骰子の眼

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東京都 中央区

2019-10-25 21:30


今年の東京国際映画祭、私はこれを観たい!少年の受難描く衝撃作『ペインテッド・バード』他

アップリンク「映画配給ワークショップ」「シネビズ・カフェ」参加者が選ぶ注目作
今年の東京国際映画祭、私はこれを観たい!少年の受難描く衝撃作『ペインテッド・バード』他
『ペインテッド・バード』

第32回東京国際映画祭が2019年10月28日(月)から11月5日(火)まで、六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区)を中心に開催される。コンペティションは、チャン・ツィイー審査委員長を中心とする国際審査委員5名によって東京グランプリ/東京都知事賞ほか各賞が選ばれることになっている。
webDICEでは、アップリンクが運営するワークショップ「映画配給ワークショップ」「シネビズ・カフェ」の4名の参加者によるセレクトで、注目すべき作品を紹介する。




コンペティション

『動物だけが知っている』

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『動物だけが知っている』©2019 HAUET ET COURT RAZOR FILMS PRODUKTION FRANCE 3 CINÉMA VISA N˚ 150 076 | ©Jean-Claude Lother © Hauet Court

『ハリー、見知らぬ友人』(2001年セザール賞監督賞受賞)のドミニク・モル監督最新作。主人公は2019年1月公開『ジュリアン』で猟奇的な父を演じたドゥニ・メノーシェ。女優のメラニー・ロラン監督作品『Les Adoptes』(2011年・日本未公開)で第17回リュミエール賞の最優秀新人男優賞を受賞している。眼力が半端ない。
物語は、田舎の女性の失踪という謎から始まり、5人の見知らぬ人物が予想外の方法で有機的につながっていく。フランス片田舎の雪景色、失踪する女性、孤独に暮らす農夫、アフリカでサイバー詐欺をする若者……。どのように謎が解明されるのか想像もつかないし、スリリングな展開を期待してしまう。今回はドゥニ・メノーシェの来日が予定されており、それも楽しみの1つだ。
(佐藤純子)

監督:ドミニク・モル
キャスト:ドゥニ・メノーシェ、ロール・カラミー、ダミアン・ボナール
117分/カラー/フランス語、コートジボワール方言/日本語字幕・英語字幕付き/2019年/フランス




コンペティション

『わたしの叔父さん』

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『わたしの叔父さん』© 2019 88miles

農場で暮らす働き者の娘クリスが、体の不自由な叔父の面倒を見ながら暮らしている。という筋書きだけで、涙必須映画の予感。デンマークの農村風景の静かな時間をじっくりと味わいたい。父と娘ではなく、叔父と姪という少しだけ距離のある関係性が、どのようなストーリーを産み出すのか?今回、ワールド・プレミアということで、フラレ・ピーダセン監督と、主演のイェデ・スナゴーが来日し、Q&Aを行う予定。普段、あまり縁のない国の映画を観ることができ、監督の話を聞けるというのも、東京国際映画祭の楽しみのひとつ。
(峯丸ともか)

監督:フラレ・ピーダセン
キャスト:イェデ・スナゴー、ペーダ・ハンセン・テューセン、オーレ・キャスパセン
106分/デンマーク語/日本語字幕・英語字幕付き/2019年/デンマーク




コンペティション

『ジャスト 6.5』

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『ジャスト 6.5』© Iranian Independents

世界のいたる所で勃発している警察VS麻薬組織のドラッグ戦争。イランもしかり。物語は、強引な手法で次々と関係者を連行し、ついに親玉に接近する部長刑事と、捕まえられても逃げ、何としてでも家族を救おうとする組織幹部の対決。捜査の過程、ジャンキーのたまり場、留置所の様子、全てが規格外の迫力で、驚異のノンストップ娯楽作と推されている。主演は2011年アカデミー賞外国語映画賞受賞『別離』で夫を演じた(同作でベルリン映画祭俳優賞受賞)ペイマン・モアディ。対するギャングの親玉を演じるナヴィド・モハマザデは、『No Date No Signature』(2017年・日本未公開)の医師役でヴェネチアの主演男優賞を受賞。ベルリン映画祭受賞俳優VSヴェネチア映画祭受賞俳優。世界が認めるイランの人気俳優の演技対決も見逃せない。
(佐藤純子)

