骰子の眼

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2019-03-14 23:55


『サウルの息子』ラースロー監督新作、ヨーロッパの自滅を描く『サンセット』

「1910年代と現在を繋ぐ、“岐路に立った文明”についての映画」監督インタビュー
『サウルの息子』ラースロー監督新作、ヨーロッパの自滅を描く『サンセット』
映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

長編デビュー作『サウルの息子』がカンヌ国際映画祭グランプリを受賞したネメシュ・ラースロー監督の新作『サンセット』が3月15日(金)より公開。この作品は第91回アカデミー賞外国語映画賞のハンガリー代表に選出された。webDICEではラースロー監督のインタビューを掲載する。

舞台は第一次世界大戦前、ハンガリーの首都ブダペスト。主人公のイリスは小さい頃に亡くなった両親が遺した高級帽子店で職人として働くために店を訪れる。そこで初めて、自身に生き別れたカルマンという兄がいて、彼が貴族たちへの暴動を企ていることを知る。会ったことのない兄の姿を追い求めていくうちに、イリスは帽子店の歴史を巡る闇に遭遇することになる。インタビューでも語られているように、ラースロー監督は貴族にへつらい繁栄を極めたものの凋落への道を辿る帽子店の姿に、この時代のヨーロッパを投影させている。そして『サウルの息子』でも発揮された、登場人物の背後からカメラで捉えた映像の妙と歴史的観点をさらに発展させた、極めて野心的作品となっている。特に今作は、姿を現さないカルマンとイリスの関係の謎を追い求めるミステリーの要素も多分に盛り込まれており、ラストシーンまで目が離せない。


「『サンセット』は、“岐路に立った文明”についての映画です。第一次世界大戦の前、歴史に刻まれることのない若い女性の物語をとおして、20世紀の始まりのプロセスを映し出します。1世紀前、絶頂期にあったヨーロッパは自滅していきました。文明がその絶頂期において自ら毒を生成し、それが破滅をもたらしました。私は今、1914年の第一次世界大戦が起こる前とそうかけ離れていない世界に生きていると感じています。過去に起こったことは、今の中央ヨーロッパで起こりうることでもあるのです」(ネメシュ・ラースロー監督)


観た人がそれぞれで感じるのが究極の目的

──どのような構想からこの作品の制作をスタートしたのですか?

『サウルの息子』の前から、女性についての映画を作りたいと考えていました。一人で世界に迷い、なんとかしようとしても、結局行くべき方向を誤ってしまうような女性の映画です。謎に包まれた主人公にずっと惹かれてきました。まるでジャンヌ・ダルクのようで、予想外の側面をもち、観客に彼女の行動の意味を考えさせる主人公を描きたかったのです。

映画『サンセット』ネメシュ・ラースロー監督
映画『サンセット』ネメシュ・ラースロー監督

全てを明らかにはせず、世界の片鱗を間近で見せることで、私の描きたかったことが達成できると考えました。そして残りを観客の“想像力”が補うのです。ドキュメンタリーのように細部まで注意深く描いた『サウルの息子』とは異なり、『サンセット』はドラマのようでいてミステリー(謎)を含み、観客は主人公と共に、表面的な出来事や何層にも重なった迷路を抜け、自分の行くべき道を探す旅へ導かれていきます。様々な言語が入り乱れ、観客は不安定な世界に浸ることになります。観た人がそれぞれで感じ、考えたあと、別々の反応をみせる、というのが私の究極の目的なのです。

『サンセット』は、初めから主人公であるイリスを至近距離で追いかけ、昔のポストカードで見たような予想しうる事を裏切るべく、通常の時代映画らしからぬ、非常に親密なアプローチをしています。できれば、見ている人は見知らぬ世界に浸され、そこでは様々な言葉が話されていて、その音がそこでのよりどころであり、見ている人が防衛することを放棄せざるをえなくなるように。

映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018
映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

