骰子の眼

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東京都 中央区

2019-05-09 23:00


女性たちの権利のために世の中を変えた米最高裁判事を描く映画『RBG 最強の85才』

ミレニアル世代のアイコンとなったルース・ベイダー・ギンズバーグに密着
女性たちの権利のために世の中を変えた米最高裁判事を描く映画『RBG 最強の85才』
映画『RBG 最強の85才』 © Cable News Network. All rights reserved.

現在86才を迎えなお現役の最高裁判所判事を務め、RBGの相性で親しまれる女性ルース・ベイダー・ギンズバーグに迫るドキュメンタリー映画『RBG 最強の85才』が5月10日(金)より公開。webDICEでは監督のベッツィ・ウェスト&ジュリー・コーエンのインタビューを掲載する。

アメリカの最高裁判事は長官を含めて9人で構成され、現在は、民主党の大統領によって指名されたリベラル派の判事がギンズバーグを含む4人、共和党の大統領によって指名された保守派が5人。最高裁判断はこの9人のバランスが大きく影響する。映画は、穏やかな性格ながら健康のために日々ワークアウトを欠かさない活動的なギンズバーグの日常も追っているが、健康に気を遣うのは、職務を続行できなくほど体調を崩した場合、共和党のトランプ大統領が指名しているニール・ゴーサッチ、ブレット・カバノーに続き3人目の保守派の判事を指名することが予想され、圧倒的過半数を保守派が占めることになるからだ。そのためメディアはギンズバーグの体調に注目し、ギンズバーグも自身が民主党の、そしてリベラルの最後の砦であることを自覚したうえでトレーニングを続けていることをこの映画は伝える。

ニューヨークのユダヤ系の家に生まれ、まだ女性弁護士が少なかった1970年代から女性やマイノリティの差別を裁判に弁護士として関わり、1993年にビル・クリントン大統領政権下でアメリカ最高裁判事に任命されるまでの苦難の道を描いていく。そこには献身的な夫マーティーの姿があり、物静かだが胸に強い意志を秘めるギンズバークをサポートし続けた夫と妻の関係の大切さにフォーカスした作品とも言える。今回の文章でも監督が触れているようにMeToo運動が巻き起こるなか、人工妊娠中絶や同性婚の権利を支持した彼女のたゆまぬ努力にあらためて目を向ける必要があるだろう。


「この映画の制作中に影響力のある男性たちのセクハラ行為が露見し、女性のたたかいはまだまだ続くことが浮き彫りになりました。ギンズバーグ判事は男女の平等だけでなく、すべての市民の権利を守る民主主義的な制度のために今も変わらず力を尽くしています」(ジュリー・コーエン、ベッツィ・ウェスト監督)


RBGは人生の絶頂期を迎えている

──この映画を制作することになったきっかけは?

私たち2人がルース・ベイダー・ギンズバーグのドキュメンタリー映画をつくろうと思い立ったのは3年前の2015年1月です。
2人とも過去の作品で判事にインタビューしたことがあり、女性の権利に関する彼女の画期的な活動を称賛していました。

映画『RBG 最強の85才』 © Cable News Network. All rights reserved.
映画『RBG 最強の85才』ジュリー・コーエン監督(右)、ベッツィ・ウェスト監督(左)

しかし、そののちに判事は突如として80代のロックスター“悪名高き(ノトーリアス)RBG”となります[その反対意見の鋭さからラッパー、ノトーリアス・B.I.G.をもじって名付けられた]。ミレニアル世代はTwitterやTumblrで彼女の美徳を絶賛し、RBGのTシャツやトートバッグを買いだめし、判事の顔を大きくて一生残るカラフルなタトゥーにする極端な人たちもいました。
ある日、RBG現象の話をしていた私たちは顔を見合わせて“今すぐギンズバーグ判事の映画をつくらないとダメだ”と言いました。
その頃の会話で使っていたのは“RBGは人生の絶頂期を迎えている”という表現です。 判事のすばらしき人生を記録していた私たちも、その絶頂期が、より大きく大切な“何か”へと展開していくことを十分に理解していなかったのです。
制作と管理の分野でトップ級の女性たちとチームを組み、2016年6月に撮影を始め、大忙しの判事のスケジュールに密着できるようベストを尽くしました。
オフィスにいる判事だけでなく、家族と休暇を過ごすところやパーソナルトレーナーとのトレーニングも撮影しています。

映画『RBG 最強の85才』 © Cable News Network. All rights reserved.
映画『RBG 最強の85才』 © Cable News Network. All rights reserved.

