骰子の眼

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東京都 新宿区

2008-10-08 17:06


パパ・タラフマラ×ヤノベケンジ 間違いなく面白い!新作公演『ガリバー&スウィフト』について語る

舞台美術にヤノベケンジ氏を迎えてのパパ・タラフラマ新作公演が、明日9日より東京グローブ座にてはじまる。ということで、超直前インタビュー!
パパ・タラフマラ×ヤノベケンジ 間違いなく面白い!新作公演『ガリバー&スウィフト』について語る
パパ・タラフマラ公演「ガリバー&スウィフト」公開リハーサルにて photo:Miwa Ohba

1982年に結成された『パパ・タラフマラ』は、ダンス、演劇、美術、音楽など様々なジャンルを巻き込みながら、舞台空間全体をひとつのアートに築き上げるユニークな作風が、国内外で高く評価されているパフォーミングアーツカンパニー。明日10月9日(木)より東京グローブ座にて始まる新作公演「ガリバー&スウィフト -作家ジョナサン・スウィフトの猫・料理法-」は、18世紀のイギリス、アイルランドに生きた「ガリバー旅行記」の作者ジョナサン・スウィフトの逆説的ユーモア精神を猫の視点から描いた、オリジナリティ溢れる作品である。
今回注目するところは、現代美術作家・ヤノベケンジ氏が手がけた想像を超える壮大な舞台美術とオブジェ。なぜ、ヤノベ氏とパパ・タラフマラがコラボレーションするに至ったのか。パパ・タラフマラ演出家の小池博史氏とヤノベケンジ氏に話を訊いた。


逆説でパラドックスの世界には、ヤノベさんしかいないと思った

── 今回の新作公演で作家のジョナサン・スウィフトをモチーフにしたきっかけを教えてください。

小池: スウィフトはとにかく面白い人で、いつも考えている事が逆説なんですね。逆説的な事を次から次へと打ち出していくような人で。自分が表に出るのは好きじゃないから、匿名を使ったり、いろんな形でもって出してくるんですよ。「ガリバー旅行記」とはジョナサン・スウィフトそのものかなと思っています。小人の国や巨人の国、最後は馬の国になりますが、これも人間が最下等の動物として描かれているんです。まさしく、どこを見ても結局はスウィフトの考え方がそのまま出ている。だから人間というものに対してのひとつは愛情と、もうひとつは憎悪みたいなもの、その両方が非常に色濃かったと思うんですよね。それはまったくその通りじゃないかと思っています。いまの時代をみても、「なんだろう、これは」と思う事ばかりですから。そう考えていた時にスウィフトを取りあげられる事で、なにかひとつの矢印みたいなものを、銛を打ち込めるかなというところはありましたよね。

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演出家・小池博史氏(左)と現代美術作家・ヤノベケンジ氏

── いつ頃、スウィフトの人間性の魅力に気がついたんですか?

小池: もう20年以上前ですね。寺山修司さんの「奴婢訓」という舞台があるんですが、この原作はスウィフトなんです。寺山さんが取り上げるのもなるほどなと思っていたんです。これは30年以上前の作品で、その当時僕は舞台を見ていますけど、すごく面白くて。ひねくったような、なにか迷路に誘い込んでいくような、そういう装置がスウィフトの中にはたくさんあると思って調べていったら、これがすごいんですね。なかなかエグイ(笑)。今回の舞台に出てくる“幼児料理法”なんていうのは、あれは実際にスウィフトが書いて本を出してるんです。それを夏目漱石が読んで、「こんなキチガイがいる」なんてことを明治の頃に書いていましたね(笑)。

── その頃からスウィフトを題材とした舞台を考えていたんですか?

小池: ええ。ただ、20年前だとどうしようもないんですよね。こんなのどうやってやるんだろうって。僕がもともとパパ・タラフマラを立ち上げたのは26年前なんですけど、そのときにガルシア・マルケスの「百年の孤独」(2005年公演)をやりたいと思って始めたんです。でも、どうやっていいのかわかんないわけ。同じく、「百年の孤独」を寺山修司が作っているんですけどね(笑)。あんな混沌として延々と長い物語をやりようがないなぁと思っていたのが、なんとなくできるかなって思い始めたのが2000年頃ですね。だから、相当時間がかかっていて。スウィフトに関しても、そういうことをいろいろ経てくると「できるかもしれない」と。ついては、ヤノベさんがいいなっていうのを一年前に突然思い立ったんです(笑)。

── 突然ですか(笑)。

小池: もちろん構想はもう少し前からあったんですけど、さぁどういうふうな装置にしようか、それこそ映像を使ってしまうのは簡単だけど映像じゃつまんないと思っていて。映像じゃなくて影絵でいこうか、とかいろいろ考えていたんです。でも、ある時点から逆説でパラドキシカルな世界というのも含めて、それでいて非常にポジティブな考え方を持っているということで、もうヤノベさんしかいないなって思いましたね。

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左よりジョナサン・スウィフト役の池野拓哉、司祭役の小谷野哲郎、ジャワのダンサーのリアント photo:Miwa Ohba

言いようがないくらい素晴らしいクオリティ

── ヤノベさんは舞台美術を依頼されたときはどう思われましたか?

