骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2020-09-17 00:00


プロデューサー亀山千広が伝説的ジャズ喫茶のマスターを描く映画を手掛けた理由

『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』公開記念インタビュー
プロデューサー亀山千広が伝説的ジャズ喫茶のマスターを描く映画を手掛けた理由
映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』©「ジャズ喫茶ベイシー」フィルムパートナーズ

岩手県一関市、世界中からジャズファン・オーディオマニアが集うジャズ喫茶「ベイシー」のマスター・菅原正二を描くドキュメンタリー映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』が9月18日(金)より公開。webDICEでは星野哲也監督のインタビューに続き、エグゼクティブ・プロデューサーの亀山千広のインタビューを掲載する。


「この作品では久々に自分のやってきたことを総動員して、どう見せるか、どう時代を切り取るか、自問自答しましたし、非常に刺激を受けました」(亀山千広)


ベイシーという場所を残しておかなければならない

──プロデューサーとして本作に関わることになった経緯を教えて下さい。

シンプルに言うと、目の前で星野監督が悩んでいて、その監督は僕が行きつけのバーのマスターだった。普通ならバーで愚痴るのは客なのに、客である僕がマスターの愚痴を聞いていた。それがきっかけです。

監督はもともとカメラをやっていたし、撮る対象もはっきりしている。やろうとしていることは見えているわけです。だから、撮った素材はそのままに、座組を一度まっさらにしてみたらどうかと監督に話しました。プロの手が必要だと思ったんです。 ただ僕自身は、たまにベイシーに行って菅原さんに怒られたり褒められたりしていれば満足だったわけで、本音を言えば作り手側に回りたくありませんでした。自分が今までいいと思ってきたものを、なぜいいのか分解する作業をしなければならなくなるからです。好きなものを分解するのは不安です。間違えると同じものに組み立て直せなくなるので。だから「僕がやる意味はあるのか」と思いつつ、マスターの愚痴をこれ以上聞きたくないので(笑)、プロデューサーを引き受けました。

映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』亀山千広エグゼクティブ・プロデューサー
映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』亀山千広エグゼクティブ・プロデューサー(右)とベイシーのマスター・菅原正二(左)

──ベイシーとはどんな場所なのでしょうか?

それを伝えたくてこの映画を作ったんだと思います。本当は「百聞は一見にしかずで、自分で行って体験してみてください」と言いたいところです。「マスターの顔を見ながら旨いコーヒーを一杯飲んで、何枚かのレコードを聞かせてもらってください」と。でも、それは物理的になかなか許されないので、じゃあ1回体験してもらいましょう、と。

ただ、行けない人のためというよりも、残しておかなければならないという気持ちの方が強かったです。(ベイシーが)あるうちに行っておいた方がいいと思いますね。この映画の中で語られているジャズ喫茶の何軒かは、もう跡形もなく消えてしまいましたから。残念ながら国宝や世界遺産になる場所ではないのでね。

消えていく場所としては映画館も同じで、たとえば今、このインタビューを銀座で受けていますが、僕が映画を観に通っていた頃の銀座にあった日比谷映画もみゆき座も今はなくなりました。テレビと違って映画は、作品の記憶だけでなく、それを観た場所の記憶も残りますよね。この映画を観てもらっている間は、ベイシーに瞬間移動して感じてもらうこともできますが、実際に出かけて行ってベイシーの音に浸るという、場所の体験は必要だと思います。

映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』©「ジャズ喫茶ベイシー」フィルムパートナーズ
映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』©「ジャズ喫茶ベイシー」フィルムパートナーズ

──菅原さんの魅力をどのように捉えていらっしゃいますか?

達人だと思います。技能に秀でたという意味ではなく、1つのこだわりを何十年とつきつめていく意味での達人です。やりつくしたと言いつつも、いまだに新しいことをしようとしていますからね。オリジナルの(レコード)針を作ったりね。スピーカーやターンテーブルは何十年と壊れないけれど、針だけは減ります。菅原さんは“接点”を非常に大事にする人で、「すべての不具合は接点を疑え」とおっしゃいます。針はレコードとオーディオの接点ですし、確かにコネクティングケーブルを少し触るだけで音が変わります。

人と人とのつながりも菅原さんは同じように大切に考えていて、僕が初めてベイシーに行ったときもそうでしたが、マスターとして「やぁ、どうもどうも」と初めてやって来た客を笑顔で迎えて接点を作る。やはり、その生き方に憧れますね。人生の先輩です。

映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』©「ジャズ喫茶ベイシー」フィルムパートナーズ
映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』©「ジャズ喫茶ベイシー」フィルムパートナーズ

──大規模なヒット作を数多く手がけられてきた亀山さんが、この映画のプロデューサーをされていることを意外に感じる人が多いと思うのですが、これまで関わってこられた作品と本作との共通点はありますか?

製作費が何億円という大規模な作品も、数百万円の規模の作品も、出来上がってから宣伝してお客さんに届けるまでの工程は変わりません。そういう意味で、あえてプロと言わせてもらいましたが、星野監督にも多少のアドバイスができるのかなと思いました。

僕がテレビ局に入って報道よりドラマや劇映画の制作を選んだのは、フィクションという名のもとにすべて通用してしまうフレキシビリティーが、自分には向いていると思ったからです。ニュースやドキュメンタリーは事実を積み重ねていくことで真実を見せるけれど、フィクションならば事実を積み重ねなくとも「これが真実なのではないか?」ということが提示できる。単に事実を羅列するだけでは面白くなくて、自分なりの解釈や表現の方法を見つけなければならないので、ドキュメンタリーの方が難しい気がします。だから、この作品では久々に自分のやってきたことを総動員して、どう見せるか、どう時代を切り取るか、自問自答しましたし、非常に刺激を受けました。

(公式パンフレットより抜粋)



亀山千広(かめやまちひろ)

1956年、静岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、80年にフジテレビジョン入社。『あすなろ白書』『ロングバケーション』『踊る大捜査線』『ビーチボーイズ』など数々の人気ドラマを手がける。2003年、新設された映画事業局の局長に就任。映画『踊る大捜査線』や『海猿』シリーズ、『テルマエ・ロマエ』などを生み出した。2013年、フジテレビ代表取締役社長に就任。2017年よりBSフジ代表取締役社長。




映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』©「ジャズ喫茶ベイシー」フィルムパートナーズ

映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』
2020年9月18日(金)アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督:星野哲也
編集:田口拓也
出演:菅原正二、島地勝彦、厚木繁伸、村上“ポンタ”秀一、坂田明、ペーター・ブロッツマン、阿部薫、中平穂積、安藤吉英、磯貝建文、小澤征爾、豊嶋泰嗣、中村誠一、安藤忠雄、鈴木京香、エルヴィン・ジョーンズ、渡辺貞夫 (登場順) ほか ジャズな人々
エグゼクティブプロデューサー:亀山千広
プロデューサー:宮川朋之 古郡真也
配給・宣伝:アップリンク
2019/日本/104分/1.85:1/DCP

©「ジャズ喫茶ベイシー」フィルムパートナーズ

公式サイト

▼映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』予告編

キーワード:

ベイシー / ドキュメンタリー


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