監督:サイード・ルスタイ
キャスト:ペイマン・モアディ、ナヴィド・モハマドザデー、ファルハド・アスラニ
134分/カラー/ペルシア語/日本語字幕・英語字幕付き/2019年/イラン




コンペティション

『列車旅行のすすめ』

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『列車旅行のすすめ』©Morena Films - Senor y Senora - Logical Pictures - Ventajas de Viajar en tren A.I.E

旅行会社のパンフレットのようなタイトルである。旅好きには何とも言えない惹かれる言葉だが、車窓のきれいな景色や旅先のアバンチュールを期待してはいけない。見事に裏切られる登場人物たち。コソボ戦争に赴いて片腕で帰還した男、不幸な結婚を繰り返す女、正体不明の医師。スペインで話題になった小説が原作。描かれるのは、強迫観念、倒錯、皮肉、楽しみ、認知症、洗練に満ちた不気味なしかし魅惑的な狂気……。登場人物の捕われた世界の複数のエピソードが互いに絡み合いながら、奇想天外な結末へと邁進する。スペインのポスターは、旅人の口の中に広がる各人の捕われた世界。何が現実で、何が虚構か。スペインの新鋭、39歳のアリツ・モレノ監督が放つ迷宮を旅してみたい。
(佐藤純子)

監督:アリツ・モレノ
キャスト:ルイス・トサール、ピラール・カストロ、エルネスト・ アルテリオ
103分/カラー/スペイン語、フランス語/日本語字幕・英語字幕付き/2019年/スペイン=フランス




コンペティション

『ばるぼら』

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『ばるぼら』©Barbara Film Committee

クリエイターにとって創作の源となるミューズは重要な存在であり、それは必ずしも品行方正な聖母のようなタイプとは限らない。手塚治虫の劇画「ばるぼら」(1973年)はストーリーよりも主人公の作家の創作の苦悩に力点が置かれており、それが一人の風変わりな女性“ばるぼら”との関係を元に展開されている点で、手塚作品の中でも異色の女性論、芸術論となっている。面白いのがこのばるぼらの背景にオカルティックな文化が設定されていることで、物語の中では大きなジョーカーとなっている。人間のモチベーションとして、不可解な人間そのものと超自然を絡めている点が大変ユニークである。本作の監督を担う実子の手塚眞は漫画的な映像を構成するセンスとホラー描写に特色があり、原作にはその要素が揃っている。創造の苦悩を表現するシーンで独特の冴えを見せる手塚監督が、『ばるぼら』をどのように発展させるだろうか。
(大槻圭紀)

原作は手塚治虫、監督は息子の手塚眞です。ウォン・カーウァイ作品で知られるクリストファー・ドイルが撮影監督を務めこれだけ興味がそそられます。また稲垣吾郎がデビュー作以来前張りを張ったということで更に興味が湧きます。吾郎ちゃんファンとして、まともに鑑賞できるか実際不安要素はありますが、エロスと芸術が融合して美しい映像で描き出されていることは間違いありません。実力派二階堂ふみとのダブル主演でさらに豪華となり「映像化不可能」とまで言われた原作を豪華な面々でどう融合させているのか、今から楽しみです。
(柏崎瑞希)

