骰子の眼

music

東京都 渋谷区

2008-09-14 15:30


円盤のライブ映像を一挙上映!田口史人、吉田アミによる『円盤上映会』9/18開催

「音楽業界のやり方と関係ないところでやりたかった」-円盤の店主・田口史人にインタビュー。
円盤のライブ映像を一挙上映!田口史人、吉田アミによる『円盤上映会』9/18開催
「円盤」の店主・田口史人氏

インディーレーベル「OZdisc」を主宰していた田口史人が2003年にオープンしたお店「円盤」は、特定の営業形態を持たない喫茶店でありCDショップでありイベントスペースである。この特殊な感じは、取り扱っている商品に対しても同じで、「作った人が自分で納品してくれたもの」しか置かない、卸は一切使わない、というこだわりを持つ。形態もジャンルも問わない、何が出てくるのかわからない面白さがあるお店だ。
今回、アップリンク・ファクトリーで『円盤上映会』が開催される。円盤が企画してきた数々のイベント、地方で撮りためてきた未知なるバンドの記録映像を観ながら、店主・田口が解説をおこない、聞き手に前衛家の吉田アミが登場する。そこで、田口史人に円盤や上映会について話を訊いた。


円盤店内02

── なぜ、OZdiscをやめて円盤を始められたのですか?

OZdiscという名前が先行するようになって、つまんなくなったんです。「OZdiscだから買う」みたいな流れが出てきて、面白くなかったから。でも、円盤始めてからもCD制作のペースは変わってなくて、むしろ増えますね。ひとつひとつ名前を変えて発売してるんですよ。

(写真)円盤限定のオリジナル商品を中心に、自主制作盤、中古レコード、中古CD、古本、Tシャツ、グッズなどを取り扱っている「円盤」の店内

── え!商品ごとにレーベル名を変えてるんですか?

そうです。円盤の名前で出してるもの、全く何も書いてないもの、違う名前で出してるのもあります。レーベル名はごちゃごちゃにしていますね。

── それは、OZdiscのようになってしまうのが嫌だから?

この音源はOZdiscに合うかどうかっていう、初めに歴史が出てきてしまう。その歴史を受け取る側の歴史もでてきて、その中で何かをつくるようになる。そうしないと成り立たなくなる。そうやって背負いだしてしまうので、もっと好きなものをつくりたくなったんです。だからOZdiscをやめたんです。

── オープンして5年目になりますが、お店の調子はいかがですか?

どうなんだろ(笑)。

── 当初苦労されたことはありましたか?

最初は全然お客さんが来なかったですね。やっぱりOZdiscをやってたのもあるし、インディー盤を紹介する仕事が多かったからインディーズ専門店というイメージで人は来るけど、それに対して僕はあんまり応えなかったから、なかなか客足が続かない。でも、だんだん僕のことを知らない若い人がたくさんくるようになったり、全然違う方面の人がきてくれたりとかして、やっとペースができた感じです。

── 音源を本人がお店に直接持ち込まないと取り扱わないのはなぜですか?

それは、どんな人がつくったのかわからないと向き合えないから。委託で、自主制作のものは面白いから扱いたいというのは基本的にあります。今から大型チェーン店に置いてあるものを扱っても、正直商売にならない。音楽業界の争いの中に巻き込まれるのは嫌だなというのがあって、もっと関係ないところでやりたかった。音楽業界的なやり方を一回切っても、関係ないところでやれるっていうのをやりたかったんです。

円盤店内01
棚には自主制作盤のCD、DVD、カセットテープなどがぎっしりと並んでいる。県ごとに仕切られた棚があったりと見てるだけで面白い

── だから、円盤には独自のもの、自主制作盤が多いんですね。

2000年以降、CDのプレス代がめちゃくちゃ安くなったから、みんな簡単にCDをつくれるようになりましたよね。大型チェーン店は自主制作盤の取扱いに窮するようになってきてパンクしちゃったんです。僕は2000年頃に割と規模の大きいチェーン店で働いていて、そこの本部で商品の統括していたんですよ。あまりにも自主制作盤が増えているから、卸を通ってる自主制作盤がどれくらいあるのか気になってきてその推移を表にしたんです。で、これはもう無理だってなって。自分でも実際に聴いてみて店に置くかどうか判断しようと思うんだけど、物量的に無理なんですよ。ひと月に何千タイトルもありますから。そんなの聴けるわけない。
ちょっと自分の腕に自信のある人だったら、聴く前になんとなく判断できてると思うんですけど、それ自体たぶん思い込みで。それは完全にパワーゲームになっている、どれが良さそうに見えるかっていう。インディーレーベルでもそういうのがあって、こんな人がキテるから聴いた方がいいみたいな、聴く前にそういうパワーゲームで半分以上決まるんですよ。やり方自体はインディーや個人制作でがんばってますと言ったって、エイベックスの売り方の末端にあるだけで、規模が違うだけでやっていることはまったく同じです。それはアンダーグラウンドじゃないんですよ。