過去に起こったことは、今の中央ヨーロッパで起こりうること

──物語の設定を1913年のブダペストに置いた理由を教えてください。

『サンセット』は、“岐路に立った文明”についての映画です。第一次世界大戦の前、歴史に刻まれることのない若い女性の物語をとおして、20世紀の始まりのプロセスを映し出します。1世紀前、絶頂期にあったヨーロッパは自滅していきました。文明がその絶頂期において自ら毒を生成し、それが破滅をもたらしました。私は今、1914年の第一次世界大戦が起こる前とそうかけ離れていない世界に生きていると感じています。過去に起こったことは、今の中央ヨーロッパで起こりうることでもあるのです。

映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018
映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

『サンセット』は、オーストリア=ハンガリー帝国の第一次世界大戦前の話です。オーストリア=ハンガリー帝国は一見、繁栄し、多数の言語と人間が混じり合い、多民族国家であり、首都のウィーンとブダペストは全盛の世界の文化の中心でした。そしてしかしながら、この最盛期の背景には、それを引き裂こうとするような隠された力が、事実あったのです。

私の深いところにあるヨーロッパのルーツは、我々の現在暮らしている時代と先祖たちの時代について、またうわべだけの文明はどんなに薄いものか、その奥になにがあるのか、を知るように後押しするのです。我々の現代のポスト国民国家の時代は、歴史の深いダイナミクス(動力)を忘れてしまったかのように見え、我々の際限なく技術と科学へを愛し、それらが我々をどんなに近くまで破壊の寸前へと追いやるのか忘れているように見えます。

映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018
映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

──『サンセット』を作るうえで参考にした作品は?

この映画は、私がある映画を愛しているという個人的な証明でもあります。その映画というのは、ほぼ1世紀経ちましたが、我々が敬意を表する映画―フランク・W・ムルナウ監督による希望に満ちた映画『サンライズ』(1927年)のことです。『サンセット』がムルナウ監督の映画で具体化された疑問を何かしら含んでいることを願います。

映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018
映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

──この作品は全編35mmフィルムで撮影されています。映画という表現とテクノロジーの関係についてどのようにお考えですか?

私にとって現在の映画とテレビの標準化は疑わしく、すでに証明し尽くされ文脈に当てはめられつくした方法に頼るのではなく、イメージや物語を現す新しい方法を探そうと依然として決心し続けています。つまりは、リスクを犯さなければならないという意味です。

今日、観客が映画から得る経験は、だんだん不満足なものになり、観る者の想像の旅を無視し、より簡単に理解できる産業化された表現に堕ちてしまったように感じます。いまの映画に満足している人にとっては、私の『サンセット』の監督方法は、簡単には受け入れ難かったかもしれません。しかし、私は映画が持っている大いなる可能性と観客を結び付けたいのです。

(オフィシャル・インタビューより)



ネメシュ・ラースロー(Nemes László) プロフィール

1977年2月18日生れ。ハンガリー、ブダペスト出身。2003年26歳でプダペストに戻ると、タル・ベーラ監督『倫敦から来た男』の助監督を務める。初の長編となる『サウルの息子』(16)は第68回カンヌ映画祭でグランプリを獲得し、第73回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞、第88回アカデミー賞外国語映画賞を受賞するなど、世界の映画賞を総なめにする。『サンセット』は、待望の長編2作目。




映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018
映画『サンセット』 © Laokoon Filmgroup – Playtime Production 2018

映画『サンセット』
3月15日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、
新宿武蔵野館他にてロードショー

監督・脚本:ネメシュ・ラースロー
出演:ユリ・ヤカブ、ブリル・オスカル、エヴェリン・ドボシュ、マルツィン・ツァルニク、ユディット・バールドシュ、ベンヤミン・ディノ
脚本:クララ・ロワイエ/マチュー・タポニエ
撮影:エルデーイ・マーチャーシュ
美術:ライク・ラースロー
編集:マチュー・タポニエ
音響効果:タマーシュ・ザーニィ
音楽:メリシュ・ラースロー
衣装:ジュルジ・サカーチ
2019/ハンガリー、フランス/カラー/ハンガリー語、ドイツ語/142分
後援:ハンガリー大使館
原題:Napszallta
英題:SUNSET
配給:ファインフィルムズ

公式サイト


▼映画『サンセット』予告編

キーワード:

ネメシュ・ラースロー


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