骰子の眼

cinema

2020-08-14 14:00


『死霊魂』ヒット記念! ワン・ビン監督の過去6作品パックが配信スタート
『死霊魂』ワン・ビン監督(右)©LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018

新作『死霊魂』が話題を呼んでいる世界的ドキュメンタリー監督、ワン・ビン。その過去作をパッケージした「ワン・ビン監督6作品パック」の配信が本日からスタートしたのを記念して、これまでワン・ビン監督が語った各作品についての発言をまとめた。

「ワン・ビン監督6作品パック」
アップリンク・クラウドにて配信中

https://www.uplink.co.jp/cloud/features/2723/
◆配信作品:『鉄西区』『鳳鳴 中国の記憶』『無言歌』『三姉妹 雲南の子』『収容病棟』『苦い銭』
◆販売期間:2020年8月14日(金)14:00~11月13日(金)23:59
◆価格:1,980円(税込)
◆視聴期間:30日間



『鉄西区』
(1999-2003|556分/三部構成)

中古のデジタルキャメラがあれば、映画が世界と対峙できることを証明し、映画が21世紀に突入したことを宣言した衝撃的な第一作。日本占領時代に建設された中国瀋陽の工業地区の衰退を描く。山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞ほか世界中のドキュメンタリー賞を受賞した金字塔。

ワン・ビン:撮影を始めた時、僕はまだ若くて何もすることがなかったんです。北京での仕事もなくて、瀋陽に戻ってぶらぶらしながらあちこちに行ってはカメラを回していたんですが、三分の一くらい撮ったときに、「これは映画にできる」と感じて、構想ができてきました。実は、最初の頃は、ドキュメンタリーというものをよく知りませんでした。14歳から働き始めて、24歳から写真の学校に行き、そのあと北京電影学院で撮影を学んだんですが、その時の先生たちはドキュメンタリーについて、あまり教えてくれなかったんですね。学校を出ても映画界の商業的なシステムの中には居場所がなく、瀋陽に戻ってカメラ1つで撮り始めたというわけです。『鉄西区』は三部構成になっていますが、膨大なものをどのように構成するか、群れの中の一人一人をどう撮っていくか、そういうところから考え始め、完成させた作品です。

『鉄西区』
『鉄西区』

『鳳鳴 中国の記憶』
(2007|183分)

1950年代後半に始まった中国共産党による反右派闘争で数々の迫害を受け、ゴビ砂漠の収容所で夫を亡くした老女・鳳鳴。その語りを、ほぼ全編にわたり、正面からカメラにおさめるのみ。語りの磁力にすべてを賭けた傑作。山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞。

ワン・ビン:劇映画『無言歌』の準備をきっかけに、(映画の主人公である)和鳳鳴さんと出会いました。その頃、ある美術館から作品の依頼があり、すでに友人となって信頼関係ができていた鳳鳴さんを撮ろうと決めたんです。『無言歌』のロケハンでゴビ砂漠の収容所にも行っていましたし、たくさんの人から当時の話を聞いていたので、彼女の環境についてもよく理解できたんです。この映画は「言葉」でいこうと思いました。映画とは映像ですが、言葉を映画の第一要素とすることで映画というものを成り立たせることができるか、その可能性を試しました。幸い、カンヌや山形でとても良い反応をいただいたので、それからちょっと自信がついてもっと大胆になりました。

『鳳鳴』
『鳳鳴 中国の記憶』

『無言歌』
(2010|109分)

唯一の長編劇映画。『鳳鳴』や最新作『死霊魂』と同じく、中国共産党による反右派闘争の悲劇が劇映画として描かれる。歴史に対峙する覚悟と、説明しようのない天才的な映画感覚に圧倒される。

ワン・ビン:『鉄西区』のあと、友人が一冊の本(楊顕恵の小説『夾辺溝の記録』)を僕にくれ、9時間くらいかけて読みました。読み終わったとき、本当に悲痛な思いにとらわれ、この物語を撮りたいという思いが沸いてきたんです。なぜ50年前のことを、今、撮るのか。この疑問を絶えず自分に問いかけました。たしかに、人間の本質とは、人間の尊厳とは、ということは考えました。しかし、それ以上に一生懸命考えたことは、歴史に対してどう向かい合うかということでした。歴史とは、それを記憶する人がいて、記憶してこそ歴史になり得るものなんです。
この映画を完成させるには大変な苦労がありました。反右派闘争は、右派とされたほとんどの方の名誉回復が行われ、収容所を生き延びた方が書いた本も刊行されていますが、当局が歓迎する内容でないことは事実です。撮影には非常に気を配りました。例えば、ゴビ砂漠に当時の収容所を設営したわけですが、設営してすぐに撮影したわけではなく、しばらくそのままにしておいて、近辺の住民がその存在を忘れた頃に撮影を始めたり、また撮影したラッシュ映像も撮ってはすぐに海外のスタッフに送るようにしたり。予算面も含め、最も苦労した作品です。

『無言歌』
『無言歌』

『三姉妹 雲南の子』
(2012|153分)

中国で最も貧しいと言われる雲南省の村で三人だけで暮らす幼い姉妹を記録。ヴェネチア国際映画祭やナント三大陸映画祭などの栄誉に輝いた名作。

ワン・ビン:知り合いの作家の墓参りに行った帰り道で、この三姉妹に出会ったんです。村人の姿はほとんどなくて、ガランとした村で三人は泥んこになって遊んでいました。僕は話しかけてみました。少しお喋りをしていると、長女のインインが家に案内してくれたんです。いろんな話を聞くうちに、母親は3年前に家出して、父親は出稼ぎに行っていて、彼女たちは三人だけで暮らしていることがわかりました。家はとても貧しくて「赤貧洗うが如し」という言葉通りでした。それでも、インインはジャガイモを焼いて僕にくれたんです。