自主制作の世界の面白さはあると思うんですけど、それとはぜんぜん別というか、それってただのメジャーの末端だよっていう。インディーレーベルで、ほんとにアンダーグラウンドなものは今はほとんどない。そこに、入ってこなかったものはマイナーなものなのかといったら、なんか違うような気がして。それを思ったのは、地方に行くようになってからなんです。たとえば、島根だったら島根だけで知られている人がCDを手売りで2000枚売っている。で、パワーゲームで勝ち抜いた全国のタワーレコードに置いてあるCDというのは500枚。これってなんなんだろうって思って。商売としてみたら2000枚の方が売れてるじゃんって(笑)。でも、島根の方がマイナーって言われてしまう。メジャー・マイナーっていうのはどっちだ、みたいな。
島根の人の方が2000人地元の人が聴いてくれてることを実感してるし、日常の付き合いもあるわけです。地方では日常の生活と切り離せないところがあって、それがすごくいいなと思って。CDを買った人の中には、その人の音楽をあまり好きじゃない人がいるかもしれない。でも、普段の付き合いでその人のことが好きだから、「あいつがCDつくったんだから買ってやろうぜ」っていう可能性が高い。そっちの方が健全だと思ったんです。

みんな、音楽は音楽として評価してるのを音楽業界というけれど、そんなはずないと思う。ライブ自体、その人の人柄がどうしても伝わってきてしまうし、それ込みでライブを見ているし。でも、それをなかったことにして音楽が素晴らしいとか、それは絶対嘘だと思った。その人間がいて、その人間との付き合いがあって、どういう人間なのかというのを感じて、それ込みで聴いている。だから、みんな雑誌などのインタビューを読みたがるだろうし。
だから、デモテープだけ送られてくるだけでは置く気になれなかったんです。音楽が良くても、話してみたら、音楽以外ではまったく付き合う気がないというのがなんとなく分かる。そういう人は、音楽としていいけど、それを求める人はいるかもしれないけど、そういうのは置かないと決めたんです。

── なるほど。田口さんがよく地方に行くようになったのは、地方の音楽シーンが面白いからですか?

やっぱり、人が集まる場所があれば面白いのができる。仮におもしろい音楽をやっている人がいないところでも、場所があれば面白い。楽しめる空気があるところは楽しい。逆に場所がないと…今は大阪が厳しいですね。面白い人はたくさんいるけど、場所として面白い勢いのある場所がないです。ちょっと元気のない感じ。大阪で面白い人が出てきても、すぐに東京出てきますね。

── それはなぜでしょうか?

単に東京に面白い場が多いから。東京は人が集まれる場所が充実していて、地方の集合体みたいになってますね。地方の面白さって、どうしても生活の共有しないといけないところあるから、嫌な人とも付き合わないといけない。嫌なところもわかりながら共有して付き合わないと、場が成立しないという土台の基でやってるのが強い。東京だと、批判されたら他に行くところがある。だから甘くなっていく。東京は交ざらなくてもやっていけるから。だから、どうしても意外な発想がでてこなくなる。場慣れして手馴れた演奏をする人がほんとに増えているし。面白かった人もどんどん場慣れしていって、自分の手馴れたスタイルに気づいて、そこから先に行かない人が多いですね。それにいちいち怒りたいんだけど(笑)、いちいち怒るとまた別のところにいけるからいってしまう。そこをだましだまし怒るという(笑)。東京出てくる人は最初は弱いから。東京なら何かあると思って出てくるから、どこかで依存体質があるんでしょうね。

円盤002

── 話は変わりますが、今回アップリンクで開催する「円盤上映会」では、どのような映像を流されますか?

アーティストの解説とか正味どうでもよくって、その場が面白かったのを流します。日常の記録の中から、もう一回見たい空気のような、そういうのを流したい。

── ライブは毎回映像に残してるんですか?

お店でやったのは全部撮ってます。ライブ終わった後も撮ってる(笑)。定点観測。お客さんの方が面白かったりしますね(笑)。だから、お店でやったライブとか、毎月1~2回は出張店舗とか企画ライブをやってるので、行った先々の映像を出そうかなと。

── この上映会だけの蔵出し映像はありますか?

毎日お店で流してるから(笑)。でも、商品になっていない映像がたくさんあるので、それをけっこう流すと思います。どんな人が観に来てくれるのか楽しみですね。


(取材・文:牧智美/写真:大場小麦)

『円盤上映会』

日時:9月18日(木) 開場19:00/開演19:30
会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)[地図を表示]
出演:田口史人(「円盤」店主)
聞き手:吉田アミ(前衛家)
料金:1,500円(1ドリンク付/当日のみ)


円盤看板

店舗情報:円盤

東京都杉並区高円寺南3-59-11 五麟館ビル201[地図を表示]
Tel/Fax : 03-5306-2937
http://www.enban.org/


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