骰子の眼

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2020-01-30 18:38


伝説の恋愛映画『男と女』再び!オリジナルキャストで描かれる半世紀後のふたり

「心を揺さぶるメタドラマで、時間の経過に対する最後の挑戦」クロード・ルルーシュ監督語る  
伝説の恋愛映画『男と女』再び!オリジナルキャストで描かれる半世紀後のふたり
映画『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

フランスの名匠クロード・ルルーシュ監督の1966年の映画『男と女』の続編で、前作に続きアヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンが同じ役柄を演じる『男と女 人生最良の日々』が1月31日(金)より公開。webDICEではクロード・ルルーシュ監督のインタビューを掲載する。

老人ホームで暮らし、記憶を失いかけているジャン・ルイはかつて愛した女性アンヌのことを思い続けていた。そんな父親の姿を見た息子は、アンヌのことを探し出すことを決める。再会を果たすもののの、相手が自分だと気が付かないまま、過去の思い出を話し続けるジャン・ルイを見たアンヌは、彼を連れて思い出の地であるノルマンディーへと車を走らせる。『男と女』の名シーンをふたりの回想場面に散りばめる心憎い構成もさることながら、「心を揺さぶるメタドラマ」とルルーシュ監督が形容しているように、映画のなかの53年間とキャストそして監督の53年間が混ざり合い、リアルな年月の変化を通して「人生」を描き出している。


「愛とは時間の芸術で、その時間は誰もが持っている、そこには、ありとあらゆる美しさが潜んでいる。私の作品の主役たちに与えられた時間は、スクリーンのなかでの1時間ほどしかないが、そのひとときは最高のものになる」(クロード・ルルーシュ監督)


再会の時

この作品が生まれるまでに、あらゆることがあった。最初にあるイメージが浮かんだ。50年以上前のある朝、ドーヴィル・ビーチで遠くに女性と犬がいる。これは日常生活そのもので、このイメージに導かれて他の部分を作り上げていった。記憶からこぼれおちてしまわないような、上質な映画が必要だった。明け方のパリを走り回ってデートの思い出を作ったり、落ち込んだり自分を奮い立たせたりしながら、失敗と成功を何度も繰り返した。自分がいいと思ったことをできる自由が必要だった。アヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンという時代を超えた魅力を持つ俳優たちが必要だった。そして、この素晴らしい俳優によって演じられる、ふたりの登場人物の旅を通して人生観を描きたいと思っていた。

映画『男と女 人生最良の日々』クロード・ルルーシュ監督 ©Kazuko Wakayama
映画『男と女 人生最良の日々』クロード・ルルーシュ監督 ©Kazuko Wakayama

『男と女 人生最良の日々』は、私たちの人生のある瞬間をリアルに映し出している。過去と現在の映像を組み合わせることで、どちらも鮮やかに描くことができる。そうすることでこの作品は、だれもが自分に置き換えられるような、普遍的な物語になる。

ふたりは新しいスタートを迎える。52年経って、ジャン=ルイとアヌークに再会したことに深い喜びを感じた。その瞬間、時間が止まり、当時の感情が蘇ってきた。当時と今、ふたつの異なる時代のジャン=ルイとアヌークの姿によって、私たちの感情はさらに強く掻き立てられる。

映画『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma
映画『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

自由で自立した作品

この作品は『男と女』の続編ではない。『男と女』を見ていない人にも見てもらえる作品にしなければ、と思っていた。『男と女』に頼らず、『男と女 人生最良の日々』をしっかりと自立させる必要があった。

本作は、1966年に大きな反響を呼んだ男女の恋愛を再び描いている。お互いの心に残った記憶についての物語だ。最初のフラッシュバックでは、アヌーク・エーメがジャン=ルイに「愛してます」と電報を送っている。この言葉で彼らの人生は180度違うものになってしまう。すべては、女性が「愛してる」と言う勇気を持った、特別な瞬間に始まるのだ。誰かに気持ちを伝えることは最も難しい。その気持ちを口にする、または相手から言われると、その人の人生は新たな意味を持つようになる。その瞬間、自分が生まれてきたことが正しいことのように思えてくる。体じゅうを駆け巡る血、流れる汗、涙、すべてが価値のあるものに感じるのだ。「あいしてる」というたった5文字が全てを補ってしまう。このアイデアをもとに『男と女 人生最良の日々』を作りあげた。この作品のイメージは映像をはるかに超えて、私たちの記憶の一部となった。まるで、ふたりの恋愛を体験したかのように。ひとりの女性が伝えた「愛してる」は、いま、世界中の人々のものになった。

第3クオーター

『男と女』の50周年記念のパーティーで、ジャン=ルイとアヌーク・エーメが話をしているのを見かけた。ピエール・バルーとフランシス・レイも出席していた。笑い声が飛び交い、みんな楽しい時間を過ごしていた。当時のスタッフや俳優たちが、再び集まることができたのが嬉しかった。未完成の何かを残しているけど、だれもがそれを終わらせたくない、という気持ちだった。私は、心のなかで密かに考えた。このふたりを映画のなかで再会させたらどうだろう、作品のなかでのふたりは、永遠の婚約者のように最後の言葉がまだ交わされていないのだ。