ヤノベ: 話があったのが去年の10月くらいで、初めてお会いしたのが12月でした。ちょうど大阪で展覧会をやっているときに見に来ていただいて、直接話をすることができたんです。で、妙に意気投合してしまって(笑)。僕は人見知りをしたり、猜疑心を持って人を見るんですけど(笑)、小池さんとは僕と似た匂いを感じましたね。感心したのが、小池さんは舞台を破壊したいという、ものすごい逆説的な、なにか新しいモノを創り出したい、発見したいというパイオニア精神に溢れていたというのがあって。僕も美術で同じような気持ちでつくっていたので、その辺りで分かり合える人だなと思っていました。最初から緊張感なくリラックスして喋れたので、これは小池さんの話術とテクニックに騙されたと(笑)。

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目が光るという細かい演出がされた猫の人形<ヤノベケンジ制作> photo:Miwa Ohba
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── では、すぐ引き受けたということですね。

ヤノベ: そうですね。小池さんには作品世界のことも理解していただいていて、自身の作品の流れもスウィフトの生涯とリンクするという事をおっしゃっていたので、逆にどういう形で料理されるのか、どういう脚本があがってくるのかすごく楽しみになっていましたね。そして、自分がどうハマっていくのか、ぶつかっていけるのかというのも楽しみで。この人とだったら一緒にできるんじゃないかと思ったのは確かです。

(写真)鎧をまとったスーツマン<ヤノベケンジ制作> photo:Miwa Ohba

── 舞台美術は初めてだったそうですが、戸惑いはありませんでしたか?

ヤノベ: なかったですね。もちろんルールとかまったく知らないですけど、それも含めて貢献できるんじゃないかと。逆にいままでなかった別の文脈でぶつかっていって、それがどういう化学反応が起こるかというのが楽しみでした。変に素人が舞台美術の事を勉強してやるよりも、いまの自分の力をすべて裸で放り投げた時になにか起こるんじゃないかという気持ちがあったので。実際に、そこまで作らないだろうとか、そこまできちんとやる必要はないとか思われるだろうなと思いつつも、やっぱりそれもなにか違う形でプラスになるんじゃないか、小池さんの違うところをくすぐれるんじゃないか、そういう挑戦的なことをやっていければコラボレーションで面白いものができるんじゃないか、という気持ちは最初からありました。


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── 最初に脚本を読んだときはいかがでしたか?

ヤノベ: 2~3ヶ月後に脚本が出来上がってきたんですが、すごく面白くて。猫の視点でスウィフトを見ているというのと、小池さんがすでに僕の作品のことをよく知っていて、僕のために世界がある程度中に盛り込まれたキャラクターがいて、それがすごく嬉しくもあり気恥ずかしくもあり、ラブレターみたいな挑戦状を叩き付けられたような感じで(笑)。これはもう、それに返すしかないなと。そこからですね、デザインを始めたのは。脚本に沿ってキャラクターとギミックを自分なりに解釈してつくりました。


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── 制作には何ヶ月間くらいかかりましたか?

ヤノベ: 制作に入ったのが今年6月なので、3~4ヶ月くらいですね。小池さんからは「それ無理でしょ、予算的にも時間的にも」とよく言われてましたね。ラストシーンにでてくる巨大なオブジェに関しては、メールで「これは予算的には難しいと思うので、できなければやめてください」というのが青い字で強調して書かれていて(笑)。でも、これはできませんっていうのを見せたくないなぁという感じで、つくりましたね。ウルトラファクトリー(※)という京都造形大学の工房でデザインをやるんですけど、そのスタッフからも「これ無理でしょう」って(笑)。時間もないですし。でも僕は全然できると思っていました。

※ウルトラファクトリー…社会の第一線で活躍するアーティストやデザイナーを招聘し、プロの“現場”をまるごと持ち込み、未来のウルトラアーティストを育成していく教育特殊機関として、今年6月、京都造形芸術大学内に新設された立体造形を専門とする工房。ヤノベ氏が初代ディレクターを務めると同時に、アーティストとして今回の「ガリバー&スウィフト」の舞台装置制作を行う“現場”そのものと化している。そして、ウルトラ・プロジェクト(プロジェクト型実践授業)の第一弾として、好奇心と意欲にあふれる学生たちとともにオブジェを誕生させた。

── 小池さんはヤノベさんの舞台美術をご覧になっていかがでしたか?