『三姉妹』
『三姉妹 雲南の子』

『収容病棟』
(2013|237分)

かつて北京近郊の精神病院で、収容者たちが10年も20年もそこで暮らしていると聞いて以来、収容病棟で映画を撮りたいと考えていたワン・ビン入魂の一本。経済大国・中国で「存在しない」ことになっている彼らの愛を求める声がいとおしい。

ワン・ビン:2003年に北京の近郊である精神病院を見つけ、十数年もそこにいる収容者もいると知り、その印象がとても強かったので撮影したいと思いました。でもその病院からは撮影許可が出ませんでした。2012年になって、雲南省の友人が撮影していいと言っている病院があると教えてくれたんです。私は急いで撮影に行き、撮影しながら、収容者や医師や看護師たちを知っていきました。鉄格子の中で収容者は日常を繰り返します。その繰り返しが、時間というものを際立てます。そして、時間が止まる時、それぞれの人生を感じずにいられませんでした。

『収容病棟』
『収容病棟』

『苦い銭』
(2016|163分)

ドキュメンタリーなのに、その群像劇の面白さでヴェネチア国際映画祭脚本賞受賞。出稼ぎ労働者が住民の80%を閉める街・湖州。カメラの前の人物が次々に入れ替わりながら、1元の金に一喜一憂する労働者たちを浮かび上がらせる。

ワン・ビン:この映画は、雲南の故郷を離れて、たくさんの出稼ぎ労働者が働く東部の街へ向かう三人の若者の場面から始まります。そこには、農民たちが土地を離れて出稼ぎに流れていくという、中国の経済発展がもたらした劇的な変化があります。中国社会では現代ほど「金」が重要になった時代はありませんでした。この“ 流れゆく”彼らの物語を語るために、カメラが捉える人物をずらしながら、ある被写体から別の被写体へ、焦点を揺らすようにひとつに絞らずに撮影しました。

『苦い銭』
『苦い銭』


ワン・ビン(王 兵)

1967年11月17日、中国陝西省西安生まれ。14歳のとき父が病死し、24歳まで一家の大黒柱として働く。職場で知り合った建築士らの影響で学問と写真に興味を持つようになり、1991年、人の紹介を得て、瀋陽にある魯迅美術学院で学び始める。翌92年、正規の試験を受けて写真学科に入学。3年間学んだのち、95年から1年間は北京電影学院撮影科で学ぶ。97年に魯迅美術学院に復学し、卒業するが、当時は仕事がなく、新聞映画撮影所に入り、1年半ほど知人の監督の手伝いなどをして過ごしたが、1999年、その生活に見切りをつけ瀋陽に戻り、中古のデジタルカメラひとつで『鉄西区』の撮影に着手。2002年に5時間ヴァージョンの『鉄西区』がベルリン国際映画祭フォーラム部門で上映され、世界に衝撃を与える。その後、再編集し、2003年に9時間を超える画期的なドキュメンタリーとして完成させ、国際的に高い評価を受ける。「反右派闘争」の時代を生き抜いた女性の証言を記録した『鳳鳴 中国の記憶』(2007年)で『鉄西区』に続く2度目の山形国際ドキュメンタリー映画祭グランプリを獲得。2010年には、同じく「反右派闘争」時代の飢餓を題材に、初の長編劇映画となった『無言歌』を発表。初めて日本で劇場公開され、キネマ旬報の外国映画監督賞にも選ばれた。2012年には雲南省に暮らす幼い姉妹の生活に密着したドキュメンタリー『三姉妹 雲南の子』、2013年には『収容病棟』を発表。2016年にはミャンマー内戦により中国国境に逃れて来た中国系のタアン族を描いた『TA'ANG』、浙江省の出稼ぎ労働者を題材にした『苦い銭』、2017年には『ファンさん』と話題作を次々に完成させ、2018年、カンヌ国際映画祭でついにこれまで記録し続けた題材、「反右派闘争時代の飢餓」の集大成となる8時間越えの大作『死霊魂』を発表した。

▼ワン・ビン監督から日本の独立系配給会社への応援動画メッセージ


『死霊魂』全国順次公開中
アップリンク京都にて9/18(金)より、アップリンク吉祥寺にて10/16(金)より上映!

(C)LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018
『死霊魂』©LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINÉMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018

『鉄西区』『無言歌』『三姉妹〜雲南の子』のワン・ビン最新作。いまだ明らかにされない中国史の闇、〈反右派闘争〉。ある日突然、右派と呼ばれ拘束され、送られた収容所は〈飢餓収容所〉と化した。地獄を生き延びた者たちの証言が死者の魂をよびおこす8時間26分の大作!

監督・撮影:ワン・ビン
製作:セルジュ・ラルー、カミーユ・ラエムレ、ルイーズ・プリンス、ワン・ビン
配給:ムヴィオラ
2018年/フランス、スイス/506分(第一部166分、第二部164分、第三部176分/英題:DEAD SOULS

『死霊魂』公式サイト

▼『死霊魂』予告編


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アップリンク・クラウドでは、ワン・ビン6作品ほかアピチャッポン・ウィーラセタクン、ツァイ・ミンリャンなどを含む、ムヴィオラ配給作品全21作3ヵ月見放題パックも2020年11月15日まで販売中です。

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