骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2008-08-07 19:43


“他人の背後に潜む恐怖”を描く山口学の『背』とは

「ぴあフィルムフェスティバル2007」2冠受賞作品『背』が、8月9日(土)よりアップリンクXにて上映される。本作を監督した山口学に話を訊いた。
“他人の背後に潜む恐怖”を描く山口学の『背』とは

日常の至る所に見えないうちに仕掛けられている、“殺意”。目の前を歩く人の足をちょっと踏んでしまった、電車の中で携帯電話を話す人を注意した、座ろうとしたらバッグが少しだけ隣人にあたってしまった、などといった非常にありふれたきっかけから、他人の憤怒を買い、とんでもない事件に巻き込まれる危険な目にあなたは遭遇した事があるだろうか。また、日常にはそんな恐怖が点在するのである。
新人監督、山口学が映画『背』で表現したのは、この<日常のひょんなことからおこりうる恐怖>。彼は「古い映画の方が結構好きで、これは70~80年代のアメリカ娯楽映画を日本に置き換えて形にしたかった。猫とネズミの話と同じ<シンプルなストーリー>の中でじっくりサスペンスしようと試行錯誤しました」と今回の『背』について話す。

背_場面1

映画『背』のストーリーはこうである。
主人公が高校卒業を契機に友人たちと軽い気持ちでナンパに出かけるた。成果があげられず、ファミリーレストランで飲めもしない酒をしこたま飲み、酔って、朝が来て、もうあきらめかけた矢先、泥酔して嘔吐しまくる女を介抱する。下心丸出しで、女の家に上がるまでは良かった! ドアがドンドンとノックされ女の「逃げて!」の絶叫を皮切りに男には意味不明の恐怖が訪れる。机の下から見え隠れするのは、得体に知れない男と揉める女。ちらほら見える“黄色”昔の男? 今の彼氏? 誰? そんな事はどうでも良かった。裸同然で逃げ切ったまでもどうでも良かった。常に追跡してくる黄色い恐怖。帰宅途中の電車の中、カラオケボックス、トイレ。気がつくと、“黄色”が彼を洗脳する。得体の知れない恐怖が、実態を伴った恐怖と成り代わるまでそう時間はかからなかった。謎の男は誰? なんの目的? 狙われた男はどうなる?

(写真)『背』(2006/DV/カラー/48分) 脚本・監督・編集:山口学、音楽:小林良弥、制作・特殊効果:佐藤光、製作:GPE

se_場面2

あまりにもありふれた日常生活の描写を一方で容易に表現しながら、加速する恐怖の臨場感をいとも簡単に描写する才能。この映画の見所を山口学は「映画学校では作らせてもらえないものを撮りたかった。そして<他人という得体の知れない物体の背後に潜む恐怖>を描きたかった。画像の質やいい音とは縁がありませんが、それを超越するエネルギーと手間隙をかけてます。歩き方も話し方も分からない赤ん坊ですが、とにかく第一声“おぎゃー”と泣き叫びました」と言う。

「世界中のありとあらゆる先人達と『背』に関して言えば、特にヒッチコック・鶴田法男・スピルバーグ・クルーゾーに影響を受けた」と話すのは昨今の24歳らしからぬ表情だ。それはエンターテイメントを常に意識し、作り出したものには必ず観客が必要であるという、覚悟、決意すら感じる。それはこんな言葉からもうかがえる。
「自分自身が“面白い!”と素直に思っているかどうか。それを意識化しているようではダメ。面白ければ体が勝手に動いている」と大胆で不適な表情を浮かべる。一方、「赤ん坊みたいな僕に期待していただける方々全部にみてもらいたいです」という素直な表情が混在する。まさしく何を考えているかわからない男、山口学は本人さながら映画を表現しているようである。


山口学

■山口 学(やまぐち・がく)PROFILE

1984年生まれ、栃木県出身。子供の時に父親が持っていたビデオカメラに興味をもち、映像を撮り始める。映画学校に入学し、『直球カーブ』(16mm)を監督。また、自主映画団体で多数の自主映画を制作。卒業した年に手掛けた本作『背』が「ぴあフィルムフェスティバル2007」にて入選。コンペティションでは企画賞(TBS賞)とギャオ賞(USEN賞)を受賞。

『背』公式ホームページ



背ポスター

山口学監督作品『背』
同時上映『出発しよう!』『闇の巣』

2008年8月9日(土)~8月22日(金)
連日21:00より上映

会場:アップリンクX(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル2F)[地図を表示]
料金:特別鑑賞券1,000円/一般1,200円/学生・シニア1,000円



  • 【関連トークショー】
  • 8月9日(土) 舞台挨拶:山口学×栗田雄司×三瓶瑞貴
  • 8月10日(日) 鈴木則文監督×山口学(先行トークショー21:00~)
  • 8月12日(火) 山口学VS問題の黄色男
  • 8月13日(水) PFF受賞作特集同時上映(※)『青海二丁目先』PFF2007審査員特別賞受賞作品
    ゲスト:角田裕秋監督&野田賢一(にがウーロン)
  • 8月14日(木) PFF受賞作特集 同時上映(※)『蝉顔』PFF2008観客賞受賞作品
    ゲスト:野田賢一監督&角田裕秋(にがウーロン)
  • 8月15日(金) PFF受賞作特集同時上映(※)『その子供』PFF2007準グランプリ受賞作品、『缶詰』PFF一次審査通過作品
    ゲスト:尾﨑香仁監督
  • 8月16日(土) 山口学×宇野祥平(俳優)×前田弘二監督
  • 8月17日(日) 山口学×三浦美香(役者)
  • 8月18日(月) 秋山雄太×畠中慶彦、他×山口学
  • 8月19日(火) 芸人特集「お笑いと映画」 ちゃこ(芸人)×田村ゆきこさん(芸人)×山口学
  • 8月20日(水) 山口学×二川剛久『闇の巣』主演(劇団ソラトビヨリ所属)
  • 8月22日(金) 「落語と映画」栗田雄司(主演)×山口学

(※)…PFF特別同時上映の日は、同時上映の『出発しよう!』『闇の巣』は上映されません。


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