小池: これはすごいですよ!言いようがないくらい素晴らしいクオリティだと思っていますよね。そういう意味で言うと、音楽にしても松本淳一というエレクトーンの世界一のプレイヤーが生で演奏していてすごいなって思うし、ガムランのデワ・ライにしてもそうですよね。海外から来ているダンサーも、その国のトップの方たちですから。そうやってみると、本当にクオリティの高さがすごいなと思っています。

ヤノベ: 僕は、京都で公開リハーサルを見て最後に泣けてきましたね、恥ずかしい話が。なんか感極まるものが…。やっぱり自分の作品だけじゃなくて役者の方や音楽が絡んでくると、普段見ているのと全然違うものに見えてくるんですよね。最初は自分のキャラクターみたいなものをどんどん持ち込んでという気持ちもあったんですけど、やっぱりパパ・ラタフマラさんのパフォーマンス力がものすごく高いので、きちんと融合していい形でエネルギーがぶつかるようなものにしていければと思ったので。4つの球体のオブジェが最初から最後まで出てくるんですけど、それは役者さんが絡んでこそ、ものすごい力を発揮できるように、できるだけいろいろな変化ができるような要素を盛り込んでつくったんですけど、それを見事に料理していただいたっていう感じですよね。だから、最後泣けてきたっていうのはそこにあるんですよね。嬉々とエネルギーが上手い具合に絡み合って、大きなものを生み出しているという。

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photo:Miwa Ohba

公演が終わるまでライブ感は続いている

── 今回初めて一緒にお仕事をされて、刺激を受けあったと思うのですが。

小池: 単純に楽しかったですね。まだ終わってないですけど(笑)。とりあえず、すごく楽しかった。いろんな意味で楽しい事はいっぱいありますけど、でも、それこそヤノベさんひとりだけじゃなくて、ウルトラファクトリーのスタッフ30人が関わってこういうものになってきていると考えてみても、その人たちとの関係性を全部含めて非常に楽しかったですね。今回は楽しいとしか言いようがないし、是非とも皆さんに見せたいと思っています。

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── 最終段階にきて今のお気持ちは?

ヤノベ: 僕は一観客としても、ものすごい楽しみにしてるんですよね。自分たちのつくったものがどのような風に見えるのか、それが体験できるかと思うとね。そのためにスタッフみんな頑張ってきたところもあるので、その瞬間きっと人間が変わってしまうんじゃないかと思うぐらいのことが起きるような気がします。かなり厳しくて、かなり無茶して走らせていたところもあるので。でも、携わった人は最後の瞬間にものすごい快感があるから、絶対どんなに厳しくてもきっとその時に報われるっていう確信が僕の中にありました。みんなその瞬間を待ち望んでいます。
今回は今までにない経験です。展覧会にはライブってないですからね。つくっているときはものすごくライブ感はあるんですけど、展示の時は全部預けてしまうので冷めた目で見てしまうんです。でも今回は、ずーっとライブが続いてる感じですね。つくっているときから舞台が始まっていて、本公演が終わるまで続く気がします。


小池: 面白いですよ、間違いなく。直前で、これは絶対面白いなって思える時ってあまりないですよね。いつもどこかで心配の種みたいなものがありますから。稽古などを観に来られた方を見ると反応はとてもいいですね。是非公演を観に来てください。

(取材・文:牧智美)

■小池博史PROFILE

パパ・タラフマラ芸術監督・演出家・振付家・作家・写真家。1982年「パパ・タラフマラ」設立。以降、全50作品の作・演出・振付を手がける。その作品群は、演劇・舞踏・美術・音楽のジャンルを超えた「新しい舞台芸術」として強くオリジナリティに溢れている。ベネチア・ビエンナーレ、ネクストウェーブフェス、ベルリン芸術祭などの海外主要フェスティバルや世界の一流劇場からの招聘公演を毎年実施し、世界30ヶ国以上を駆け巡り、国際的に高い評価を確立。1995年パパ・タラフマラ舞台芸術研究所(P.A.I.)設立。若手パフォーマーの育成に力を入れている。
小池博史ブログ

■ヤノベケンジPROFILE

1965年大阪府生まれ。現代美術作家。1990年第1回キリンコンテンポラ リー・アワード最優秀賞受賞。1992年水戸芸術館にて個展「妄想砦のヤノベケンジ」を開催。1997年より「アトム・ スーツ・プロジェクト」を開始。2003年大阪万博跡地にあった国立国際美術館にて、それまでの集大成的展覧会「メガロマニア」を開催。2004年秋より金沢21世紀美術館にて、半年間にわたる滞在制作「子供都市計画」に取組む。現代社会を鋭く反映しながらもオリジナリティあふれる機械彫刻作品は国内外で熱い注目を集める。現在、京都造形芸術大学教授、ウルトラファクトリー・ディレクター。
ヤノベケンジHP


flyer

パパ・タラフマラ新作公演
「ガリバー&スウィフト -作家ジョナサン・スウィフトの猫・料理法-」

2008年10月9日(木)~12日(日)
会場:東京グローブ座
(東京都新宿区百人町3-1-2)[地図を表示]

出演:池野拓哉、白井さち子、あたら真生、橋本礼、南波冴、横手亜梨沙、リアント、クトゥット・リナ、キャサリン・オマーリ、小谷野哲郎、赤松直美、石本華江、石川正義、高橋倫平、松島誠
作・演出・振付:小池博史
舞台美術・オブジェ:ヤノベケンジ
作曲・演奏:松本淳一(エレクトーン)、デワ・ライ(ガムラン)
衣装:小林和史、甲斐さやか(OUT SECT)

★スケジュール、チケット予約状況はコチラよりご覧ください(11日(土)14:00~の回S席は完売しました)


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