『男と女』のプロジェクトを完全に自由な形で続けることは、これまでの仕事のなかで一番の賭けだと思った。この年齢になって、私はアヌークとジャン=ルイにほとんどなんでも言うことができるようになっていた。私もふたりも、人生の第3クオーターにさしかかっている。日常生活の中で、人は自分の気持ちを抑えることが多いが、今になってようやく、本音を言い合えるようになった。

それから数ヶ月経って、再びジャン=ルイに会った。その時にもこの男の映画を撮らなければ、と強く思った。その想いは義務のようになっていた。ジャン=ルイがこれまで言葉にしてきたこと、そして心に秘めてきたこと、そのすべてがその表情から見て取れる。「私と一緒に、もうひとつ映画をつくらないか?」ジャン=ルイは、最初、続編は必要ないのでは、と考えていた。もし、完成したものを私たちが気に入らなければ、絶対に公開しない。そう伝えると、ジャン=ルイの表情が明るくなった。私に手を差し伸べて「よし、わかった」と言ってくれた。その言葉を聞いて、私はアヌークにも話をしに行った。

アヌークは、すぐに賛成してくれた。彼女は私にはノーと言えない性格なのだ。だが、アヌークもジャン=ルイや私と同じことを心配していた。それでも私は、やってみなければ、と思った。あるアイデアについて確信を持っているのが自分だけなら、真実に最も近い場所にいるのは自分だけなのだ。

数ヶ月後、アヌークとジャン=ルイに冒頭のシーンを見せると、ふたりは「絶対にこの作品を世界に公開しよう」と言ってくれた。

映画『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma
映画『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

人生をかけたシーン、映画のなかの人生

俳優のふたりがプロジェクトに賛成してすぐに、共同で脚本を手がけたヴァレリー・ペランとピエール・ユイッテルヘーベンとともに、主役のふたりが再会するシーンを書きはじめた。ふたりは近くに座っている。それは、悲しくもあり、無意味でもある。人目を忍んで再会したふたりだが、それには重要な意味がある。このシーンのアイデアが浮かんだとき、このシーンを撮るだけでも、作品を完成させる価値がある、と思った。もし、できあがったものが20分の短編だったとしても、これさえ撮ることができれば、それでかまわない、と思った。その20分には人生をかける価値がある。しかし、このシーンの後に続くもの――登場人物たちの状況、感情、交わし合う約束――を撮っていると20分をはるかに超える作品になっていた。

初めて出会った瞬間に、全ての感情が、驚きが、その後の破滅が、ユーモアが、そしてすべての恋愛物語の中心に潜む矛盾が凝縮されている。人生と同じくらい複雑だが、私は、年齢を重ねるにつれて人間の愛に関する物語が好きになっていく。その不完全さですら美しいのだ。ふたりが再会する場面から考え始めた。お互いに伝えあうこと、言えないこと。お互いを表す言葉全て。ふたりを止めるものはなにもない、というアイデアから作品を組み立てていった。これは、『男と女』を作った私たちみんなの歴史でもあるのだ。記憶が耳にこうささやく。人生に偶然なんてない、人々はただ必然的に出会うだけなのだ。そして、この作品が完成するためには、たくさんの出会いが必要だった。

『男と女』

『男と女』を作ったとき、私は26歳だった。1組の男優と女優の映画ではなく、1組の男女についての映画を作りたい、と考えていた。アヌークとジャン=ルイにも伝えたのだが、この違いはものすごく大切だった。全てのシーンを撮り終えると私たちは、もしかしたらいい作品ができたかもしれない、と思った。しかし、世界中でこれほど有名な映画になるとは、この時は考えもしなかった。

愛について悩んだことのある人なら、だれでも『男と女』に共感できる。この映画は、愛は時に素晴らしく困難だということを示した、説明書のような存在になった。

私たちは、『男と女』でカンヌ国際映画祭のパルムドール、アカデミー賞に続き、40以上の国際的な賞を受賞した。そのうちすぐにあらゆる劇場で公開されるようになり、世界中の観客の心を動かした。『男と女』で私の人生は一変し、さらに制作に携わったみんなの生活を変えてしまった。こんな素晴らしい作品に出会ったら、当然、以前の自分と同じではいられないだろう。

映画『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma
映画『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

太陽の下の13日間

『男と女 人生最良の日々』の撮影期間は13日間という異例の短さだった。素早く撮影を進めること、そして俳優たちの自然な瞬間を捉えることが必要だった。リハーサルの段階で煮詰まったり、撮影中に横道にそれたりすることは許されない。そうは言っても、前もって準備をしておきたくはなかった。私だけでなく、アヌークもジャン=ルイも同様に不安だった。撮影が始まると、初めて監督した短編『C’ETAIT UN RENDEZ-VOUS』で車を運転したときの気持ちが蘇ってきた。それは人間の存在意義のようなもので、私は人生を駆け抜けていく。1976年のパリの街並みを車で走り抜けたように。赤信号を無視して走り、危険を冒し、逆境に直面する。この作品が成功したのは、私に監督としての力があったわけではない。そんなものは遥かに超えて、人生そのものが映し出されているのだ。

