通してニューヨークを見せていて、その手法をこの作品でも用いたかったんだ。本作では主人公の耳に入ってくる音だけを通して、周辺の状況を描いた。

『狼たちの午後』は、リアルタイムで感じる精神的ストレスを表現する上で参考にした。今回、3台のカメラを使って長回しで撮影したのは、『狼たちの午後』のような真実味のあるリアルタイムの演技を引き出したかったからだ。

映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

──作品の緊迫感は、声の演技にもかかっています。キャスティングはどのように行ったのですか?

観客にそれぞれのイメージを思い浮かべてもらい、一緒に作品を作り上げていくというのがこの映画の主旨だ。どの作品でもそうだが、作品の中で直接語らず、観客に思い浮かべてもらうというのが最も重要だと思うんだ。

だからサウンドデザインや声だけで出演している役者も大事だった。役者に関しては、その人物を語れる独特の声を持った役者を求めていたから、ブラインド・オーディションを行ったんだ。キャスティング会社があるシーンを役者に演じさせ、僕はその音声だけをもらった。彼らの見た目はもちろん、名前も有名な役者なのかも知らされず、声だけで判断したのさ。色々聞いていくうちに、どのような声であれば観客の想像力をかき立てられるかが明確に分かってきた。

──緊張感あふれる役で主演も大変だったと思います。

彼には初期の段階から参加してもらった。作品の主旨やリサーチ結果を共有し、キャラクターの背景などを話し合った。さらに脚本を一単語ずつ見ていき、なぜそのようなことを言うのか細かく分析していった。また、リハーサルは一切行わなかった。誘拐された女性と初めてセリフを合わせるのは、そのシーンを撮影する時だった。その新鮮さを求めていたから、事前に読み合わせはしなかったんだ。

──撮影期間は短かったと聞いています。主人公の警官を演じたヤコブ・セーダーグレンと一緒に準備をした期間は?

ヤコブとは撮影開始の半年前に会った。脚本を彼仕様にするため、そしてクリエイティブな過程に参加してもらうためだ。彼は初期の段階からアイデアを色々と持ってきてくれて、一緒に脚本も分析していった。最終稿は隅から隅まで徹底的に見直したよ。撮影期間がわずか13日間だったから、現場で新たな疑問が生じないように、同じことを話し合わないようにね。でも話し合ったのは、“なぜアスガーがこう言うのか、なぜこのような行動に出るか”という内容だけだった。ヤコブの演技に関しては一切言及しなかった。できるだけ新鮮さを保ち、演技を固めたくなかった。リアルタイムで起こっているという感覚を保ちたかったのさ。

映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

──撮影自体はどう進んでいきましたか?

3台のカメラを使って、時系列に撮影していった。全体を8つのパートに分けて、各パートを順々に撮ったんだ。短くて5分間、長くて35分間はあったね。僕はアスガーに電話をかける、もしくはアスガーから電話がかかってくる役者たちと一緒に暗い防音室にいて、そこでモニターを見ながら演出していた。カメラ3台分の映像を見ていたから、撮影をしながら編集をしているような気分だった。会話と会話の間に、“このシーンはもっと攻撃的に”などと役者に指示を出していたんだ。そうやって間接的にヤコブを演出していた。無線機もあったけど、彼に直接コンタクトを取ることは滅多になかったね。

35分のロングテイクは、ヤコブはつらかったと思うけど、僕は一番楽しかった。途中でヤコブ以外の役者に指示を出してたまに流れを変えるのさ。“30秒待って電話をかけて”と伝え、ヤコブをそのまま待たせ、突然電話を鳴らして彼を驚かせたりね。緊張感の漂う現場だったけど、13日間ストレスは感じなかった。早く帰る日も多かった。だって30分のシーンを6回撮ったら、3時間分だからね。役者も疲れるよ。

映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

映画の“最終稿”を作るのは編集者

──編集の工程は?