すべての市民の権利を守る民主主義的な制度のために力を尽くす

──現在の彼女の活動を追うだけでなく、これまでのキャリアについても丹念に取材していますね。

1970年代に彼女が若き弁護士として最高裁で依頼人の代理を務めたドラマチックな事件の数々も追い始めました。
当時は性差別が法的に何ら問題ないとされていたのです。
RBGが働く女性たちのために世の中を変えたのちに、テレビニュースでキャリアを築き始めた女性として、私たちは女性がこれまで成し遂げてきたことを考えずにはいられません。

映画『RBG 最強の85才』 © Cable News Network. All rights reserved.
映画『RBG 最強の85才』 © Cable News Network. All rights reserved.

──図らずも2018年はセクハラや性的暴行で告発されたプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインをはじめ、ハリウッドでMeToo運動が巻き起こりました。

この映画の制作中に影響力のある男性たちのセクハラ行為が露見し、女性のたたかいはまだまだ続くことが浮き彫りになりました。
ギンズバーグ判事は男女の平等だけでなく、すべての市民の権利を守る民主主義的な制度のために今も変わらず力を尽くしています。ミレニアル世代のアイコンになったのも不思議ではありません。

映画『RBG 最強の85才』 © Cable News Network. All rights reserved.
映画『RBG 最強の85才』 © Cable News Network. All rights reserved.

──今回の撮影を経て、彼女の魅力をどのように考えますか?

RBGとじかに会うのは強烈な体験です。柔らかな声をしていますが、その言葉は慎重に選ばれたとても明快なもので、聞く者の心を奪います。
ドナルド・トランプが勝利を収めた選挙のあと、私たちがこの作品の話をすると“判事の健康状態は?”とか“判事は元気?”などと、よく聞かれました。
観客の皆さんには“悪名高きRBG”が活動する姿を自分の目で確かめていただきたいです。寝る間を惜しんで辛らつな反対意見を作成し、健康を保って大好きな仕事を続けられるようにプランクやスクワットや腕立て伏せをする判事の姿を。

(オフィシャル資料より)



ジュリー・コーエン(Julie Cohen)

コルゲート大学を卒業したのち、イェール大学ロースクールで修士号を取得。コロンビア大学でも修士号を取得し、現在は同大学のドキュメンタリー課程で非常勤教授を務めている。これまでに8本のドキュメンタリー映画で監督とプロデューサーを務め、RBG一家も常連だったユダヤ系家族が営むNYのベーグル屋「ラス&ドーターズ」についてのドキュメンタリー『The Sturgeon Queens』(14・未)は2015年のベルリン国際映画祭を始め60か所以上で上映され、10の観客賞を獲得。『American Veteran』(17・未)はNYの映画製作会社を対象にしたPanavision Showcase Awardを受賞した。

ベッツィ・ウェスト(Betsy West)

映像作家、ジャーナリスト、教育者。ブラウン大学を卒業し、シラキュース大学でコミュニケーション学の修士号を取得。ABCニュースで20年以上にわたりプロデューサーと幹部を歴任し、エグゼクティブプロデューサーを務めた「ナイトライン」や「プライムタイム・ライブ」、ドキュメンタリー番組「Turning Point」でエミー賞を21回、デュポン・コロンビア賞を2度受賞した。ドキュメンタリー映画/デジタル作品の『Makers』(12)、ドキュメンタリー映画『The Lavender Scare』(17)、短編ドキュメンタリー『The 4%: Film's Gender Problem』(16)でエグゼクティブプロデューサーを務める。




映画『RBG 最強の85才』 © Cable News Network. All rights reserved.

映画『RBG 最強の85才』
5月10日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて公開

監督・製作:ジュリー・コーエン、ベッツィ・ウェスト
出演:ルース・ベイダー・ギンズバーグ、ビル・クリントン、バラク・オバマ
主題歌:「I'll Fight」ジェニファー・ハドソン
2018/アメリカ/カラー/英語/98分
原題:RBG
配給:ファインフィルムズ

公式サイト


▼映画『RBG 最強の85才』予告編

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