監督:手塚 眞
キャスト:稲垣吾郎、二階堂ふみ、渋川清彦、石橋静河
100分/カラー/日本語英語字幕付き/2019年/日本=イギリス=ドイツ




特別招待作品

『アイリッシュマン』

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『アイリッシュマン』©Netflix

マーティン・スコセッシのギャング興亡物語となれば期待せずにはいられない。組織の絶頂期のロマンティックな描写と瓦解するまでの容赦ないリアリズムのそれにおいて、対比の強烈さは他の同種の作品群と一線を画している。題材が実在の人物とマフィアの係わりなだけに、現実と虚構の組み合わせをどうスコセッシ流に構成しているかが注目である。出演もデ・ニーロ、ペシ、カイテルのおなじみの面々で強力なコラボが確実な上に、全米トラック運転組合のジミー・ホッファにアル・パチーノという力技で久々に往年のマフィア映画の雰囲気が堪能できそうである。彼らの演技力はもちろんのこと、若かりし頃の姿や、実はあまりホッファと似ていないパチーノの外見が最新のVFXや特殊メイクでどう構築されているかも興味深い。ハリウッドの重鎮達による、最新のデジタル技術でブーストされた人間ドラマを楽しみたい。
(大槻圭紀)

監督:マーティン・スコセッシ
キャスト:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ぺシ
209分/カラー/英語/日本語字幕付き/2019年/アメリカ




特別招待作品

『マリッジ・ストーリー』

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『マリッジ・ストーリー』

『マリッジ・ストーリー』は結婚の出口を学べる映画。離婚プロセス次第で円満に別れることもできるし、骨肉の争いになることもある。スカーレット・ヨハンソン演じる女優二コールと、アダム・ドライバーの監督兼脚本家チャーリーの夫婦。すれ違う2人は円満な協議離婚を望むが、互いに対する積年の憤りが露わになって衝突し、離婚弁護士を雇い争うことになる。離婚家族を描いた2005年の『イカとクジラ』でアカデミー賞ノミネート経験をもつ、ノア・バームバックが監督・脚本。自身も女優との男児がいる離婚経験者であり、現在は『フランシス・ハ』(2012年)のグレタ・ガーウィグと公私のパートナー関係(男児が誕生)を築いている。スカーレット・ヨハンソンも、本作撮影時に離婚調整中だったとか。私生活でもその道の達人と言えそうなキャスト。さて、映画の結末はいかに。
(佐藤純子)

Netflix映画として2019年冬配信予定の話題作。スカーレット・ヨハンソンと、アダム・ドライバーが、離婚手続きを進める夫婦を演じる。監督のノア・バームバックが、自ら経験した離婚の実体験を映画に繁栄しているとのこと。ちなみに、監督の元妻は女優のジェニファー・ジェイソン・リーなので、ハリウッドらしい生々しいやり取りに期待大。離婚のプロセスのキツさを体感しながら、結婚というものに対する男女間の認識の違いも勉強したい。ローラ・ダーンとレイ・リオッタが離婚弁護士に扮して行う、女性VS男性という構図の離婚裁判にも注目。
(峯丸ともか)

監督:ノア・バームバック
キャスト:スカーレット・ヨハンソン、アダム・ドライバー
136分/カラー/英語/日本語字幕付き/2019年/アメリカ




特別招待作品

『アースクエイクバード』

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『アースクエイクバード』

日本を舞台にした洋画は往々にして日本人から見てどうしても不自然な点がある場合が多い。その点、製作総指揮を務めるリドリー・スコットは自身の日本嗜好から『ブラック・レイン』で大阪の町を日本的なポイントを大きく外さず、独自の映像にデザインした実績がある。その公開年である1989年が奇しくも本作の時代設定だが、予告編の映像では東京と新潟で行われたロケの効果もあり、80年代の日本の雰囲気が良く出ているようである。異国の地で殺人事件に巻き込まれるというストーリーはミステリーの王道だが、主人公が孤軍奮闘する女性という事で現代性があり共感を得やすいのではないだろうか。監督のウォッシュ・ウェストモアランドは自己のアイデンティティを訴える女性を描いた作品で高評価を得ている。その手腕が娯楽作品でどのように発揮されるか、スコットとのコラボレーションに期待したい。
(大槻圭紀)

監督:ウォッシュ・ウェストモアランド
キャスト:アリシア・ヴィキャンデル、ライリー・キーオ、小林直己
107分/カラー/英語、日本語/日本語字幕付き/2019年/アメリカ