撮影はわずか13日間だったけど、合計75時間分の映像を撮ったから大変だったよ。僕がすべての素材に目を通している間に、編集者がファーストカットを用意したんだ。メモを見ながらすべてのテイクを見直し、3台のカメラで撮ったものも見比べた。“このセリフはこれがいい、この瞬間はこっちがいい”と。それぞれAからFまで成績をつけていったんだ。

映画の“最終稿”を作るのは編集者だと僕は思っている。キャラクターに関する情報は最小限にとどめ、観客の心をいかに引きつけて離さないか。皮を一枚ずつ剥いていくような感覚さ。電話の会話を1個所だけカットし、2個所だけ会話の位置を入れ替えた。あとは脚本どおりの仕上がりさ。

映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

──音をどのように作ったのか興味があります。

どんな作品でも音はゼロから作り上げなければいけない。でも本作の大きな違いは参考にするべきものがないから、何だって可能だったということ。いろんな音を何度も試したから、その分大変だったけどね。

例えば雨の音は何種類も聞いた。誘拐されたバンの音を見つけるのは、特に時間がかかったね。何種類ものバンの音を録音しに行ったんだ。あらゆる方向性を探った。普通の映画なら、ドアが開くときドア自体も家も見えて、薄気味悪い家なのかきれいな家なのか分かるから、ドアの音にそれほどこだわる必要がない。でも足音やドアが開く音など、音しかない場合、ドアの音でその家の印象が違ってきてしまう。つまり視覚的要素を、音を通じて伝える必要があった。

どのシーンも、僕には明確にその場所が思い浮かんでいた。部屋やバーやストリートで、どんな音が聞こえてくるのか、頭の中では分かっていたんだ。だからそれをサウンドデザインは、僕がそれを担当者にいかに伝え、彼らがいかにそれを作り上げてくるかに懸かっていた。この作品の面白いところは、観客によって音から思い浮べるイメージが違うということだ。僕の中にあるイメージには忠実に作ったつもりではいるけどね。

映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

──アカデミー賞の外国語映画部門でデンマーク作品は毎年有力ですが、今年は本作がデンマーク代表に選ばれました。その時の反応は?

もちろん最高に嬉しかったし、光栄に思った。他の候補作は、何十年も活躍しているベテラン監督によるものだったからね。このチャンスをもらえたのは、僕だけではなくスタッフ全員にとって光栄なことだ。撮影監督も編集者も、一緒に脚本を手がけた仲間もプロデューサーも、みんな同じ映画学校で学んでいたんだ。一緒に卒業をして、その直後にこの作品を撮った。映画を完成させるためにみんな必死に頑張っていたから、すごく幸せなことさ。

──今後、どのような監督を目指していますか?

「The Guilty」で目指したことを今後も続けていく。観客を惹きつけると同時に、チャレンジングな映画を作っていきたい。ハラハラするけど、道徳的に複雑なストーリー。ゆったり座って分析しながら観るのではなく、前のめりになってしまうような作品だ。常に新しいアングルを探し求めていて、それが僕の原動力となっているのさ。「The Guilty」の時もそうだったし、今後の作品もそれは変わらないだろう。

(オフィシャル・インタビューより)



グスタフ・モーラー(Gustav Möller) プロフィール

1988年 スウェーデン・ヨーテボリ生まれ。2015年にデンマーク国立映画学校を卒業し、卒業制作『In Darkness』はハウゲスンで行われるノルウェー国際映画祭でネクスト・ジェネレーション賞を受賞する。本作は長編デビュー作である。




映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S
映画『THE GUILTY/ギルティ』 © 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

映画『THE GUILTY/ギルティ』
2019年2月22日(金)、新宿武蔵野館/ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開

出演:ヤコブ・セーダーグレン、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、オマール・シャガウィー
脚本・監督:グスタフ・モーラー
製作:リナ・フリント
脚本:エミール・ナイガード・アルベルトセン
撮影監督:ジャスパー・スパニング
  編集:カーラ・ルフェ
音楽:オスカー・スクライバーン
提供:ファントム・フィルム/カルチュア・パブリッシャーズ
配給:ファントム・フィルム
原題:The Guilty/2018年/デンマーク映画/スコープサイズ/88分

公式サイト


▼映画映画『THE GUILTY/ギルティ』予告編

キーワード:

グスタフ・モーラー


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