骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2020-08-25 22:00


映画『私たちが生まれた島 ~OKINAWA2018~』から見える「今とこれからの沖縄」

戦争を知らない若い世代が自分の目で見て聞いて歴史を学んだ上で語り継いでいくこと
映画『私たちが生まれた島 ~OKINAWA2018~』から見える「今とこれからの沖縄」
映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』

9月4日(金)よりアップリンク渋谷にて上映されるドキュメンタリー映画『私たちが生まれた島 ~OKINAWA2018~』は、基地問題で揺れる沖縄で生まれ育った若者たちを追った作品だ。webDICEでは、今作の宣材制作を担当している脚本家の川杉次郎氏による、この映画に登場する3人の若者たちへのインタビューを掲載する。

沖縄の基地問題と島の若者たち

新辺野古基地を巡る沖縄の問題は、沖縄だけでなく日本全国の関心事だ。
2019年に沖縄で行われた、辺野古新基地の賛否を問う「県民投票」で沖縄の人々が基地建設に「NO」を突きつけたことは記憶に新しい。
本作品を制作した、都鳥拓也・都鳥伸也は、岩手県北上市を拠点に映画製作活動をする37歳の若い双子の兄弟だ。
前作『OKINAWA1965』では戦後の基地問題の歴史を描き、好評を博した。

しかし「戦後の基地問題の歴史」を扱った前作『OKINAWA1965』の公開後、都鳥兄弟に同世代の若い人たちから「基地問題ってお年寄りの話でしょう?」「若い人たちには関係ないんでしょう?」などの「自分たちの世代とは関係のない話」という意見が寄せられることが少なくなかったという。
中には「もともと、基地があるのが当たり前の若者たちはあってもいいと思っているんでしょう?」といったような質問もあった。
こうしたことがきっかけで、「沖縄の若い世代の本音にフォーカスした作品を作りたい」と始まったのが、本作『私たちが生まれた島 ~OKINAWA2018~』の企画だった。

現在沖縄では、戦後から基地問題を脈々と受け継いできた大人たちから、次の世代が受け継ぐ時期がきている。
今作で都鳥兄弟は、未来の沖縄の当事者である島の若者の視点に立ち、彼らの本音と等身大の姿を生き生きと描きだしている。
彼ら若者が、自分なりの感性で基地問題を継承しようとする想いは「今の沖縄」と「これからの沖縄」を知る手掛かりになるはずだ。

『私たちが生まれた島 ~OKINAWA2018~』では、島で生まれ育った3人の若者たちの視点を通して沖縄の今を描いている。

映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』
映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』元山仁士郎さん
映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』
映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』城間真弓さん
映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』
映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』中川友希さん

一橋大学院生で「県民投票」の実現に向けて活動した元山仁士郎さん。3児の母で、保育士を辞め村議会議員に立候補し選挙活動を行った城間真弓さん。当時高校生で戦争の激戦地で育ち、沖縄の過去を自分なりに見つめようとする中川友希さんの3人だ。

そして、彼らが本作に出演するまでには前作『OKINAWA1965』から繋がる都鳥兄弟との縁があったという。
その出会いから、撮影中の出来事。
そしてこの作品をどのような人に観てほしいか、その想いを語ってもらった。

「県民投票」の立役者、元山仁士郎さん

映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』
映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』

元山仁士郎さんは、歴史学を学び、SEALDsなどに参加した経験を持つ青年だ。本作では、ふだん語ることを敬遠されがちな基地問題を世代や地域をこえて共有するため、その機会となる「県民投票」の実現をめざす活動の中心人物として奔走する様子が描かれている。
しかし「沖縄の若者を追う」という映画の企画が持ち上がった時点では「県民投票」にまで話が膨らむとは、都鳥兄弟も元山さん自身も想像していなかったという元山さん。本作は期せずして、沖縄の「これから」を担う重大な局面の裏側を描くことになったのかもしれない。

──この映画に出演するきっかけは?

2017年の冬に都鳥さんの前作『OKINAWA1965』完成後に、ある雑誌の企画で対談したのがきっかけでした。
その際、私のことを撮りたいという依頼があり、お受けしたのです。
そのときは武田真一郎・成蹊大学教授から県民投票の話を聞いた直後で、まさか自分自身がその翌年に県民投票をやるとは思ってもみませんでした。
たまたま私を追っていく中で、県民投票という出来事を取り上げることになったわけです。

──撮影中に印象に残ったことは?