特別招待作品

『“隠れビッチ”やってました。』

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『“隠れビッチ”やってました。』©2019『“隠れビッチ”やってました。』フィルムパートナーズ/ 光文社

私この映画絶対大好きだと思います。主人公が恋愛に翻弄されて成長していくラブコメ、女の子は皆好きですよね。漫画原作ということで、やや現実味のない設定で、「3年間に600人も男性を振る」、そもそも3年間で600人もの男性と知り合っていること自体すごいうらやましいです。600人の中にはイケメンばかりではなくそうではない人もいるようなので「クスッ」と笑ってしまいました。主人公は「振り向かれたら振る」という少し変わっている性格ですが、私含め世の女の子は少し小悪魔なところをもっているのかと思いました。600人を振ることは無くてもどこか主人公と共感するところはある気がします。どう主人公が恋愛と自分と向き合って成長していくのか、期待しています。
(柏崎瑞希)

監督:三木康一郎
キャスト:佐久間由衣、森山未來、村上虹郎
112分/カラー/日本語英語字幕付き/2019年/日本
配給:キノフィルムズ/木下グループ




特別招待作品

『男はつらいよ お帰り寅さん』

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『男はつらいよ お帰り寅さん』©2019松竹株式会社

あの寅さんが新作映画となってカンバック。渥美清さんは、1996年に亡くなっているので、寅さんのシーンは、CG化?なんて憶測もありました。実際には過去49作品の中から、山田洋次監督が選りすぐったシーンを差し込んでいくという「編集」で作り上げる形。たとえ40年前のフィルムでも、デジタルリマスターの技術が発達しているため、現在のプリントと遜色がないのだとか。だいたい、50年かけて、50作品を作り上げた映画なんて他にはない。今回は、ワールド・プレミアとなり、世界向けタイトルは『Tora-san, Wish You Were Here』。寅さんが今、この時代にいたら、やっぱりインフルエンサーになっている気もする。世代を超えて愛される日本人の心象風景「寅さん」を、山田洋次監督の編集マジックで堪能したい。
(峯丸ともか)

故渥美清が演じ続けた車寅次郎は恐らく制作陣の当初の想定を超えて日本人の精神の自由を表現する役柄になり得たと思う。テキ屋家業という人間を描いたコメディ故に日本的なしがらみから逸脱した設定となり、その上で人の情や優しさを演じて見せたからこそ、長年に渡って愛され、海外でも受け入れられたのであろう。前作同様、寅さんは回想シーンでのリマスターされた映像で登場するとの事だが、ドラマを新たに撮影した、れっきとした新作である。元々寅さんという人物は人々のうわさの中の登場人物という位置づけが作品の個性となっている。それが年月を経たことで、年を重ねた登場人物たちの回想として昔の姿で登場するという構成は、それほど違和感のあるものとは思えない。むしろ、このシリーズの締めくくりとしてはある意味、理想的な展開と言えないであろうか。ともあれ、国民的映画シリーズの最新作を楽しみたい。
(大槻圭紀)

監督:山田洋次
キャスト:渥美 清、倍賞千恵子、吉岡秀隆
116分/カラー/日本語/英語字幕付き/2019年/日本
配給:松竹株式会社




特別招待作品

『Blinded by the Light(原題)』

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『Blinded by the Light(原題)』© 2019 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

『ベッカムに恋して』のグリンダ・チャーダ監督の最新作は、ブルース・スプリングスティーンのヒット曲にのせて贈る音楽青春ドラマです。私は、グリンダ・チャーダの世界観がすごく好きです。『ジョージアの日記/ゆーうつでキラキラな毎日』が好きでグリンダ監督の虜になりました。グリンダ監督は主人公が女性になることが多いですが、今回は少年ということでまたひと味違った作品になること間違いなしです。グリンダ監督作品は観た後にハッピーな気持ちになれるから上映後にハッピーな気持ちになる人がたくさんいるといいです。
(柏崎瑞希)