映画『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma
映画『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

あるのは希望だけだ

この作品で描かれるふたりの再会は、一組の男女の姿を映し出している。男は、これまでたくさんの女性を愛し、人生を楽しんできた。不誠実で、世界中のありとあらゆる欠点を抱えている。この男は、いつまでもユーモアと遊び心を忘れず、どんなことも恐れない。一方、女は相手への忠誠と真実の愛を信じていた。

死はこの作品には含まれない――あるのは希望だけだ。こんなに美しいジャン=ルイとアヌークを見たのは初めてだ。最後にふたりが一緒に歩いて去っていく様子は幸せでもあり、感動的でもある。まるで、ふたりの冒険家を見ているようだった。撮影しながら、私は自分の目がうるんでいるのに気づいた。

「最良の日々はこの先の人生に訪れる」by ヴィクトル・ユーゴー

愛とは時間の芸術で、その時間は誰もが持っている、そこには、ありとあらゆる美しさが潜んでいる。私の作品の主役たちに与えられた時間は、スクリーンのなかでの1時間ほどしかないが、そのひとときは最高のものになる。そう思ったから、ヴィクトル・ユーゴーの言葉を引用した。「最良の日々はこの先の人生に訪れる」この言葉が長い間ずっと頭から離れず、これまでの作品に密かに影響を与えている。いつも、今が最高に素晴らしいのだ。

自分がずっと理想として夢見てきたものに到達できた

作品が編集の工程に入ると、私は自分の作品を観る最初の観客になる。ジャン=ルイの表情が初めてスクリーンに映ったとき、まるで思い出が記憶の表面に顔を出すようにカメラがゆっくりと捉える。そして、アヌークの表情。戸惑ったような、すべてを悟ったような顔をしていた。私の目からは、涙が溢れていた。まるで、私自身が彼らの表情やそこに残る昔の面影を再発見しているようだった。52年前に撮ったふたりが出会うシーンが戻ってきたような感覚だった。半世紀も前のことだ。私は、この作品の再会シーンを観て再び涙した。

これまで、過去と現在を織り交ぜた作品をいくつも作ってきた。しかし、今回の作品では、自分がずっと理想として夢見てきたものに到達できた気がする。『男と女 人生最良の日々』では、現在と同時に遠い過去が描かれており、同じ人物がそれぞれの時代を演じている。特殊メイクはなし、若き日の主人公たちを演じる役者もいらないし、もちろん年取った主人公たちを演じる役者もいらない。人生そのものであり、その神話――アヌークとジャン=ルイについて私たちがイメージすること――は、それ自体が物語と混ざり合い、ますますリアルになっていく。この作品は、心を揺さぶるメタドラマだ。ユーモアに満ちていて、同時に時間の経過に対する最後の挑戦のようなものなのだ。

(オフィシャル・インタビューより)



クロード・ルルーシュ(Claude Lelouch)

1937年10月30日、フランス・パリ生まれ。ユダヤ系アルジェリア人の家庭に育ち、幼い頃から映画に興味を持つ。報道カメラマンとしてキャリアをスタートさせると、1956年から16ミリの短編映画を撮り始める。1960年にはプロダクション会社Les Films 13を設立し、初の長編となる「Le propre de l'homme」を監督。その後、いくつかの作品を発表するが、いずれも興行的に失敗に終わり、破産状態に追い込まれてしまう。そんななか、最後の作品と決断し製作した『男と女』(66)が世界的な大ヒット。カンヌ国際映画祭のパルムドールをはじめ、アカデミー賞R外国語映画賞など40以上の賞を獲得した。当時はまだ無名だったが、この成功がきっかけで一躍脚光を浴びるようになり、一流監督として認められる。以後、作曲家のフランシス・レイと組み、映像と音楽によるスタイリッシュな大人の恋愛映画を発表し続ける。主な監督作は『パリのめぐり逢い』(67)、『白い恋人たち』(68)、『流れ者』(70)、『恋人たちのメロディー』(71)、『続・男と女』(77)、『愛と哀しみのボレロ』(81)、『男と女 II』(86)、『レ・ミゼラブル』(95)、『アンナとアントワーヌ 愛の前奏曲』(15)など。監督デビュー以降、精力的に映画作りを続けており、本作が49作目。すでに50本目も制作中である。




映画『男と女 人生最良の日々』© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma

映画『男と女 人生最良の日々』
1月31日(金)TOHOシネマズ シャンテ、
Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー

監督:クロード・ルルーシュ
出演:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、スアド・アミドゥ、アントワーヌ・シレ
音楽:カロジェロ、フランシス・レイ
配給:ツイン
2019年/フランス/90分/フランス語

公式サイト


▼映画『男と女 人生最良の日々』予告編

キーワード:

クロード・ルルーシュ


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