監督の地元である岩手から沖縄通って撮影するのは大変だな、と思いました。
しかしながら、沖縄で撮影の協力をしてくださった方がしっかりとポイント、ポイントで撮影をして、おおまかな私の動きと県民投票の流れを捉えることができたという印象です。
県民投票を提起するシンポジウムから投票日までどのようになるか誰も予想ができなかったことでしたが、いま振り返れば、監督らのセンスが鋭かったんだと感じています。

──完成した映画を観て、どんな人に観てほしいと思いましたか?

私を含めた、沖縄の基地問題に対する「若者」の葛藤をうまく描いていて、どの出演者の行動や言葉も印象的です。
特に、良いなと思ったシーンは、中川友希さんとその友人らが伊江島で花火をしているシーンです。

基地問題に関心を持ち、行動する人々は特殊なように見られますが、多くの「若者」と変わらない普通の「若者」というのがにじみ出ています。
そのことが多くの観客に伝わればと思います。もちろん、まずは若い人に観て欲しいですが、いわゆる今まで様々な取り組みを行ってきた年配の方々にもぜひ観ていただきたい映画です。
「若者は無関心だ」「若者は行動しない」と言われることが多々ありますが、実際行動している「若者」を通して、なぜ関心を持ちづらいのか、行動しづらいのか、というところを感じ取ってもらえたらと思います。

普通の母ちゃんが立候補、城間真弓さん

映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』
映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』

3児の母である城間真弓さんが本作に出演したきっかけは、前作『OKINAWA1965』だったという。前作では家族と一緒になって上の世代と共に、基地反対運動をしていた彼女。
今作では心機一転、村会議員に立候補し選挙活動を繰り広げることになった。
当然、撮影中は選挙戦の真っ最中。結果はわからない。
作中では極力明るく振舞っていた彼女にもプレッシャーがあったという。
城間さんが作中で語った「普通の母ちゃんでも議員になれたら、若い人たちも政治に対して目を向け行動できるようになる」という言葉が実現するのか、ぜひ本作を観て確認してほしい。

──この映画に出演するきっかけは?

前作、『OKINAWA1965』にて、保育士をしながら、辺野古のゲート前に座り込むママとして、インタビューをさせてもらったのがきっかけで、監督の都鳥兄弟と出会いました。
その後、私が保育士を辞め、村議会議員として候補者になるというのを聞き、その動向を追おうと「私たちが生まれた島」の取材が始まったんです。

──撮影中に印象に残ったことは?

私が候補者になり、事務所開きや、街宣しているところも撮ってもらったのはいいのですが、ここまで追っかけて取材して投開票にもしも落選してしまったら、と思ったら、その映画の行先も、この空気もどーなるんだろ?とめちゃ怖くなり、絶対落選しないように命がけでした!!

──完成した映画を観て、どんな人に観てほしいと思いましたか?

色々な若者たちの声をそれぞれの立場や視点で語るのが面白い。
本土の同じ若い世代へ。また沖縄のおじさん、おばさんや、おじーおばーたちにも観て欲しい。
同じ思いを共有していても、同じ闘いを今の若者たちがするのは難しい。
過去の闘いを学んだ上で、私たちがどんなことに悩み、もがき、それでも前を向いて行動していくのかを知ってもらいたいです。

過去と向き合おうとする女子高生、中川友希さん

映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』
映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』

中川友希さんは、沖縄戦一の激戦地と呼ばれた伊江島で育った。
伊江島のエピソードは前作『OKINAWA1965』で描かれており、それが出演のきっかけになったという。作中では、当時高校生だった彼女が、全国の高校生の集まる「高校生平和集会」で米軍基地の恩恵と問題を彼女なりの視点で見つめなおす姿が描かれた。彼女は、新辺野古基地建設には反対だが、生まれた時から米軍基地が身近にあったこともあり、基地じたいについては「反対派でもないし、容認派でもない」と語る。

──この映画に出演するきっかけは?

私は、中学3年まで伊江島に住んでいました。伊江島は戦後も米軍の統治下にあり、強制的な土地接収が行われました。自らの土地を取り返すために「非暴力」の精神を持って立ち向かった故阿波根昌鴻氏の意思を受け継ぐため開かれた、伊江島の学習会で都鳥監督に出会いました。そこで「若者を中心とした映画を作りたい」とお声を掛けて頂きました。最初は私でいいのだろうかと戸惑いましたが、伊江島そして、沖縄を改めて見直すいい機会なのではないかと考え、出演させて頂くこととなりました。

──撮影中に印象に残ったことは?