監督:グリンダ・チャーダ
キャスト:ヴィヴィク・カルラ、アーロン・ファグラ、ヘイリー・アトウェル
117分/カラー/英語/日本語字幕付き/2019年/イギリス
配給:ポニーキャニオン




ワールド・フォーカス

『WASP ネットワーク』

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『WASP ネットワーク』©OrangeStudio

現代のフランス映画を代表する監督の1人、オリヴィエ・アサイヤス監督の最新作。2016年『パーソナル・ショッパー』のスタイリッシュな映像が記憶に新しい。本作はうってかわり、冷戦の1980年~90年代、キューバからフロリダに亡命し反カストロを掲げて母国の民主化を目指す実在のスパイ組織「Wasp Network」が題材。女優の演技を引き立てる繊細な演出が魅力の監督にしては、ハードな社会派スパイサスペンス。難解な物語とクセのある俳優陣の演技をどう引き出すのか、その手腕に期待。ヴェネチア映画祭コンペ上映での賛否反応をうけ、キューバの政治事情を簡潔化し、ペネロペ・クルスのパートを増やすなど再編集をしているという噂。監督の挑戦を劇場で見届けたい。
(佐藤純子)

監督:オリヴィエ・アサイヤス
キャスト:ペネロペ・クルス、エドガー・ラミレス、ガエル・ガルシア・ベルナル
127分/カラー/スペイン語、英語/日本語字幕・英語字幕付き/2019年/フランス=スペイン=ブラジル




ワールド・フォーカス

『ペインテッド・バード』

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『ペインテッド・バード』Copyright © All rights reserved Silver Screen Eduard & Milada Kučera Directory Films Rozhlas a Televízia Slovenska Certicon Group innogy PubRes Richard Kaucký

今回の東京国際映画祭で、一番注目している作品。ヴェネチアやトロントの映画祭のコンペに出品したが、賛否両論で途中退場者も続出したというイワクつき。第一次世界大戦の終わりに、東ヨーロッパをさまよう少年に、次々と悲劇が襲ってくる。少年が、土に埋まり、飛び出た頭をカラスに突かれるなんて状況に、どうやったら陥るのか……という、怖いもの見たさの好奇心を止められない。チェコのヴァーツラフ・マルホウル監督の長編3作目。ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズという豪華でクセのありすぎるキャストも出演。衝撃的内容だけに、日本公開が厳しいかも?らしい。尚更見逃せない。
(峯丸ともか)

監督:ヴァーツラフ・マルホウル
キャスト:ペトル・コトラール、ウド・キア、レフ・ディブリク
169分/モノクロ/スラビック・エスペラント語、チェコ語、ロシア語、ドイツ語/日本語字幕・英語字幕付き/2019年/チェコ=ウクライナ=スロバキア




ワールド・フォーカス

『ミンダナオ』

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『ミンダナオ』

ブリランテ・メンドーサ監督との出会いは、2013年イザベル・ユペール主演『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』。そして2016年『ローサは密告された』、2018年『アルファ、殺しの権利』と続く。いずれも社会問題を題材に善と悪、表と裏、光と闇が入り乱れる展開が持ち味だ。本作はミンダナオ島の紛争がテーマ。住民の2割がイスラム教徒のミンダナオ島で、政府が進めたキリスト教徒の入植政策に分離独立を求めてイスラム系住民が抵抗、40年以上も続く武力闘争で十数万人が死亡しているのだとか。
手持ちカメラによる臨場感あふれる実写が鉄板だが、今回は抒情的なアニメーションが加えられている。ミンダナオ島の苛酷な紛争の中で生きる母子と、竜と闘った兄弟の伝説。実写とアニメでどんな不変のメッセージが語られるのか、アジアの巨匠・メンドーサ監督の新境地を体験したい。
(佐藤純子)

監督:ブリランテ・メンドーサ
キャスト:ジュディ・アン・サントス、アレン・ディソン、ユナ・タンゴッグ
124分/カラー/フィリピン語/日本語字幕・英語字幕付き/2019年/フィリピン