撮影中に印象に残ったことは、友人の考え方の変化です。
上映される映画には収録されていませんが、伊江島での撮影の前に友人3人と私を含めた4人が対談形式で話をする機会がありました。
その中で、基地についてどう思うかという監督の質問に対して友人の一人が、「基地の中で買い物をしたことがあり、楽しい場所だというイメージ。だから、今すぐ基地を無理になくす必要はないのではないか」と発言しました。
その数日後に伊江島を訪れ、反戦平和資料館を見学した際に血痕のついた赤ちゃんの肌着などの戦争遺物を目の当たりにした友人は、実際に歴史を肌で体感し、考え方が180度変わったのです。
百聞は一見にしかずということわざがあるように実際に自分の目で見て考えることの大切さ、重要さを友人の変化を目の当たりにし、強く実感しました。
また、戦争を知らない若い世代が自分の目で見て聞いて歴史を学んだ上で語り継いでいくこと、そして平和の大切さを訴えていくことの意義を改めて学びなおした機会であり、映画の撮影の中で一番印象に残っていることです。 まさに、この映画が持つ意義を感じた瞬間でした。

──完成した映画を観て、どんな人に観てほしいと思いましたか?

映画全体を通して、人と人との繋がりの尊さを改めて感じました。
監督、撮影の都鳥兄弟と出会ってからの約一年、私は様々な方々と出会い、多くの経験をさせて頂きました。 この映画に出させて頂かなければ出会うことができなかった方々ばかりです。
高校生平和集会では、全国から集まった高校生とともに沖縄の基地問題や課題について向き合う、とても有意義な時間を過ごすことができました。
無事に成功させることができたのは、沖縄について学びたい、沖縄を変えたいと想う気持ちを持つ中・高校生の活動を支えて下さった大人の方々が全力で私たちをサポートして下さったからです。
一人の力は小さいけれど同じ志を持つ仲間同士が出会い、人と人とが繋がることで無限大の力を引き出しあうことができるということに気づかされました。
私たちのリアルを切り取ったドキュメンタリー映画だからこそ最大限に伝えられるのだと感動しました。 元山仁士郎さんや城間真弓さんも同様の思いがあるのではないかと思っています。
この映画を私と同じ年代の高校生や大学生に観て欲しいと思います。
また、沖縄や沖縄の基地に関心がない、知らない方々にも観て頂きたいと思います。
沖縄の人々にとって基地は身近にあるがゆえに、基地問題についてどう思うか、どう考えているかといった議論はあえてしないのが日常です。
周囲の友達と話してみたいけれど触れない、怖くて話せないと言う話をよく耳にします。 クラスメイトの親が基地内で働いていることも多いので、基地反対と言ってしまうと、その親の職業を否定することになってしまうからです。
話す話題が基地問題ではなくとも、一つの問題や課題に焦点をあててディスカッションをしたいという若い世代の人は多いのではないかと思います。
このような想いを持っている方たちに是非観て頂きたいとも思います。
この映画が年齢を超えて、色々な視点で対話する一つのきっかけになって欲しいと思います。

「今の沖縄」と「これからの沖縄」

インタビューのなかで奇しくも、3人が3人とも同じキーワードを口にした。それは上の世代との「対話」だ。

戦争や基地問題をはじめとした沖縄を巡る問題は複雑で、「今の沖縄」には様々な活動をしている人々がいる。
しかし活動をするうえでの立場や思想が、基地問題を継承しようとする若い世代との間に分断を作り出してしまっている。
本作で描かれる若者たちは、そうした考えにも理解を示しつつも、単純に「反対派」か「容認派」かなどの立場を引き継ぐのではなく、上の世代がその考えに至った歴史を自らの感性で感じ、自分たちなりに引き継ごうと考えている。

『私たちが生まれた島 ~OKINAWA2018~』には、わかりやすい答えは提示されていない。
沖縄の若者たちの想いと活動に何らかの結論が出るにしても、もっとずっと先の話になるだろう。
しかしこの映画が描くものこそが、今の沖縄で沖縄のために活動する若者たちのリアルな姿であり、沖縄の現
状であり、この先に「これからの沖縄」があるのだ。

ぜひそれを自分自身の感性で、劇場で見届けていただきたい。

(文:川杉次郎)



映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』
9月4日(金)よりアップリンク渋谷にて公開

監督:都鳥伸也
企画・製作:都鳥伸也、都鳥拓也
ナレーター:小林タカ鹿
撮影:都鳥拓也、都鳥伸也、與那良則、城間克彦
取材ディレクター:山内昌信
取材コーディネーター:吉田尚子
空撮:今泉真也
編集:都鳥拓也
製作・配給:有限会社ロングラン 映像メディア事業部
2019年/日本/141分

公式サイト


▼映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』予告編
▼映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』2月9日(土)北上上映会トーク 昼の部
▼映画『私たちが生まれた島~OKINAWA2018~』2月9日(土)北上上映会トーク 夜の部

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ドキュメンタリー


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