日本映画スプラッシュ

『タイトル、拒絶』

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『タイトル、拒絶』©DirectorsBox

山田佳奈監督長編デビュー作。山田監督の劇団「ロ字ック」で上演した舞台を元に映画化。デリヘル嬢として働く女性たちの生き様を、女性監督が描くなんて、見るしかない!なにせ、映画タイトルにもロックな魂を感じる。主人公カノウ役を、NHKの朝ドラ『ひよっこ』に出演していた伊藤沙莉が務める。伊藤紗莉が、上半身ブラ姿で佇むスチール写真を見て、映画のエネルギーを感じた。ブラのサイズが一回り小さいように感じるのは、山田監督の演出なのか?早く確かめたい。
(峯丸ともか)

監督:山田佳奈
キャスト:伊藤沙莉、恒松祐里、片岡礼子
98分/カラー/日本語/英語字幕付き/2019年/日本
配給:株式会社Libertas




日本映画スプラッシュ

『i-新聞記者ドキュメント-』

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『i-新聞記者ドキュメント-』©2019『i-新聞記者ドキュメント-』製作委員会

『新聞記者』と同じく、プロデューサー河村光庸によるドキュメンタリーです。『新聞記者』はすごく挑戦的な内容でしたが、今回はドキュメンタリーということで、予告編だけでも緊張感の走る内容でした。私もこの記者のようにジャーナリズムを追いかける予定だったことを思い出したり、報道に対して日本に対して考えさせられる映画です。コンプライアンスや何やらがうるさい世の中になってしまった今だからこそ、皆に問いかけるきっかけとなる作品になると思います。どういうラストになるのか、気になるところです。
(柏崎瑞希)

監督:森 達也
キャスト:望月衣塑子
113分/日本語/英語字幕付き/2019年/日本
配給:株式会社スターサンズ




特別上映

『帰郷』

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©「帰郷」時代劇パートナーズ

仲代達矢は日本を代表する名優だがその役において彷徨するという設定がある場合が多い。これは本人のどこか虚無的なイメージに起因すると思われるが、三船敏郎や渥美清の役柄における少しでも目的を持った放浪とは異なるものである。その独特の浮遊感が俳優仲代達矢の強烈な個性であり、その着地点が作品の重要な要素になる。高度経済成長後から平成まで何かしら強烈な目標といったものが薄れていった日本社会において、その個性は確かに時代とリンクしており、それが作品に現在性を獲得させ質を向上させていた。本作では盟友岡本喜八や沢島忠の名作となった作品で演じたまさに彷徨う存在、渡世人を再び演じるという。時代劇『果し合い』で組んだ杉田成道、共演に常盤貴子、北村一輝とスタッフ・キャスト共に強力である。この布陣で描かれる仲代達矢にとっての“帰郷”という着地点を見てみたい。
(大槻圭紀)

監督:杉田成道
キャスト:仲代達矢、常盤貴子、北村一輝
119分/カラー/日本語/英語字幕付き/2019年/日本




【執筆者プロフィール】

峯丸ともか

今年の東京国際映画祭には、ほぼ毎日通い、約20本を鑑賞する予定。 映画好きが高じて、WEBで記事など書いてます。@blua_birdo

大槻圭紀

宮城県出身、東京在住。自主映画監督、元WEBディレクター。北海道、東京の映画祭で作品を上映。

佐藤純子

東京生まれ。渋谷区在住。国民性や民族性、世界観や価値観など、さまざまな違いを実感させてくれる海外映画を中心に、年間数百本を鑑賞。

柏崎瑞希

SMAPが大好きで映画が大好き、そんなOLです。東京国際映画祭に2年連続吾郎ちゃんの作品が出品されてうれしいです。ジャンル問わず「気になる映画は何でも観る」。これからもたくさん映画を観て感情移入していきたいです。




第32回東京国際映画祭
2019年10月28日(月)~11月5日(火)

会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区)ほか
公式サイト

キーワード:

東京国際映画祭


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